貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
26 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年

第26話 経験石の壊し方

しおりを挟む
――ゴブリンから経験石を回収した後、死骸に関しては燃やすしかなかった。ゴブリンの死骸は一角兎のように食べられず、骨や皮の類も使い物にならない。死骸を放置すると他の魔物や獣に食い荒らされる可能性もあり、せめて跡形も残さずに焼却するのが一番だとナイ達は判断した。。

ちなみにナイたちが倒したはゴブリンは合計で4匹であり、逃げ出してしまった背丈の低いゴブリンは見逃す異にした。わざわざ追跡して始末する理由もなく、回収した経験石を土産に狩猟を続ける。

その日は二人で山の中を探索し、事前に用意していた罠に嵌まった獲物を回収して帰還する。今日の成果はゴブリンの経験石が4つと罠に掛かっていた兎が3匹だけであり、これでは冬を越す事は厳しい。


「明日からはもっと獲物を狩らないとな……だが、最近は魔物どもが増えてきたせいか山の動物も随分と減ってきた」
「なら、山以外の場所で狩猟するの?」
「いいや、森や草原は山よりも魔物が数を増やしている。冬までに十分な食料を確保しないと今年は厳しいぞ。場合によっては村の連中も手伝わせて草原にいる一角兎を狩る必要があるかもしれんな」
「あ、それなら村の外でボアを見かけたけど……確かボアの肉は凄く美味しいんだよね」
「ほう、ボアが……確かに奴を狩れれば問題は解決するが、流石に儂一人では手に余るな」


ナイは草原に出現したボアの事を話すとアルは難しい表情を浮かべた。食用の魔物の中でもボアは人気が高く、普通の猪よりも大きいために倒す事が出来れば冬を越すには十分な量の食料が手に入る。

草原の方ではボア以外にも食用に適した魔物は多く、前にナイが倒した一角兎も食用に適している。だが、草原の場合は見晴らしが良いために森や山の中と違って身を隠す物が少なく、大人数で動けば魔物に近付ければ気づかれる可能性が高い。


「ボアを仕留めるとなると、大掛かりな罠を仕掛ける必要があるな。村の奴等に手伝ってもらって落とし穴を作るしかないかもしれん」
「爺ちゃんならボアを倒せないの?」
「若い頃ならともかく、今の儂じゃ手に負えんな」


一流の狩人であるアルでさえもボアを仕留めるためには入念な準備が必要らしく、ボアの危険性を語る。一角兎やゴブリン程度とはわけが違い、生半可な武器は通用せず、確実に倒す方法があるとすれば罠を仕掛ける以外にない。


「それよりもナイ、さっき渡した物で経験石は壊せる事が出来たか?」
「あ、うん……今やってるけど、上手く嵌まらなくて」


アルに言われてナイは手元に視線を向けると、彼の手の中には「万力」を想像する道具が存在し、それを利用してナイは経験石の破壊を試みる。

経験石は非常に硬く、耐久度も高いので武器の類でも破壊するのは困難な代物である。しかし、一般人でも破壊できるように特別な道具が開発されており、それがナイが手にしている「壊裂」と呼ばれる。物騒な名前だが、実際に過去には拷問器具としても利用された事もある道具だった。


「せぇのっ……ふぎぎぎっ!!」
「おいおい、大丈夫か?壊せない様なら無理をしない方が良いぞ」
「だ、大丈夫……何でか、今ならいつもより力が出ると思うから」
「力が出るって……そうか、ゴブリンを倒したからレベルが上がったのか」


先ほどの戦闘でナイはゴブリンを倒した事により、経験値を得てレベルが上昇している事を感覚で感じ取っていた。一角兎よりもゴブリンの方が経験値が高いらしく、感覚的には「レベル3」ぐらいはナイの力も上がっていた。

渾身の力を込めてナイは壊裂に取り付けられているバルブを回すと、ゴブリンの経験石が左右の金属板によって押し潰され、やがて罅割れが生じる。完全に砕けるとナイの身体に熱い何かが送り込まれる感覚に陥る。


(あっ……この感覚、レベルが上がってるんだ)


経験石を破壊した事でナイの身体に経験値が送り込まれ、レベルが上昇した時と同じく不思議と力が沸き上がる。まるで身体が一気に軽くなったような感じであり、驚きながらも砕けた経験石の破片に視線を向けた。


「凄い、何だか身体が軽くなったみたい!!」
「どうやらレベルが上がったようだな……魔物を倒した時と同じぐらいの経験値がお前の身体に入ったんだ」
「へえ、そうなんだ……」
「だが、あまり無理してレベルを上げ過ぎると後で辛くなるから気を付けろ」
「え、どうして?」
「レベルが急激に上がったり下がったりすると、身体の感覚が追いつけずに思うように身体が動かせなくなる。今はいいとしても、日付が変わればお前はレベル1に戻る。その時は身体が重たくなったように感じるぞ」
「あっ……」


アルに指摘されてナイはレベルが上がっても、自分の場合は日付が変わるたびにレベル1になる事を思い出して落胆する。どれだけ経験値を集めてもレベルがリセットされたら肉体は元に戻る。その事に関してはどうしようもできないのでアルは不憫に思う。

だが、ナイはレベルが上昇した事で同時にSPを獲得している事は知っており、帰ったらどの程度のSPが集まっているのか楽しみだった。もしも新しい技能の習得に必要な数のSPが集まっていたら何を覚えようかと考えていると、不意に二人の背後から物音が鳴り響く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...