氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第123話 再会の刻

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――同時刻、コオリ達は教室にてバルルが戻ってくるのを待っていた。彼女が戻ってくるまでの間、コオリ三つの氷塊を結合させて作り上げた大きな氷塊の上にミイナが乗り込み、それを見てバルトは感心した様子で見守る。


「まさか魔法に乗って移動するとはな……大した発想だな」
「これ、楽しい。もっと早く動かして」
「う~ん、これ以上に早く動かすとバランスを保つのが難しくなると思うけど……」
「お、俺も次は乗っていいか?」


コオリが氷塊を操作すると上に乗り込んでいるミイナは楽しそうにはしゃぎ、その様子を見ていたバルトも興味を抱く。コオリも何度か自ら作り出した氷塊に乗った事はあるが、あまりに移動速度を上げると体勢を保つのが難しくて転倒の危険性があった。


「にしてもお前は本当に色々と思いつくよな。その内、馬鹿でかい氷を作り出してガーゴイルに変形させて戦わせる事もできるんじゃないか」
「いや、流石にそこまでは……でも氷像ぐらいなら作れると思います」
「それなら夏の暑い時に氷を売ってお金を稼げばいい」
「いや、それは流石に腹壊すと思うぞ……」


雑談を交えながらもコオリはミイナが乗った氷塊の操作を行い、彼女が落ちない程度の速度で教室のなかを行き来させる。バルルが戻ってくるまで二人と楽しい時を過ごしていると、不意にミイナが猫耳がぴくりと反応する。


「待って、誰かがこっちに近付いて来てる」
「え、もう師匠が戻って来たの?」
「……違うと思う。足跡が軽いから子供だと思う」
「子供?どういう事だ、今は授業中だぞ。何人歩いてるんだ?」
「一人でこっちに近付いている」


現在の時刻は授業中のため、普通ならば生徒が廊下を歩いているはずがない。移動教室だとしても足音が一つしか聞こえない事に疑問を抱き、コオリ達は教室の扉に視線を向けた。

教室の前に廊下を歩いていた人物が辿り着いたらしく、足音が止まると扉がゆっくりと開かれた。そして中に入ってきた人物を見てコオリとバルトは席から立ちあがった。


「お、お前は!?」
「まさか!?」
「にゃっ!?」


バルトは教室に入ってきた人物を見て表情を歪ませ、一方でコオリは精神が乱れてミイナを乗せていた魔法を消してしまう。ミイナは何とか着地に成功すると、教室から入ってきた人物に顔を向ける。



――三人の視界に現れたのは腰にを差した少年であり、その顔を見たコオリは目を見開く。彼の顔を忘れるはずがなく、かつて自分を魔物から助けてくれた少年だと気付いた。



「リオン!?」
「……久しぶりだな」



コオリが名前を告げるとリオンは彼がここにいる事を知って笑みを浮かべ、その一方でバルトの方はリオンの顔を見た途端に腰に差していた杖を握りしめる。


「……よう、久しぶりだな。俺の事を覚えているか?」
「ん?お前は……確か入学式の時に俺に突っかかってきた奴だな?どうしてここにいる?」
「ちっ、相変わらずむかつくやろうだな……」
「先輩、喧嘩は駄目ですよ!!」


リオンの態度にバルトは苛立ちを抱くが、そんな二人の様子を見てコオリは間に割り込む。しかし、流石のバルトもここでリオンに手を出すような真似はせず、彼は自分の身に付けた月の徽章を指差す。


「これを見ても分からないのか?俺もお前と同じ立場なんだよ」
「ほう、それは面白い。月の徽章を与えられたという事は少しは腕を上げたのか?」
「あ?」
「だから喧嘩は駄目ですって!!」
「コオリが困っている、二人ともそこまでにして」


こめかみに青筋を浮かべたバルトと、彼を小馬鹿にするような態度を取るリオンの間にコオリとミイナは割込み、二人が喧嘩するのを阻止しようとする。


「ちっ、相変わらずむかつくガキだぜ……」
「それはこちらの台詞だ」
「リオン!!相手は先輩なんだから少しは気を遣いなよ!!それにバルト先輩もいちいち突っかからないで!!」
「大人げない……」
「「ふんっ」」


バルトとリオンはあからさまにそっぽを向き、その様子を見てコオリとミイナはため息を吐き出す。折角リオンが戻ってきたというのにコオリは再会を喜ぶ暇もなく、相変わらずの彼の態度に呆れてしまう。

先輩が相手であろうとリオンは態度を変えず、彼は黙ってコオリ達の元へ向かう。近付いてくるリオンにバルトは睨みつけ、ミイナも警戒したように見つめると、リオンはコオリの前に立ち止まる。


「ここにまだ残っているという事は、少しは魔法の腕を上げたという事だな?」
「えっ?」
「お前がどれだけ成長したのか見せてもらおうか」


リオンの言葉にコオリは呆気に取られ、一方で他の二人も唖然とする。戻ってきて早々にリオンはコオリの力を確かめるために彼の持つ杖に視線を向けた――





「――ど、どうしてこんな事に……」
「おい、コオリ!!負けるんじゃないぞ!!」
「頑張って、応援してる」
「ふんっ、こうしてお前と競い合う日が来るとはな」


学校の屋上に移動するとコオリはリオンと向かい合い、少し離れた場所ではバルトとミイナが見学していた。リオンはコオリの腕を確かめるために試合を申し込み、半ば強制的にこんな場所まで連れ出された。

