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王都での日常
第78話 精神鍛錬
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――マリアから教わった精神鍛錬の方法は「座禅」であり、今まではがむしゃらに魔法を使用しては吸魔腕輪に魔力を吸収されて気絶していた。しかし、マリアから教わった方法でコオリは自分の精神力を鍛える事に重点を置く。
屋上にてコオリは座禅を行い、この際に彼は頭の上に水の入った容器を置く。動かずにバランスを取りながら頭の上の容器が落ちないように気をつけ、コオリは意識を集中させる。
(マリア先生の言う通り、この状態で自分の身体に流れる魔力を感じ取るんだ……)
座禅を行いながらもコオリは頭の上の容器を落とさないように気をつけ、この時に体内に流れる自分の魔力の流れを感じ取る。吸魔腕輪はあくまでも魔法を発動させようとした時にしか反応せず、体内の魔力の流れを感じ取るだけでは特に反応はしない。
(……何だか不思議な気分だな)
最初の内は慣れずに何度も容器を落として水浸しになっていたが、訓練を開始してから三日が経過する頃にはコオリも慣れてしまった。彼は自分の体内の魔力がどのように動いているのかを感じ取り、日に日に表情に余裕が出てきた。
頭の上に容器を乗せた状態で精神鍛錬を行い、体内の魔力を感じ取りながらも魔力操作の技術の鍛錬も怠らない。そして一週間の時を迎えると、コオリは遂に容器を落とさずに半日も精神鍛錬を過ごす事に成功する。
「……うん、もういいかな」
「うわっ!?」
「……コオリが喋った」
「へえ、遂にコツを掴んだようだね」
コオリが座禅を解くと既に時刻は夕方を迎え、目を開くとそこにはバルル達の姿があった。最近はバルトも訓練に付き合うようになり、ずっと精神鍛錬を行って黙りこくっていたコオリが急に喋り出した事に驚く。
「師匠もいたんですね」
「まあね、あんたが精神鍛錬に集中してくれるお陰で魔力回復薬を購入する事もなくなったから今は真面目に教師をしてんのさ」
「よく言うぜ……あんたのこの間の授業、むちゃくちゃ過ぎだろ」
教師としてバルルは他の生徒の世話をする事もあるらしく、彼女は臨時で三年生の授業を行った時、何かをやらかしたのかバルトは嫌な表情を浮かべる。しかし、他の生徒の授業を任されるだけの信頼は得たらしく、彼女もこれまでの事を反省して教師として真面目に働いているらしい。
「そんな事よりもあんたの修行の成果を見せて貰おうか」
「はい……分かりました」
「おい、大丈夫か?最近は碌に魔法も使ってなかったんだろ?」
「無理しない方がいい」
「大丈夫、平気だから」
バルルに言われた通りにコオリは杖を取り出すと、意識を集中させて魔法を発動させる準備を行う。その様子を見ていたミイナとバルトは心配そうな表情を浮かべるが、コオリは緊張した様子もなく魔法を発動させた。
「アイス!!」
「うわっ!?」
「でかい!?」
「…………」
二又の杖からコオリは魔法を発動させると、今回は氷の破片ではなく、ちゃんとした氷塊を作り出す事に成功した。この一週間の精神鍛錬のお陰で魔力操作の技術がさらに磨かれたらしく、両腕に吸魔腕輪を取りつけた状態でも遂に魔法の発現に成功する。
しかし、吸魔腕輪の効果までも完全に封じ込めたわけではなく、魔法を発動した直後に腕輪が反応して急速的にコオリの魔力を吸収する。コオリは立っていられずに膝をつくと、それを見たミイナが駆けつけようとした。
「うっ!?」
「コオリ!!」
「待ちな!!」
「お、おい!?何してんだ!?」
ミイナは手に持った魔力回復薬をコオリに飲ませる寸前、バルルが彼女の肩を掴んで止めた。バルルの行動にバルトは慌てるが、コオリの様子がいつもと違う事に遅れて気付く。
「はあっ、はあっ……」
「そうだ、その調子だよ!!頑張れ、頑張るんだ!!」
「コ、コオリ?」
「これは……どうなってるんだ?」
いつものコオリならば気絶して倒れるはずだが、今回は気絶もせずに膝をついた状態で動かず、その様子を見ていたバルルが興奮した様子で声援を送る。ミイナとバルトは事態を理解できずに戸惑っていると、やがて膝をついていたコオリが起き上がった。
