貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
52 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年

第52話 死闘

しおりを挟む
「グギギッ……!?」
「まだだ……逃がさないぞ」


まだ完全に身体は回復しきってはいないが、動けるまでには治ったナイは地面に落ちていた旋斧を拾い上げる。それを見たホブゴブリンは明確に恐怖を抱いた表情を浮かべ、目の前に立つ人間の少年が恐ろしくてたまらなかった。

一年前のナイは人間の子供の中でも脆弱だった。だが、今のナイは決して非力な存在などとは言えず、レベルも上げ、技能も身に付け、力も増した。そして何よりも強くなったのはだった。


(こいつは逃がしたら駄目だ……きっと、またやってくる)


ゴブリンは仲間意識が強く、仮にここでホブゴブリンを逃がせば殺された仲間の仇を討つために再び村を襲ってくる。それならばなんとしてもナイはここでホブゴブリンを倒さなければならなかった。

相手は手負いでしかも仲間も残っていない、この状況で逃がすなど有り得ず、ナイは勇気を奮い立たせて最後の戦いに挑む。


「うおおおっ!!」
「グギッ……ギギィッ!!」


ナイは駆け出すとホブゴブリンは右手に握りしめた剣を振りかざし、無造作に振り払う。迫りくるナイに対しての脅威からホブゴブリンは単調な攻撃を繰り出してしまい、それに対してナイは「迎撃」を発動させて反撃を行う。


「やああっ!!」
「グギャアアアッ!?」


振り抜かれた剣に対してナイは旋斧を振りかざし、ホブゴブリンの手首を切り裂く。それによってホブゴブリンは左腕だけではなく、今度は右手首を失って両手が使えなくなった。


「これで、終わりだぁっ!!」
「ッ……!?」


ナイは両手を失ったホブゴブリンに対して止めの一撃を繰り出そうとしたが、この時に思いもよらぬ人物の声が響き渡る。



「――ナイ!!何をしてるんだ、お前っ!?」
「えっ……!?」



後方から聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟にナイは振り下ろそうとした旋斧を止めて振り返ってしまう。声の主はドルトンに肩を借りたアルだった。

どうやら騒動を知ったアルはドルトンの力を借りてここまで来たらしく、彼の右手にはボーガンが握りしめられていた。それを見たナイはアルがどうしてここにいるのかと混乱し、その隙を逃さずにホブゴブリンは反撃を繰り出す。


「グギィッ!!」
「がはぁっ!?」
「ナ、ナイ!?」
「い、いかん!?」


アルに気を取られたナイに対してホブゴブリンは蹴りを放ち、強烈な一撃を受けたナイは地面に転がり込む。その光景を見てアルとドルトンは自分達のせいでナイの注意を引いてしまった事に気付いて後悔する。

蹴り飛ばされたナイは倒れ込み、この時に旋斧を再び手放してしまう。腹部に痛みを抑えながらもナイは必死に腕を伸ばし、落ちた旋斧を拾い上げようとした。


「く、くそっ……」
「……ギィアッ!!」


しかし、旋斧をナイが回収する前にホブゴブリンが先回りすると、地面に落ちた旋斧を踏みつける。それによってナイは旋斧が回収できず、ホブゴブリンに見下される。


「し、しまった!!くそ、うちのガキから離れろっ!!」
「誰か!!早く助けんかっ!!」
「そ、そんな事を言われても……」


アルは必死にナイを助けようとするが、まだ昼間の傷の影響か身体が思うように動かず、走り出そうとしたが途中で膝を崩す。ドルトンは村の大人達に声をかけるが、彼等もどうすればいいのか分からなかった。

ナイは倒れた状態でホブゴブリンに踏みつけられた旋斧に視線を向け、この状態では拾い上げる事はできない。その一方でホブゴブリンは仲間と自分の両手を奪ったナイに復讐するため、旋斧を踏みつけていない足を振りかざす。


「グギィッ!!」
「っ……!?」
「止めろぉおおっ!!」


倒れ込んだナイの顔面に目掛けてホブゴブリンは足を踏み下ろそうとする姿を見て、アルは手にしていたボーガンを撃ち込もうとした。だが、彼が行動を移す前にナイは腰に差していた短剣の内の1つを引き抜き、顔面に迫りくる足に突き刺す。


「このぉっ!!」
「グギャアアッ!?」
「なっ……!?」
「なんとっ……!?」


ホブゴブリンの絶叫が響き渡り、足首に短剣を突き立てられたホブゴブリンは悲鳴を上げて倒れ込み、その隙にナイは身体を起き上げる。短剣はホブゴブリンの足に突き刺さったままなので回収はできなかったが、まだ最後の武器がナイには残っている。

腰に装着したもう片方の短剣を手にしたナイはホブゴブリンに視線を向け、刃を引き抜く。この際にナイは逆手で短剣を握りしめ、最後の一撃を繰り出す。


「これで、終わりだぁっ!!」
「――ッ!?」


声にもならない悲鳴が一瞬だけ村中に響き渡り、ナイが放った短剣はホブゴブリンの額を貫通する。やがてホブゴブリンは事切れたのか動かなくなり、その様子を見たナイは緊張の糸が途切れたのか、一気に身体に疲労感が押し寄せる。


「やった……」
「し、信じられない……あの、ナイが……うちのガキが、あのホブゴブリンを倒しやがった!!」
「なんという子供だ……!!」
「す、凄い……凄いぞ、ナイ!!」
「本当にあのナイが……これだけの魔物をたった一人で?」


ホブゴブリンを倒して地面に倒れたナイを見て村人たちは湧き上がり、彼の元へ駆けつけるたが既にナイの意識は途切れていた――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...