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王都での日常
第89話 思わぬ再会
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(そういえばあの子……何処に行ったのかな?)
昨夜に訪れた白狼種の子供の事を思い出したコオリは窓に視線を向け、昨日の夜はここから白狼種の子供の姿を確認した。今回も同じように外を眺めてみるが、白狼種の子供の姿はない。
昨日は雨が降っていたので白狼種の子供は雨宿りするためだけに辿り着いたのかもしれず、今日は雨も降っていないので戻ってくることはないかと思ったが、窓の下から聞き覚えのある鳴き声が響く。
「ウォンッ!!」
「うわっ!?」
驚いたコオリが窓の外の下側を見ると、そこには座り込んだ白狼種の子供の姿があった。どうやらコオリの部屋の前で休んでいたらしく、彼が窓から身を乗り出すと嬉しそうに尻尾を振って見上げてくる。
「クゥ~ンッ」
「お、驚いた……また来たのか」
昨夜の出来事がやはり夢ではない事を証明され、戸惑いながらもコオリは窓から身を乗り出して白狼種の子供の前に立つ。人間を前にしても白狼種の子供は怯える様子はなく、むしろ嬉しそうに擦り寄ってきた。
「よしよし、遊んでほしいのか?」
「ウォンッ」
「といっても今は遊んでいる暇はないんだけどな……」
昔からコオリは動物に好かれやすく、特に犬猫から懐かれやすかった。そのために犬をあやすのが得意なので白狼種の子供を撫でまわすと、嬉しそうに白狼の子供はお腹を見せつけてきた。
「ウォンッ!!」
「お~よしよし、可愛い奴だな」
「……コオリ、何してるの?」
「わっ!?びっくりした!!」
後ろから声を掛けられたコオリは振り返ると、そこには隣室の部屋に寝泊まりしているミイナの姿があった。彼女は窓から身を乗り出してコオリと白狼種の子供に気付き、自分も外に降りて白狼種の子供に手を伸ばす。
「この子が昨日、コオリが見つけたと言っていた白狼種の子供?」
「うん、そうだけど……」
「ワフフッ(←くすぐったい)」
コオリとミイナの二人がかりでお腹を摩られた白狼種の子供はくすぐったそうな声を上げ、伝説の魔獣と呼ばれた狼にしは人懐っこい性格らしい。しばらくの間は二人に撫でられながら戯れる。
バルルから早く帰り支度をするように言われているが、唐突に戻ってきた白狼種の子供にかまけて二人は準備を忘れる。ひとしきり撫でまわすとコオリとミイナは並んで座り、白狼種の子供はコオリの背中に乗っかった。
「クゥ~ンッ」
「おっとっと……まだ遊び足りないのかな?」
「この子、甘えん坊。まだ子供みたい」
「子供か……お前の親は何処にいるんだ?」
「クゥンッ……」
ある程度の人間の言葉を理解できるのか、コオリの質問に白狼種の子供は寂しそうな表情を浮かべて犬耳と尻尾が下げる。それを確認したコオリは不思議に思いながらも白狼種の子供を抱きかかえると、名前を付ける事にした。
「そうだ、名前を付けてあげるよ。えっと……ウルはどう?」
「クゥンッ?」
「ピンと来てないみたい」
「ならビャクかハクは?」
「ウォンッ……」
「それも嫌みたい」
「そうか……ん?」
名前を考えている時に白狼種の子供の毛皮を見て日の光に当たると白色というよりも銀色に見えたのでコオリは名前を思いつく。
「それじゃあ……ギンでどうかな?」
「ウォオンッ!!」
「わっ……気に入ったみたい」
ギンと名付けた瞬間に白狼種の子供は嬉しそうな鳴き声を上げ、コオリの顔を舌で舐め尽くす。これからは白狼種の子供の事を「ギン」と呼ぶ事に決めると、コオリはギンを離して頭を撫でた。
「よろしくね、ギン」
「私もよろしく、ギンちゃん」
「ウォンッ!!」
「おい、お前等さっきから何を……うおっ!?お、狼!?」
騒ぎを聞きつけたバルトが顔を出すと、彼はギンの姿を見て驚いた。少し騒ぎ過ぎたかとコオリは謝罪しようとした時、不意に彼はアルルとバルルの姿がない事に気付いた。
「あれ?先輩、アルルさんと師匠は?」
