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王都での日常
第121話 絶体絶命
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バルトが回収していた魔石は風、火、雷の魔石だった。風の魔石の場合は破壊された瞬間に周囲に衝撃波を放ち、火の魔石は爆炎、そして雷の魔石は広範囲に電流が拡散した。
ゴブリンは衝撃波を受けて吹き飛び、ファングは爆炎に飲み込まれ、コボルトは電流によって黒焦げと化す。結果から言えば魔物の群れは一掃する事に成功したが、魔力を使い切ったバルトは倒れる。
「ぜえっ、ぜえっ……も、もう流石に限界だ」
「はあっ……コオリ、無事?」
「ううっ……顔面にスライム二匹が乗りかかってる気がする」
「いやんっ」
ミイナに押し倒された際に彼女の胸が顔に押し付けられ、コオリは苦し気ながらも少し気持ちよかった。校舎内の魔物の群れは一掃され、もう安全だと判断したミイナはコオリの隣に寝転がる。
三人が並んで横たわる形となり、それぞれが疲弊しきっていた。しかし、これで学校内に現れた魔物は倒したと思われ、バルトとミイナは笑みを浮かべて気絶しているコオリの手を掴む。
「ははっ、やったな俺達……」
「凄く頑張った……これだけ頑張ったんだから御馳走食べたい」
「生き延びられたらいくらでも食べさせてあげるよ……」
自分達が生き残れた事に三人は喜ぶが、全員の視界に何かが映った。は空を見上げる形で横たわっていたが、上空から何かが近付いてくる事に気が付いた。
「何だ?あの黒いの……」
「あれは……まさか!?」
「おい、どうした!?」
普通の人間よりも視力にも優れるミイナは上空に現れた存在の正体をいち早く見抜き、彼女は慌てて起き上がろうとした。それを見たバルトは彼女が何に気付いたのか問い質そう年たが、その前に上空から鳴き声が響く。
――キィエエエエエッ!!
不快感を催す奇怪な鳴き声、というよりも超音波が魔法学園内に響き渡り、この声を聞いた瞬間にコオリも目を覚ます。バルトとミイナは耳元を抑え、上空を浮かぶ存在を目にした。
鳴き声を放ったのはコオリが少し前に倒したガーゴイルとは色違いの存在である事が判明し、どうやら学校内に侵入してきたガーゴイルは一体だけではないと判明する。ガーゴイルは地上に降り立つと、倒れているコオリ達に視線を向け牙を剥きだしにする。
「グゥウウウッ……!!」
「う、嘘だろおい……ふざけんな、こっちはもう魔力がないんだぞ!?」
「くっ……」
「二人とも、逃げて……」
二体目のガーゴイルの到来にコオリ達はお互いが寄り添い合って互いを庇い合う。もう三人共戦える状態ではなく、ここまでの連戦で流石のコオリも魔力を回復させる体力は残っていない。
(最悪だ、こんな時に……どうすればいい!?)
魔力を使い切っているので魔法の力には頼れず、仮に三人がかりで挑んだとしても勝てる相手ではない。万全の状態であっても確実に勝てる保証がない相手なだけにコオリ達は冷や汗が止まらない。
「先輩、魔石は……」
「もうねえよ……お前の方こそ魔力は回復できないのか?」
「すいません、もう無理です……」
「……逃げるしかない」
三人はお互いに肩を貸し合って立ち上がり、どうにかガーゴイルから逃げる手段を考える。しかし、ガーゴイルはコオリに視線を向けると怒りを露わにして咆哮を放つ。
「キィイイイイッ!!」
「うわぁっ!?」
「み、耳が!?」
「にゃうっ!?」
超音波のように発せられるガーゴイルの鳴き声を聞くだけで精神が乱され、この状態では仮に魔力が残っていても魔法は扱えない。コオリ達は耳を抑えて膝を崩し、身体を動かす事もままならない。
ガーゴイルから逃げなければならないのは理解していても身体が言う事を聞かず、このままでは殺されると思ったコオリは必死に何かないのかと必死に辺りを見渡す。しかし、そんなに都合よく役立ちそうな物が落ちているはずがなかった。
(どうすればいい!?どうすれば……くそっ、頭が痛い!!)
