貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第81話 ドルトンの忠告

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――ナイが村へ辿り着いた時、既に商人たちは帰り支度の準備を行っていた。どうやら帰還する直前だったらしく、戻ってきたナイを見てドルトンは安心した表情を浮かべた。


「ナイ、遅かったな……もう帰る所だったぞ」
「すいません、ドルトンさん!!まさかこんなに早く来るとは思わなくて……」
「うむ、最近はこの辺も物騒になってきたからな。早めに訪れて早めに帰るようにしているんだよ……それよりも例の物を持って来たぞ」


ドルトンはナイに赤色の液体が入った小瓶を渡し、それを見たナイは彼が以前に訪れた時に頼んでいた代物だと知る。この小瓶はかつてナイがホブゴブリンとの戦闘時に使用した「強化薬」と呼ばれる特殊な薬品だった。

強化薬を飲めば一次的に身体能力が強化されるが、効果が切れた途端に一気に肉体に大きな負荷が襲い掛かる。だからこそ使い道を誤れば自分の肉体を壊しかねない危険な薬でもあるが、どうしてもこの強化薬が今のナイには必要な道具だった。


「ドルトンさん、ありがとうございます」
「待て……これを渡す前に聞かせてくれ。いったい何に使うつもりだ?」
「それは……」
「まさか、危険な事に使うつもりではないだろうな?それならばこの薬を渡す事はできないぞ」


ナイはドルトンの質問に返答を躊躇するが、彼はナイが強化薬をどのような使い方をするのか知らなければ渡すつもりはなかった。しかし、ナイとしてはどうしても強化薬は必要な代物であるため、仕方なく事情を話す。


「……赤毛熊を倒すためにはその薬の力が必要になるかもしれないんです」
「赤毛熊……まさか、アルの仇を討つために?」
「そうです。あいつだけは絶対に許せない」


ドルトンはナイの言葉を聞いてため息を吐く。彼としては親友の義理の息子が無謀な戦いに挑ませたくはない。


「ナイよ、赤毛熊を相手に子供ひとりで立ち向かって勝てるわけがない。アルの事は残念だったが、お前では奴に勝てるはずが……」
「そうかもしれません。でも、あいつがいる限りはこの場所は危険なんです。村の皆のためにも戦わないと……」
「だからといって子供のお前が戦わなくても……」
「子供かどうかなんて関係ありません。俺は……狩人です。だから村の皆を守るために危険な魔物は放置できないんです」
「……無理だ、お前では赤毛熊は倒せない」


赤毛熊をナイが狙う理由は決してアルの敵討ちのためだけではなく、この周辺地域も赤毛熊の脅威に脅かされているのも事実だった。赤毛熊は森に住み着いた後も定期的に外へ赴き、村に訪れる商団を襲う事もあった。

昔はドルトン以外も村に訪れる商人はいたが、赤毛熊が現れるようになってからはドルトン以外の商人は足を踏み入れず、そのせいで村人の生活が厳しくなった。

しかも被害はこの村だけではなく、ナイが以前に訪れた街も赤毛熊のせいで商人たちも商売がしがたくなり、たった1匹の魔物のせいで大勢の人間が苦しめられていた。その点から考えても赤毛熊は放置してはならない存在なのだが、その相手を子供であるナイに任せる事はドルトンには出来ない。


「ナイ、赤毛熊の対処は街の冒険者に任せるしかない。大丈夫だ、冒険者は魔物専門の退治屋……彼等ならなんとかしてくれるだろう」
「半年前にもドルトンさんは同じことを言ってました。でも、未だに冒険者ギルドは何もしてくれてません」
「それは……」


ナイの言葉にドルトンは言い返す事もできず、既に冒険者ギルドは赤毛熊の討伐に失敗している事は知っていた。半年前、赤毛熊の存在を重く見た冒険者ギルドは冒険者を派遣し、赤毛熊の討伐を試みる。

だが、結果から言えば送り込んだ冒険者は森に入ってから二度と出てくる事はなく、それどころか赤毛熊は冒険者を殺した際に人間の味を覚えてしまう。そのせいで赤毛熊は時折、人間を求めて外に赴くようになった。

事態を収める所か最悪の結果に導いた形となり、そのせいでナイはもう冒険者には頼れないと思った。冒険者ギルド側もこの半年の間に何度か赤毛熊の討伐を試みようとしたが、結局は全て失敗に終わる。

魔物の専門家であるはずの冒険者でさえも赤毛熊に勝てないのであればナイは自分でどうにかするしかないと考え、この二年の間にナイは自分を磨き続けた。しかし、彼の努力を知らないドルトンはナイをどうにか止めようとした。


「ナイ、儂は冒険者ギルドとも伝手がある。彼等に頼んでまた冒険者を派遣してもらうように頼もう」
「ドルトンさん……」
「お前の気持ちは痛いほどわかる、儂だって親友を殺されたのだからな。だが、だからこそ親友の息子のお前を無駄死にさせるわけにはいかん。どうか分かってくれ……頼む」


アルを失った悲しみはドルトンも味わっており、本音を言えば彼も赤毛熊の事は許せない。しかし、アルの忘れ形見を危険に晒させる事など彼には承知できなかった。
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