「あ、ああ……あの二人は周辺を見てくると言って出て行ったぞ。もしも赤毛熊がここまで乗り込んできた時に備えて罠を用意するとも言っていたな」
「罠?」
「あの爺さんは別に一人で大丈夫だと言い張ってたんだけどな、先生がどうしても一緒に行くと言い出して二人で出て行ったよ。まあ、心配する事はないだろ。すぐに帰ってくるさ」
「そうですか……」
「クゥ~ンッ?」
アルルがバルルと共に出ていった事を知ってコオリは安堵し、もしも彼が長年求め続けた白狼種の子供がここにいる事を知られたら厄介事に巻き込まれそうになる。アルルはどんな動物だろうと子供ならば手を出さないらしいが、もしもギンの親が生きているのならば彼にとっては標的の対象となりえる。
家を出て行ったアルルとバルルが戻ってくる前にコオリはギンを逃がそうかと思ったが、山の中を子供だけで勝手に動き回る事は禁じられている。この山には魔物は住み着いていないが猪などは生息しているため、無暗に歩き回るのは危険過ぎた。仕方がないのでコオリは二人が戻ってきた時はギンを馬車の中に隠し、自分達が家から出ていくときにこっそりと逃がす事にした――
――だが、時刻は昼を迎えてもアルルとバルルは戻っては来なかった。残されたコオリ達は二人が戻るまでギンと遊ぶ事にした。彼と一緒に居られるのもこの山にいる間だけのため、思い出作りも兼ねて遊んだ。
「ほら、取ってこい!!」
「ウォンッ!!」
コオリは小杖を取り出して円盤型の氷塊を作り出し、それをギンに見せつけてから放つ。ギンはコオリの元を離れて飛んでいく円盤を追いかけ、十数メートルほど離れた場所で円盤を口に咥える。そしてすぐにコオリの元に戻って円盤を差し出す。
「クゥ~ンッ」
「よしよし、大分上手くなったな」
「こうしてみると狼というよりも犬だな……」
「コオリ、次は私の番……早く投げて」
「って、お前が取る側かよ!?」
代わり代わりでコオリ達はギンに氷で造り出した円盤を放ち、それを回収させてくる遊びを行う。ギンは嬉しそうに何度も円盤に嚙り付くが、流石にお腹が空いて来たのかコオリに擦り寄ってきた。
「ウォンッ、ウォンッ!!」
「わ、どうしたの急に……」
「腹が減ってんじゃないのか?」
「馬車に昨日狩った魔物の肉が残ってたはず」
「そうか、なら待っててね」
昨夜と同じようにコオリは馬車の中に保管していた魔物の素材の中からギンが食べられそうな物を探そうとした時、不意にギンは何かに気付いたように唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「わっ!?ど、どうしたの?そんなにお腹減ってるの?」
「……違う、何かに気付いたみたい」
「何かって……なんだよ?」
急に唸り声を上げたギンにコオリとバルトは驚いたが、すぐにミイナだけは異変を察知したように彼女は魔法腕輪を取り出す。獣人族であるミイナは人間よりも聴覚や嗅覚が優れているため、彼女はいち早く戦闘態勢に入った。
ミイナの様子を見てコオリとバルトも慌てて小杖を取り出すと、二人が視線を向ける方向に顔を向けた。何かやってくるのかと待ち受けると、予想外の光景が映し出される。
「はあっ、はあっ……くそ、しっかりしな爺さん!!」
「うぐぐっ……」
コオリ達の視界に現れたのは血塗れのアルルを背負って運ぶバルルの姿であり、彼女も右腕から血を流していた。傷を負って戻ってきた二人を見てコオリ達は慌てて駆けつけた。
「し、師匠!?それに……アルルさん!?」
「ど、どうしたんだその怪我!?」
「まさか……!?」
「説明は後だ!!それより爺さんを早く部屋の中に!!」
バルルは相当に焦っているのかコオリ達の傍に控えるギンにも目をくれず、彼女は家の中にアルルを運び込む。そして長机の上に彼を横たわらせると、傷の具合を確認してコオリに指示を出す。
「コオリ!!あたしの部屋から回復薬を取ってきな!!」
「回復薬って……あの緑色の?」
「そうだよ、瓶に入っている奴さ!!さっさとしな!!」
「は、はい!!」
