20 / 1,110
忌み子と呼ばれた少年
第20話 お前は強い子だ
しおりを挟む
――アルが山から戻ってくると、家の中にナイがいない事に気付き、彼は不思議に思う。家の留守番を任せていたのだが、外に出て村の子供達と遊んでいるのかと思ったアルは村の中でナイを探していた。
だが、どこの家を尋ねてもナイの姿は見つからず、子供達に聞いてもそもそもナイと遊ぶ事など最近はなかったという。アルはナイが普段から子供達と遊んでいると聞いていたのだが、ここでナイが嘘を吐いていた事を知った。
村中を探してもナイがいない事に不安を覚えたアルは、村の出入口へと向かう。村の防衛のために出入口には見張り台と村の若者が存在し、暇そうに欠伸をしながら見張り台の上に立っていた。
「おい!!うちのガキを知らんか?」
「ん?何だ、アルさんか……あんたの所のガキは見てないぞ。というか、今日はあんた以外は誰も外に出てないよ」
「本当か!?」
「ああ、本当だ」
話しかけられた青年はアルに言葉を返すと、その返答を聞いてアルは村の外にナイが出ていない事に安堵するが、それならば何処に消えたのかと戸惑う。
(ナイ、何処へ行った?俺が見落としているだけか?)
もう一度アルは自分の家に戻り、ナイを探す事にした。だが、最初に帰ってきたときと家の様子が違う事に彼は気づき、最初に異変を感じたのはアルの家の扉が開け開かれている事だった。
(扉が開いている?ちゃんと閉めていたはずだが……ナイが戻ってきたのか?)
自分の家の扉が開け開かれている事にアルは気づき、慌てて彼は開けっ放しの扉を潜り抜ける。すると、そこには血塗れの状態でナイが倒れていた。
最初に血塗れのナイを見てアルは驚愕のあまりに声も出せず、最初は死んでいるのかと思ったが、倒れているナイの身体が僅かに震えている事から生きている事を理解したアルはナイの身体を抱き上げる。
「ナイ!?どうした、何があった!?」
「うっ……」
「怪我をしたのか!?こんなに血を流して……んっ!?」
「すぅっ……すぅっ……」
ナイを抱き上げたアルはナイが寝息を立てている事に気付き、どうやら眠っている様子だった。血塗れだと思っていた身体もよくよく観察すると服の部分が血に染まっているだけで肉体の方は怪我をしていない。
「な、何だ……びっくりさせやがって、けど何があったんだ?」
「んんっ……強く、なるんだ……」
「ナイ……?」
ナイの寝言を聞いたアルは驚いた表情を浮かべ、すぐに彼が倒れている場所に刃が折れた短剣と、大量の一角兎の角が落ちている事に気付く。
「こ、こいつは……まさか、一人で一角兎を殺したのか!?しかも、こんな数の角まで……」
落ちていた短剣と角を拾い上げ、アルは信じられない表情を浮かべる。角の数は10本は存在し、少なくともナイが一人で一角兎を10匹も倒した事の証明だった。
一か月前にナイは一角兎を倒したが、その時は色々な幸運が重なった偶然の勝利だった。だが、アルの前に存在する10本の角はただの幸運だけで手に入る代物ではなく、暗にナイが10匹の一角獣を倒す力を手に入れた事を示している。
「ナイ、お前ひとりで村の外に……しかも、たった一人で一角兎を狩ってきたのか?」
「すぅっ……すぅっ……」
アルの呟きにナイは答えず、ひどく疲れているのかしばらくは目を覚ます様子がない。アルはそんな彼を見て頭を掻き、拾い上げた一角兎の角と折れた短剣に視線を向けた。
「……儂が魔物を倒したのは10代後半だ。なのにこいつはまだ10才も迎えていないのにこんな数の一角兎を……大した奴だよ、お前は」
「ううんっ……」
「全く、心配かけさせやがって……いや、儂が少し過保護過ぎたか」
一か月前、ナイが一角兎を倒した日の晩に倒れた事をアルは思い出す。ナイの「貧弱」の技能の効果で折角上げたレベルが下がる光景を目にしたアルは、もうナイを戦わせる事を止めさせようとした。
