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王都での日常
第102話 情報屋
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「ドルトンさん!?」
「コオリ、窓を開けて!!」
倒れているドルトンを見てコオリは驚きの声を上げ、ミイナはすぐに窓から中に入るように促す。彼女の言葉に頷いてコオリは窓を開けようとしたが、当然ながら窓には鍵が欠けられていた。
無理やり壊す事もできるがそれだと近隣の住民に窓を破壊した音を聞かれる恐れがある。そこでコオリは窓の隙間を確認すると、小杖を取り出して魔法を唱えた。
「これをこうして……よしっ!!」
「おおっ」
以前にコオリは氷の魔法で自分の部屋の鍵を掛けた事があるが、今回の場合は逆で窓の内側に氷を作り出し、それを上手く利用して部屋の内鍵を解除した。窓を開くとコオリとミイナは建物の中に乗り込み、倒れているドルトンの様子を伺う。
「ドルトンさん!!しっかりして下さい!!」
「ドルト……ン?」
倒れているドルトンにコオリは跪くが、部屋の中に入った途端にミイナは表情を歪ませ、彼女は嫌そうに鼻を抑えた。そんな彼女の態度に気付かずにコオリはドルトンの様子を確かめようとすると、強烈な酒の臭いを感じ取る。
「うっ!?」
「これは……」
「ふごぉおおっ……むにゃっ、俺はまだ飲めるぞうっ……」
倒れていたドルトンは寝返りすると、彼の顔が真っ赤でしかも空の空き瓶を抱きしめた状態で眠っていた事が判明した。どうやら倒れていた理由は酒に酔っ払って眠り込んでいたらしく、心配していた二人は呆れてしまう。
「泥酔してる……」
「心配して損した」
どうやらドルトンは酒に酔っ払っていただけらしく、ベッドにも戻らずに床の上で眠りこけていたらしい。それを確かめたコオリとミイナは呆れと安堵が入り混じった表情を浮かべ、仕方なく彼に肩を貸してやる。
「ほら、ドルトンさん!!こんな所で寝てたら風邪を引きますよ」
「ひっくっ……うるせえ、誰だお前等!?」
「私達の事を忘れたの?」
「ああん?何だって……ああ、誰かと思えばバルルのガキどもじゃねえか。どうした、また新しい装備を作ってほしいのか?」
完全に意識を失っていたわけではなく、ドルトンは二人の顔を見ると朗らかな笑みを浮かべる。普通に考えればこんな夜中に訪れたら怪しむはずだが、酒のせいで正常な判断ができない彼は上機嫌に話しかけてきた。
泥酔状態ではあるがドルトンが自分達を見ても怪しまない事にコオリとミイナは顔を見合わせ、もしかしたら都合がいいかもしれないと判断する。今の彼ならば情報を引き出す事は難しくはなく、二人はこの機会を逃さずに色々と尋ねた。
「ドルトンさん、城下町の様子はどんな感じですか?」
「ああん、どういう意味だ?」
「例の冒険者狩り、もう捕まった?」
「けっ、その話か……まだ捕まってねえよ。ぼんくらの警備兵と冒険者共が毎日探し回っているが、未だに進展がねえないらしい。うちの客がそうぼやいていたよ」
ドルトンの店に通う客は殆ど冒険者であるため、調査を行っている人間から話を聞いているとすれば信憑性は高い。二人はまだ警備兵と冒険者が冒険者狩りなる存在を見つけていない事を知り、続いて別の質問を行う。
「冒険者狩りの被害者はまた現れましたか?」
「いいや、まだだ。そういえばお前等、バルルの奴はどうしてる?あいつが簡単にくたばるたまじゃないのは知ってるが、大丈夫なのか?」
「あ、えっと……」
「大丈夫、完治までは時間が掛かるけど平気だって言っていた」
「そうか……それならいいんだけどよ」
バルルを心配するドルトンに対してコオリはどう答えるべきか悩んだが、ミイナが彼の代わりに応える。実際の所はバルルは未だに意識不明の重体だが、必ず目を覚ますと二人は信じており、敢えてドルトンを心配させないように言葉を選ぶ。
「それでお前さんらは何しに来たんだ?いや待て……分かったぞ」