これまでの訓練ではコオリは魔法を使う度に立ち上がる事もできないほどに疲弊していたが、今回のコオリは額に汗を流しながらも立ち上がる事に成功し、バルルに笑みを浮かべた。
「……もう大丈夫です」
「そ、そうか……遂にやったんだね!!」
「お、おい!!何が起きたんだ?」
「大丈夫?本当に平気?」
コオリの自信に満ちた表情と言葉にバルルは安堵すると、状況を理解できないミイナとバルトは説明を求めた。そんな二人にコオリは振り返り、何が起きたのかを話す。
「魔力を全部奪われる前に……魔力を回復させたんだよ」
「えっ……?」
「……は?」
思いもよらぬ発言にミイナとバルトは呆気に取られ、そんな二人にコオリは詳しい説明を行う――
――これまでにコオリはがむしゃらに吸魔腕輪から奪われる魔力を体内に抑えようとした。しかし、いくら頑張っても両腕に腕輪を装着した状態で魔法を使用すれば強制的に魔力を奪われた。
吸魔石以上の魔力の吸収力を誇る吸魔腕輪を装着した状態で魔法を使った場合、杖に送り込む魔力を吸い取られる。だが、この一週間の間にコオリは自分の体内の魔力の流れを掴み、どのような原理で魔力を奪われるのかを理解した。
吸魔腕輪が発動するのは杖に魔力を送り込もうとするときであり、腕から掌の部分に体内の魔力が集まった瞬間、吸魔腕輪が反応して魔力を奪い取る。しかも吸魔腕輪は連動するらしく、片方の腕輪が発動すれば近くにある吸魔腕輪も反応して魔力を奪う。
コオリが吸魔腕輪の原理に気付いたのは最近の話であり、いくら魔力を体内に収めようとしても不可能に近い。例えば蓋をした鍋(器)から中身(魔力)を汲もうとすると、別の手が現れて勝手に水を汲むような感覚に近い。コオリはこれまで勝手に自分の鍋から中身を救い取ろうとする腕を払いのけようとしていたが、彼の力が弱くて鍋から腕を無理やり引き剥がす事はできなかった。
そこでコオリが考えたのは掬い取られる水の分だけ新しく水を追加する方法を考える。例にするならば鍋から勝手に救われた水の量だけ新しく水を注ぎ込み、元の状態へと戻す。そしてこの戻す方法というのがコオリが最近の間やっていた精神鍛錬の修行の成果だった。
「吸魔腕輪はあくまでも杖で魔法を発動した時にしか反応しない。なら、魔法を一旦解除すれば吸引は止まる……それでも凄い勢いで奪われていたから僕の魔力量では一回の魔法を使う分の時間だけでも殆どの魔力を奪われていたんだよ」
「なるほど、それにしてもよく気づいたな……」
「でも、それならどうして今は平気なの?」
「簡単な話だよ。失った魔力の分だけ新しい魔力を作ったから」
「「新しい魔力?」」
コオリの言葉にミイナとバルトは首を傾げるが、そんな二人にバルルがコオリの説明の補足を行う。彼女は最初からコオリが何をしていたのか理解していたらしく、具体的にどうやってコオリが魔力を回復させたのかを話す。
「こいつは吸魔腕輪に魔力を奪われて意識を失いかけた時、身体を動かさずに休んでいただろう?」
「あ、ああ……そういえば」
「あの時は心配した」
「鈍いねえ……あれがコオリの魔力を回復させる方法さ。こいつは無駄な動きを止めて失った魔力の回復、というよりも新しい魔力の生成を行っていたのさ」
「生成?」
「そ、そんな事ができるようになったのか?」
「はい、まだ完璧に使えるわけじゃないんですけど……」
魔力を失ったコオリが取った行動とは身体を動かさず、失った魔力の分だけ新しい魔力の生成に集中した。魔術師の体内には魔力を生み出す機能が存在し、その機能を意識的にコオリは強めて新しい魔力を生成する。
この方法は精神鍛錬で魔力の流れを感じ取った時に思いつき、ある時にコオリは自分の体内に魔力の「溜まり場」がある事に気付く。それは自分の身体の中心、心臓に近い部分に存在し、身体の中に流れる魔力は元を辿れば心臓付近の魔力の溜まり場に繋がっている事に気付いた。
「魔法を使った時、体内の魔力は減少するけど時間が経過すれば回復しますよね?でも、実際は魔法を使った後は魔力の流れが乱れるんです」
「魔力の流れ……?」
