氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第100話 生徒会との対立

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「そうだ、ドルトンさんに協力して貰うのはどうかな?」
「ドルトン?あの鍛冶師のおじさん?」
「他に手を貸してくれそうな知り合いはいないし……」
「でも、もしも断られたらどうするの?」
「その時は……その時だよ」


城下町でコオリ達に協力してくれそうな人間の心当たりはドルトンしかおらず、彼に協力を拒まれた場合は二人だけで犯人を探すしかない。もしかしたらドルトンが魔法学園に二人が外に抜け出した事を伝える可能性もあるが、それでもコオリ達は諦めるわけにはいかない。

ドルトンが協力してくれることを祈ってコオリとミイナは今夜のうちに脱出する事を計画する。夜を迎えればミイナが女子寮から抜け出し、男子寮のコオリを迎えに行く事が決まる。脱出する時は二人一緒でなければならず、その点はミイナは何度も脱出の経験があるために心強い味方だった。


「夜になったらコオリの所に迎えに行く。それまではコオリはゆっくりと休んでて」
「分かった。けど、ミイナは平気なの?」
「大丈夫、授業中にたくさん昼寝したから眠くない」
「それはそれでどうかと思うけど……」


どうやら二年生の授業に混ざってもミイナは昼寝で真面目に受けていなかったらしく、やはり彼女に教育指導を行えるのはバルルだけらしい。彼女は学園長と何かしらの関係があるらしく、バルル以外の教師はあまり彼女に強く出られない。


(こうして考えるとミイナも謎が多いな……学園長とどんな関係なんだろう?)


今更ながらにコオリはミイナと学園長の関係は気になったが、その話は今度にして今夜の脱出計画を話し合う――





――脱出計画の相談を終えると、コオリは学生寮に戻って準備を行う。今回は魔法学園の生徒だと気付かれないように私服に着替え、ついでに姿を隠した目にアルルから受け取った赤毛熊のマントと、万が一の場合に備えて二つの小杖も携帯しておく。

三又の杖を奪われる場合を想定して予備の武器を用意しておき、他に用意するべき物は仮面だった。脱出の際に正体が気づかれないようにミイナからお手製の仮面を渡され、コオリは犬の顔を模した仮面を手に取る。


「こんなので上手く誤魔化せるかな……まあ、仕方ないか」


装備を身に付けたコオリは仮面を頭に被せ、脱出の際は仮面を被って顔を隠す。あとはミイナが迎えに来るのを待つが、約束の時間を迎えても彼女は訪れない。


(おかしいな、まだかな?)


ミイナが時間を迎えても訪れない事にコオリは不安を抱くが、彼はカーテンの隙間から外の様子を伺う。昼間の話し合いではミイナは学生寮に忍び込み、コオリの部屋まで迎えに来る約束をしていた。しかし、窓から外を覗いてもミイナの姿は見当たらない。

彼女に何かあったのかとコオリは不安を抱くと、外の方から足音が鳴り響く。ミイナがやって来たのかと思ったが、それにしては足音の数が多い事に気付く。


(何だ?)


カーテンの隙間からコオリは学生寮の裏庭の様子を伺うと、そこには「猫の仮面」を被った少女が走ってきた。その仮面を一目見ただけでコオリは少女の正体がミイナだと知り、すぐに窓を開けて声をかける。


「ミイ……うわっ!?」
「早く出て!!」


ミイナはマコオリに気付くと彼の腕を掴んで無理やりに窓から引っ張り出し、急いで窓を閉めて彼の腕を掴んで駆け抜ける。ミイナの行動にコオリは戸惑うが、直後に二人の背後から強い光が放たれる。


「見つけました!!あそこです!!」
「副会長!!もう一人誰かいます!!」
「仲間か!?」


後方から聞こえてきた声にコオリは背筋が凍り付き、彼は振り返るとそこにはコオリ達よりも上級生の生徒が数名追いかけていた。その先頭を走るのは生徒会の副会長を任され、学園長の信頼も厚いリンダと呼ばれる生徒である事を知る。

リンダはコオリの顔見知りでもあり、彼女は腕利きの魔拳士である事も知っている。そんなリンダが数名の生徒を率いて連れている事を知ったコオリは事情を察した。


(ミイナ、もしかして見つかったの!?)
(生徒会の見回りしているのは知らなかった……ごめん)


女子寮から抜け出す際にミイナは生徒会の人間に見つかってしまい、ここまで逃げてきた事を話す。夜の見回りは教師だけではなく、生徒会の生徒も行っていた事は彼女も初耳だった。


(ど、どうするの!?)
(とりあえず、生徒会から逃げ切らないと脱出もできない。どうにか振り切るしかないけど……コオリは付いてこれる?)
(……が、頑張るよ!!)


