氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第120話 成長しているのはお前だけじゃない

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「グギィイイイッ!!」
「っ……!?」


コオリが目を開くとホブゴブリンが地上に飛び降りる姿を確認し、まだ自分を狙っている事を知る。どうしてホブゴブリンが執拗に狙うのか疑問を抱く暇もなく、一秒でも早くコオリは魔力を回復させる事に集中した。


(魔力を回復させないと……!!)


目を閉じて意識を集中させ、コオリは魔力を回復させる事に集中を行う。この数か月の訓練でコオリは魔力を回復させる機能を強化した。そのお陰で短時間で魔力を回復させる術を身に付ける。

ホブゴブリンがコオリの元に辿り着く前に彼はある程度の魔力を回復させ、どうにか拘束された状態で腰に差した杖に手を伸ばす。一方でホブゴブリンはコオリに止めを刺すために跳躍し、彼に目掛けて両足で踏み潰そうとしてきた。


「グギィッ!!」
「くっ……このっ!!」


ホブゴブリンが両足を叩き付ける前にコオリは杖を手にすると、風の魔力を杖先から噴射させて移動を行う。直後にコオリが先ほどまで倒れていた場所にホブゴブリンは着地し、攻撃を避けたコオリに驚いたように振り返る。


「グギィッ!?」
「はあっ、はあっ……このっ!!」


コオリは上着を脱いで糸から逃れると、どうにか拘束から解放された彼は三又の杖をホブゴブリンに構える。すると、ホブゴブリンの方は背負っていた武器を取り出す。


「グギィイイイッ!!」
「あれは……盾!?」


ホブゴブリンが取り出したのは武器の類ではなく、大きめの盾を取り出す。盾は緑色の輝きを放ち、その光と色合いを見てコオリは魔法金属製の盾だと知る。


(まさかミスリルの盾!?あんな物をどうして魔物が……)


魔法金属ミスリルは前にバルトの知り合いの冒険者達から見せて貰った事があり、魔法が扱えない人間が魔物と戦う場合は魔法金属製の武器を用意しなければならない。しかし、その魔物自身が魔法金属製の防具を身に付けている事にコオリは戸惑う。

ミスリルの盾を取り出したホブゴブリンは左腕に装着すると、盾を構えた状態でコオリに突っ込んできた。それを見たコオリは咄嗟に杖を構えるが、ホブゴブリンは構わずに突っ込む。


「グギィイイイッ!!」
「っ……!!」


魔法金属製の武器や防具は魔法耐性も非常に高く、ならば簡単に防がれてしまう。しかし、ホブゴブリンが相手にしているのは


(焦ったら駄目だ、冷静に敵の動きを見て行動しないと……)


バルルからの教えを思い出し、魔術師はどんな時でも冷静でいなければならない。迫りくるホブゴブリンの迫力に身体が震えそうになるが、コオリは冷静にホブゴブリンの様子を観察して攻撃の隙を伺う。


「ここだっ!!」
「グギャアッ!?」


接近してくるホブゴブリンに対してコオリは三又の杖から二つの氷塊を作り出すと、風の魔力を送り込む。回転を強化させる事で威力を高めた氷弾を同時に二発撃ち込む。


「喰らえっ!!」
「ギャアアアッ!?」


発射された氷弾はホブゴブリンの手にする盾ではなく、走る際に動かしていた足元を狙い撃つ。ホブゴブリンの両膝に氷弾が貫通し、大量の血が噴き出す。ホブゴブリンはたまらずに倒れ込み、それを見たコオリは止めの一撃を繰り出す。


「盾、意味なかったな!!」
「グギャッ……!?」
「氷弾!!」


一言だけ告げるとコオリはホブゴブリンの頭部に目掛けて氷弾を発射させ、ホブゴブリンの眉間を貫く。頭を撃ち抜かれたホブゴブリンは倒れると、それを見届けたコオリは安堵した。

流石に体力も魔力も限界でコオリは座り込むと、ホブゴブリンが装備していた盾を見て不思議に思う。どうしてホブゴブリンが盾など装備していたのかと思って近付いた時、ホブゴブリンの首元の部分に紋様のような物が刻まれている事に気付く。


「何だこれ……蛇か?」


ホブゴブリンの首元には何故か蛇のような紋様が刻まれ、それを見たコオリは疑問を抱く。もう少しよく見てみようとコオリはホブゴブリンに近付いた瞬間、頭を撃ち抜かれたはずのホブゴブリンが目を見開き、コオリの身体に掴みかかる。


「グギィイイッ!!」
「うわっ!?」


油断していたコオリはホブゴブリンの右腕に掴まれ、地面に押し付けられた。確実に頭を撃ち抜いたと思ったホブゴブリンだったが、目元を充血させて血を流しながらもコオリの首元を締め付ける。


「グギャアアアッ……!!」
「うぐぅっ!?」


必死にコオリはもがくがホブゴブリンは彼の首から手を離さず、このままでは殺されると思ったコオリは杖を構えるが、首元が締め付けられた影響で意識が薄れていく。


(まずい、このままじゃ……)


魔法を発動させる前にコオリの意識が途切れ、彼は力なく倒れ込む。それを見たホブゴブリンは確実に止めを刺すために首の骨をへし折ろうとした。しかし、指に力を込める前にホブゴブリンの背中に熱と衝撃が走った。


