貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第42話 僕のせいで……

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「離せっ……あいつらは普通のゴブリンじゃない、今度は村を襲ってくるぞ。すぐに防備を固めるんだ」
「ぼ、防備と言われても……」
「もたもたいしてる場合じゃねえんだよ……うぐっ!?」
「じ、爺ちゃん!?」
「無茶をしおって……おい、誰かこいつを家まで運んでやれ」


アルは意識を失うとドルトンは彼を家まで運び込むように指示を出す。すぐに村の大人達が彼を運び込むが、残された者達の顔色は青い。


「ど、どうするんだ……アルがあんな様子じゃ、もしも村にゴブリンが襲ってきたら俺達は……」
「ば、馬鹿野郎!!弱気な事を言うな!!」
「でも、この村で魔物と戦える奴なんてアルしかいないじゃないか!!」
「そ、そうだ!!商人さん、あんたの馬車で俺達を街まで避難させてくれよ!!」
「それは……無理だ。村人全員を運び込む事はできんし、そもそも街に避難しても行く当てはあるのか?」


ドルトンの言葉に全員が黙り込み、この村の人間は他の村や街との交流は乏しく、助けてくれる保証はない。そもそもドルトンの馬車では運び出させる人数には限界があった。

この村の防備は村の周囲に木造製の柵がある程度で仮にゴブリンのような魔物が乗り込んできた場合、簡単に突破されてしまう。今から防備を固めるにしてもいつゴブリンが襲ってくるのか分からず、油断できない。


「アルはああ言っていたが、魔物が襲ってくるとは限らないんじゃないのか?」
「いや、狩人のあいつは普段から魔物と接しているんだ。俺達よりもあいつの方が魔物に詳しい……本当にやってくるかもしれないぞ」
「ど、どうするんだよ!?うちにはまだ小さい子供が3人もいるんだぞ!!」
「取り乱すな!!とりあえず、冷静に話し合おう!!村長、集会の準備だ!!大人の男は全員集めてくれ!!」
「う、うむ……」


村人たちはアルの言葉を信じて来るべき魔物に備えて対策を練る必要があった。だが、話し合いを行おうとする大人達の姿にナイは不安を抱く。

事態は一刻も争う時に話し合いを行うぐらいならば行動に移した方が得策なのは子供のナイでも分かった。だが、村の大人達は現実を見ておらず、きっと話し合いをしてもまとまる事はなく、無駄に時間を過ごす事になるだろう。


(どうしよう、どうすればいいんだ……爺ちゃん、僕はどうすればいいの……?)


ナイは大人達の様子を見て不安を抱き、自分にできる事があるのか分からなかった。しかし、それでもこのまま何もしないわけにはいかず、ナイは自分が何をするべきか考えていると、ここで立ち去ろうとした村の大人の言葉が耳に届く。


「なあ、そういえばアルに襲い掛かったゴブリンの中で短剣を持っている奴がいなかったか?」
「短剣?なんでゴブリンがそんな物……見間違いじゃないのか?」
「いや、俺も確かに見たぞ!!あの一番でかいゴブリンが持っていたのは短剣だったはずだ!!前にアルが持っていたのと似ていたような気がするが……」
「……えっ?」


大人達の言葉にナイは呆然とするが、アルに襲い掛かった背丈の大きいゴブリン、恐らくはホブゴブリンと思われる個体が手にしていたのが「短剣」という言葉に衝撃を受ける。

ゴブリンは武器を扱う程度の知能はあり、更に上位種のホブゴブリンならば通常種のゴブリンよりも知性が高い。だからこそ人間から奪った武器を扱ってもおかしくはない。だが、それが短剣でしかもアルが持っている物と同じ型という言葉にナイは動揺を隠せない。


(まさか……あの時に失くした短剣?)


昨日、山に登ったナイはホブゴブリンに襲われた時に短剣を一つ失くしていた。回収を諦めて去ったのだが、その短剣をナイが倒したホブゴブリンの仲間が拾い上げ、それを利用してアルに襲い掛かったのではないかと気づく。


(そんな、僕のせい……なのか?)


ナイは無意識に身体が震え、その様子を見たドルトンは彼が普通ではない事に気付き、心配したように声を掛けた。


「ナイ?どうかしたのか?」
「えっ……う、ううん……何でもないよ」
「そうか?まあ、怖がるのも無理はない……今日は儂も泊まらせてもらおう。お前の爺さんには精が付く物を食べさせてやらなければな」
「…………」


心配してくれたドルトンは今日の所は村へと泊まり、倒れたアルのために彼が目を覚ました時に体力を取り戻す食材を使って料理を作ってやることを伝える。だが、ナイはドルトンの言葉が聞こえておらず、自分のせいで大変な事態を引き起こしたのかと恐怖を抱く。

もしもゴブリン達がアル達を襲った理由が山を下りたナイを追跡したのが原因だった場合、今回の村の危機はナイが引き起こした事になる。仮にその予想が当たっていた場合、ナイは自分のせいで村が追い込まれるのかと身体の震えが止まらなかった――
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