「乱れる?」
「えっと、つまり魔法を使うと体内に流れている魔力が腕とかに集中して他の箇所に魔力が届かなくなるんです。勿論、魔法を解除すればすぐに魔力の流れは戻るけど、魔力を使いすぎると体内の魔力の流れが乱れてそれが原因で疲れやすくなったり、頭痛に襲われると気付いたんですよ」
「その通りだよ。魔力というのは常に全身に流れているんだ。頭痛に襲われるのは頭に流れる魔力が少なくなったせい、身体の疲れは全身に回っていた魔力が切れかかっている証拠さ」
「そういえば前に授業で魔力は生命力その物だと習った事があるけど……まさか、本当の話だったのか」
「私も習ったような……気がしないでもない」
「あんたはサボり魔だからね。これからはちゃんと授業を受けな」
「はうっ……反省」
魔術師が魔力を消耗すると頭痛や疲労を引き起こす原因は魔力の流れが乱れたせいで有り、魔力に余裕があればすぐに乱れは戻って解消される。しかし、コオリのように魔力量が少ない人間の場合は魔力の流れが乱れても肝心の魔力が不足して簡単には治らない。
そこでコオリが考えたのは自分の体内の魔力が乱れた時、新しい魔力を生成して体内に送り届ける方法を思いつく。その方法とは自分の魔力の流れを完璧に把握し、体内の何処から魔力が生まれているのかを知る必要があった。
「この一週間の精神鍛錬のお陰で僕は身体の何処から魔力が生まれているのか分かりました。後は魔力を生成する方法を模索してみた結果、こうして動かずにじっとしているだけで新しい魔力を作れるようになったんです」
「そ、そんな事ができるのか!?」
「なら、もうコオリは魔力切れをいくら起こしても平気なの?」
「いや、流石にそれは無理だね……どんな人間も一度に生み出せる魔力量は決まってるし、無制限に魔力を生み出そうとすれば必ず人体に悪影響を及ぼす」
「はい……この方法だと魔力の回復に時間もかかるし、それにすぐにお腹がすくんですよね」
「は、腹が減るのか?」
コオリは空腹を堪えるようにお腹に手を押し当て、そんな彼の行動にバルトは呆れるべきか感心するべきか悩む。
※今回の魔力の回復はゲームで例えるとHPをMPに変換する感じです。なので無限に魔力を回復する事ができるわけではなく、体力を消耗する代わりに魔力が回復する感じです。
屋上にてコオリは座禅を行い、この際に彼は頭の上に水の入った容器を置く。動かずにバランスを取りながら頭の上の容器が落ちないように気をつけ、コオリは意識を集中させる。
(マリア先生の言う通り、この状態で自分の身体に流れる魔力を感じ取るんだ……)
座禅を行いながらもコオリは頭の上の容器を落とさないように気をつけ、この時に体内に流れる自分の魔力の流れを感じ取る。吸魔腕輪はあくまでも魔法を発動させようとした時にしか反応せず、体内の魔力の流れを感じ取るだけでは特に反応はしない。
(……何だか不思議な気分だな)
最初の内は慣れずに何度も容器を落として水浸しになっていたが、訓練を開始してから三日が経過する頃にはコオリも慣れてしまった。彼は自分の体内の魔力がどのように動いているのかを感じ取り、日に日に表情に余裕が出てきた。
頭の上に容器を乗せた状態で精神鍛錬を行い、体内の魔力を感じ取りながらも魔力操作の技術の鍛錬も怠らない。そして一週間の時を迎えると、コオリは遂に容器を落とさずに半日も精神鍛錬を過ごす事に成功する。
「……うん、もういいかな」
「うわっ!?」
「……コオリが喋った」
「へえ、遂にコツを掴んだようだね」
コオリが座禅を解くと既に時刻は夕方を迎え、目を開くとそこにはバルル達の姿があった。最近はバルトも訓練に付き合うようになり、ずっと精神鍛錬を行って黙りこくっていたコオリが急に喋り出した事に驚く。
「師匠もいたんですね」
「まあね、あんたが精神鍛錬に集中してくれるお陰で魔力回復薬を購入する事もなくなったから今は真面目に教師をしてんのさ」
「よく言うぜ……あんたのこの間の授業、むちゃくちゃ過ぎだろ」
教師としてバルルは他の生徒の世話をする事もあるらしく、彼女は臨時で三年生の授業を行った時、何かをやらかしたのかバルトは嫌な表情を浮かべる。しかし、他の生徒の授業を任されるだけの信頼は得たらしく、彼女もこれまでの事を反省して教師として真面目に働いているらしい。
「そんな事よりもあんたの修行の成果を見せて貰おうか」
「はい……分かりました」
「おい、大丈夫か?最近は碌に魔法も使ってなかったんだろ?」
「無理しない方がいい」
「大丈夫、平気だから」
バルルに言われた通りにコオリは杖を取り出すと、意識を集中させて魔法を発動させる準備を行う。その様子を見ていたミイナとバルトは心配そうな表情を浮かべるが、コオリは緊張した様子もなく魔法を発動させた。
「アイス!!」
「うわっ!?」
「でかい!?」
「…………」
二又の杖からコオリは魔法を発動させると、今回は氷の破片ではなく、ちゃんとした氷塊を作り出す事に成功した。この一週間の精神鍛錬のお陰で魔力操作の技術がさらに磨かれたらしく、両腕に吸魔腕輪を取りつけた状態でも遂に魔法の発現に成功する。
しかし、吸魔腕輪の効果までも完全に封じ込めたわけではなく、魔法を発動した直後に腕輪が反応して急速的にコオリの魔力を吸収する。コオリは立っていられずに膝をつくと、それを見たミイナが駆けつけようとした。
「うっ!?」
「コオリ!!」
「待ちな!!」
「お、おい!?何してんだ!?」
ミイナは手に持った魔力回復薬をコオリに飲ませる寸前、バルルが彼女の肩を掴んで止めた。バルルの行動にバルトは慌てるが、コオリの様子がいつもと違う事に遅れて気付く。
「はあっ、はあっ……」
「そうだ、その調子だよ!!頑張れ、頑張るんだ!!」
「コ、コオリ?」
「これは……どうなってるんだ?」
いつものコオリならば気絶して倒れるはずだが、今回は気絶もせずに膝をついた状態で動かず、その様子を見ていたバルルが興奮した様子で声援を送る。ミイナとバルトは事態を理解できずに戸惑っていると、やがて膝をついていたコオリが起き上がった。
これまでの訓練ではコオリは魔法を使う度に立ち上がる事もできないほどに疲弊していたが、今回のコオリは額に汗を流しながらも立ち上がる事に成功し、バルルに笑みを浮かべた。
「……もう大丈夫です」
「そ、そうか……遂にやったんだね!!」
「お、おい!!何が起きたんだ?」
「大丈夫?本当に平気?」
コオリの自信に満ちた表情と言葉にバルルは安堵すると、状況を理解できないミイナとバルトは説明を求めた。そんな二人にコオリは振り返り、何が起きたのかを話す。
「魔力を全部奪われる前に……魔力を回復させたんだよ」
「えっ……?」
「……は?」
思いもよらぬ発言にミイナとバルトは呆気に取られ、そんな二人にコオリは詳しい説明を行う――
――これまでにコオリはがむしゃらに吸魔腕輪から奪われる魔力を体内に抑えようとした。しかし、いくら頑張っても両腕に腕輪を装着した状態で魔法を使用すれば強制的に魔力を奪われた。
吸魔石以上の魔力の吸収力を誇る吸魔腕輪を装着した状態で魔法を使った場合、杖に送り込む魔力を吸い取られる。だが、この一週間の間にコオリは自分の体内の魔力の流れを掴み、どのような原理で魔力を奪われるのかを理解した。
吸魔腕輪が発動するのは杖に魔力を送り込もうとするときであり、腕から掌の部分に体内の魔力が集まった瞬間、吸魔腕輪が反応して魔力を奪い取る。しかも吸魔腕輪は連動するらしく、片方の腕輪が発動すれば近くにある吸魔腕輪も反応して魔力を奪う。
コオリが吸魔腕輪の原理に気付いたのは最近の話であり、いくら魔力を体内に収めようとしても不可能に近い。例えば蓋をした鍋(器)から中身(魔力)を汲もうとすると、別の手が現れて勝手に水を汲むような感覚に近い。コオリはこれまで勝手に自分の鍋から中身を救い取ろうとする腕を払いのけようとしていたが、彼の力が弱くて鍋から腕を無理やり引き剥がす事はできなかった。
そこでコオリが考えたのは掬い取られる水の分だけ新しく水を追加する方法を考える。例にするならば鍋から勝手に救われた水の量だけ新しく水を注ぎ込み、元の状態へと戻す。そしてこの戻す方法というのがコオリが最近の間やっていた精神鍛錬の修行の成果だった。
「吸魔腕輪はあくまでも杖で魔法を発動した時にしか反応しない。なら、魔法を一旦解除すれば吸引は止まる……それでも凄い勢いで奪われていたから僕の魔力量では一回の魔法を使う分の時間だけでも殆どの魔力を奪われていたんだよ」