急かされたコオリはバルルの部屋に駆け込むと、彼女の荷物の中から緑色の液体が入った瓶を取り出す。こちらは回復薬と呼ばれる代物でコオリがよく飲んでいる「魔力回復薬」は魔力の回復を促す効果を持つが、こちらの回復薬の場合は自然治癒力を高める効果を持つ。
回復薬は飲めば疲労回復の効果があり、傷口に直接注げば自然治癒力を高めて怪我を治す事もできる。但し、怪我をした状態で飲ませても意味はなく、あくまでも怪我の場合は傷口に注がなければ効果を発揮しない。
「持ってきました!!」
「ああ、助かったよ。爺さん、少し痛むけど我慢しな……」
「ぐううっ!?」
アルルに猿ぐつわを噛ませると、バルルは彼の背中の傷口に回復薬を注ぎ込む。アルルは苦し気な表情を浮かべるが、徐々に痛みが和らいできたのか表情が緩み、最終的に意識を失う。
回復薬を注いだ後は怪我の跡すら残っておらず、完璧に元の状態に戻っていた。それを見たコオリ達は安堵するが、すぐにバルルは負傷した自分の右腕にも回復薬を注ぐ。
「うぐぅっ……ふうっ、ふうっ」
「しっ、師匠……大丈夫ですか?」
「平気だよ、これぐらい……いつつっ」
右腕の負傷を回復薬で治したバルルだったが、痛みが引くまで多少の時間はかかるらしく、椅子に座り込んで痛みが引くのを待つ。その間にコオリ達は何が起きたのかを問う。
「師匠、何があったんですか!?」
「まさか、また奴に……」
「山を下りたの?」
「……たくっ、油断してたよ。冒険者を辞めて勘が鈍っちまったかね」
コオリ達の質問にバルルは苦笑いを浮かべ、彼女は何が起きたのかを話し始めた――
――アルルと共に彼女は山の様子を確認するために出向いたが、ある場所で二人はまたもや惨殺された猪の死体を発見した。。
二人が見つけた猪は一撃で殺されたらしく、胴体の部分には熊の爪痕が残っていた。しかも発見された死体は白狼山の中腹部であったため、この事から二人は赤毛熊が山を登って猪を殺したと判断した。
本来であれば魔物が近付けないはずの白狼山に赤毛熊が現れ、しかも麓から中腹部まで登ってきた赤毛熊に戦慄した。赤毛熊が山に登れるという事はもう白狼山は魔物が立ち寄れない安全地帯ではなくなり、すぐに二人は家に引き返そうとした。
昨夜に訪れた白狼種の子供の事を思い出したコオリは窓に視線を向け、昨日の夜はここから白狼種の子供の姿を確認した。今回も同じように外を眺めてみるが、白狼種の子供の姿はない。
昨日は雨が降っていたので白狼種の子供は雨宿りするためだけに辿り着いたのかもしれず、今日は雨も降っていないので戻ってくることはないかと思ったが、窓の下から聞き覚えのある鳴き声が響く。
「ウォンッ!!」
「うわっ!?」
驚いたコオリが窓の外の下側を見ると、そこには座り込んだ白狼種の子供の姿があった。どうやらコオリの部屋の前で休んでいたらしく、彼が窓から身を乗り出すと嬉しそうに尻尾を振って見上げてくる。
「クゥ~ンッ」
「お、驚いた……また来たのか」
昨夜の出来事がやはり夢ではない事を証明され、戸惑いながらもコオリは窓から身を乗り出して白狼種の子供の前に立つ。人間を前にしても白狼種の子供は怯える様子はなく、むしろ嬉しそうに擦り寄ってきた。
「よしよし、遊んでほしいのか?」
「ウォンッ」
「といっても今は遊んでいる暇はないんだけどな……」
昔からコオリは動物に好かれやすく、特に犬猫から懐かれやすかった。そのために犬をあやすのが得意なので白狼種の子供を撫でまわすと、嬉しそうに白狼の子供はお腹を見せつけてきた。
「ウォンッ!!」
「お~よしよし、可愛い奴だな」
「……コオリ、何してるの?」
「わっ!?びっくりした!!」
後ろから声を掛けられたコオリは振り返ると、そこには隣室の部屋に寝泊まりしているミイナの姿があった。彼女は窓から身を乗り出してコオリと白狼種の子供に気付き、自分も外に降りて白狼種の子供に手を伸ばす。
「この子が昨日、コオリが見つけたと言っていた白狼種の子供?」
「うん、そうだけど……」
「ワフフッ(←くすぐったい)」
コオリとミイナの二人がかりでお腹を摩られた白狼種の子供はくすぐったそうな声を上げ、伝説の魔獣と呼ばれた狼にしは人懐っこい性格らしい。しばらくの間は二人に撫でられながら戯れる。
