貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
75 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年

第75話 アルと赤毛熊の因縁

しおりを挟む
「やああっ!!」
「ナイ!?」
「駄目だ、止めろっ!!」


赤毛熊に向けてナイは接近すると、剛力を発動させた状態で旋斧を振りかざす。彼の行為はあくまでもアルとゴマンを守るためであり、まずは敵の注意を引くために攻撃を仕掛けた。

しかし、その行動は完全に裏目に出てしまい、旋斧を振りかざしたナイに対して赤毛熊は焦った様子もなく、左腕の爪で弾き返す。


「ガァアッ!!」
「うわぁっ!?」
「うわっ!?」
「くそっ……化物がっ!!」


ナイの渾身の攻撃を赤毛熊は軽く弾き返し、吹き飛ばされたナイは後ろに立っていたゴマンも巻き込んで倒れ込む。力の差があまりにも開きすぎており、とてもではないが勝負にならない。

ホブゴブリン程度ならば一撃で葬れるほどの威力を引き出せる「剛力」の技能でも赤毛熊には通じず、せいぜい赤毛熊の程度だった。


(強すぎる……オークやホブゴブリンなんかと比べ物にならない!?)


これまでにナイが倒してきた魔物がなんだったのかと思えるほどに赤毛熊は強大な力を要しており、このままでは殺されてしまう。

赤毛熊は自分に攻撃を仕掛けてきたナイを標的に定め、倒れ込んだナイを襲おうと右腕を振りかざし、圧倒的な力で叩き込もうとした。


「ウガァッ!!」
「くぅっ……!?」
「ひいいっ!!や、止めろぉっ!!」


だが、ここでナイと共に倒れていたゴマンが背中に装備していた盾を構えると、この時に盾と赤毛熊の右腕が衝突した瞬間、強烈な衝撃波が発生して赤毛熊の巨体が倒れ込む。


「アガァッ!?」
「うわぁっ!?」
「うおっ!?その盾、持って来たのか!?」
「盾……!?」


どうやらゴマンは自分の家の家宝である「魔法金属の盾」を持ち込んでいたらしく、赤毛熊の攻撃すらも弾き返す事に成功した。赤毛熊の強烈な一撃さえも跳ね返す程の性能を誇り、この攻撃で赤毛熊は後ろ向きに倒れ込む。


(倒れた、今なら足を狙える!!)


赤毛熊が倒れている間にナイは旋斧を握りしめ、赤毛熊が体勢を整える前に仕留めるために走り出す。赤毛熊は慌てて立ち上がろうとしたが、その前にナイは旋斧を放つ。


「うああっ!!」
「ガアアッ!?」
「おおっ!!やったのか!?」


旋斧の刃が赤毛熊の左足に的中し、血が滲む。だが、切り付けたナイは信じられない表情を浮かべ、確かに刃を叩き込んだはずだが頑丈な毛皮と想像以上の肉の硬さに切り裂く事ができなかった。

ホブゴブリンも鉄のような皮膚を持つが、赤毛熊の場合は更に上回り、分厚い毛皮の下はまるでのように硬い筋肉で構成されていた。旋斧ですらも表面を斬りつけるのが精いっぱいであり、とてもではないがナイの筋力では切り裂けない。


(硬すぎる……本当に生き物なのか!?)


赤毛熊の肉体はオークとは異なり、どちらも全身が毛皮で覆われているが、オークの場合は脂肪分が多いのに対して赤毛熊の場合は余分な脂肪分はなく、まるで筋肉の鎧に覆われているた。


(駄目だ、斬れない……僕じゃ勝てないのか……!?)


頼りの旋斧と剛力さえも通じない事にナイは冷や汗が止まらず、今まで一番の恐怖に苛まれる。どんな敵であろうとほんの少しでも勝機があれば諦めずに戦えた。しかし、今回の相手はどんな方法を使っても勝ち目が見いだせない。

左足を斬りつけられたにも関わらずに赤毛熊は気にした風もなく立ち上がると、改めてナイを見下ろす。その姿にナイは震えて動けず、もう心が折れかけていた。そんな彼を見て赤毛熊は憤怒の表情を浮かべて牙を向けた。


「ガアアアッ!!」
「ひっ……」
「ナイ、避けろっ!!」


赤毛熊の牙がナイの頭部に噛みつこうとした瞬間、アルが大声を上げた。その声に反応してナイは咄嗟に後ろに転ぶと、彼は背中に抱えていた特注のボーガンを取り出す。


「喰らいやがれっ!!」
「ウガァアアアッ!?」


ボーガンから放たれた矢が見事に赤毛熊の片目に的中し、あまりの激痛に赤毛熊は悲鳴を上げる。その様子を見てアルはナイを救えた事に安堵するが、すぐに彼はナイとゴマンに怒鳴り散らす。


「ナイ、ゴマン!!逃げろっ!!お前達は逃げるんだ!!」
「じ、爺ちゃん!?」
「な、何を言ってるんだよ!?」
「こいつは俺が食い止める!!お前達は逃げろ、生き残れ!!」
「ガアアッ……!!」


アルは矢筒から新しい矢を引き抜き、ボーガンに装填して今度は赤毛熊の背中に突き刺す。どうやらアルのボーガンは赤毛熊に損傷を与えられるようだが、二度も攻撃を受けた赤毛熊は標的の対象をナイからアルへと切り替える。

恐ろしい形相を浮かべながら赤毛熊はアルに身体を向け、その様子を見たアルは冷や汗を流しながらも義足に手を伸ばす。実を言えばアルはこの赤毛熊と因縁があり、彼の足を奪ったのはこの目の前に立つ赤毛熊だった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...