いくら戦闘の技術を身に付けさせ、魔物を倒させようとナイは日付が変更する事にレベルがリセットされてしまう。それならばどれだけ魔物を倒そうと彼は強くなれず、それならば狩人などという危険な仕事は任せられないとアルは考え、狩猟に連れていく事を止める。
だが、そんなアルの予想に反してナイはたった一人で村の外に出かけ、見事に大量の一角兎を狩ってきた。しかも武器として使用したのは解体用の小さな短剣であり、そんな道具で魔物を倒した彼にアルは感動していた。
「ナイ、やっぱりお前は俺の息子だな……親の言う事を碌に聞かねえ」
子供の頃、アルは両親に逆らって狩人として生きていく道を選んだ。両親は「器用」の異能を持つアルが鍛冶師になる事を望んだが、彼は自分が望む仕事を選んだ。
今のナイは昔のアルと同じであり、アルの気遣いを無視してナイは自ら進んで魔物と戦う技術を身に付け、見事に誰の助けも借りずに倒した。その事実にアルは認めざるを得ず、彼はナイの頭を撫でながら呟く。
「ナイ……お前は立派な男になったんだな」
男なら強く生きろ、陽光教会から抜け出す時にアルはナイにそう告げた。そして彼の期待に応えるようナイは「結果」を出した。ならば自分もそれに応える必要があると判断し、アルは本格的にナイを鍛え上げる事を決めた――
だが、どこの家を尋ねてもナイの姿は見つからず、子供達に聞いてもそもそもナイと遊ぶ事など最近はなかったという。アルはナイが普段から子供達と遊んでいると聞いていたのだが、ここでナイが嘘を吐いていた事を知った。
村中を探してもナイがいない事に不安を覚えたアルは、村の出入口へと向かう。村の防衛のために出入口には見張り台と村の若者が存在し、暇そうに欠伸をしながら見張り台の上に立っていた。
「おい!!うちのガキを知らんか?」
「ん?何だ、アルさんか……あんたの所のガキは見てないぞ。というか、今日はあんた以外は誰も外に出てないよ」
「本当か!?」
「ああ、本当だ」
話しかけられた青年はアルに言葉を返すと、その返答を聞いてアルは村の外にナイが出ていない事に安堵するが、それならば何処に消えたのかと戸惑う。
(ナイ、何処へ行った?俺が見落としているだけか?)
もう一度アルは自分の家に戻り、ナイを探す事にした。だが、最初に帰ってきたときと家の様子が違う事に彼は気づき、最初に異変を感じたのはアルの家の扉が開け開かれている事だった。
(扉が開いている?ちゃんと閉めていたはずだが……ナイが戻ってきたのか?)
自分の家の扉が開け開かれている事にアルは気づき、慌てて彼は開けっ放しの扉を潜り抜ける。すると、そこには血塗れの状態でナイが倒れていた。
最初に血塗れのナイを見てアルは驚愕のあまりに声も出せず、最初は死んでいるのかと思ったが、倒れているナイの身体が僅かに震えている事から生きている事を理解したアルはナイの身体を抱き上げる。
「ナイ!?どうした、何があった!?」
「うっ……」
「怪我をしたのか!?こんなに血を流して……んっ!?」
「すぅっ……すぅっ……」
ナイを抱き上げたアルはナイが寝息を立てている事に気付き、どうやら眠っている様子だった。血塗れだと思っていた身体もよくよく観察すると服の部分が血に染まっているだけで肉体の方は怪我をしていない。
「な、何だ……びっくりさせやがって、けど何があったんだ?」
「んんっ……強く、なるんだ……」
「ナイ……?」
ナイの寝言を聞いたアルは驚いた表情を浮かべ、すぐに彼が倒れている場所に刃が折れた短剣と、大量の一角兎の角が落ちている事に気付く。
「こ、こいつは……まさか、一人で一角兎を殺したのか!?しかも、こんな数の角まで……」
落ちていた短剣と角を拾い上げ、アルは信じられない表情を浮かべる。角の数は10本は存在し、少なくともナイが一人で一角兎を10匹も倒した事の証明だった。