バルルから早く帰り支度をするように言われているが、唐突に戻ってきた白狼種の子供にかまけて二人は準備を忘れる。ひとしきり撫でまわすとコオリとミイナは並んで座り、白狼種の子供はコオリの背中に乗っかった。
「クゥ~ンッ」
「おっとっと……まだ遊び足りないのかな?」
「この子、甘えん坊。まだ子供みたい」
「子供か……お前の親は何処にいるんだ?」
「クゥンッ……」
ある程度の人間の言葉を理解できるのか、コオリの質問に白狼種の子供は寂しそうな表情を浮かべて犬耳と尻尾が下げる。それを確認したコオリは不思議に思いながらも白狼種の子供を抱きかかえると、名前を付ける事にした。
「そうだ、名前を付けてあげるよ。えっと……ウルはどう?」
「クゥンッ?」
「ピンと来てないみたい」
「ならビャクかハクは?」
「ウォンッ……」
「それも嫌みたい」
「そうか……ん?」
名前を考えている時に白狼種の子供の毛皮を見て日の光に当たると白色というよりも銀色に見えたのでコオリは名前を思いつく。
「それじゃあ……ギンでどうかな?」
「ウォオンッ!!」
「わっ……気に入ったみたい」
ギンと名付けた瞬間に白狼種の子供は嬉しそうな鳴き声を上げ、コオリの顔を舌で舐め尽くす。これからは白狼種の子供の事を「ギン」と呼ぶ事に決めると、コオリはギンを離して頭を撫でた。
「よろしくね、ギン」
「私もよろしく、ギンちゃん」
「ウォンッ!!」
「おい、お前等さっきから何を……うおっ!?お、狼!?」
騒ぎを聞きつけたバルトが顔を出すと、彼はギンの姿を見て驚いた。少し騒ぎ過ぎたかとコオリは謝罪しようとした時、不意に彼はアルルとバルルの姿がない事に気付いた。
「あれ?先輩、アルルさんと師匠は?」
「あ、ああ……あの二人は周辺を見てくると言って出て行ったぞ。もしも赤毛熊がここまで乗り込んできた時に備えて罠を用意するとも言っていたな」
「罠?」
「あの爺さんは別に一人で大丈夫だと言い張ってたんだけどな、先生がどうしても一緒に行くと言い出して二人で出て行ったよ。まあ、心配する事はないだろ。すぐに帰ってくるさ」
「そうですか……」
「クゥ~ンッ?」
アルルがバルルと共に出ていった事を知ってコオリは安堵し、もしも彼が長年求め続けた白狼種の子供がここにいる事を知られたら厄介事に巻き込まれそうになる。アルルはどんな動物だろうと子供ならば手を出さないらしいが、もしもギンの親が生きているのならば彼にとっては標的の対象となりえる。
家を出て行ったアルルとバルルが戻ってくる前にコオリはギンを逃がそうかと思ったが、山の中を子供だけで勝手に動き回る事は禁じられている。この山には魔物は住み着いていないが猪などは生息しているため、無暗に歩き回るのは危険過ぎた。仕方がないのでコオリは二人が戻ってきた時はギンを馬車の中に隠し、自分達が家から出ていくときにこっそりと逃がす事にした――
――だが、時刻は昼を迎えてもアルルとバルルは戻っては来なかった。残されたコオリ達は二人が戻るまでギンと遊ぶ事にした。彼と一緒に居られるのもこの山にいる間だけのため、思い出作りも兼ねて遊んだ。
「ほら、取ってこい!!」
「ウォンッ!!」
コオリは小杖を取り出して円盤型の氷塊を作り出し、それをギンに見せつけてから放つ。ギンはコオリの元を離れて飛んでいく円盤を追いかけ、十数メートルほど離れた場所で円盤を口に咥える。そしてすぐにコオリの元に戻って円盤を差し出す。
「クゥ~ンッ」
「よしよし、大分上手くなったな」
「こうしてみると狼というよりも犬だな……」
「コオリ、次は私の番……早く投げて」
「って、お前が取る側かよ!?」
代わり代わりでコオリ達はギンに氷で造り出した円盤を放ち、それを回収させてくる遊びを行う。ギンは嬉しそうに何度も円盤に嚙り付くが、流石にお腹が空いて来たのかコオリに擦り寄ってきた。
「ウォンッ、ウォンッ!!」
「わ、どうしたの急に……」
「腹が減ってんじゃないのか?」
「馬車に昨日狩った魔物の肉が残ってたはず」
