氷弾の魔術師

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
128 / 129
王都での日常

第128話 炎VS氷

しおりを挟む
――この世界において魔術師が扱える魔法は原則的には一つの属性のみであり、例外があるとすればコオリのように血筋で二つの属性の中間に位置する人間ならば複数の魔法も扱えない事もない。もしくはマリアのように魔術痕を施せば魔石を利用して他の属性の魔法を扱える。

リオンは生まれた時から風属性の適性を持ち、彼は幼少期の時から高い魔力と才能を持ち合わせていた。しかし、兄の死を切っ掛けに彼は魔術師として生きていく事を諦め、兄が所有していた魔剣を受け継いで生きる事を誓う。

王国に代々伝わる魔剣の名前は「レーヴァティン」この魔剣にはと呼ばれる魔物の素材を利用して作り出された代物であり、柄の部分には火竜の体内から発見されたと言われる特別な魔石が嵌め込まれていた。

リオンの兄は火属性の適性を持ち、彼はレーヴァティンの力を使いこなしていた。しかし、兄とは違って火属性の適性がないリオンは本来であればレーヴァティンの力は使いこなせないはずだった。



だが、リオンは血の滲む努力でレーヴァティンを扱うために訓練を行い、亡き兄でさえも気づかなかった魔剣の能力を把握する。それは魔剣に取り付けられた魔石はただの魔石ではなく、竜魔石と呼ばれる代物だと見抜く。



竜魔石とは文字通りに竜種の体内から採取された魔石であり、竜種は人間とは比べ物にならない膨大な魔力を持ち合わせ、それが長い年月を過ごす事で体内で結晶化した代物を竜魔石と呼ばれる。この竜魔石は通常の魔石とは比べ物にならない程に膨大な魔力を持ち合わせ、更には本来は適していない魔力さえも吸収する事ができる。

レーヴァティンに嵌め込まれた竜魔石の属性は「火属性」この竜魔石に火属性の魔力を送り込めば魔剣の力は解放されるが、実を言えば火属性以外の魔力を送り込んだとしても竜魔石の能力は発動する。この特性を生かしてリオンは風属性の適性持ちでありながら彼は魔剣に火属性の魔力を纏わせる事ができた。


(まさかこの魔剣の力を解放する事になるとは……ここまで成長していたか、コオリ!!)


汗を流しながらもリオンは魔剣に炎を纏わせ、それを見たコオリは彼が苦しそうな表情を浮かべている事に気付く。火属性の適性を持たないリオンうあレーヴァティンの能力を使用する場合、常に体力と魔力を消費する。


(なんだ?何もしていないのにあの苦しそうな表情……そうか、きっとあの炎を生み出す時が一番魔力を扱うんだ!!)


リオンが魔剣の刀身に炎を纏った瞬間、コオリは彼が苦し気な表情を浮かべていたのを見逃さなかった。リオンにとっても魔剣の能力を解放するのは相当な負担が掛かり、それがリオンを打ち破る好機だとコオリは判断した。


「リオン、勝負だ!!」
「ふんっ……覚悟を決めたか?」
「なっ!?馬鹿!!挑発に乗るな!!」
「危険過ぎる!!」
「「…………」」


コオリはリオンの向かい合うように立つと、バルトとミイナが騒ぐ。コオリの魔法ではリオンの炎の魔剣を打ち破れるとは思えず、二人は逃げるように促す。しかし、マリアとバルルはコオリの行動を黙って見守る。

仮に空逃げ続けた所でコオリに勝ち目はなく、一か八かの賭けになろうとコオリは勝負に出るしかない。お互いの全力を繰り出すために魔力を高めあう。


「リオン、これが俺の魔法の力だっ!!」
「何だと?」
「この一撃、受けられる自信があるなら受けてみろ!!」


距離を置いた状態でコオリは敢えて挑発を行い、三又の杖を繰り出して三つの氷塊を生成、それらを結合させる事で「氷柱」へと変えた。それを見た他の者たちはコオリが氷砲撃を繰り出すつもりだと気付いた。


(氷砲撃でリオン王子の魔剣を打ち破ろうとしているのかい!?そいつは危険過ぎるよ!!)
(でも、あの子の扱う魔法で炎の魔剣を打ち破れる魔法は他にはない……本当に賭けにでたのかしら?)