一か月前にナイは一角兎を倒したが、その時は色々な幸運が重なった偶然の勝利だった。だが、アルの前に存在する10本の角はただの幸運だけで手に入る代物ではなく、暗にナイが10匹の一角獣を倒す力を手に入れた事を示している。
「ナイ、お前ひとりで村の外に……しかも、たった一人で一角兎を狩ってきたのか?」
「すぅっ……すぅっ……」
アルの呟きにナイは答えず、ひどく疲れているのかしばらくは目を覚ます様子がない。アルはそんな彼を見て頭を掻き、拾い上げた一角兎の角と折れた短剣に視線を向けた。
「……儂が魔物を倒したのは10代後半だ。なのにこいつはまだ10才も迎えていないのにこんな数の一角兎を……大した奴だよ、お前は」
「ううんっ……」
「全く、心配かけさせやがって……いや、儂が少し過保護過ぎたか」
一か月前、ナイが一角兎を倒した日の晩に倒れた事をアルは思い出す。ナイの「貧弱」の技能の効果で折角上げたレベルが下がる光景を目にしたアルは、もうナイを戦わせる事を止めさせようとした。
いくら戦闘の技術を身に付けさせ、魔物を倒させようとナイは日付が変更する事にレベルがリセットされてしまう。それならばどれだけ魔物を倒そうと彼は強くなれず、それならば狩人などという危険な仕事は任せられないとアルは考え、狩猟に連れていく事を止める。
だが、そんなアルの予想に反してナイはたった一人で村の外に出かけ、見事に大量の一角兎を狩ってきた。しかも武器として使用したのは解体用の小さな短剣であり、そんな道具で魔物を倒した彼にアルは感動していた。
「ナイ、やっぱりお前は俺の息子だな……親の言う事を碌に聞かねえ」
子供の頃、アルは両親に逆らって狩人として生きていく道を選んだ。両親は「器用」の異能を持つアルが鍛冶師になる事を望んだが、彼は自分が望む仕事を選んだ。
今のナイは昔のアルと同じであり、アルの気遣いを無視してナイは自ら進んで魔物と戦う技術を身に付け、見事に誰の助けも借りずに倒した。その事実にアルは認めざるを得ず、彼はナイの頭を撫でながら呟く。
「ナイ……お前は立派な男になったんだな」
男なら強く生きろ、陽光教会から抜け出す時にアルはナイにそう告げた。そして彼の期待に応えるようナイは「結果」を出した。ならば自分もそれに応える必要があると判断し、アルは本格的にナイを鍛え上げる事を決めた――
20
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
魔王様は聖女の異世界アロママッサージがお気に入り★
唯緒シズサ
ファンタジー
「年をとったほうは殺せ」
女子高生と共に異世界に召喚された宇田麗良は「瘴気に侵される大地を癒す聖女についてきた邪魔な人間」として召喚主から殺されそうになる。
逃げる途中で瀕死の重傷を負ったレイラを助けたのは無表情で冷酷無慈悲な魔王だった。
レイラは魔王から自分の方に聖女の力がそなわっていることを教えられる。
聖女の力を魔王に貸し、瘴気の穴を浄化することを条件に元の世界に戻してもらう約束を交わす。
魔王ははっきりと言わないが、瘴気の穴をあけてまわっているのは魔女で、魔王と何か関係があるようだった。
ある日、瘴気と激務で疲れのたまっている魔王を「聖女の癒しの力」と「アロママッサージ」で癒す。
魔王はレイラの「アロママッサージ」の気持ちよさを非常に気に入り、毎夜、催促するように。
魔王の部下には毎夜、ベッドで「聖女が魔王を気持ちよくさせている」という噂も広がっているようで……魔王のお気に入りになっていくレイラは、元の世界に帰れるのか?
アロママッサージが得意な異世界から来た聖女と、マッサージで気持ちよくなっていく魔王の「健全な」恋愛物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる