80 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年
第80話 岩をも砕く一撃
しおりを挟む
「ふうっ……」
意識を集中させるようにナイは目を閉じると、やがて瞼を開いて目の前に存在する大岩を視界に捉える。そして覚悟を決めた様にナイは勢いよく足を踏み込む。
「はああああっ!!」
あまりに力強く踏み込んだせいで地面に足が付いただけで土煙が舞い上がり、ナイは旋斧を大岩に向けて上段から振り下す。山中に轟音が鳴り響き、岩の破片が周囲に飛び散った。
ナイが振り下ろした旋斧は一撃で大岩の破壊に成功し、大岩が存在した場所は粉々に砕け散った岩の破片だけが散らばっていた。その光景を見届けたナイは旋斧を持ち上げる。
「……やった、のか」
目の前に散らばる岩石の欠片を見てナイは呆然とした表情で呟き、遂に岩を完全に破壊できるほどの腕力を身に付けた事を実感する。訓練を開始してから二年近くが経過しており、ナイは目的を成し遂げた。
以前は両手を使わなければ持ち上げる事ができなかった旋斧だったが、この二年間鍛え続けたお陰でナイは片手で持ち上げる事もできるようになった。二年前と比べても現在のナイは筋力を身に付けており、今ならばどんな物でも切れそうな気がする。
「この力ならきっとあいつに勝てる」
大岩を破壊した事でナイは自分が強くなった事を自覚し、目つきを鋭くさせる。不意に彼は流れている川に視線を向けると、いつの間にか自分の髪の毛が伸びている事に気付く。
(そういえば髪はいつも爺ちゃんに切って貰ってたっけ……意外と爺ちゃん、器用だったからな)
髪の毛が伸びている事にも気づかぬ程にこの二年間は訓練に励んだ。その理由は養父の仇である赤毛熊を討つためであり、ナイは旋斧に視線を向けた。
(……大分無理をさせたな)
毎日岩を切るために利用し続けたため、旋斧の刃はあちこちが刃毀れを引き起こしていた。アルの家系に伝わる家宝であるが、もう限界は近いと思われた。
これ以上に無理をさせれば壊れるかもしれないが、この旋斧以外に今のナイの力に耐え切れる武器等存在せず、ナイは覚悟を決める。
「あいつを倒す」
赤毛熊を倒すために必要な筋力は身に付けた。ならばナイがやるべき事は最後の準備であり、彼は村へ戻るために引き返そうとした時、ここで狼の鳴き声が響く。
「ウォオオンッ!!」
「この声は……ビャクか」
ナイは鳴き声を耳にして振り返ると、川原の上流から近づく影を発見し、その正体がビャクだと知る。二年前と比べてビャクも成長しており、現在では馬とそれほど変わらない大きさにまで成長していた。
二年前に赤毛熊からナイ達を救うために囮になったビャクだったが、無事に森の中で赤毛熊を撒く事に成功し、その後は定期的にナイの元へ訪れていた。今現在は赤毛熊が森に住み着いたので住処を変えて山の中で暮らしている。
「よしよし、お前も随分と大きくなったな……やっぱり魔獣だから成長が早いのかな」
「クゥ~ンッ」
大きくなってもビャクはナイに懐き、彼に甘えるように頭を擦りつける。そんなビャクをナイは優しく撫で回していると、後ろの方から更に聞き覚えのある声が響く。
「お~い!!ナイ、やっぱりここにいたのか!!」
「その声は……ゴマン?」
「ウォンッ!!」
「うわ、びっくりした!?ビャクも一緒にいたのか……お、驚かせるなよ!!」
声がした方向を振り返ると、そこには家宝の盾と大きな斧を背負い込んだゴマンの姿が存在し、ビャクは彼に気付くと嬉しそうに鳴き声を上げた。その声を耳にしたゴマンは驚くが、相手がビャクだと知って安心する。
16才を迎えたゴマンは立派に成長し、現在は大人と一緒に村の見張り役の仕事も任されている。二年前と違ってナイと行動を共にする事はできなくなったが、それでも定期的に彼の元へ訪れていた。
「全く、またこんな場所に来てたのか……探すのに苦労したぞ」
「ゴマンは一人で来たの?途中で魔物に襲われなかった?」
「馬鹿にするなよ、僕だって強くなったんだ!!ゴブリンや一角兎程度にやられるかよ!!」
