氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第96話 冒険者狩り

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「へえ、無詠唱でも大分魔法の威力が安定してきたじゃないかい。大したもんだね」
「へへへ、俺だって成長してるんすよ」
「く、くそっ!!呑気に話してんじゃねえよ!!女の方から先に捕まえろ!!」
「今度は油断するなよ!!」


三人の子供が全員魔術師だと知った盗賊達は急遽狙いを変更させ、バルルを取り囲んで武器を構える。彼女を捕まえて人質にすれば残りの三人も捕まえられると思っての判断だろうが、それは明らかに悪手だった。


「へえ、あたしの方から相手にする気かい?別にいいけどね、あんたら覚悟はできてるのかい?」
「ひっ!?な、何だこいつ……やばそうだぞ!!」
「お、怯えるな!!相手はたかが人間だ!!俺達の敵じゃねえっ!!」


バルルの迫力に盗賊達は気圧されそうになるが、この時に人間よりも身体能力が高い獣人族の盗賊達が前に出た。彼等は人間離れした身体能力の持ち主のため、たかが人間のしかも女性に負けるはずがないと思い込んでいた。

先に仲間が二人も倒された事もあって最初から手加減はせず、獣人族の男達は彼女を捕まえようと近づく。しかし、それに対してバルルは拳を構えると、不用意に接近した男の一人に踏み込む。


「おらぁっ!!」
「ふん、こんなもので……ぐへぇっ!?」
「あ、兄貴!?」


拳を繰り出そうとしてきたバルルに男の一人が掌を構えて彼女の攻撃を受け止めようとしたが、拳が触れる寸前にバルルは止まり、男の脛を踵で蹴りつける。単純なフェイントに引っかかった男は蹴りつけられた足を抑え、その隙を逃さずにバルルは膝蹴りを顔面に叩き込む。


「ふんっ!!」
「ぶふぅっ!?」
「あ、兄貴ぃっ!?」
「くそ、このアマ!!」


兄貴分の盗賊がやられた他の獣人族の盗賊は、今度は二人がかりでバルルを抑えつけようと左右から挟み撃ちを行う。しかし、それに対してバルルは冷静に右側から近付いてきた男に拳を繰り出す。


「うらぁっ!!」
「うおっ!?あ、危な……うわぁっ!?」
「ば、馬鹿!!何してるんだ!?」


繰り出された拳を躱した盗賊だったが、バルルは拳を振り抜く勢いを利用して相手の腰にしがみつき、タックルの要領で相手を押し倒す。そして倒れた男の顔面に拳を叩き込む。


「二人目!!」
「ふげぇっ!?」
「よ、よくも兄貴たちを!!もう容赦しねえ……あだぁっ!?」
「ていっ」


バルルが二人目の獣人族の盗賊を殴りつけて気絶させると、最後に残った獣人族の盗賊が彼女の背後から襲い掛かろうとした。しかし、攻撃を仕掛ける前にコオリが撃ち込んだ氷弾が頭に当たって気絶した。一応は殺さないように威力は調整しており、どうにか大怪我を負わせずに倒せた事にコオリは安堵した。

盗賊達はバルルに夢中になっていたが、離れた場所に立っているコオリ達は普通に盗賊に攻撃する事ができた。武器を携帯していなかったバルルを先に仕留めようと彼女に注目し過ぎたせいでコオリ達の存在を忘れていたのが敗因である。


「そ、そんな!?あいつらがやられるなんて……」
「や、やべえっ!!こいつらきっと腕利きの傭兵か冒険者だ!!」
「ずらかるぞ!!」
「逃がすと思ってんのかい!?あんたら、全員捕まえな!!」
「その台詞だと、まるで私達が盗賊みたい」
「あははっ……」
「たく、人間相手だと手加減が難しいってのに……」


逃げ出そうとする盗賊達をバルルは捕まえるためにコオリ達に命じると、三人は仕方なく彼女の言う通りに動く――




――数分後、バルルにボコボコにされて顔が腫れあがった盗賊達が縄で縛りつけられた状態で橋の上で座り込む。宣言通りにバルルは盗賊達を一人残らず捕まえ、彼等の馬車の中にあった縄で縛り付ける。恐らくは人攫い用の縄であり、皮肉にも盗賊達は自分達の用意した道具で自分達が拘束される羽目になった。


「えっと……あ、あった。あんたらも賞金首だったんだね、といってもどいつもこいつも大した金額じゃないね」
「「「…………」」」


バルルは賞金首の手配書を取り出すと男達の顔を確認し、顔が腫れあがっているので調べるのに少し時間が掛かったが、盗賊の何人かが賞金首だと判明する。

値段の方は銀貨数枚程度でコオリとミイナが以前に捕まえた盗賊と比べると値段は大幅に下がるが、それでも賞金首として指名手配されるほどの盗賊がどうしてこんな場所で人攫いをしているのかをバルルは尋ねる。


「あんたら、どうしてこんな滅多に人が来ない場所で人攫いなんてやってるんだい?」
「う、うるせえっ!!」
「口の利き方がなってないね」
「ひっ!?や、止めてくれ!?」
「何だ、この女は!?本当に人間か?」
「女にしてはガタイがいいから、もしかしたら男じゃ……ぐふぅっ!?」
「どうやら殺されたいようだね!!」
「師匠!?駄目です、それ以上したら死んじゃいます!!」
「大丈夫、死んでも賞金額は変わらない」
「そういう問題じゃねえだろ!?」