氷砲撃の攻撃力は中級魔法の領域を超え、上級魔法にも匹敵する威力を誇る事はバルルもマリアも承知している。それでも尚、リオンが所有する炎の魔剣に通じる可能性は低い。


「うおおおっ!!」
「これは……!?」


杖の先端に作り上げた氷柱に風の魔力を纏わせる事で限界まで回転力を高め、それを見たリオンは緊張感を抱く。彼は魔剣を握りしめて刀身に炎を纏い、正面から迎え撃つ準備を行う。


「いいだろう、来い!!お前の全力を見せて見ろ!!」
「やあああっ!!」


互いに準備を整えるとコオリは三又の杖を突き出した瞬間、氷砲撃が発射された。これまでコオリが造り上げた氷柱の中でも最高の大きさを誇り、それに対してリオンは炎の魔剣を振りかざす。


「爆火斬!!」
「うわぁっ!?」
「にゃっ!?」


先ほどよりも凄まじい火力の一撃をリオンは繰り出し、正面から突っ込んできた氷柱に叩き込む。あまりの威力に氷柱は一瞬にして爆炎に飲み込まれ、完全に蒸発してしまう。

バルトのスライサーすらも打ち破った氷砲撃をリオンは一撃で打ち破り、彼は勝利を確信した。しかし、すぐにリオンは違和感を抱く。それは氷砲撃を放ったはずのコオリの姿が消えていた。



「――終わりだ!!」
「何だと!?」



何時の間にかコオリは側面に回り込み、彼は三又の杖を構えていた。それを見たリオンは咄嗟に魔剣を構えるが、先の攻撃で魔剣に纏っていた炎が消えている事に気付く。


(しまった!?魔力を使いすぎた……くそっ!!)


氷砲撃を打ち消すためにリオンは想定外の魔力を使用してしまい、その影響で魔剣から炎が消えていた。その間にコオリは三又の杖を構えて攻撃の準備を行い、彼に魔法を放つ。


「氷鎖《チェーン》!!」
「ぐっ……舐めるなぁっ!!」


最初の時と同じように複数の氷塊を結合させて作り出した鎖でリオンの両手を縛り付ける。魔剣を奪わずとも彼の身体を拘束すれば魔法は使えず、必死にリオンは引きはがそうとするがびくともしない。

人間の力ではコオリの氷塊を破壊することなどできず、試合場の床にリオンは倒れこむ。この時に魔剣を手放してしまい、そんな彼を見てコオリは杖を構えた状態で近づく。


「リオン、俺の勝ちだ!!」
「ぐぅっ!?舐めるな、この魔剣の力を……うおっ!?」


諦めずに魔剣の力を解放しようとしたリオンだが、ナオは氷鎖を操作してリオンを空中に吊り上げると、魔剣が床に落ちてしまう。もうリオンは魔剣も杖も失い、この状態での逆転は不可能だった。


「はあっ、はあっ……!?」
「くっ……流石に頭が痛くなってきた」


魔剣の使用でリオンも相当な魔力と体力を消耗したが、先ほどの氷砲撃でコオリの魔力も限界に近い。身体を拘束されたままリオンはコオリを睨みつけた。


「こんな、小手先の技術で……俺に勝つつもりか!?お前に誇りはないのか!?」
「はあっ……好きに言えばいいよ」
「見損なったぞ……貴様の目指す一流の魔術師はこんな姑息な真似はしない!!正々堂々と戦えないのか!?」


リオンはコオリに魔術師としての誇りがないのかを問い質すが、その言葉に対してコオリは迷いもなく答えた。


「魔術師である事を捨てた奴に……そんな事を言われる筋合いはないよ」
「っ……!?」


コオリの言葉にリオンは言い返す事はできず、コオリは三又の杖を見てしばらく考えた後、腰に差していたリオンから受け取った杖に持ち替える。それを見たリオンは呆気に取られ、彼は呆然と呟く。


「どうしてその杖を……」
「捨てられるはずがないよ。だって……俺は魔術師なんだから」


朝にリオンに託された杖を手にしたコオリは構えると、それを見てリオンは黙り込んだ。まさか今まで自分を支えてくれた杖が向けられる日が来るとは夢にも思わず、これも魔術師の誇りを捨てた報いなのかとリオンは敗北を受け入れる。


「……お前の勝ちだ」
「リオン……」
「やれ……終わらせてくれ」


コオリはリオンの言葉に驚いたが、覚悟を決めた表情を浮かべたリオンを見てコオリは杖を構えた。そして残された最後の魔力を振り絞り、杖先から小さなを放つ。


「アイス!!」
「っ――!?」


氷の破片はリオンの頭部に的中し、粉々に砕け散った。頭部に衝撃を受けたリオンは意識を失い、それを見たコオリは彼を吊り下げていた氷鎖を解除する。

リオンが床に落ちる前にコオリは彼の身体を抱き留める事に成功し、この時にリオンは薄れゆく意識の中でコオリの顔を見た。コオリもリオンの顔を見て彼に声をかけた。


「リオン!!」
「……コオリ」


お互いの名前をまともに呼び合うのは二人とも初めてであり、コオリの腕の中でリオンは意識を失った――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...