氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第95話 盗賊

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「ほれ、できあがったぞ!!」
「おおっ、相変わらず仕事が早いね」
「わあっ……凄いですね」
「お、俺の分までいいのか?」
「やった」


病み上がりにも関わらずにアルルは一日も立たずにコオリ達の装備を作り上げ、それぞれに渡す。約束通りにコオリとバルトには赤毛熊の毛皮から剥ぎ取ったマントを渡し、一方でミイナの方は赤毛熊の爪を利用した鉤爪を渡す。

ミイナの「炎爪」は両手に火属性の魔力を纏わせて獣の爪の形にさせるが、鉤爪などに纏わせると焦げてしまう。しかし、アルルが特別に加工した鉤爪は火属性の魔力に耐性があるため、炎を纏っても焦げ跡さえ残らない。


「お前等に渡したマントと鉤爪は熱に対して耐性があるからな。それを身に付けていればある程度の炎熱は防ぐ事ができるはずだ」
「流石はドルトンの師匠だね。良かったじゃないかい、あんたら」
「へえ、中々格好いいな」
「これ、気に入った」
「ありがとうございます!!」


アルルに渡された装備をコオリ達は早速身に付けると、この時にコオリは自分のマントにだけ刺繍が施されている事に気付く。刺繍は狼の顔が施されており、ギンと瓜二つだった。


「あれ、この刺繍は?」
「へへへ、ギンの奴が一番お前さんに懐いていたからな……これさえあれば何時でもギンの事を思い出せるだろう?こいつの事が恋しくなったら何時でも来い」
「クゥ~ンッ」


ギンはマントに施された刺繍を見て嬉しそうに尻尾を振り、そんな彼にコオリは頭を撫でる。装備を受け取るとバルルは王都への帰還を促す。


「さあ、行くよあんた等!!もうそろそろ長期休暇も終わるからね、それまでに王都に戻って宿題を終わらせな!!」
「げえっ……そういえばすっかり忘れてたな」
「宿題はもうやだ……」
「て、手伝うから頑張ろうよ」
「何だ、もう戻るのか……また暇ができたらこっちに来いよ。お前等ならいつでも大歓迎だ!!」
「ウォンッ!!」


コオリ達は馬車に乗り込むとアルルとギンに見送られ、白狼山から立ち去った――





――同時刻、王都の酒場にてタンは盗賊と密会していた。相手は盗賊ギルドの幹部である「リク」であり、彼等は定期的に顔を合わせて情報交換を行っていた。


「まだ奴の居場所は突き止められないのか?」
「む、無茶を言うな……あの御方の居場所を知っているのは学園長だけだ」
「ちっ……役立たずが」


タンから提示された資料を確認したリクは舌打ちし、彼が受け取った資料には月の徽章が与えられた二人の生徒の情報が記されていた。盗賊ギルドとしては現在は学園を休学している方の生徒の情報を知りたかったのだが、学園の教師であるタンも休学中の生徒の居場所は知らされていない。

盗賊ギルドの目的が分からないタンはどうして彼等が二人の生徒の素性と動向を調べようとしているのか分からない。しかし、追い詰められたタンは盗賊ギルドの言う事を聞くしかなく、彼等に頼み込む。


「れ、例の約束は忘れていないだろうな?」
「約束だと?」
「そ、そうだ!!お前達に情報を提供する、その代わりにを始末すると言っただろう!!」
「ああ、その事か……安心しろ、約束は守ってやる。だが、この程度の情報しか集められないようであれば約束の実行はまだまだ先だな」
「そ、そんな!?」


リクの言葉にタンは席を立ちあがるが、この時に彼の周囲に座っていた客全員がタンに視線を向けた。その視線に気づいたタンは冷や汗を流し、この酒場にいる客全員が盗賊ギルドに所属する人間である事を思い出す。


「無暗に騒ぐな、いくらここにいるのが俺の部下達だと言っても外にまで声が響いたらまずい」
「す、すまん」
「安心しろ、情報提供をしている間は我々はお前の味方だ。だが、次に会う時までに有力な情報を持ってこなければお前の命はないと思え」
「そ、そんな!?話が違うではないか!!」
「殺されたくなければ死に物狂いで情報を集める事だな……期限は三日、それまでに情報を集めて来い」
「く、くそぉっ……」


タンはリクの言葉に身体を震わせるが、もう彼は盗賊ギルドには逆らえない。もしも彼等を裏切ればどんな目に遭うのかは想像したくもなく、急ぎ足で酒場を立ち去った。彼がいなくなると盗賊の一人がリクに耳打ちする。


「リクさん、本当にあの男が有益な情報を盛ってきたら約束を果たすんですか?」
「ああ、約束したからな。約束は守らなければならないだろう?」
「しかし……」
「案ずるな」


リクは心配する盗賊に笑みを浮かべ、次の期限までにタンがどんな情報を持ってくる事を期待する――





――白狼山を離れてコオリ達は王都へ向かう途中、馬車は川を通る事が何度かあった。川を通る際は橋を利用するのだが、王都へ到着間近という時に川の上の橋に一台の大きな馬車が停まっていた。


