氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第129話 決着

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――リオンは白い靄に包まれた場所に立っていた。彼は周囲を振り返り、自分が何処にいるのかと戸惑う。


「ここは……夢か?」


自分が夢を見ている事に気づいたリオンはため息を吐き出し、目が覚めるまで待つ事にした。この時に彼は頭に手を伸ばし、最後に受けたコオリの魔法を思い出す。


「あんな小さい欠片程度の攻撃で敗れるとはな……」


最初に出会った時のコオリも氷の欠片しか作り出せなかった事を思い出し、あの時のリオンはコオリが魔術師として大成は出来ないだろうと考えた。しかし、現実は自分をも超える魔術師として成長した彼に嫉妬心すら抱く。

魔術師になる事は諦めたつもりだったが、やはり心の何処かではリオンは魔法剣士として生きていく事に不安を抱いていた。しかし、コオリに敗れたお陰か今の彼の気分は晴れやかだった。


「兄上……もう僕は、いや俺は迷いません」
「……それでいいのかい?」


背後から感じ取った気配に気づいたリオンは振り返りもせずに告げると、後ろから懐かしい声が聞こえた。きっと振り返ればそこにはリオンがずっと会いたかった人物の顔が見れるだろうが、それでも彼は振り返らずに答える。


「リオン、君は一流の魔術師に成れる素質を持っている。もしも僕のせいで魔法剣士を目指そうとしているのなら……」
「それは違います。確かに切っ掛けは兄上のためだったかもしれません。ですが……今は新しい目標ができました」
「目標?」


リオンは立ち上がると彼の手元には何時の間にか魔剣が握りしめられ、それを見たリオンは天に魔剣を掲げて告げる。


「今の俺の夢は……どんな魔術師にも負けない魔法剣士になる事です」
「リオン」
「もう後悔はありません。俺が目指すのは……最強の魔法剣士です」


コオリに敗れた事で魔術師になる事から吹っ切れ、彼はコオリに負けた悔しさをばねにして最強の魔法剣士になる事を目指す。そんなリオンの返答を聞いて満足したのか、兄の気配は消え去った――





――リオンは目を覚ますと、自分がベッドの上に横たわっている事に気付く。傍にはジイの姿があり、リオンが目覚めるまで待ち惚けだったのか瞼を閉じた状態で涎を垂らして身体をふらつかせていた。


「ううっ……王子~」
「……寝ているのか」


座ったまま眠り込んでいる自分の配下に呆れながらもリオンは身体を起き上げると、額に手を伸ばした。特に傷跡は残っておらず、完璧に治療されたらしい。


「……一からやり直しだな」


外の景色を眺めながらリオンはもう一度やり直す事を決め、再びこの学園を離れて修行する事を決めた――





――リオンとの決闘から月日が流れ、コオリは無事に二年生に昇給した。ミイナは三年生となり、バルトは卒業した。そしてリオンもコオリと同じく二年生に昇級している。

二年生に昇給する間は特に大きな問題や事件も起こらず、日々魔法の鍛錬に励んでいた。身長も伸びて髪の毛も大分長くなり、今では髪の毛を後ろにまとめている。


「ふうっ……」


学校の屋上にてコオリは空中に浮揚させた氷塊の上で座禅を行い、彼の周囲には無数の小さな氷塊が浮かんでいた。二年生に昇給したコオリは魔力操作の技術をさらに磨かれ、現在では数十個の氷塊を同時に操れるようになっていた。


「よし、こんなもんかな」


空中に浮かんだ氷塊の上でコオリは立ち上がり、氷塊から降りようとすると彼の周囲に浮かんでいた氷塊が移動して足場となる。氷塊を操作して降りる前に新しい足場を作り出し、まるで階段を降りるようにコオリは氷塊の上を降りていく。