「な、何が分かったんですか?」
自分の元にコオリとミイナが訪れた事にドルトンは不思議がったが、彼は何か思い出したように二人から離れる。まさか正気に戻ってこんな時間帯に訪れたコオリとミイナに説教するつもりかと思ったが、ドルトンは笑みを浮かべて机の上を指差す。
「バルルに頼まれていた物を取りに来たんだな?」
「え?」
「あいつも弟子思いの奴だな。お前さん達のためにこんな物まで用意するとは……」
「それは?」
机の上には新しい魔法腕輪とベルトが置かれていた。魔法腕輪はミイナの物だと思われるが、ベルトの方は魔石を嵌め込む窪みが存在した。
「お前等が師匠の所に行く少し前にバルルの奴がここへきて仕事を頼んできたんだよ。嬢ちゃんには新しい魔法腕輪と、坊主には魔石を装着できるベルトだ」
「師匠が……」
「どうして……」
「あいつは面倒見が良いからな。お前等も師匠のためにいつか恩返ししてやれよ……ふああっ、流石に飲み過ぎたな。俺はもう寝る、そいつは持ち返っていいぞ」
バルルに頼まれていた装備品を託すとドルトンは自分の部屋へと戻り、コオリとミイナはバルルが制作を依頼していた装備品を手にして目元を潤ませる。しかし、今は感動している暇はなく、新しい装備品を身に付けてドルトンに怪しまれる前に離れた――
――バルルがドルトンに依頼していた新しい装備品を身に付け、コオリとミイナは改めて冒険者狩りの情報を集めるために行動を開始した。ドルトンによれば今の所は警備兵も冒険者も冒険者狩りの調査に進展はないらしく、やはり手がかりが「エルフの女性」というだけでは見つけるのは困難らしい。
コオリとミイナが学園を抜け出してから一時間ほど経過し、流石に疲れた二人は路地裏にて休憩を取る。誰にも見つからないように建物の屋根の上を移動してきたが、流石に体力と魔力が限界だった。
「はあっ……今夜はもう帰った方がいいかもしれないね」
「むうっ、明日はもっと昼寝しておかないときつい」
明日も学校の授業があるので二人はそろそろ学園に戻らなければならず、しっかりと休んでおかないと身体が持たない。正気に戻ったドルトンがコオリとミイナが訪れた事に疑問を抱くかもしれないが、かなり泥酔していたので二人が会った事も忘れている可能性も高い。
「やっぱり、闇雲に探しても見つからないか……」
「今度は昼間に抜け出して人から話を聞く必要もあるかもしれない」
夜間の間ではコオリ達は派手な行動はできず、昼間の方が捜査をしやすい。休日に学園を抜け出せば昼間でも行動できるかもしれないが、今回は引き上げるしかなかった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか……先輩にも迷惑を掛けたし、謝っておかないとね」
「待って」
コオリは立ち上がろうとすると、ミイナは何かに気付いたように振り返る。彼女の行動にコオリは不思議に思うと、ミイナは路地裏の奥に視線を向けて声をかけた。
「そこに隠れているのは誰!?」
「えっ!?」
「……ひひっ、中々に勘が鋭いな」
誰もいないはずの路地裏に男の声が響くと、暗闇の中から男が姿を現わす。その男は全身を黒色のフードで身を包み、完璧に暗闇に紛れて姿を隠していた。
現れた男にコオリとミイナは咄嗟に身構えたが、男性は両手を上げて戦う意思はない事を示す。男はフードから顔を晒すと、その顔を見てコオリは驚愕の表情を浮かべる。
「お、お前は!?」
「……知ってる人?」
「前に俺を襲った通り魔だよ!!」
姿を晒した男性はかつてコオリが王都に来たばかりの頃、彼を襲った通り魔と瓜二つの容姿をしていた。その顔を見てコオリは咄嗟に三又の杖を構えたが、以前に会った時と雰囲気が異なる。
「ひひっ……何の事を言っているのか知らないが、俺は通り魔じゃないぞ?」
「どういう意味?」
「言葉通りの意味さ。お前が言っている通り魔とやらは俺の双子の弟の事だ」
「双子!?」