「そっか……」
ゴマンは誇らしげに胸を張り、この1年の間に彼も魔物との実戦経験を積んでいた。彼の場合は家宝である魔法金属で作り上げられた盾もあるため、村の大人達の中では一番の戦力だった。
彼が装備している盾は外部から受けた衝撃を倍にして跳ね返す性質を持ち合わせているため、それを利用すれば大抵の相手は吹き飛ばす事が出来る。最近ではゴマンも盾以外に斧を扱うようになったため、もう山の中に生息する魔物など相手ではない。
「おっと、忘れるところだった。ナイ、商人さんが村に来たぞ。お前が頼んでいた物が用意できたから、受け取りに来てくれって……」
「ドルトンさんが……分かった、すぐに戻ろう。ビャク、また後でね」
「ウォンッ!!」
ゴマンの話を聞いてナイはすぐに村に引き返す事に決め、ビャクと別れの挨拶を告げる。ナイはゴマンと共に急いで村へと戻り、ドルトンに会う事にした――
意識を集中させるようにナイは目を閉じると、やがて瞼を開いて目の前に存在する大岩を視界に捉える。そして覚悟を決めた様にナイは勢いよく足を踏み込む。
「はああああっ!!」
あまりに力強く踏み込んだせいで地面に足が付いただけで土煙が舞い上がり、ナイは旋斧を大岩に向けて上段から振り下す。山中に轟音が鳴り響き、岩の破片が周囲に飛び散った。
ナイが振り下ろした旋斧は一撃で大岩の破壊に成功し、大岩が存在した場所は粉々に砕け散った岩の破片だけが散らばっていた。その光景を見届けたナイは旋斧を持ち上げる。
「……やった、のか」
目の前に散らばる岩石の欠片を見てナイは呆然とした表情で呟き、遂に岩を完全に破壊できるほどの腕力を身に付けた事を実感する。訓練を開始してから二年近くが経過しており、ナイは目的を成し遂げた。
以前は両手を使わなければ持ち上げる事ができなかった旋斧だったが、この二年間鍛え続けたお陰でナイは片手で持ち上げる事もできるようになった。二年前と比べても現在のナイは筋力を身に付けており、今ならばどんな物でも切れそうな気がする。
「この力ならきっとあいつに勝てる」
大岩を破壊した事でナイは自分が強くなった事を自覚し、目つきを鋭くさせる。不意に彼は流れている川に視線を向けると、いつの間にか自分の髪の毛が伸びている事に気付く。
(そういえば髪はいつも爺ちゃんに切って貰ってたっけ……意外と爺ちゃん、器用だったからな)
髪の毛が伸びている事にも気づかぬ程にこの二年間は訓練に励んだ。その理由は養父の仇である赤毛熊を討つためであり、ナイは旋斧に視線を向けた。
(……大分無理をさせたな)
毎日岩を切るために利用し続けたため、旋斧の刃はあちこちが刃毀れを引き起こしていた。アルの家系に伝わる家宝であるが、もう限界は近いと思われた。
これ以上に無理をさせれば壊れるかもしれないが、この旋斧以外に今のナイの力に耐え切れる武器等存在せず、ナイは覚悟を決める。
「あいつを倒す」
赤毛熊を倒すために必要な筋力は身に付けた。ならばナイがやるべき事は最後の準備であり、彼は村へ戻るために引き返そうとした時、ここで狼の鳴き声が響く。
「ウォオオンッ!!」
「この声は……ビャクか」
ナイは鳴き声を耳にして振り返ると、川原の上流から近づく影を発見し、その正体がビャクだと知る。二年前と比べてビャクも成長しており、現在では馬とそれほど変わらない大きさにまで成長していた。
二年前に赤毛熊からナイ達を救うために囮になったビャクだったが、無事に森の中で赤毛熊を撒く事に成功し、その後は定期的にナイの元へ訪れていた。今現在は赤毛熊が森に住み着いたので住処を変えて山の中で暮らしている。
「よしよし、お前も随分と大きくなったな……やっぱり魔獣だから成長が早いのかな」
「クゥ~ンッ」
大きくなってもビャクはナイに懐き、彼に甘えるように頭を擦りつける。そんなビャクをナイは優しく撫で回していると、後ろの方から更に聞き覚えのある声が響く。
「お~い!!ナイ、やっぱりここにいたのか!!」
「その声は……ゴマン?」
「ウォンッ!!」