「う~ん……やっぱり、精神鍛錬するなら静かな場所が一番かな」


屋上に降り立つとコオリは背を伸ばして身体を解し、屋上から学園の様子を伺う。以前と異なる点があるとすれば生徒の数だった。

朝の精神鍛錬を行っている間に既に生徒達の登校時間を迎えていたらしく、コオリは屋上から地上の様子を確認すると十数名の生徒が登校していた。今年の新入生は例年よりも数が少なく、現在の魔法学園の生徒の数は百人にも満たない。


(今年の新入生はこれだけか……何だか寂しいな)


後輩達の姿を見てコオリはため息を吐き出し、ここ数年の魔法学園の生徒は減少していた。元々魔法の才を持つ人間が滅多に生まれないが、ここ最近は魔術師の素質を持つ子供の数が減っていた。


「学園に在籍中の生徒も何人か辞めちゃったし……大丈夫なのかな」


魔法学園の生徒は一定の評価を得られないと昇給できない仕組みとなっており、年内に必要な評価を得られなかった生徒は留年かあるいは退学する事になっている。そして生徒の何名かは辞めてしまう。

コオリとは同級生だった生徒の中にも退学者は含まれ、退学の理由は様々だった。評価を得られずに留年になった事で自暴自棄を引き起こし、問題を起こして退学になった生徒もいれば、魔法学園で学ぶよりも別の人間に教えを乞いたいと判断して学園を去る生徒もいる。


(学園長以上に優れた魔術師なんていないと思うけどな……)


魔法学園を去って別の魔術師の元で魔法を学ぼうとする生徒の考えをコオリは理解できず、マリアこそが国内で一番の魔術師だと彼は確信していた。実際にマリアは魔法学園の学園長を務めながらも様々な形で国に貢献している。

最近では魔法学園の卒業生を集めてマリアは新しい組織を立ち上げた。その組織の名前は「黄金の鷹」と名付け、主な活動内容は「派遣」だった。優秀な魔術師や魔拳士が必要な人間に組織に所属する人間を派遣し、成果を上げれば報酬を受け取る。マリアが認めた魔術師は全員が腕利きのため、国内でも人気が高い。

黄金の鷹にはバルルも所属しており、彼女は宿屋の主人と教師でありながらもマリアのために組織に加入して活躍していた。時々、どうしても人手が足りない時はコオリ達もバルルの手伝いとして仕事に参加する事もあった。


「さてと、今日はリオンが戻ってくる日だったな」


コオリは手紙を取り出すと差出人にはリオンの名前が記されていた。リオンとは決闘の日以来、定期的に手紙のやり取りを行う。彼は月に一度ぐらいしか魔法学園に戻らず、現在は高名な魔法剣士の元で修行をしているらしい。

昔のリオンならばコオリにわざわざ手紙を書くような真似はしなかったが、決闘を通して二人は和解して今では一番の親友のような関係になっていた。また、ミイナやバルトとの関係も良好で今日の放課後はバルトの修行にコオリもミイナも付き合う約束をしていた。


「今日は何をしようかな」


本日の授業は担当教師であるバルルが不在のため、彼女からは自習を命じられていた。そのためにコオリは教室に戻らずここで訓練でも行おうかと考えた時、彼はある事を思い出す。


「あ、そうだ。ドルトンさんに頼んだ装備の点検が終わってるかも……ちょっと行ってみようかな」


コオリは少し前にドルトンに自分の装備の手入れを頼んだ事を思い出すと、彼は小杖を取り出す。学園側が支給する小杖であり、自分の足元に杖先を向けると彼は氷の乗り物を作り出す。


「出発!!」


気合を込めた声を上げると、コオリが乗り込んだ氷塊が浮上して空中に浮上し、風のような速さで空を飛ぶ。一年生の時よりも魔力操作の技術を磨いたお陰で現在のコオリの氷板の移動速度は馬よりも早く、なによりも障害物に邪魔をされずに移動できるので目的地であるドルトンの鍛冶屋まで直行した――





※これにて下級魔導士と呼ばれた少年は終わりとさせていただきます。元々、優秀なリオンにおちこぼれのコオリが追いつくまで描く予定でしたが、思いもよらずかなりの長い話になりました。
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