コオリが捕まえた通り魔は現在も監獄の牢獄にいるはずだが、その通り魔の兄を語る男が現れた事にコオリは動揺を隠せない。その一方でミイナは男に視線を向け、警戒しながらも尋ねる。
「私達の話を盗み聞きしていたの?」
「おっと、それは人聞きが悪いな。ここは俺のねぐらでね、勝手にお前等がここへ来て話を始めただけだろう。別に盗み聞きするつもりもなかったが……」
「……そうですか、なら俺達はもう行きます」
通り魔とそっくりの顔をする男を前にしてコオリはあまり良い気分はせず、早々にその場を立ち去ろうとした。だが、そんな彼に対して男は思いもよらぬ言葉をかける。
「冒険者狩りの正体……知りたいと思わないか?」
「えっ?」
「こう見えても俺は情報屋でね、この王都で起きている事は大抵の事は知ってるぜ」
「情報屋?」
自身を情報屋だと語る男に対してコオリとミイナは胡散臭げな表情を浮かべるが、男はパイプを取り出すと火を灯す。そして彼は自分が情報屋である事を証明するために二人に語り掛けた。
「俺の言葉を信じられないといった表情だな。だが、俺はお前達の事を知っている。元白銀級冒険者バルルの弟子のコオリとミイナだな?」
「何でそんな事を……」
「お前さんの事は色々と調べたぜ。仮にも弟を豚箱に送り込んだ奴だからな。ちなみに弟を捕まえたからって恨んではいないぞ。あいつはどうしようもない屑だったからな……けっ、人の女に手を出した報いだ」
「仲悪かったの?」
「あのくそ野郎は俺と同じ顔だからって、俺の女を騙して一緒に寝たんだよ!!むしろ捕まえてくれてせいせいするぜ!!」
「は、はあっ……」
通り魔の兄を語る男はコオリが弟を捕まえた事に恨みは全くなく、むしろ目障りだと感じていた弟を捕まえた事に感謝していたという。しかし、弟を捕まえた相手という事も会って情報屋の男は独自でコオリの事を調べていた事を語る。
王都に来たばかりの頃からコオリは通り魔を捕まえたことで噂は広まっており、彼が魔法学園に入学した後も色々な事件に巻き込まれている事も情報屋は知っていた。そんな彼がコオリの前に現れたのは弟を捕まえた事への感謝を告げるためだけではなく、取引を持ち掛けるために姿を現わす。
「コオリ、窓を開けて!!」
倒れているドルトンを見てコオリは驚きの声を上げ、ミイナはすぐに窓から中に入るように促す。彼女の言葉に頷いてコオリは窓を開けようとしたが、当然ながら窓には鍵が欠けられていた。
無理やり壊す事もできるがそれだと近隣の住民に窓を破壊した音を聞かれる恐れがある。そこでコオリは窓の隙間を確認すると、小杖を取り出して魔法を唱えた。
「これをこうして……よしっ!!」
「おおっ」
以前にコオリは氷の魔法で自分の部屋の鍵を掛けた事があるが、今回の場合は逆で窓の内側に氷を作り出し、それを上手く利用して部屋の内鍵を解除した。窓を開くとコオリとミイナは建物の中に乗り込み、倒れているドルトンの様子を伺う。
「ドルトンさん!!しっかりして下さい!!」
「ドルト……ン?」
倒れているドルトンにコオリは跪くが、部屋の中に入った途端にミイナは表情を歪ませ、彼女は嫌そうに鼻を抑えた。そんな彼女の態度に気付かずにコオリはドルトンの様子を確かめようとすると、強烈な酒の臭いを感じ取る。
「うっ!?」
「これは……」
「ふごぉおおっ……むにゃっ、俺はまだ飲めるぞうっ……」
倒れていたドルトンは寝返りすると、彼の顔が真っ赤でしかも空の空き瓶を抱きしめた状態で眠っていた事が判明した。どうやら倒れていた理由は酒に酔っ払って眠り込んでいたらしく、心配していた二人は呆れてしまう。
「泥酔してる……」
「心配して損した」
どうやらドルトンは酒に酔っ払っていただけらしく、ベッドにも戻らずに床の上で眠りこけていたらしい。それを確かめたコオリとミイナは呆れと安堵が入り混じった表情を浮かべ、仕方なく彼に肩を貸してやる。
「ほら、ドルトンさん!!こんな所で寝てたら風邪を引きますよ」
「ひっくっ……うるせえ、誰だお前等!?」
「私達の事を忘れたの?」
「ああん?何だって……ああ、誰かと思えばバルルのガキどもじゃねえか。どうした、また新しい装備を作ってほしいのか?」