まずは生徒会の生徒を振り切らなければ脱出はできず、正体が気づかれないように二人は気をつけながら逃走する。しかし、そんな二人に対して生徒会の生徒達は容赦なく攻撃を仕掛けてきた。


「副会長!!魔法の許可を下さい!!」
「このままだと逃げられます!!」
「……仕方ありませんね、ですが大怪我をさせてはいけませんよ」
『了解!!』


副会長であるリンダが許可を与えると、追跡していた生徒達は杖と魔法腕輪を装着した。それを見たコオリは相手が魔法を使うつもりだと察し、ミイナはコオリに注意した。


「喰らえっ!!ファイア!!」
「うわっ!?」
「下がって!!」


生徒会の一人が小杖を突き出して下級魔法の「ファイア」を発動させると、杖の先端から火球が飛び出す。それを見たコオリは咄嗟に杖を取り出そうとしたが、ミイナが先に動いて彼女は迫りくる火球を


「にゃんっ!!」
「嘘ぉっ!?」
「ば、馬鹿なっ!?」
「危ない!?」


火球を蹴り飛ばしたミイナに誰もが驚き、蹴り飛ばされた火球は生徒会の元に向かう。それを見たリンダは右手に風属性の魔力を込めると、迫りくる火球を殴りつけて吹き飛ばす。


「はああっ!!」
「うわっ!?」
「……流石は副会長」


蹴り返した火球をリンダは吹き飛ばした光景を見てミイナは油断ならぬと判断し、彼女はコオリを連れて逃げる事に集中する。一方で火球を蹴り返した逃走犯《ミイナ》に対してリンダは生徒に注意を促す。


「どうやら相手は高い火属性の耐性持ちのようです。恐らく、火属性の魔法の使い手でしょう」
「な、なるほど……そう言う事だったのか!!」
「あの身軽さと俊敏さ、恐らくは火属性に適性がある獣人族です。狙うとしたら火属性以外の魔法を使いなさい」
「分かりました!!」


たった一度の攻防でリンダは逃走するミイナの適性属性と種族を見抜き、生徒達に的確な指示を与える。敵に回るとこれほど厄介な相手はおらず、これ以上にミイナが下手に動けば正体を勘付かれてしまう。

コオリはこれ以上にミイナを行動を見られると正体が勘付かれるかもしれないと判断し、今度は魔法の追撃が来たら自分が対応しなければならない事を悟る。しかし、下手に自分の魔法を見られたら正体が気づかれる恐れがあるため、よく考えて魔法を扱わなければならない。


(今度、魔法が来たら僕が何とかしないと……でも、どうしたらいいんだ!?)


考えている間にも生徒会の一人が杖を構え、今度は火属性の魔法攻撃ではなく、別の属性で攻撃を仕掛けてきた。


「これならどうだ!!ウィンド!!」
「また来る!!」
「だ、大丈夫!!」


風属性の下級魔法が放たれると、それを確認したコオリは小杖を取り出す。三又の杖だと目立ちすぎるので正体が気づかれる可能性があるため、敢えて小杖で対応するしかなかった。

生徒会の魔術師が放ったウィンドは風属性の下級魔法であり、バルトが多用する「スラッシュ」の下位互換である。風属性の魔力を渦巻状に変化させて攻撃を行い、どちらかというと「スライサー」に近い攻撃魔法である。


(先輩の魔法と比べたらこの程度の魔法なら問題ない!!)


迫りくる風の渦巻に対してコオリは小杖を構えると、相手に悟られないように氷弾を作り出す。小杖の先端に作り出した氷弾を高速回転させ、風の渦巻に対して放つ。


(吹き飛べ!!)


高速回転した氷弾は風の渦巻に突っ込むと、風属性の魔力を四散させて吹き飛ばす。この時に偶然にも掻き消された風属性の魔力が地面の土砂を巻き上げて土煙を発生させる。


「うわっ!?」
「な、何だ!?何をしたんだ!?」
「落ち着きなさい!!私が吹き飛ばします!!」
「……今のうちに早く」
「分かってる!!」


土煙によってコオリ達は生徒会の視界から一時的に逃れ、この間に急ぎ足で逃走を計る。しかし、リンダは風属性の魔力を右腕に纏うと、彼女は空手の正拳突きの耐性で拳を放つ。


「嵐突き!!」
「うわぁっ!?」
「にゃっ!?」


拳の一突きでリンダは土煙を振り払うだけではなく、彼女が拳を貫いた方向に軽い衝撃波が発生してコオリとミイナは倒れ込む。かなりの距離が離れていたにも関わらず、コオリとミイナはすぐに立ち上がれない程の威力だった。

魔拳士でありながらリンダの風属性の魔拳は恐るべき威力を誇り、コオリとミイナは立ち上がれずに地面に倒れ込む。すぐに逃げなければならないのは分かっているが、身体が言う事を聞かない。


(まずい、このままだと捕まる!?)


身体の痛みを覚えながらもコオリは無理やりに立ち上がろうとするが、その間にも生徒会の生徒達は接近していた。


「ここまでです。大人しく捕まりなさい」
「さ、流石は副会長!!」
「さあ、これで終わりよ!!」
「くっ……」
「ううっ……」


生徒会の生徒達がコオリ達に追いついて杖を構えようとした時、不意にリンダは何かに気付いたように学生寮の屋根に視線を向ける。屋根には人影が存在し、それを確認したリンダは生徒達に注意した。


「気をつけて!!まだ仲間が……」
「スラッシュ!!」


リンダが生徒達に注意した瞬間、屋根に立っている人物は杖を構えて魔法を放つ。先ほどの生徒会の人間が放った風属性の魔法とは比べ物にならない大きさの風の斬撃が繰り出され、コオリ達と生徒会の間の地面に衝突した。


『うわぁあああっ!?』
「わあっ!?」
「にゃうっ!?」
「くっ……これほどの威力、まさか!?」


屋根の上の人物の魔法によって生徒会の生徒達はリンダを除いて吹き飛ばされ、一方でコオリとミイナは逃げる好機を掴む。リンダは二人を追いかけようとしたが、そんな彼女に対して屋根の上の人物が声をかける。
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