「そうか、なら待っててね」
昨夜と同じようにコオリは馬車の中に保管していた魔物の素材の中からギンが食べられそうな物を探そうとした時、不意にギンは何かに気付いたように唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「わっ!?ど、どうしたの?そんなにお腹減ってるの?」
「……違う、何かに気付いたみたい」
「何かって……なんだよ?」
急に唸り声を上げたギンにコオリとバルトは驚いたが、すぐにミイナだけは異変を察知したように彼女は魔法腕輪を取り出す。獣人族であるミイナは人間よりも聴覚や嗅覚が優れているため、彼女はいち早く戦闘態勢に入った。
ミイナの様子を見てコオリとバルトも慌てて小杖を取り出すと、二人が視線を向ける方向に顔を向けた。何かやってくるのかと待ち受けると、予想外の光景が映し出される。
「はあっ、はあっ……くそ、しっかりしな爺さん!!」
「うぐぐっ……」
コオリ達の視界に現れたのは血塗れのアルルを背負って運ぶバルルの姿であり、彼女も右腕から血を流していた。傷を負って戻ってきた二人を見てコオリ達は慌てて駆けつけた。
「し、師匠!?それに……アルルさん!?」
「ど、どうしたんだその怪我!?」
「まさか……!?」
「説明は後だ!!それより爺さんを早く部屋の中に!!」
バルルは相当に焦っているのかコオリ達の傍に控えるギンにも目をくれず、彼女は家の中にアルルを運び込む。そして長机の上に彼を横たわらせると、傷の具合を確認してコオリに指示を出す。
「コオリ!!あたしの部屋から回復薬を取ってきな!!」
「回復薬って……あの緑色の?」
「そうだよ、瓶に入っている奴さ!!さっさとしな!!」
「は、はい!!」
急かされたコオリはバルルの部屋に駆け込むと、彼女の荷物の中から緑色の液体が入った瓶を取り出す。こちらは回復薬と呼ばれる代物でコオリがよく飲んでいる「魔力回復薬」は魔力の回復を促す効果を持つが、こちらの回復薬の場合は自然治癒力を高める効果を持つ。
回復薬は飲めば疲労回復の効果があり、傷口に直接注げば自然治癒力を高めて怪我を治す事もできる。但し、怪我をした状態で飲ませても意味はなく、あくまでも怪我の場合は傷口に注がなければ効果を発揮しない。
「持ってきました!!」
「ああ、助かったよ。爺さん、少し痛むけど我慢しな……」
「ぐううっ!?」
アルルに猿ぐつわを噛ませると、バルルは彼の背中の傷口に回復薬を注ぎ込む。アルルは苦し気な表情を浮かべるが、徐々に痛みが和らいできたのか表情が緩み、最終的に意識を失う。
回復薬を注いだ後は怪我の跡すら残っておらず、完璧に元の状態に戻っていた。それを見たコオリ達は安堵するが、すぐにバルルは負傷した自分の右腕にも回復薬を注ぐ。
「うぐぅっ……ふうっ、ふうっ」
「しっ、師匠……大丈夫ですか?」
「平気だよ、これぐらい……いつつっ」
右腕の負傷を回復薬で治したバルルだったが、痛みが引くまで多少の時間はかかるらしく、椅子に座り込んで痛みが引くのを待つ。その間にコオリ達は何が起きたのかを問う。
「師匠、何があったんですか!?」
「まさか、また奴に……」
「山を下りたの?」
「……たくっ、油断してたよ。冒険者を辞めて勘が鈍っちまったかね」
コオリ達の質問にバルルは苦笑いを浮かべ、彼女は何が起きたのかを話し始めた――
――アルルと共に彼女は山の様子を確認するために出向いたが、ある場所で二人はまたもや惨殺された猪の死体を発見した。。
二人が見つけた猪は一撃で殺されたらしく、胴体の部分には熊の爪痕が残っていた。しかも発見された死体は白狼山の中腹部であったため、この事から二人は赤毛熊が山を登って猪を殺したと判断した。
本来であれば魔物が近付けないはずの白狼山に赤毛熊が現れ、しかも麓から中腹部まで登ってきた赤毛熊に戦慄した。赤毛熊が山に登れるという事はもう白狼山は魔物が立ち寄れない安全地帯ではなくなり、すぐに二人は家に引き返そうとした。
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