完全に意識を失っていたわけではなく、ドルトンは二人の顔を見ると朗らかな笑みを浮かべる。普通に考えればこんな夜中に訪れたら怪しむはずだが、酒のせいで正常な判断ができない彼は上機嫌に話しかけてきた。
泥酔状態ではあるがドルトンが自分達を見ても怪しまない事にコオリとミイナは顔を見合わせ、もしかしたら都合がいいかもしれないと判断する。今の彼ならば情報を引き出す事は難しくはなく、二人はこの機会を逃さずに色々と尋ねた。
「ドルトンさん、城下町の様子はどんな感じですか?」
「ああん、どういう意味だ?」
「例の冒険者狩り、もう捕まった?」
「けっ、その話か……まだ捕まってねえよ。ぼんくらの警備兵と冒険者共が毎日探し回っているが、未だに進展がねえないらしい。うちの客がそうぼやいていたよ」
ドルトンの店に通う客は殆ど冒険者であるため、調査を行っている人間から話を聞いているとすれば信憑性は高い。二人はまだ警備兵と冒険者が冒険者狩りなる存在を見つけていない事を知り、続いて別の質問を行う。
「冒険者狩りの被害者はまた現れましたか?」
「いいや、まだだ。そういえばお前等、バルルの奴はどうしてる?あいつが簡単にくたばるたまじゃないのは知ってるが、大丈夫なのか?」
「あ、えっと……」
「大丈夫、完治までは時間が掛かるけど平気だって言っていた」
「そうか……それならいいんだけどよ」
バルルを心配するドルトンに対してコオリはどう答えるべきか悩んだが、ミイナが彼の代わりに応える。実際の所はバルルは未だに意識不明の重体だが、必ず目を覚ますと二人は信じており、敢えてドルトンを心配させないように言葉を選ぶ。
「それでお前さんらは何しに来たんだ?いや待て……分かったぞ」
「な、何が分かったんですか?」
自分の元にコオリとミイナが訪れた事にドルトンは不思議がったが、彼は何か思い出したように二人から離れる。まさか正気に戻ってこんな時間帯に訪れたコオリとミイナに説教するつもりかと思ったが、ドルトンは笑みを浮かべて机の上を指差す。
「バルルに頼まれていた物を取りに来たんだな?」
「え?」
「あいつも弟子思いの奴だな。お前さん達のためにこんな物まで用意するとは……」
「それは?」
机の上には新しい魔法腕輪とベルトが置かれていた。魔法腕輪はミイナの物だと思われるが、ベルトの方は魔石を嵌め込む窪みが存在した。
「お前等が師匠の所に行く少し前にバルルの奴がここへきて仕事を頼んできたんだよ。嬢ちゃんには新しい魔法腕輪と、坊主には魔石を装着できるベルトだ」
「師匠が……」
「どうして……」
「あいつは面倒見が良いからな。お前等も師匠のためにいつか恩返ししてやれよ……ふああっ、流石に飲み過ぎたな。俺はもう寝る、そいつは持ち返っていいぞ」
バルルに頼まれていた装備品を託すとドルトンは自分の部屋へと戻り、コオリとミイナはバルルが制作を依頼していた装備品を手にして目元を潤ませる。しかし、今は感動している暇はなく、新しい装備品を身に付けてドルトンに怪しまれる前に離れた――
――バルルがドルトンに依頼していた新しい装備品を身に付け、コオリとミイナは改めて冒険者狩りの情報を集めるために行動を開始した。ドルトンによれば今の所は警備兵も冒険者も冒険者狩りの調査に進展はないらしく、やはり手がかりが「エルフの女性」というだけでは見つけるのは困難らしい。
コオリとミイナが学園を抜け出してから一時間ほど経過し、流石に疲れた二人は路地裏にて休憩を取る。誰にも見つからないように建物の屋根の上を移動してきたが、流石に体力と魔力が限界だった。
「はあっ……今夜はもう帰った方がいいかもしれないね」
「むうっ、明日はもっと昼寝しておかないときつい」
明日も学校の授業があるので二人はそろそろ学園に戻らなければならず、しっかりと休んでおかないと身体が持たない。正気に戻ったドルトンがコオリとミイナが訪れた事に疑問を抱くかもしれないが、かなり泥酔していたので二人が会った事も忘れている可能性も高い。
