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忌み子と呼ばれた少年
第32話 家宝「旋斧」
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――まだナイが小さい頃、アルは倉庫に保管している斧と剣が合わさったような武器を見せてくれた事がある。剣の種類としてはバスタードソードに近いが、刃の先端部は斧のような形状をしており、非常に重くて並の人間ならば持ち上げる事も出来ない。
どうして狩人であるアルがこんな武器を持っているのかとナイは不思議に思ったが、この剣は彼の家に伝わる武具らしく、滅多な事では使わないという。
『こいつの名前は旋斧というんだが、俺はあんまり好きじゃない』
『どうして?』
『こいつは剣でもなければ斧でもない、どっち付かずの武器なんだよ。先祖は何を考えてこんな物を作ったんだろうな……』
アルとしてはこの「旋斧」という名前の武器はあまり好きではないらしいが、家系に伝わる大切な代物らしく、家族と死に別れした時に託されたという。
あまり自分の家族とは仲が良くなかったアルだが、この旋斧だけは手放す事ができず、大物を仕留める時に限り使用している。この旋斧が制作されたのは100年以上も前だが、普通の鉄とは異なる特別な金属で構成されているため、どれだけ乱暴に扱われようと刃は欠ける所か掠り傷一つ付かない程に頑丈だった。
『もしも俺がいなくなったら、この剣はお前の物になるんだ。だから大人になった時はこの剣を扱える程に強い男になるんだぞ』
子供の頃の出来事を思い出したナイは倉庫から家の中に運び出された「旋斧」に視線を向け、複雑な表情を浮かべる。この旋斧を扱うにはナイはまだ幼過ぎるし、そもそも筋力が足りない。
試しにナイは旋斧の柄に手を伸ばしてみるが、持ち上げる所かびくともせず、渾身の力を込めようと動かす事ができない。
「ふぎぎっ……だ、駄目かぁっ」
「ははは、そいつを扱うのはお前にはまだ早いようだな」
旋斧を持ち上げようとしていたナイを見てアルは笑い声をあげ、彼はナイを離れさせると、代わりに旋斧を持ち上げる。老人でありながらもアルは村一番の怪力を誇り、両手で旋斧を持ち上げた。
「よっと……ふうっ、年を重ねる事にこいつが重くなるな。昔は片手でも持てたんだがな」
「こんな重い剣を片手でなんて……やっぱり、爺ちゃんは凄いね」
「はっはっはっ!!そうだろう、爺ちゃんは凄いんだ……はぐっ!?」
「爺ちゃん!?」
ナイに笑いかけていたアルだったが、唐突に悲鳴を上げると彼は旋斧を床に落として腰を抑える。どうやら重い物を持ち上げたせいで腰を痛めたらしく、悔しそうな表情を浮かべた。
「くっ、ちょっと腰がやられたか……情けねえ、儂の身体も老いたもんだぜ」
「爺ちゃん、無理をしたら駄目だよ」
「だ、大丈夫だ。少し休めばどうにかなる……ふうっ」
アルはナイに支えて貰いながら横になり、床に倒れた旋斧に視線を向けた。この旋斧はアルの家系に伝わる家宝でもあり、若い頃はこの旋斧を使って魔物を退治した事もある。
この旋斧を作り出した鍛冶師は何を考えてこのような武器を作ったのかは分からないが、一つだけ言える事はこの武器は人を切るために作り出した武器ではなく、人を越えた存在、それこそ魔物などの存在を倒すために作り出したように思えた。
旋斧を作り出したのはアルの先祖である事は間違いないが、先祖が何を倒すためにこの旋斧を作り出したのかはアルも教わっていない。アルは自分の先祖がこの旋斧でどんな存在を倒すために作り出したのか、それだけは長年の疑問だった。
(こんな酔狂な物が家宝とはな……やれやれ、情けないぜ)
一時期は鍛冶師として腕を磨いていたアルだが、鍛冶師の視点から見ても旋斧が誰がどんな目的で作り出したのかが分からず、非常に謎が多い。だからこそ家を出たにも関わらず、両親が亡くなった後にこの武器だけは手放させずに自分の元で保管していた。
(親父、あんたはこいつを作った奴が何を考えているのか知ってたのか?)