生意気な口を叩く盗賊にバルルは鉄拳を喰らわせ、本当に盗賊が死んでしまうかもしれないのでコオリとバルトは二人がかりでバルルを抑えつけた――




――捕まえた盗賊を連れて王都へ帰還すると、バルルは警備兵に盗賊を突き出す。賞金首も混じっていたので賞金の受け取りに多少の時間は掛かったが、昼前には報酬を受け取る事ができた。


「今回の賞金はあたしが半分貰うよ。あんたらは残りを三等分にしな」
「え、いいんですか?」
「先生が一人で捕まえたみたいなもんじゃないですか?」
「いいんだよ、一応はあんた等も手伝ってくれたからね」
「わぁいっ」


盗賊をほぼ一人で倒したのはバルルだが、彼女はコオリ達にもしっかりと報酬を分配した。金額自体はそれほど多いわけではないが、今月分孤児院の仕送りには十分な額だった。


(皆、元気にしてるかな?)


コオリが孤児院に仕送りするのは残してきた子供達のためであり、子供の中でも一番の年上で子供達の面倒を見ていた自分がいなくなったため、孤児院の人たちは苦労しているはずだった。そんな人たちのためにコオリは毎月の仕送りを怠らない。

その一方でコオリがお金を稼ぎたい理由は仕送りのためだけではなく、魔術師というのは魔石や杖などの装備を整えるのにお金が掛かる事を知り、今後の事を考えてもっと稼いでおかなければならない。特に魔石は高級品として扱われているので魔石を購入できるぐらいは稼げるようにならないといけない。


「師匠、これからも魔物を買って冒険者ギルドに売るんですか?」
「ああ、その事なんだけどね……実はその事に関してギルドマスターと話し合う必要があるんだよ」
「えっ!?ランファさんに!?」
「おいおい、お前等冒険者ギルドのマスターと知り合いなのか?」


バルルの言葉にコオリは驚き、一方でバルトはコオリ達がギルドマスターと知り合いだった事に驚いた。バルルによれば王都へ戻ったらギルドマスターの元に赴く予定だったらしく、盗賊の件で遅れてしまったが今からでも冒険者ギルドに向かうらしい。


「あたしはギルドの方に顔を出してくるよ。あんたらはもう帰りな、宿題があるだろう?」
「げっ」
「……白狼山に戻りたい」
「戻ったって宿題がある事に変わりないんだよ。コオリ、こいつらがサボらないように見張りな。逃げ出そうとしたらあんたが止めるんだよ」
「だ、大丈夫ですよ。ね、二人とも?」
「「…………」」
「無言は辞めてよ!?」


学生であるコオリ達は長期休暇の宿題を行うために学生寮に戻ると、それを見送ったバルルは冒険者ギルドへと向かう――





――冒険者ギルドにバルルが到着すると、彼女は建物に中に入ると妙に騒がしい事に気付いた。冒険者やギルドの受付嬢が忙しなく動き回り、何事か起きたのかを問い質す。


「おい、何があったんだい?」
「すいません、忙しいんです!!後にしてください!!」
「いや、私が話そう」
「えっ……ギ、ギルドマスター!?」


通りすがりの冒険者に話を尋ねようとしたバルルだったが、何処からかギルドマスターのランファが現れて代わりに説明を申し出る。ギルドマスターはバルルを連れて奥へ連れて行くと、単刀直入にバルルは何が起きているのかを尋ねる。


「いったい何だってんだい、この騒ぎは?」
「実はな……冒険者狩りが現れた」
「冒険者狩り?なんだいそりゃ……」
「お前は知らないのも無理はない。お前が冒険者だった時には姿を現わさなかったからな」
「どういう意味だい?」


ランファの言い回しにバルルは気にかかり、話を聞くところによると「冒険者狩り」と呼ばれる存在はバルルが冒険者になる前から存在する犯罪者らしい。

場所をギルドマスターの部屋へと移動すると、ランファはとりあえずはバルルを座らせて詳しく説明を行う。冒険者狩りと呼ばれる存在が現れたのは今から数十年も前の話だと語る。


「冒険者狩りが現れたのは私がギルドマスターになる前、先々代のギルドマスターの時代に現れたらしい。名前の由来通り、冒険者狩りは冒険者を標的にする犯罪者だ」
「そいつは命知らずな奴だね」


冒険者は魔物を狩る程の実力者揃いであり、並の傭兵よりも腕は立つ者が多い。しかも冒険者に手を出せばギルドが黙っているはずがなく、大抵の犯罪者は冒険者の事を避けている。それにも関わらずに冒険者狩りはこれまでに何十人もの冒険者を葬ってきたという。


「冒険者狩りの目的は分からないが、奴は銀級以上の冒険者を狙う事が多い」
「何だって!?じゃあ、これまでに殺された奴等は……」
「そうだ、一流と呼ばれる冒険者ばかりを奴は狙う。それでいながら銅級や鉄級の冒険者は今まで一人も被害が出ていない。奴が狙うのはあくまでも冒険者の中でも腕の立つ人間という事になる」
「ちっ、そんな奴がいたなんてね。でも、どうしてあたしは知らなかったんだい?」


バルルが冒険者になる前から存在した犯罪者ならば自分が知らない事に疑問を抱くが、ランファによれば冒険者狩りは一時期の間、姿を全く現さなかった事が判明した。
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