「なるほど、それにしてもよく気づいたな……」
「でも、それならどうして今は平気なの?」
「簡単な話だよ。失った魔力の分だけ新しい魔力を作ったから」
「「新しい魔力?」」
コオリの言葉にミイナとバルトは首を傾げるが、そんな二人にバルルがコオリの説明の補足を行う。彼女は最初からコオリが何をしていたのか理解していたらしく、具体的にどうやってコオリが魔力を回復させたのかを話す。
「こいつは吸魔腕輪に魔力を奪われて意識を失いかけた時、身体を動かさずに休んでいただろう?」
「あ、ああ……そういえば」
「あの時は心配した」
「鈍いねえ……あれがコオリの魔力を回復させる方法さ。こいつは無駄な動きを止めて失った魔力の回復、というよりも新しい魔力の生成を行っていたのさ」
「生成?」
「そ、そんな事ができるようになったのか?」
「はい、まだ完璧に使えるわけじゃないんですけど……」
魔力を失ったコオリが取った行動とは身体を動かさず、失った魔力の分だけ新しい魔力の生成に集中した。魔術師の体内には魔力を生み出す機能が存在し、その機能を意識的にコオリは強めて新しい魔力を生成する。
この方法は精神鍛錬で魔力の流れを感じ取った時に思いつき、ある時にコオリは自分の体内に魔力の「溜まり場」がある事に気付く。それは自分の身体の中心、心臓に近い部分に存在し、身体の中に流れる魔力は元を辿れば心臓付近の魔力の溜まり場に繋がっている事に気付いた。
「魔法を使った時、体内の魔力は減少するけど時間が経過すれば回復しますよね?でも、実際は魔法を使った後は魔力の流れが乱れるんです」
「魔力の流れ……?」
「乱れる?」
「えっと、つまり魔法を使うと体内に流れている魔力が腕とかに集中して他の箇所に魔力が届かなくなるんです。勿論、魔法を解除すればすぐに魔力の流れは戻るけど、魔力を使いすぎると体内の魔力の流れが乱れてそれが原因で疲れやすくなったり、頭痛に襲われると気付いたんですよ」
「その通りだよ。魔力というのは常に全身に流れているんだ。頭痛に襲われるのは頭に流れる魔力が少なくなったせい、身体の疲れは全身に回っていた魔力が切れかかっている証拠さ」
「そういえば前に授業で魔力は生命力その物だと習った事があるけど……まさか、本当の話だったのか」
「私も習ったような……気がしないでもない」
「あんたはサボり魔だからね。これからはちゃんと授業を受けな」
「はうっ……反省」
魔術師が魔力を消耗すると頭痛や疲労を引き起こす原因は魔力の流れが乱れたせいで有り、魔力に余裕があればすぐに乱れは戻って解消される。しかし、コオリのように魔力量が少ない人間の場合は魔力の流れが乱れても肝心の魔力が不足して簡単には治らない。
そこでコオリが考えたのは自分の体内の魔力が乱れた時、新しい魔力を生成して体内に送り届ける方法を思いつく。その方法とは自分の魔力の流れを完璧に把握し、体内の何処から魔力が生まれているのかを知る必要があった。
「この一週間の精神鍛錬のお陰で僕は身体の何処から魔力が生まれているのか分かりました。後は魔力を生成する方法を模索してみた結果、こうして動かずにじっとしているだけで新しい魔力を作れるようになったんです」
「そ、そんな事ができるのか!?」
「なら、もうコオリは魔力切れをいくら起こしても平気なの?」
「いや、流石にそれは無理だね……どんな人間も一度に生み出せる魔力量は決まってるし、無制限に魔力を生み出そうとすれば必ず人体に悪影響を及ぼす」
「はい……この方法だと魔力の回復に時間もかかるし、それにすぐにお腹がすくんですよね」
「は、腹が減るのか?」
コオリは空腹を堪えるようにお腹に手を押し当て、そんな彼の行動にバルトは呆れるべきか感心するべきか悩む。
※今回の魔力の回復はゲームで例えるとHPをMPに変換する感じです。なので無限に魔力を回復する事ができるわけではなく、体力を消耗する代わりに魔力が回復する感じです。
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