貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第69話 アルの鍛冶

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「よくやったぞ、ナイ!!おい、すぐに帰るぞ!!」
「えっ!?ちょ、僕はまだ掘ってないんだけど……」
「知るか!!俺がさっき手に入れた奴をやるから諦めろ!!それよりもすぐに村に戻るぞ!!」
「戻るって、爺ちゃん急にどうしたの!?」
「いいから早く帰るぞ!!ビャク、今日からここがお前の住処だ!!毎日ここに来るからお前は残れ!!いいな!?」
「ウォンッ!?」


アルは一刻も早く村に戻るためにナイとゴマンを連れ、洞窟を抜け出す。その様子をビャクは唖然とした表情で見送る事しか出来なかった――





――その後、村へと戻ったアルは自分の家に引きこもると、一心不乱に鍛冶を行う。一日中家の外に出る事もなく、食事も休憩も行わずに鍛冶に集中する。その様子を心配したナイが声をかけても碌に反応も示さず、アルはナイが回収したミスリル鉱石の加工に専念した。

ずっと家の中で金属を打つ音が鳴り響くので他の村人達も何事かと様子を伺いに来るが、鍛冶に夢中のアルは誰にも応対せず、代わりにナイが相手を行う。


「おい、ナイ……あの爺さん、まだ鍛冶をしてるのか」
「うん、昨日の昼からずっと鍛冶を続けてるよ」
「本当に大丈夫なのか?親父も心配してたぞ……そういえばアル爺さんは何を作ってるんだ?」
「さあ、聞いても何も答えないし……でも、多分だけど刃物だと思うよ」


ゴマンがナイの家に訪れると、彼は家の中から聞こえてくる鍛冶の音を聞いて不安を抱き、彼が何を作っているのか気にかかる。しかし、ナイに聞いても彼も何も聞かされておらず、鍛冶の工程を見た限りではアルは刃物の類を作ろうしている事だけは分かった。


「全く、あの爺さんは本当に何を考えてるんだか……」
「うるさくてごめんね」
「別にナイが悪いわけじゃないんだから謝らなくてもいいけどさ……」
「あ、そうだ。ゴマン、これからビャクがいる洞窟に行こうと思うんだけどゴマンはどうする?」
「洞窟って……昨日のあそこか?嫌だよ、僕は行かないからな。あんな危険な場所……」


ナイはビャクの様子を見に行くために今日は洞窟に向かう事を伝えると、ゴマンはあからさまに嫌な顔を浮かべた。昨日の今日で森の中でホブゴブリンに襲われたばかりだというのにまた洞窟へ向かうというナイの言葉に信じられない表情を浮かべる。


「お前、いくら何でも心配し過ぎじゃないのか。あの狼だって今頃は森の中で元気に暮らしてるって」
「そんなの分かんないよ、一人きりで寂しがっているかもしれないし……とにかく、僕は洞窟に向かうから爺ちゃんの事は任せていい?」
「任せるって……僕があの爺さんの様子を見るのか!?」
「ゴマンにしか頼めないからさ……駄目?」


よりにもよって仲の悪いアルの面倒を見る様に頼まれたゴマンは面倒そうな表情を浮かべるが、ナイに頼まれては彼も断り切れず、日頃から色々と世話になっているので仕方なく引き受ける事にした。


「しょうがない奴だな……いいよ、なら爺さんの事は僕に任せろ。その代わりといっては何だけど……久しぶりに肉が食べたいから、何か狩って来いよ」
「ありがとう!!分かった、必ず獲物を見つけてくるよ!!」


ゴマンにアルの事を任せたナイは彼と約束し、狩猟も兼ねてビャクが暮らす深淵の森へ向かう準備を行う――




――それからしばらく時間が経過すると、狩猟の準備を整えたナイは深淵の森へと辿り着き、ビャクが住処にしている滝の裏の鉱洞へと向かう。


(ビャク、元気にしてるかな。他の魔物に見つかってないと良いんだけど……)


鉱洞に残してきたビャクの身を案じながらもナイは森の中を歩いていると、不意に違和感を感じとる。今日は昨日と比べても動物を見かける事が少なく、まるで森全体の生き物がいなくなったように感じられた。

嫌な予感を浮かべたナイは常に警戒しながら先へ進み、森の中の川を発見した。この川の上流が目的地である滝が存在するため、川辺を移動しながらナイは歩いていると、途中で思いもよらぬ光景を目にする。


「な、何だこれ……!?」


川辺を歩いていると、ナイはホブゴブリンが倒れている事に気付き、既に事切れている様子だった。いったい何が起きたのか、ナイは周囲を警戒しながらもホブゴブリンの死骸を調べる。


「酷い、何て有様だ……」


ホブゴブリンの死骸を確認する限りではどうやら一撃で殺されたらしく、頭が吹き飛んでいた。熊のような大型の生物に襲われたのかと思われるが、ここでナイは疑問を抱く。

通常種のゴブリンならばともかく、ホブゴブリンの場合は皮膚が頑丈で野生の熊でも一撃で殺せるような存在ではない。だが、現にナイの目の前にある死骸は頭を吹き飛ばされて殺されている。この事から考えられるのはホブゴブリンを襲ったのは只の熊ではなく、熊よりも恐ろしい魔獣の可能性が高かった。
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