氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第115話 コオリの成長ぶり

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「ぜえっ、はあっ……!!」
「せ、先輩?どうかしたんですか?」
「いったいなにがあったんだい?」
「どうしたの?」


屋上に現れたバルトは激しく息切れし、その様子を見て心配したコオリ達は彼に近付く。彼は額の汗を拭いながら何が起きたのかを話す。


「た、大変だ!!三年生の授業のために運び出された魔物達が逃げ出して、今は学園中に散らばってる!!」
「何だって!?」
「えっ!?」
「皆、あれを見て!!」


バルトの言葉にバルルとコオリは驚くが、いち早くにミイナが何かに気付いたように彼女は大声を上げた。彼女は地上を指差しており、全員が視線を向けるとそこには逃げ惑う生徒とそれを追いかける魔物の姿があった。


「ひいいっ!?」
「た、助けてぇっ!?」
「くそっ、どうして魔物がこんな所に!?』
『ギィイイイッ!!』


襲われていたのは一年生の生徒達と担任教師であるセマカであり、彼は生徒達を守るために杖を構えるが、ゴブリンの群れは学園内の器材を手にしていた。

ゴブリンの群れに取り囲まれた一年生とセマカは顔色が悪く、特に怯えた一年生達はカマセの傍から離れない。教師としてセマカは一年生を守るために杖を構えるが、その腕は震えていた。


「せ、先生……怖いよ」
「助けて……」
「落ち着け!!皆、落ち着くんだ!!何があっても先生が守るからな……」
『ギッギッギッ……!!』


生徒を守るためにセマカは杖を構えるが、そんな彼の姿を見てあざ笑うようにゴブリンの群れは取り囲む。セマカは囲まれた事で焦りを抱き、もしも一斉に襲われたら彼の力だけでは生徒を守り切れない。


『ギィイイッ!!』
「ひいいっ!?」
「いやぁああっ!?」
「く、来るなぁっ!!」


ゴブリンの群れが威嚇するだけで生徒達は泣き叫び、セマカは牽制するために杖を振り払う。しかし、その行動が裏目に出てしまい、セマカが振り翳した杖を体格が大きめのゴブリンが掴み取る。


「ギィアッ!!」
「うわっ!?は、離せっ……」
「ギギィッ!!」
「うぐぅっ!?」
「せ、先生!?」


杖を掴まれたセマカは無理やりに引き剥がそうとしたが、その前に他のゴブリンが学園内から盗んできたと思われる教鞭を放つ。セマカは教鞭を掌に叩き付けられて杖を手放してしまい、ゴブリンは奪った杖を力ずくでへし折る。


「ギギィッ!!」
「し、しまった!?くそ、誰か小杖を……」
「ギィイイイッ!!」
「い、いやぁあああっ!?」


杖を奪われたセマカは代わりの杖を生徒から借りようとしたが、ゴブリンが鳴き声を上げるだけで幼い生徒達は恐怖で震え上がってしまう。杖がなければ魔法を扱えず、セマカはせめて生徒を守るために彼等の前に立つ。


「お、俺の生徒に手を出すな!!」
『ギィイイイッ!!』


セマカの大声を挑発と判断したのか、ゴブリンの群れは彼が杖を失った途端に一斉に飛び掛かる。それを見たセマカは一人でも多くの生徒を守るために彼等を抱きしめるが、この時に屋上から降りる人影があった。

屋上から飛び降りたのはバルルであり、彼女は地面に落ちる際に落下地点に存在したゴブリンをクッション代わりに踏み潰す。


「おらぁっ!!」
「ギャアッ!?」
「ギィアッ!?」


二体のゴブリンをバルルは両足で踏みつけて地上に着地すると、彼女の登場に他のゴブリンもセマカも生徒達も呆気に捉れる。一方で着地の才にバルルは足がしびれてしまい、腰を摩りながらも周囲のゴブリンを見渡す。


「いててっ……流石に年齢《とし》かね、この程度の高さから落ちただけで痛めちまった」
「バ、バルル!?どうしてお前が……」
「話は後だよ!!あんたらはそこで大人しくしてな!!」


バルルの登場にセマカは驚いたが、彼女は拳を鳴らしてゴブリン達を睨みつける。この時に踏み台となったゴブリン達をバルルは容赦なく頭を踏みつけ、それを見た他のゴブリンは怒りを抱く。


「ギィイイッ!!」
「ギィアッ!!」
「はっ、一丁前に仲間が傷つけられて怒ったのかい?だけどね、切れてんのはこっちだよ!!薄汚い身体でこの学園に土足で踏み込みやがって!!ぶち殺してやるよ!!」
「バ、バルル……生徒達の前で乱暴な言葉を使うな」


魔物相手だと容赦なく罵倒するバルルにセマカは生徒達を抱きしめながらも注意するが、内心では彼女を心配していた。バルルの実力は認めているが彼女は先日に大怪我を負ったばかりであり、まともに戦えるのか心配する。