鳴き声のせいでまともな思考も行えず、このままでは殺される事を理解できても何も思いつかない。やがてガーゴイルは鳴き声を辞めると、コオリに目掛けて突っ込んだ。
「キェエエエエッ!!」
「うわっ!?」
「コオリ!?」
「逃げろ!?」
コオリに目掛けてガーゴイルは接近すると、慌ててバルトとミイナが彼を庇おうとした。コオリも杖を構えるがもう魔光すら生み出す事ができず、ガーゴイルの振り翳した右腕の爪がコオリの胸元に迫った瞬間、唐突に突風が発生した。
「ギャウッ!?」
「うわっ!?」
「な、なに!?」
「こ、これは……まさか!?」
突風がガーゴイルを押し退けるとコオリ達は驚いて振り返り、そこには見知った人物の姿があった。その人物の傍にはバルルも控えており、彼女は隣に立つ人物に声をかける。
「流石は先生、腕は落ちてないようだね」
「あら、随分と生意気な口を叩けるようになったわね」
「し、師匠!?」
「学園長まで!?」
「ふうっ……びっくりした」
コオリ達の前に現れたのは完全武装したバルルとマリアであり、先ほどガーゴイルを吹き飛ばした強風はマリアが発生させた魔法だと判明する。
「よく頑張ったね、あんた達!!後の事は任せな!!」
「し、師匠……」
「子供達は私が守るわ。貴女は遠慮なく、戦いなさい」
「あいよ!!」
バルルとマリアが現れた事でコオリ達は安堵するが、傷ついた彼等の傍にマリアが赴くとバルルは吹っ飛んだガーゴイルと向かい合う。彼女は既に魔法腕輪を装着し、更には両手には腕手甲のような武器を装着していた。
ガーゴイルは吹き飛ばされた際に地面に倒れたが、特に怪我は負っていなかった。ガーゴイルはあらゆる魔法耐性を誇るため、マリアの魔法が直撃しても損傷は負っておらず、それどころか興奮した様子で鳴き声を上げる。
「キェエエエエッ!!」
「うわっ!?」
「くそ、またか!?」
「にゃうっ……」
ガーゴイルが鳴き声を放つと超音波のように周囲に拡散し、コオリ達は両手で耳を塞塞ぐ。それを見たマリアは面倒そうに杖を振りかざし、無詠唱で彼女は風の防護壁を作り出す。
「貴方達はこの中にいなさい」
「うわっ!?」
「こいつは……ウィンドカーテン!?」
「……耳が痛くなくなった?」
風属性の防護魔法を発動させ、風の膜がコオリ達を取り囲んだ途端にガーゴイルの放つ鳴き声が小さくなった。どうやら風の膜で超音波を防いだらしく、一方でバルルは両耳を抑えた状態でガーゴイルに向かう。
「ちっ、何時聞いてもこの鳴き声は慣れないね……おらよっ!!」
「アガァッ!?」
至近距離から鳴き声を聞いているにも関わらずにバルルは眉を少ししかめる程度で動きを止めず、足元の土を蹴り上げてガーゴイルの顔面に飛ばす。大口を開いている状態で土が入り込んだせいでガーゴイルは咳き込む。
鳴き声が中断した事でバルルは両耳から手を離すと、拳を振りかざす。この時に彼女は力を込めるように腕の血管が浮き上がり、目を見開いて渾身の一撃を叩き込む。
「爆拳!!」
「グギャアッ!?」
バルルが全力でガーゴイルの顔面に拳を叩き付けた瞬間、彼女の肘の部分から強烈な爆炎が発生して拳が加速する。ガーゴイルは避ける暇もなく顔面に強烈な衝撃を受け、本物の石像よりも頑丈なはずの顔面に亀裂が走る。
「おらぁあああっ!!」
「アアアアッ!?」
顔面を殴り飛ばされたガーゴイルは吹き飛び、地面に転がり込む。その光景を見たコオリ達は驚きを隠せず、ガーゴイルの硬さを嫌という程知っている一番衝撃を受けた。
(す、凄い!!僕の氷刃でも殆ど傷つかなかったのに……)
ガーゴイルとの戦闘ではコオリが通じた魔法は最大加速させた「氷硬弾」と「氷砲撃」だけだったが、バルルは殴り飛ばしただけでガーゴイルの顔面に罅割れが入った。