「やっぱり、闇雲に探しても見つからないか……」
「今度は昼間に抜け出して人から話を聞く必要もあるかもしれない」
夜間の間ではコオリ達は派手な行動はできず、昼間の方が捜査をしやすい。休日に学園を抜け出せば昼間でも行動できるかもしれないが、今回は引き上げるしかなかった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか……先輩にも迷惑を掛けたし、謝っておかないとね」
「待って」
コオリは立ち上がろうとすると、ミイナは何かに気付いたように振り返る。彼女の行動にコオリは不思議に思うと、ミイナは路地裏の奥に視線を向けて声をかけた。
「そこに隠れているのは誰!?」
「えっ!?」
「……ひひっ、中々に勘が鋭いな」
誰もいないはずの路地裏に男の声が響くと、暗闇の中から男が姿を現わす。その男は全身を黒色のフードで身を包み、完璧に暗闇に紛れて姿を隠していた。
現れた男にコオリとミイナは咄嗟に身構えたが、男性は両手を上げて戦う意思はない事を示す。男はフードから顔を晒すと、その顔を見てコオリは驚愕の表情を浮かべる。
「お、お前は!?」
「……知ってる人?」
「前に俺を襲った通り魔だよ!!」
姿を晒した男性はかつてコオリが王都に来たばかりの頃、彼を襲った通り魔と瓜二つの容姿をしていた。その顔を見てコオリは咄嗟に三又の杖を構えたが、以前に会った時と雰囲気が異なる。
「ひひっ……何の事を言っているのか知らないが、俺は通り魔じゃないぞ?」
「どういう意味?」
「言葉通りの意味さ。お前が言っている通り魔とやらは俺の双子の弟の事だ」
「双子!?」
コオリが捕まえた通り魔は現在も監獄の牢獄にいるはずだが、その通り魔の兄を語る男が現れた事にコオリは動揺を隠せない。その一方でミイナは男に視線を向け、警戒しながらも尋ねる。
「私達の話を盗み聞きしていたの?」
「おっと、それは人聞きが悪いな。ここは俺のねぐらでね、勝手にお前等がここへ来て話を始めただけだろう。別に盗み聞きするつもりもなかったが……」
「……そうですか、なら俺達はもう行きます」
通り魔とそっくりの顔をする男を前にしてコオリはあまり良い気分はせず、早々にその場を立ち去ろうとした。だが、そんな彼に対して男は思いもよらぬ言葉をかける。
「冒険者狩りの正体……知りたいと思わないか?」
「えっ?」
「こう見えても俺は情報屋でね、この王都で起きている事は大抵の事は知ってるぜ」
「情報屋?」
自身を情報屋だと語る男に対してコオリとミイナは胡散臭げな表情を浮かべるが、男はパイプを取り出すと火を灯す。そして彼は自分が情報屋である事を証明するために二人に語り掛けた。
「俺の言葉を信じられないといった表情だな。だが、俺はお前達の事を知っている。元白銀級冒険者バルルの弟子のコオリとミイナだな?」
「何でそんな事を……」
「お前さんの事は色々と調べたぜ。仮にも弟を豚箱に送り込んだ奴だからな。ちなみに弟を捕まえたからって恨んではいないぞ。あいつはどうしようもない屑だったからな……けっ、人の女に手を出した報いだ」
「仲悪かったの?」
「あのくそ野郎は俺と同じ顔だからって、俺の女を騙して一緒に寝たんだよ!!むしろ捕まえてくれてせいせいするぜ!!」
「は、はあっ……」
通り魔の兄を語る男はコオリが弟を捕まえた事に恨みは全くなく、むしろ目障りだと感じていた弟を捕まえた事に感謝していたという。しかし、弟を捕まえた相手という事も会って情報屋の男は独自でコオリの事を調べていた事を語る。
王都に来たばかりの頃からコオリは通り魔を捕まえたことで噂は広まっており、彼が魔法学園に入学した後も色々な事件に巻き込まれている事も情報屋は知っていた。そんな彼がコオリの前に現れたのは弟を捕まえた事への感謝を告げるためだけではなく、取引を持ち掛けるために姿を現わす。
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