別にコオリとしてはリオンと戦うつもりはなかったが、何故か彼よりもバルトの方が反応してコオリとリオンの試合を勝手に受諾してしまう。


『上等だ!!こいつの強さを舐めるなよ、この俺と引き分けたぐらいだからな!!』
『引き分けだと?それじゃあ大して期待はできないな』
『何だと!?おい、コオリ!!絶対に勝てよ!!』
『え、いや……』
『この子、生意気で可愛くない……コオリ、やっちゃえ』
『何で!?』


コオリは結局は他の三人に押し切られる形で試合を行う事になり、お互いに「小杖」を取り出す。生徒間の試合の場合は学園で支給する小杖を使用する事が決まっており、バルトとの試合の時は特別にお互いの杖を使えたが、今回は小杖での戦闘となった。


(リオンと戦う事になるなんて……でも、いい機会かもしれない)


リオンに自分が成長した事を証明するためにコオリは気合を込め、一方でリオンの方は小杖に視線を向けて考え込む。彼は数か月前までは彼も小杖で戦っていたが、今は懐かしく思う。


「またこれを使う時が来るとはな。まあいい、何時でも来い」
「へっ、余裕こいていられるのも今の内だぞ」
「じゃあ、私が審判役。このコインが落ちたら勝負開始」


ミイナはコインを取り出すと二人の間に移動し、彼女はコインを天高く弾く。それを見たコオリとリオンはコインに視線を向け、床に落ちた瞬間に二人は小杖を突き出す。


「まずは小手調べだ。ウィンド!!」


先手を打ったのはリオンであり、彼は小杖を突き出すと風の魔力で形成された渦巻きを放つ。それに対してコオリは冷静に横に逸れて攻撃をかわす


「くっ!!」
「ほう、あの頃と比べると随分と鍛えたようだな。だが、肝心の魔法は何故使わない?」


この数か月の間にバルルの厳しい訓練を受けたことにより、飛躍的にコオリの身体能力は上がっていた。今ならば魔法に頼らずとも力の弱い魔物ならば自力で倒せるほどに成長もしている。

しかし、リオンが気になるのはコオリの魔法の腕前であり、今度は避けきれない攻撃を繰り出そうと杖を天に構える。それを見たバルトは驚愕の表情を浮かべた。


「あいつ、まさか!?」
「スライサー!!」


バルトが得意とするスライサーもリオンは習得していたらしく、彼は杖を上空に構えた状態で円を描くように振り回すと、風の魔力で形成された渦巻が誕生した。風の渦巻はコオリに目掛けて放たれ、それを見たコオリは目を見開く。


(大丈夫だ、前の時とは違う……この魔法の弱点は分かってる!!)


コオリは小杖を構えると自分の右手に構えると、の形をした氷塊を生み出す。それを見たリオンは訝し気な表情を浮かべるが、右手で氷塊を掴んだコオリは上空へ飛んで逃れた。


「よっと」
「何だと!?」
「へっ、生憎だったな!!その程度の魔法はコオリには通じないんだよ!!」
「……なんでバルトが偉そうなの?」
「う、うるさいっ!!」


スライサーの弱点は細かな操作ができない事であり、上空に回避された場合は渦巻は通り過ぎてしまう。氷塊を利用して短時間空を飛べるようになったコオリにはスライサーは通じず、着地すると今度は自分から仕掛けた。


(ここで終わらせる!!)


リオンが次の魔法を繰り出すためにコオリは小杖を構えると、それを見たリオンは攻撃に備えて杖を構えようとした。しかし、コオリの狙いはリオンの身体ではなく、彼が武器として扱う杖を狙う。


「やあっ!!」
「なっ!?」


小杖からコオリは小規模の氷塊を作り出し、それを弾丸の如く高速回転させて発射した。加速した氷の弾丸はリオンが手にしていた小杖に衝突し、粉々に吹き飛ぶ。

自分の手にしていた小杖が破壊されたのを見てリオンは驚き、杖を破壊された以上は彼はもう魔法を使う事はできない。それを確認したコオリは冷や汗を流しながらもリオンに告げた。


「これで魔法は使えない。俺の勝ちだ」
「馬鹿な……この僕が負けただと?」
「おっしゃあっ!!流石はコオリだ!!」
「格好いいっ」


コオリの言葉にリオンは唖然とした表情を浮かべ、一方でバルトとミイナは肩を組んでコオリの勝利を祝う。コオリ自身もまさかリオンを相手にこうもあっさりと勝てた事に戸惑うが、これで自分の成長を証明できたかと内心喜ぶ。


(勝った!!あのリオンに勝ったんだ!!)


小杖を破壊した以上はリオンは魔法は使えず、試合は続ける事はできない。コオリは自分の勝利を確信するが、リオンは折れた小杖を握りしめ、怒りのままに床に叩き付けた。
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