その一方でゴブリンの群れは唐突に現れたバルルに警戒し、一方で仲間を殺された事に怒りを抱く。ゴブリンは基本的に群れで行動するため、他の魔物と比べても仲間意識が強い。だからこそ仲間を殺したバルルに襲い掛かろうとしたが、仲間がいるのは彼女も同じだった。


「あ、そうそう。これは言い忘れていたけど……頭上に注意しな」
「「「ギィッ……!?」」」


ゴブリン達が襲い掛かる前にバルルは天を指差す。その行為にゴブリン達は疑問を抱いて空を見上げると、屋上には杖を構えるコオリとバルトの姿があった。


「コオリ!!先生たちにはあてるなよ!!」
「はい!!」


二人は無詠唱で魔法を発動させると、コオリは氷弾を連射して的確にゴブリンの急所を打ち抜く。その一方でバルトはスラッシュを繰り出してバルル達に近づけないようにけん制した。

三俣の杖を手にしたコオリは同時に三発の氷弾を打ち込めるため、彼が打つたびに三つの氷弾が軌道を自由自在に変更させてゴブリンの肉体を打ち抜く。今回は風の魔力を使用して強化する必要もなく、瞬く間に校庭に大量のゴブリンの死体が散らばった。


「ふうっ……もう大丈夫ですよ」
「たくっ、二つの意味で冷っとしたね」
「な、な、なっ……何なんだ!?」


コオリの攻撃に巻き込まれなかった事と、彼の氷弾が周囲を飛び交った事で少しだけ肌寒くなったバルルは身体を震わせて立ち上がる。その一方でセマカは生徒達を抱きしめながらも周囲に倒れたゴブリンの死骸に視線を向け、信じられない表情を浮かべながら屋上にいるコオリを見上げた。


(あ、あの子が一人でやったのか!?信じられない……は、半年前まではあんなに小さな氷の欠片しか生み出せなかったのに!!)


セマカはコオリと出会ったばかりの頃は彼が指先でも摘まめる程度の氷の欠片しか作り出せない事は知っていた。その後に試合や決闘で彼が魔術師として成長している事は知っていたが、それでも十数匹のゴブリンを数秒足らずで全滅させた事に驚きを隠せない。


(いくらゴブリンとはいえ、これだけの数を……しかも我々を巻き込まずに仕留めるなんて、この子は何者なんだ!?)


先ほどのコオリが繰り出した氷刃を思い返し、少なくとも彼の様にゴブリンの群れを一掃させるほどの実力を持つ生徒はセマカの生徒の中にはいない。強いて言えば現在はならば可能かもしれないが、それでも彼がコオリのようにゴブリンの群れを数秒足らずで仕留められるとは思えない。


(て、天才だ……この子は間違いなく、天才だ!!)


教師としてそして魔術師としてセマカはコオリの魔法の腕を見て彼が天才だと判断し、そんな彼を育て上げた同僚《バルル》を見る。彼女はコオリが倒したゴブリンを確認し、しかめっ面な表情を浮かべた。

ゴブリン達はコオリの魔法で確実に死亡したが、それだけならばともかくどうしてこれだけの数のゴブリンが学園内に出回っているのに他の教師や、学園内に配置されているはずの警備兵が対処に現れないのか疑問を抱く。


「セマカ!!いったいどうなってるんだい!?何が起きてるんだい!?」
「そ、それが俺にも分からないんだ!!突然、教室にこいつらが現れて生徒達を逃がすために必死でここまでやって来たんだが……」
「たくっ……とにかく、生徒を避難させるのが先決だね。全員、学園の外に避難しな!!」


バルルの指示にセマカは賛同し、まずは生徒達を安全な場所に避難させるために学園の外へ向かう。魔法学園は周囲を防壁で隔離されているため、学園内に出現した魔物達が外に抜け出す事はない。

今は学園の中よりも外の方が安全であり、一年生の生徒を連れてセマカは外へ向かおうとした。一方でバルルは彼と共に生徒を連れて行こうとしたが、この時に彼女はコオリに指示を与える。


「コオリ!!あんたは校舎内に他の生徒が残っていないのか確かめな!!屋上の二人と一緒に逃げ遅れた生徒がいないか探してくるんだ!!もしも魔物がいたら遠慮せずにぶっ倒せ!!」
「は、はい!!」
「はあっ!?おい、何を言ってるんだ!!そんな危険な事を生徒に……」
「あんた、さっきのあいつの魔法を見ただろう?今は緊急事態なんだ、戦える奴に戦ってもらうしかないんだよ!!」


生徒であるコオリ達に学校に残って他の生徒の避難をさせようとするバルルにセマカは驚愕するが、教師として生徒を守らなければならない事はバルルも理解している。しかし、彼女はまだ本調子を取り戻しておらず、右腕を抑えた。

先日に切り裂かれた右腕は治療されたが、未だに感覚が鈍って彼女は碌に魔拳も扱えない状態だった。この状況下で彼女が知る人物のなかで戦力になるのはコオリ達しかおらず、ここは彼等に託して自分とセマカは一年生達を外に避難させる事に集中する。
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