今は亡き父親の事を思い返しながらアルは旋斧に視線を向け続けたが、やがていくら考えても答えは出ない事を悟り、目を逸らす。その様子を見ていたナイは旋斧に視線を向け、不安を抱く。
(爺ちゃんはこれを使ってボアを倒すつもりだけど、こんな重い物を持ち歩いていたら腰が壊れちゃうよ……でも、僕はボアの狩りに参加させてくれないだろうな)
ボアを狩るためにアルは旋斧を倉庫から引っ張り出したのは間違いないが、もしも仮にボアとの戦闘で旋斧を利用するとなればアルの肉体に大きな負担が掛かる。
しかし、ボアを倒すには並大抵の武器では通用せず、魔獣であるボアは普通の猪とは違い、普通の弓矢や剣では太刀打ちできない。全身を覆う毛皮は鉄の剣さえも弾き、巨体でありながら信じられない速度で駆け抜け、その突進力は大岩をも打ち砕く。
事前に落とし穴などの罠でも仕掛けなければ倒せない相手であり、ボアを仕留める場合は万全な準備を整える必要があった。少なくとも準備するだけでも数日は掛かるはずであり、その間にナイはアルのために自分が何が出来るのかを真剣に考える。
どうして狩人であるアルがこんな武器を持っているのかとナイは不思議に思ったが、この剣は彼の家に伝わる武具らしく、滅多な事では使わないという。
『こいつの名前は旋斧というんだが、俺はあんまり好きじゃない』
『どうして?』
『こいつは剣でもなければ斧でもない、どっち付かずの武器なんだよ。先祖は何を考えてこんな物を作ったんだろうな……』
アルとしてはこの「旋斧」という名前の武器はあまり好きではないらしいが、家系に伝わる大切な代物らしく、家族と死に別れした時に託されたという。
あまり自分の家族とは仲が良くなかったアルだが、この旋斧だけは手放す事ができず、大物を仕留める時に限り使用している。この旋斧が制作されたのは100年以上も前だが、普通の鉄とは異なる特別な金属で構成されているため、どれだけ乱暴に扱われようと刃は欠ける所か掠り傷一つ付かない程に頑丈だった。
『もしも俺がいなくなったら、この剣はお前の物になるんだ。だから大人になった時はこの剣を扱える程に強い男になるんだぞ』
子供の頃の出来事を思い出したナイは倉庫から家の中に運び出された「旋斧」に視線を向け、複雑な表情を浮かべる。この旋斧を扱うにはナイはまだ幼過ぎるし、そもそも筋力が足りない。
試しにナイは旋斧の柄に手を伸ばしてみるが、持ち上げる所かびくともせず、渾身の力を込めようと動かす事ができない。
「ふぎぎっ……だ、駄目かぁっ」
「ははは、そいつを扱うのはお前にはまだ早いようだな」
旋斧を持ち上げようとしていたナイを見てアルは笑い声をあげ、彼はナイを離れさせると、代わりに旋斧を持ち上げる。老人でありながらもアルは村一番の怪力を誇り、両手で旋斧を持ち上げた。
「よっと……ふうっ、年を重ねる事にこいつが重くなるな。昔は片手でも持てたんだがな」
「こんな重い剣を片手でなんて……やっぱり、爺ちゃんは凄いね」
「はっはっはっ!!そうだろう、爺ちゃんは凄いんだ……はぐっ!?」
「爺ちゃん!?」
ナイに笑いかけていたアルだったが、唐突に悲鳴を上げると彼は旋斧を床に落として腰を抑える。どうやら重い物を持ち上げたせいで腰を痛めたらしく、悔しそうな表情を浮かべた。
「くっ、ちょっと腰がやられたか……情けねえ、儂の身体も老いたもんだぜ」
「爺ちゃん、無理をしたら駄目だよ」
「だ、大丈夫だ。少し休めばどうにかなる……ふうっ」
アルはナイに支えて貰いながら横になり、床に倒れた旋斧に視線を向けた。この旋斧はアルの家系に伝わる家宝でもあり、若い頃はこの旋斧を使って魔物を退治した事もある。
この旋斧を作り出した鍛冶師は何を考えてこのような武器を作ったのかは分からないが、一つだけ言える事はこの武器は人を切るために作り出した武器ではなく、人を越えた存在、それこそ魔物などの存在を倒すために作り出したように思えた。
旋斧を作り出したのはアルの先祖である事は間違いないが、先祖が何を倒すためにこの旋斧を作り出したのかはアルも教わっていない。アルは自分の先祖がこの旋斧でどんな存在を倒すために作り出したのか、それだけは長年の疑問だった。
(こんな酔狂な物が家宝とはな……やれやれ、情けないぜ)
一時期は鍛冶師として腕を磨いていたアルだが、鍛冶師の視点から見ても旋斧が誰がどんな目的で作り出したのかが分からず、非常に謎が多い。だからこそ家を出たにも関わらず、両親が亡くなった後にこの武器だけは手放させずに自分の元で保管していた。
(親父、あんたはこいつを作った奴が何を考えているのか知ってたのか?)
今は亡き父親の事を思い返しながらアルは旋斧に視線を向け続けたが、やがていくら考えても答えは出ない事を悟り、目を逸らす。その様子を見ていたナイは旋斧に視線を向け、不安を抱く。
(爺ちゃんはこれを使ってボアを倒すつもりだけど、こんな重い物を持ち歩いていたら腰が壊れちゃうよ……でも、僕はボアの狩りに参加させてくれないだろうな)
ボアを狩るためにアルは旋斧を倉庫から引っ張り出したのは間違いないが、もしも仮にボアとの戦闘で旋斧を利用するとなればアルの肉体に大きな負担が掛かる。
しかし、ボアを倒すには並大抵の武器では通用せず、魔獣であるボアは普通の猪とは違い、普通の弓矢や剣では太刀打ちできない。全身を覆う毛皮は鉄の剣さえも弾き、巨体でありながら信じられない速度で駆け抜け、その突進力は大岩をも打ち砕く。
事前に落とし穴などの罠でも仕掛けなければ倒せない相手であり、ボアを仕留める場合は万全な準備を整える必要があった。少なくとも準備するだけでも数日は掛かるはずであり、その間にナイはアルのために自分が何が出来るのかを真剣に考える。
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