「合わせろ猫娘!!」
「そっちこそ!!」
「グギャアッ!?」


背中から声が聞こえたホブゴブリンは振り返る前に熱と衝撃が同時に襲い掛かり、何が起きたのか理解するのに時間が掛かった。ホブゴブリンの背中に炎に包まれ、慌ててコオリを放り捨ててホブゴブリンは地面に転がり込む。


「グギャアアアッ!?」
「ちっ、しぶとい奴だぜ……まだ生きてんのか」
「ならもう一回」


ホブゴブリンは背中の炎を掻き消そうとする中、校舎から降りてきたバルトとミイナは汗を流しながらホブゴブリンと向かい合う。コオリを助けるために他の生徒を避難させてから二人は必死で校舎を降りてここまで辿り着いた。

先ほどのホブゴブリンが受けた攻撃は二人の合体技であり、この数か月の間にバルトはミイナと共に新しい魔法を生み出す。こちらの魔法は最近になって完成したばかりであり、バルトが構える杖にミイナは炎を纏った鉤爪を構える。


「何時でもいい」
「よし、しっかりと合わせろよ!!」
「こっちの台詞」
「グギィイイッ……!?」


ホブゴブリンは背中の炎を掻き消そうとしていると、それを見たミイナは鉤爪に意識を集中させる。この時にバルトは杖先から風の魔力を放ち、彼女の鉤爪の炎が燃え上がる。


「やれ!!」
「大炎爪!!」


バルトが調整した風の魔力をミイナが装備した鉤爪に送り込み、この際に彼女は火の魔力を送り込む。二人の魔力が溶けあうように合体する事でより大きな炎を生み出す。

風属性の魔法は火属性の魔法に取り込まれる性質を持っており、その結果としてミイナはバルトの魔力を取り込んでより強力な火炎を纏う。しかし、この攻撃法は長続きはせず、せいぜい数秒で炎の制御が行えずに消えてしまう。つまりは数秒以内に相手に攻撃を当てなければならない。


「にゃあっ!!」
「グギャアアアッ!?」


ミイナの振り払った炎がホブゴブリンの肉体に的中し、ホブゴブリンの肉体は炎に包まれた。それを見たバルトは笑みを浮かべ、勝利を確信した。


「どうだ見たかこの野郎!!成長しているのはお前だけじゃないぞ、コオリ!!」
「……気絶してるから聞こえてないと思う」


バルトは自分とミイナの攻撃で炎に包まれたホブゴブリンを見て嬉しさのあまりに声を上げる。コオリでさえも倒しきれなかったホブゴブリンを自分達が倒した事に喜ぶが、ミイナがすぐにツッコミを入れる。

炎に包まれたホブゴブリンは苦しみもがき、この時に首元の蛇のような紋様も焼き消えてしまう。すると糸が切れた人形のようにホブゴブリンは倒れ込み、完全に動かなくなった。それを確認した後にミイナはコオリの元へ向かい、彼が気絶しているだけと知って安堵した


「コオリ!?良かった、まだ生きてる!!」
「ううっ……」
「たくっ、心配を掛けさせやがって」


死亡したホブゴブリンを確認してバルトは額の汗を拭い、彼もここまでの道中でかなりの魔力を消耗してもう戦う力も残っていなかった。ミイナはコオリに肩を貸して立ち上がろうとした時、不意に彼女は鼻を鳴らす。


「すんすんっ……まさか、これはまずいかも」
「はあっ?今度は何だよ……うおっ!?」
「……万事休す」


ミイナの言葉にバルトは彼女に振り返ると、そこには予想外の光景が広がっていた。校舎内に残っていた魔物達が次々と窓を割って飛び出し、ゴブリン、ファング、コボルトなどが姿を現わす。


「ギィイイイッ!!」
「グルルルッ……!!」
「ガアアッ!!」
「お、おいおい……まだこんなに残っていたのかよ!?」
「先輩、コオリを運ぶのを手伝って!!」


バルトは魔物の群れを見て顔色を青ざめ、ミイナは急いでコオリを避難させようと彼に声をかける。コオリは未だに意識を失っているので彼の力は頼れず、二人がかりでコオリを運び出す。

魔物の群れは逃げるコオリ達を標的に定め、一斉に向かってきた。それを見たバルトとミイナは必死にコオリを連れて駆けるが、到底逃げ切れそうになかった。


「お、おい!!このままだと追いつかれるぞ!!」
「なら私が時間稼ぎを……」
「馬鹿野郎、お前だって魔力が残ってないだろ!?」
「だったらどうすればいいの!?」


珍しくミイナは語気を荒げてバルトに問い返すと、バルトは考えた末に自分がまだ他の生徒が所有していた魔石を持っている事に気付いた。


「そうだ、こいつを使えば……おら、喰らいやがれ!!」


魔石を取り出したバルトは空中に放り投げると、最後の魔力を振り絞って杖を構えた。後の事など考えずにバルトは魔石に目掛けて魔法を放つ。


「お前等、伏せてろ!!スラッシュ!!」
「にゃっ!?」
「あうっ!?」


バルトの声に合わせてミイナはコオリを抱えた状態で地面に伏せると、バルトは杖から風の斬撃を繰り出す。そして空中に放り込んだ複数の魔石が風の斬撃によって砕かれた瞬間、予想外の事態が発生した。
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