彼女の扱う爆拳という魔拳は何度か見た事があるが、この爆拳は相手に攻撃した際に至近距離から爆炎を放つ技だとコオリは思っていた。しかし、今回の彼女は見た事もない武器を両腕に装着し、肘の部分から爆炎を発生させて攻撃を加速させていた。
「おらおらおらっ!!」
「ガハァッ!?グエッ!?ギャウッ!?」
拳がめり込む度にガーゴイルは悲鳴を上げ、罅割れが徐々に広がっていく。これ以上に攻撃を受けるのは危険だと判断したのか、ガーゴイルは背中の翼を広げてバルルに襲い掛かる。
「シャアアッ!!」
「危ない!?師匠、そいつの……」
「おっと」
ガーゴイルの翼に気をつけるようにコオリが注意しようとしたが、その前にバルルは跳躍してガーゴイルの放った翼を回避した。ガーゴイルの翼は空を飛ぶための物ではなく、攻撃用である事はバルルも承知済みだった。
「あんたらの相手は若い頃から何度もやってきたからね。当然、弱点も知り尽くしているさ!!」
「グエッ!?」
避けた際にバルルはガーゴイルの胸元に蹴りを叩き込み、先の戦闘でガーゴイルの肉体は罅割れていた。そのために普通の打撃でも罅割れが広がって損傷を与える事ができる。
胸元の部分を攻撃されたガーゴイルは慌てて距離を取り、翼を折り曲げて自分の身を守る。それを見たバルルは両腕を重ね合わせると、開手した状態で繰り出す。
「爆破!!」
「ギャアアアアッ!?」
「うわっ!?」
「相変わらず荒々しい戦い方ね……」
両手を開いた状態でバルルはガーゴイルに腕を伸ばすと、両手から爆炎が発生してガーゴイルを吹き飛ばす。爆発を受けたガーゴイルは後ろに押し込まれて倒れそうになり、この際に折り曲げて胸元を隠していた翼が元に戻る。
「これで終わりだよ!!」
「グギャッ……!?」
耐性を崩したガーゴイルにバルルは踏み込むと、彼女は止めの一撃を繰り出すために拳を全力で振りかざす。それを見たガーゴイルは咄嗟に両腕を交差して胸元を守ろうとしたが、それよりも早くにバルルは拳を突き出す。
「爆拳!!」
「ギャアアアアッ!?」
彼女の拳がガーゴイルの胸元を打ち砕き、校庭にガーゴイルの悲鳴が響き渡る。胸元に打撃が撃ち込まれた瞬間にガーゴイルの肉体全体に亀裂が走り、その場で粉々に砕け散った――
ゴブリンは衝撃波を受けて吹き飛び、ファングは爆炎に飲み込まれ、コボルトは電流によって黒焦げと化す。結果から言えば魔物の群れは一掃する事に成功したが、魔力を使い切ったバルトは倒れる。
「ぜえっ、ぜえっ……も、もう流石に限界だ」
「はあっ……コオリ、無事?」
「ううっ……顔面にスライム二匹が乗りかかってる気がする」
「いやんっ」
ミイナに押し倒された際に彼女の胸が顔に押し付けられ、コオリは苦し気ながらも少し気持ちよかった。校舎内の魔物の群れは一掃され、もう安全だと判断したミイナはコオリの隣に寝転がる。
三人が並んで横たわる形となり、それぞれが疲弊しきっていた。しかし、これで学校内に現れた魔物は倒したと思われ、バルトとミイナは笑みを浮かべて気絶しているコオリの手を掴む。
「ははっ、やったな俺達……」
「凄く頑張った……これだけ頑張ったんだから御馳走食べたい」
「生き延びられたらいくらでも食べさせてあげるよ……」
自分達が生き残れた事に三人は喜ぶが、全員の視界に何かが映った。は空を見上げる形で横たわっていたが、上空から何かが近付いてくる事に気が付いた。
「何だ?あの黒いの……」
「あれは……まさか!?」
「おい、どうした!?」
普通の人間よりも視力にも優れるミイナは上空に現れた存在の正体をいち早く見抜き、彼女は慌てて起き上がろうとした。それを見たバルトは彼女が何に気付いたのか問い質そう年たが、その前に上空から鳴き声が響く。
――キィエエエエエッ!!
不快感を催す奇怪な鳴き声、というよりも超音波が魔法学園内に響き渡り、この声を聞いた瞬間にコオリも目を覚ます。バルトとミイナは耳元を抑え、上空を浮かぶ存在を目にした。
鳴き声を放ったのはコオリが少し前に倒したガーゴイルとは色違いの存在である事が判明し、どうやら学校内に侵入してきたガーゴイルは一体だけではないと判明する。ガーゴイルは地上に降り立つと、倒れているコオリ達に視線を向け牙を剥きだしにする。
「グゥウウウッ……!!」
「う、嘘だろおい……ふざけんな、こっちはもう魔力がないんだぞ!?」
「くっ……」
「二人とも、逃げて……」
二体目のガーゴイルの到来にコオリ達はお互いが寄り添い合って互いを庇い合う。もう三人共戦える状態ではなく、ここまでの連戦で流石のコオリも魔力を回復させる体力は残っていない。
(最悪だ、こんな時に……どうすればいい!?)
魔力を使い切っているので魔法の力には頼れず、仮に三人がかりで挑んだとしても勝てる相手ではない。万全の状態であっても確実に勝てる保証がない相手なだけにコオリ達は冷や汗が止まらない。
「先輩、魔石は……」
「もうねえよ……お前の方こそ魔力は回復できないのか?」
「すいません、もう無理です……」
「……逃げるしかない」
三人はお互いに肩を貸し合って立ち上がり、どうにかガーゴイルから逃げる手段を考える。しかし、ガーゴイルはコオリに視線を向けると怒りを露わにして咆哮を放つ。
「キィイイイイッ!!」
「うわぁっ!?」
「み、耳が!?」
「にゃうっ!?」
超音波のように発せられるガーゴイルの鳴き声を聞くだけで精神が乱され、この状態では仮に魔力が残っていても魔法は扱えない。コオリ達は耳を抑えて膝を崩し、身体を動かす事もままならない。
ガーゴイルから逃げなければならないのは理解していても身体が言う事を聞かず、このままでは殺されると思ったコオリは必死に何かないのかと必死に辺りを見渡す。しかし、そんなに都合よく役立ちそうな物が落ちているはずがなかった。
(どうすればいい!?どうすれば……くそっ、頭が痛い!!)
鳴き声のせいでまともな思考も行えず、このままでは殺される事を理解できても何も思いつかない。やがてガーゴイルは鳴き声を辞めると、コオリに目掛けて突っ込んだ。
「キェエエエエッ!!」
「うわっ!?」
「コオリ!?」
「逃げろ!?」
コオリに目掛けてガーゴイルは接近すると、慌ててバルトとミイナが彼を庇おうとした。コオリも杖を構えるがもう魔光すら生み出す事ができず、ガーゴイルの振り翳した右腕の爪がコオリの胸元に迫った瞬間、唐突に突風が発生した。
「ギャウッ!?」
「うわっ!?」
「な、なに!?」
「こ、これは……まさか!?」
突風がガーゴイルを押し退けるとコオリ達は驚いて振り返り、そこには見知った人物の姿があった。その人物の傍にはバルルも控えており、彼女は隣に立つ人物に声をかける。
「流石は先生、腕は落ちてないようだね」
「あら、随分と生意気な口を叩けるようになったわね」
「し、師匠!?」
「学園長まで!?」
「ふうっ……びっくりした」
コオリ達の前に現れたのは完全武装したバルルとマリアであり、先ほどガーゴイルを吹き飛ばした強風はマリアが発生させた魔法だと判明する。
「よく頑張ったね、あんた達!!後の事は任せな!!」
「し、師匠……」
「子供達は私が守るわ。貴女は遠慮なく、戦いなさい」
「あいよ!!」
バルルとマリアが現れた事でコオリ達は安堵するが、傷ついた彼等の傍にマリアが赴くとバルルは吹っ飛んだガーゴイルと向かい合う。彼女は既に魔法腕輪を装着し、更には両手には腕手甲のような武器を装着していた。
ガーゴイルは吹き飛ばされた際に地面に倒れたが、特に怪我は負っていなかった。ガーゴイルはあらゆる魔法耐性を誇るため、マリアの魔法が直撃しても損傷は負っておらず、それどころか興奮した様子で鳴き声を上げる。
「キェエエエエッ!!」
「うわっ!?」
「くそ、またか!?」
「にゃうっ……」
ガーゴイルが鳴き声を放つと超音波のように周囲に拡散し、コオリ達は両手で耳を塞塞ぐ。それを見たマリアは面倒そうに杖を振りかざし、無詠唱で彼女は風の防護壁を作り出す。
「貴方達はこの中にいなさい」
「うわっ!?」
「こいつは……ウィンドカーテン!?」
「……耳が痛くなくなった?」
風属性の防護魔法を発動させ、風の膜がコオリ達を取り囲んだ途端にガーゴイルの放つ鳴き声が小さくなった。どうやら風の膜で超音波を防いだらしく、一方でバルルは両耳を抑えた状態でガーゴイルに向かう。
「ちっ、何時聞いてもこの鳴き声は慣れないね……おらよっ!!」
「アガァッ!?」
至近距離から鳴き声を聞いているにも関わらずにバルルは眉を少ししかめる程度で動きを止めず、足元の土を蹴り上げてガーゴイルの顔面に飛ばす。大口を開いている状態で土が入り込んだせいでガーゴイルは咳き込む。
鳴き声が中断した事でバルルは両耳から手を離すと、拳を振りかざす。この時に彼女は力を込めるように腕の血管が浮き上がり、目を見開いて渾身の一撃を叩き込む。
「爆拳!!」
「グギャアッ!?」
バルルが全力でガーゴイルの顔面に拳を叩き付けた瞬間、彼女の肘の部分から強烈な爆炎が発生して拳が加速する。ガーゴイルは避ける暇もなく顔面に強烈な衝撃を受け、本物の石像よりも頑丈なはずの顔面に亀裂が走る。
「おらぁあああっ!!」
「アアアアッ!?」
顔面を殴り飛ばされたガーゴイルは吹き飛び、地面に転がり込む。その光景を見たコオリ達は驚きを隠せず、ガーゴイルの硬さを嫌という程知っている一番衝撃を受けた。
(す、凄い!!僕の氷刃でも殆ど傷つかなかったのに……)
ガーゴイルとの戦闘ではコオリが通じた魔法は最大加速させた「氷硬弾」と「氷砲撃」だけだったが、バルルは殴り飛ばしただけでガーゴイルの顔面に罅割れが入った。
彼女の扱う爆拳という魔拳は何度か見た事があるが、この爆拳は相手に攻撃した際に至近距離から爆炎を放つ技だとコオリは思っていた。しかし、今回の彼女は見た事もない武器を両腕に装着し、肘の部分から爆炎を発生させて攻撃を加速させていた。
「おらおらおらっ!!」
「ガハァッ!?グエッ!?ギャウッ!?」
拳がめり込む度にガーゴイルは悲鳴を上げ、罅割れが徐々に広がっていく。これ以上に攻撃を受けるのは危険だと判断したのか、ガーゴイルは背中の翼を広げてバルルに襲い掛かる。
「シャアアッ!!」
「危ない!?師匠、そいつの……」
「おっと」
ガーゴイルの翼に気をつけるようにコオリが注意しようとしたが、その前にバルルは跳躍してガーゴイルの放った翼を回避した。ガーゴイルの翼は空を飛ぶための物ではなく、攻撃用である事はバルルも承知済みだった。
「あんたらの相手は若い頃から何度もやってきたからね。当然、弱点も知り尽くしているさ!!」
「グエッ!?」
避けた際にバルルはガーゴイルの胸元に蹴りを叩き込み、先の戦闘でガーゴイルの肉体は罅割れていた。そのために普通の打撃でも罅割れが広がって損傷を与える事ができる。
胸元の部分を攻撃されたガーゴイルは慌てて距離を取り、翼を折り曲げて自分の身を守る。それを見たバルルは両腕を重ね合わせると、開手した状態で繰り出す。
「爆破!!」
「ギャアアアアッ!?」
「うわっ!?」
「相変わらず荒々しい戦い方ね……」
両手を開いた状態でバルルはガーゴイルに腕を伸ばすと、両手から爆炎が発生してガーゴイルを吹き飛ばす。爆発を受けたガーゴイルは後ろに押し込まれて倒れそうになり、この際に折り曲げて胸元を隠していた翼が元に戻る。
「これで終わりだよ!!」
「グギャッ……!?」
耐性を崩したガーゴイルにバルルは踏み込むと、彼女は止めの一撃を繰り出すために拳を全力で振りかざす。それを見たガーゴイルは咄嗟に両腕を交差して胸元を守ろうとしたが、それよりも早くにバルルは拳を突き出す。
「爆拳!!」
「ギャアアアアッ!?」
彼女の拳がガーゴイルの胸元を打ち砕き、校庭にガーゴイルの悲鳴が響き渡る。胸元に打撃が撃ち込まれた瞬間にガーゴイルの肉体全体に亀裂が走り、その場で粉々に砕け散った――
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