「何だい、ありゃ?邪魔くさいね……」
「商人の馬車か?」
「でも、様子がおかしい」
「何があったんだろう?」


橋を渡る途中でコオリ達は大きな馬車が停まっている事に気付き、これでは橋を渡る事はできなかった。バルルは面倒くさそうに前に停止する馬車に声をかけた。


「ちょっと!!こんな橋ど真ん中で停まってるんじゃないよ!!さっさと進みな!!」
「……へへっ、すいませんね。ちょいと車輪の部分が壊れまして」


馬車の御者と思われる男性が停止した馬車の車輪の前で膝を突き、バルルが声をかけると頭を下げてきた。その様子を見て馬車が不具合を引き起こして止まっているのかとコオリは思ったが、この時にミイナは鼻を鳴らして目を鋭くさせる。


「何だい、馬車の修理ならこんな場所でなくてもいいだろ」
「いや、橋を渡る途中で急に車輪がいかれて……運び出そうとにも乗っているのは私だけなんでここで修理するしかないんですよ」
「ちっ、面倒な事になったね……」


御者の言葉にバルルはため息を吐き出し、彼女は馬車を降りて近付こうとした。しかし、ミイナは御者を睨んでコオリとバルトに耳打ちする。


「あの男、嘘をついている。馬車の中に他の人間の臭いがする」
「何だと?」
「それ、本当なの?」
「私の鼻は誤魔化せない」


バルトとコオリはミイナの言葉に驚いたが、彼女の嗅覚の鋭さは良く知っているので疑う余地はない。そもそも大きな馬車に御者が一人だけ乗っている事が怪しく、都合よく橋の途中で馬車が壊れたとは考えにくい。

御者が嘘をついている事、そして橋の真ん中で馬車が停まっている事自体が怪しく、コオリ達は何時でも戦えるように杖と魔法腕輪を装着した。そしてバルルが馬車に近付くと、彼女は車輪の様子を伺う。


「何だい、別にどこも壊れていないじゃないかい?」
「へへっ、そう見えますか?でも本当に動かないんですよ」
「たく、あたしに見せてみな」


車輪を確かめるためにバルルは身体を掻かめると、その隙に御者は彼女の背後に回る。この時に御者は懐に手を伸ばし、隠し持っていた短剣を取り出す。それを見たコオリは咄嗟に三又の杖ではなく、小杖を取り出して御者に構えた。


「師匠!!危ない!!」
「うおっ!?」
「あん?」


咄嗟にコオリはバルルを助けるために小杖から氷塊を発射させ、御者がバルルの背中を突き刺そうとした瞬間に氷弾が短剣を防ぐ。自分の短剣が防がれた御者は焦った表情を浮かべ、一方でバルルの方は自分を狙った男に振り返って蹴りを放つ。


「ちっ、やっぱり盗賊かい!!」
「ぐへぇっ!?」


バルルに蹴り飛ばされた男は橋から叩き落され、川の中に沈んでしまう。幸い橋といってもそれほど高くはないので落とされても死ぬ事はないが、御者が川に落ちた事で馬車の中に隠れていた他のが姿を現わす。


「ちっ、しくじりやがったか!!」
「気をつけろ、どうやら魔術師がいるぞ!!」
「捕まえたら高く売れるぜ!!」
「うわっ!?どんだけ隠れてたんだよ!?」


馬車の中には十人近くの盗賊が隠れていたらしく、その中には人間だけではなくて獣人族の姿もちらほらと見えた。盗賊が現れるとコオリ達も馬車を降りて武器を構え、バルルは指の骨を鳴らす。


「はんっ、あたし達を狙うなんて良い度胸だね。全員とっ捕まえて警備兵に突き出してやるよ」
「舐めるなよ婆が!!ぶっ殺して……」
「誰が婆だ!!」
「ぐはぁっ!?」


盗賊の一人がバルルの逆鱗に触れてしまい、彼女は容赦なく股間に蹴りを叩き込む。それによって盗賊の一人が股間を抑えて橋の上にへたり込み、泡を吹いて気絶した。

容赦なく男の急所を蹴りつけたバルルに味方であるはずのコオリとバルトも表情を引きつらせ、一方でミイナの方は新しく手に入れた鉤爪を装着する。こちらの鉤爪は赤毛熊の素材が使われており、炎に対する耐性があるので遠慮せずに彼女は炎爪を発動させた。


「炎爪」
「うおっ!?こ、こいつら……ただのガキじゃねえ!!きっと魔法学園の生徒だ!!」
「マジかよ!?くそっ、油断するなよ!!」
「へっ、関係ねえよ!!魔術師だろうがなんだろうがこいつで一発だ!!」


先ほどのコオリの魔法とミイナが武器に炎を纏った事で正体が知られてしまうが、相手が魔術師だと知っても盗賊は逃げる様子はない。むしろ盗賊の一人はボーガンを持ち出し、狙いを定めた。


「特製の痺れ薬を塗ったボーガンだ!!喰らいやがれ!!」
「こいつら馬鹿だろ、いちいち説明するんじゃねえよ!!」
「えっ……ぐはぁっ!?」


ボーガンを構えた盗賊に向けてバルトは杖を振り下ろすと、彼は風属性の攻撃魔法「スラッシュ」を無詠唱で放ち、ボーガンを構えていた男を吹き飛ばす。
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