「うわ、びっくりした!?ビャクも一緒にいたのか……お、驚かせるなよ!!」
声がした方向を振り返ると、そこには家宝の盾と大きな斧を背負い込んだゴマンの姿が存在し、ビャクは彼に気付くと嬉しそうに鳴き声を上げた。その声を耳にしたゴマンは驚くが、相手がビャクだと知って安心する。
16才を迎えたゴマンは立派に成長し、現在は大人と一緒に村の見張り役の仕事も任されている。二年前と違ってナイと行動を共にする事はできなくなったが、それでも定期的に彼の元へ訪れていた。
「全く、またこんな場所に来てたのか……探すのに苦労したぞ」
「ゴマンは一人で来たの?途中で魔物に襲われなかった?」
「馬鹿にするなよ、僕だって強くなったんだ!!ゴブリンや一角兎程度にやられるかよ!!」
「そっか……」
ゴマンは誇らしげに胸を張り、この1年の間に彼も魔物との実戦経験を積んでいた。彼の場合は家宝である魔法金属で作り上げられた盾もあるため、村の大人達の中では一番の戦力だった。
彼が装備している盾は外部から受けた衝撃を倍にして跳ね返す性質を持ち合わせているため、それを利用すれば大抵の相手は吹き飛ばす事が出来る。最近ではゴマンも盾以外に斧を扱うようになったため、もう山の中に生息する魔物など相手ではない。
「おっと、忘れるところだった。ナイ、商人さんが村に来たぞ。お前が頼んでいた物が用意できたから、受け取りに来てくれって……」
「ドルトンさんが……分かった、すぐに戻ろう。ビャク、また後でね」
「ウォンッ!!」
ゴマンの話を聞いてナイはすぐに村に引き返す事に決め、ビャクと別れの挨拶を告げる。ナイはゴマンと共に急いで村へと戻り、ドルトンに会う事にした――
10
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約
ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」
「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」
「もう少し、肉感的な方が好きだな」
あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。
でも、だめだったのです。
だって、あなたはお姉様が好きだから。
私は、お姉様にはなれません。
想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。
それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
辺境で厳しめスローライフ転生かと思いきやまさかのヒロイン。からの悪役令嬢入れ替わり?
神室さち
ファンタジー
北の辺境村で生まれて八年後、高熱を出して生死をさまよったことで前世を思い出したリリ。
色々あって名前も変わり、何の因果か強制力か、貴族子女が必ず入学しなくてはならない学園で、なんだか乙女ゲーム的なヒロインに。
前世、そう言った物語が流行っていたことは知っているけど、乙女ゲームなどやったこともなかったので、攻略の仕方など、わかるはずもないまま、どうにか流れに逆らおうとするものの裏目に出るばかり。
どんなに頑張っても、それを上回る強制力と脳みそお花畑の攻略対象のせいで、立派なヒロインに、なってしまっていた。
そして、シナリオ通り(?)断罪されたのは悪役令嬢。彼女に呼び出された先で、思わぬ事態に巻き込まれ、ヒロインは歓喜した。
「っしゃああぁぁぁぁッ!!! よくわからんけどコレ確実にシナリオから抜けたァア!!!」
悪役令嬢と入れ替わっちゃったヒロインが、その後を切り開いていったり、過去を振り返ったりする物語です。
恋愛要素は薄い。
ヒロインは攻略対象にも悪役令嬢にもかかわってこなければどうでもいいと思ってるんで、ヒロインやその周りからの直接ざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる