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王都での日常
第76話 魔力の回復速度
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――翌日、コオリはミイナと共に早朝の学校の屋上の訓練場に辿り着くと、そこには既にバルルとバルトの姿があった。どうしてバルトがここにいるのかとコオリ達は驚くが、彼は無理やりに朝からバルルに引っ張り出されたらしく、眠たそうな表情を浮かべていた。
「ふああっ……何だよ、こんな朝早くからこんな場所に呼び出して」
「あんたの力が必要になるかもしれないからね。悪いけど協力して貰うよ」
「師匠、先輩もどうしてここに?」
「むう、まさか朝早くに私達が訓練してたのバレた?」
「そんなもん、当の昔に気付いていたよ」
コオリとミイナは早朝に起きて共に訓練を行う事が多く、今日も一緒に訓練する予定だった。しかし、屋上に到着するとバルルとバルトの二人が待ち構えていた事に驚き、しかも二人は見た事もない道具を用意していた。
「コオリ、これからあんたには新しい訓練をしてもらうよ」
「訓練ですか?」
「どんな訓練?」
「それは……こいつを使うのさ」
バルルが用意していたのは最初の頃にコオリが魔法の訓練をするときに利用していた「吸魔石」と呼ばれる水晶玉とよく似ており、吸魔石は人間が触れると体内の魔力を吸収する仕組みの魔道具だった。
吸魔石を利用してコオリは奪われる魔力を体内に収め、魔力を奪われないように魔法を発動させる練習を繰り返す事で短期間に魔力操作の技術を磨く事ができた。但し、今回彼女が用意した吸魔石は小型でしかも腕輪に嵌め込まれていた。
「なあ、バルル先生……言われた通りに持ち出してきましたけど、それは下級生が使うのは禁止されている魔道具ですよ。うちの担任に一応は許可を貰った方が……」
「いいんだよ、こっちは学園長のお墨付きさ。それにあんたもコオリにはでかい借りがあるんだろう?」
「うっ……それを言われると困るな」
今回持ち出した魔道具はバルトが調達したらしく、彼は担当教師のタンに内緒で魔道具を持ち出していた。この事がタンにバレるとまた騒がれそうではあるが、今回ばかりは学園長も味方してくれるとバルルに約束してくれた(こっそり持ち出したのは単純な嫌がらせ)。
「師匠、それはいったい何ですか?」
「私も見た事ない」
「こいつは三年生から授業で扱う魔道具さ。名前は……なんだっけ?」
「吸魔腕輪ですよ。けど、こいつの使い道は本当は規則を犯した罰則者を懲らしめるための魔道具で……」
「まあ、ともかく付けてみな」
「え、あ、はい」
バルトが説明の途中にも関わらずにバルルはコオリに吸魔腕輪なる魔道具を手渡し、言われた通りにコオリは腕輪を装着する。それを見たバルトは慌てて止めようとした。
「ちょっと待て!!そいつを付けたら簡単に解く事ができないんだぞ!?」
「えっ!?」
「もう遅いよ。うん、ちゃんと嵌まったね」
既にコオリは腕輪を身に着けてしまい、その瞬間に腕輪の接合部の部分に紋様が浮き上がる。慌てて引き剥がそうと力を込めて外れず、バルトやミイナが腕輪を外そうとしてもびくともしない。
「ぐぎぎっ……は、外れねえ!!」
「う~ん……無理、びくともしない」
「し、師匠!!何なんですかこれは!?」
「そいつは本当は規則を犯した生徒の罰則用の腕輪さ。試しにその状態で魔法を使ってみな」
バルルはコオリに腕輪を嵌めた状態で魔法を使用するように促すと、戸惑いながらもコオリは杖を取り出す。しかし、それを見たバルトは慌てて彼を止めようとした。
「馬鹿、止めろ!!その状態で魔法なんか使ったら……うげっ!?」
「おっと、あんたは大人しく見てな」
言葉を言い終える前にバルルはバルトの口元を塞ぐ。コオリはバルルの言われた通りに杖を構えると、いつも通りに魔法を使用した。
「アイス……!?」
「コオリ!?」
「言わんこっちゃない!!早く杖を離せ!!」
杖から魔法を発動させようとした瞬間、コオリの右腕に取り付けられた腕輪に「渦巻」のような模様が生まれると、右腕を通して杖に送り込もうとした魔力が腕輪に強制的に吸収される。
これまでにコオリが訓練で利用していた吸魔石とは比較にならない程の吸引力で魔力が奪われていき、体内の魔力を根こそぎ奪われる寸前で腕輪の模様が消えた。その直後にコオリは糸が切れた人形のように倒れ込み、慌ててバルルを引き剥がしたバルトとミイナがコオリの顔を覗き込む。
「コオリ、しっかりして!!」
「坊主!!おい、大丈夫か!?」
「平気だよ、魔力切れを起こして眠っているだけさ」
「う~ん……」
バルルの言う通りにコオリは意識を失っているだけであり、それに気づいた二人は安堵した。しかし、バルトの方はコオリに吸魔腕輪を嵌めた状態で魔法を使用させたバルルを睨みつけ、彼女に怒鳴りつけた。
「あんた何を考えてんだ!?この魔道具の恐ろしさは知ってたんだろう!!」
「ああ、よく知ってるよ……嫌という程にね」
「な、何だって!?」
妙な言い回しをするバルルにバルトは一瞬だけ焦ったが、彼女はその間にバルトの杖を掴んで彼を押し退ける。そして倒れているコオリに視線を向け、彼が気絶しているのを確認するとミイナに膝枕するように促す。
「ミイナ、そいつが目を覚ますまであんたが見てやりな」
「……分かった」
「おい、待てよ!!どうしてあんな物を付けた状態で魔法を使わせたんだ!!あんた、自分の生徒を危険に晒したんだぞ!!」
「はっ……今どきの魔法学園の生徒はこの程度の事で騒ぎ立てるのかい?随分と甘い教育を受けてきたんだね」
「何だと!!」
バルルの発言にバルトは怒りを露わにするが、そんな彼に対してバルルは拳を突き出す。元格闘家のバルルの動作は素早く、彼女の拳はバルトの顔面の前で止まると、彼は驚いて尻餅を着く。
「うわっ!?」
「何度も言わせるんじゃないよ、こいつがどれほど魔術師にとって危険な代物はよく分かってる。だけど、どうしてもやらないといけないんだよ」
「な、何なんだよ!!どういう意味だ!?」
「……昔の話になるけどね、魔法学園では生徒に授業の一環として毎日のように魔力を絞り出す訓練が行われていた」
「えっ……?」
「その話、聞いた事がある。学園長が言ってた気がする」
思いもよらぬバルルの言葉にバルトは呆気に取られるが、ミイナの方は心当たりがあるらしく、そんな二人にバルルは自分の学生時代の話を行う――
――まだバルルが学生だった頃、三年生の時から彼女はコオリが使用した吸魔腕輪を装着して授業を行っていた。授業の内容は魔力を限界近くまで絞り出し、自然回復を待つという内容の授業だった。
当時の魔法学園の学園長は魔術師が魔力量を伸ばす方法を模索し、そして魔力を強制的に奪い取る吸魔腕輪を作り出す。この吸魔腕輪で生徒達の魔力を搾り取り、自然回復させる事で魔力量が伸びるかどうかの実験を行っていた。
結果から言えばこの実験は失敗であり、何十人もの生徒達が命の危機に晒された。後にこの実験の本当の目的は魔術師の拷問用の魔道具の開発のために執り行われていた事が判明し、これによって当時の学園長は失脚してマリアが新しい学園長に選ばれた。
吸魔腕輪を扱う授業は廃止され、現在では罰則用の魔道具として学園で管理されている。しかし、その魔道具をバルルは敢えて持ち出した。彼女にとっては吸魔腕輪など嫌な思いでしかない忌まわしい魔道具だが、どうしても今のコオリには必要な物だという。。
「確かにこいつは拷問用に開発された魔道具さ。下手に扱えば命の危機もある……それでもこいつにはどうしても必要な物なんだよ」
「ふざけんなっ!!あんた、それでも教師か!?こんなやばいもんを身に着けさせるなんて何を考えてるんだ!!」
「私もそう思う。いくらなんでも危険過ぎる」
「……分かってるよ、そんな事は」
バルトとミイナの言葉にバルルは言い返さず、彼女としてもこんな方法は取りたくはなかった。しかし、コオリがこれ以上に魔術師としての腕を磨くにはどうしても吸魔腕輪の力が必要だった。
この吸魔腕輪は改良が加えられて現在では無制限に装着した人間の魔力を奪うわけではなく、人体に悪影響を及ぼさない程度までしか魔力を吸収しない。しかし、それでも魔法を使う度に意識を失うぐらいまで魔力を吸われる事に変わりはなく、使用者にとってはきつい魔道具である事に変わりはない。
「あんたが何を考えているのか知らないが、こんな方法は間違ってる!!いったい何をしたいんだよ!?」
「それは……答えられないね」
「おい、ふざけんなよ!!それでもこいつの先生か!?」
「うるさい!!これ以外に方法なんてないんだよ!!」
バルトの言葉にバルルは怒鳴り返すと、そんな彼女の気迫に彼は押し黙る。ミイナも言葉は口にせず、自分の膝枕で眠るコオリを見つめると、バルルの大声に反応したのかコオリが目を覚ます。
「うっ……」
「コオリ、大丈夫?」
「目が覚めたのか!?」
「……どうだい、気分は?」
意識を取り戻したコオリに三人は顔を覗き込むと、彼は何が起きたのか分からないといった様子で頭を抑えながらも起き上がる。
「い、いったい何が……」
「あんたは魔力を吸われて倒れたんだよ。その魔道具は吸魔石以上の効果があるのは分かっただろう?」
「おい!!まずは謝れよ!!説明する前にこんな物を付けさせて!!」
「……悪かったね」
「えっ……」
バルトの言葉にバルルは顔を反らしながらも謝罪し、彼女の反応に他の者は意外に思う。いつものバルルならば怒鳴り返してもおかしくはないが、彼女なりに罪悪感を抱いているらしく、訓練を続けるのかどうかを問う。
「コオリ、あんたが決めな。この訓練を続けるかどうか……どうしてもいやだというなら別の訓練に切り替えるよ」
「師匠……」
「コオリ、もう止めた方がいい」
「そうだな、先生だってこう言ってるんだ。無理にこんなの使う必要もないだろ」
バルルの言葉にミイナとバルトは止めるように促すが、コオリは嵌め込まれた吸魔腕輪に触れて考え込む。そんな彼の態度にバルルは黙って見守る。
「ふああっ……何だよ、こんな朝早くからこんな場所に呼び出して」
「あんたの力が必要になるかもしれないからね。悪いけど協力して貰うよ」
「師匠、先輩もどうしてここに?」
「むう、まさか朝早くに私達が訓練してたのバレた?」
「そんなもん、当の昔に気付いていたよ」
コオリとミイナは早朝に起きて共に訓練を行う事が多く、今日も一緒に訓練する予定だった。しかし、屋上に到着するとバルルとバルトの二人が待ち構えていた事に驚き、しかも二人は見た事もない道具を用意していた。
「コオリ、これからあんたには新しい訓練をしてもらうよ」
「訓練ですか?」
「どんな訓練?」
「それは……こいつを使うのさ」
バルルが用意していたのは最初の頃にコオリが魔法の訓練をするときに利用していた「吸魔石」と呼ばれる水晶玉とよく似ており、吸魔石は人間が触れると体内の魔力を吸収する仕組みの魔道具だった。
吸魔石を利用してコオリは奪われる魔力を体内に収め、魔力を奪われないように魔法を発動させる練習を繰り返す事で短期間に魔力操作の技術を磨く事ができた。但し、今回彼女が用意した吸魔石は小型でしかも腕輪に嵌め込まれていた。
「なあ、バルル先生……言われた通りに持ち出してきましたけど、それは下級生が使うのは禁止されている魔道具ですよ。うちの担任に一応は許可を貰った方が……」
「いいんだよ、こっちは学園長のお墨付きさ。それにあんたもコオリにはでかい借りがあるんだろう?」
「うっ……それを言われると困るな」
今回持ち出した魔道具はバルトが調達したらしく、彼は担当教師のタンに内緒で魔道具を持ち出していた。この事がタンにバレるとまた騒がれそうではあるが、今回ばかりは学園長も味方してくれるとバルルに約束してくれた(こっそり持ち出したのは単純な嫌がらせ)。
「師匠、それはいったい何ですか?」
「私も見た事ない」
「こいつは三年生から授業で扱う魔道具さ。名前は……なんだっけ?」
「吸魔腕輪ですよ。けど、こいつの使い道は本当は規則を犯した罰則者を懲らしめるための魔道具で……」
「まあ、ともかく付けてみな」
「え、あ、はい」
バルトが説明の途中にも関わらずにバルルはコオリに吸魔腕輪なる魔道具を手渡し、言われた通りにコオリは腕輪を装着する。それを見たバルトは慌てて止めようとした。
「ちょっと待て!!そいつを付けたら簡単に解く事ができないんだぞ!?」
「えっ!?」
「もう遅いよ。うん、ちゃんと嵌まったね」
既にコオリは腕輪を身に着けてしまい、その瞬間に腕輪の接合部の部分に紋様が浮き上がる。慌てて引き剥がそうと力を込めて外れず、バルトやミイナが腕輪を外そうとしてもびくともしない。
「ぐぎぎっ……は、外れねえ!!」
「う~ん……無理、びくともしない」
「し、師匠!!何なんですかこれは!?」
「そいつは本当は規則を犯した生徒の罰則用の腕輪さ。試しにその状態で魔法を使ってみな」
バルルはコオリに腕輪を嵌めた状態で魔法を使用するように促すと、戸惑いながらもコオリは杖を取り出す。しかし、それを見たバルトは慌てて彼を止めようとした。
「馬鹿、止めろ!!その状態で魔法なんか使ったら……うげっ!?」
「おっと、あんたは大人しく見てな」
言葉を言い終える前にバルルはバルトの口元を塞ぐ。コオリはバルルの言われた通りに杖を構えると、いつも通りに魔法を使用した。
「アイス……!?」
「コオリ!?」
「言わんこっちゃない!!早く杖を離せ!!」
杖から魔法を発動させようとした瞬間、コオリの右腕に取り付けられた腕輪に「渦巻」のような模様が生まれると、右腕を通して杖に送り込もうとした魔力が腕輪に強制的に吸収される。
これまでにコオリが訓練で利用していた吸魔石とは比較にならない程の吸引力で魔力が奪われていき、体内の魔力を根こそぎ奪われる寸前で腕輪の模様が消えた。その直後にコオリは糸が切れた人形のように倒れ込み、慌ててバルルを引き剥がしたバルトとミイナがコオリの顔を覗き込む。
「コオリ、しっかりして!!」
「坊主!!おい、大丈夫か!?」
「平気だよ、魔力切れを起こして眠っているだけさ」
「う~ん……」
バルルの言う通りにコオリは意識を失っているだけであり、それに気づいた二人は安堵した。しかし、バルトの方はコオリに吸魔腕輪を嵌めた状態で魔法を使用させたバルルを睨みつけ、彼女に怒鳴りつけた。
「あんた何を考えてんだ!?この魔道具の恐ろしさは知ってたんだろう!!」
「ああ、よく知ってるよ……嫌という程にね」
「な、何だって!?」
妙な言い回しをするバルルにバルトは一瞬だけ焦ったが、彼女はその間にバルトの杖を掴んで彼を押し退ける。そして倒れているコオリに視線を向け、彼が気絶しているのを確認するとミイナに膝枕するように促す。
「ミイナ、そいつが目を覚ますまであんたが見てやりな」
「……分かった」
「おい、待てよ!!どうしてあんな物を付けた状態で魔法を使わせたんだ!!あんた、自分の生徒を危険に晒したんだぞ!!」
「はっ……今どきの魔法学園の生徒はこの程度の事で騒ぎ立てるのかい?随分と甘い教育を受けてきたんだね」
「何だと!!」
バルルの発言にバルトは怒りを露わにするが、そんな彼に対してバルルは拳を突き出す。元格闘家のバルルの動作は素早く、彼女の拳はバルトの顔面の前で止まると、彼は驚いて尻餅を着く。
「うわっ!?」
「何度も言わせるんじゃないよ、こいつがどれほど魔術師にとって危険な代物はよく分かってる。だけど、どうしてもやらないといけないんだよ」
「な、何なんだよ!!どういう意味だ!?」
「……昔の話になるけどね、魔法学園では生徒に授業の一環として毎日のように魔力を絞り出す訓練が行われていた」
「えっ……?」
「その話、聞いた事がある。学園長が言ってた気がする」
思いもよらぬバルルの言葉にバルトは呆気に取られるが、ミイナの方は心当たりがあるらしく、そんな二人にバルルは自分の学生時代の話を行う――
――まだバルルが学生だった頃、三年生の時から彼女はコオリが使用した吸魔腕輪を装着して授業を行っていた。授業の内容は魔力を限界近くまで絞り出し、自然回復を待つという内容の授業だった。
当時の魔法学園の学園長は魔術師が魔力量を伸ばす方法を模索し、そして魔力を強制的に奪い取る吸魔腕輪を作り出す。この吸魔腕輪で生徒達の魔力を搾り取り、自然回復させる事で魔力量が伸びるかどうかの実験を行っていた。
結果から言えばこの実験は失敗であり、何十人もの生徒達が命の危機に晒された。後にこの実験の本当の目的は魔術師の拷問用の魔道具の開発のために執り行われていた事が判明し、これによって当時の学園長は失脚してマリアが新しい学園長に選ばれた。
吸魔腕輪を扱う授業は廃止され、現在では罰則用の魔道具として学園で管理されている。しかし、その魔道具をバルルは敢えて持ち出した。彼女にとっては吸魔腕輪など嫌な思いでしかない忌まわしい魔道具だが、どうしても今のコオリには必要な物だという。。
「確かにこいつは拷問用に開発された魔道具さ。下手に扱えば命の危機もある……それでもこいつにはどうしても必要な物なんだよ」
「ふざけんなっ!!あんた、それでも教師か!?こんなやばいもんを身に着けさせるなんて何を考えてるんだ!!」
「私もそう思う。いくらなんでも危険過ぎる」
「……分かってるよ、そんな事は」
バルトとミイナの言葉にバルルは言い返さず、彼女としてもこんな方法は取りたくはなかった。しかし、コオリがこれ以上に魔術師としての腕を磨くにはどうしても吸魔腕輪の力が必要だった。
この吸魔腕輪は改良が加えられて現在では無制限に装着した人間の魔力を奪うわけではなく、人体に悪影響を及ぼさない程度までしか魔力を吸収しない。しかし、それでも魔法を使う度に意識を失うぐらいまで魔力を吸われる事に変わりはなく、使用者にとってはきつい魔道具である事に変わりはない。
「あんたが何を考えているのか知らないが、こんな方法は間違ってる!!いったい何をしたいんだよ!?」
「それは……答えられないね」
「おい、ふざけんなよ!!それでもこいつの先生か!?」
「うるさい!!これ以外に方法なんてないんだよ!!」
バルトの言葉にバルルは怒鳴り返すと、そんな彼女の気迫に彼は押し黙る。ミイナも言葉は口にせず、自分の膝枕で眠るコオリを見つめると、バルルの大声に反応したのかコオリが目を覚ます。
「うっ……」
「コオリ、大丈夫?」
「目が覚めたのか!?」
「……どうだい、気分は?」
意識を取り戻したコオリに三人は顔を覗き込むと、彼は何が起きたのか分からないといった様子で頭を抑えながらも起き上がる。
「い、いったい何が……」
「あんたは魔力を吸われて倒れたんだよ。その魔道具は吸魔石以上の効果があるのは分かっただろう?」
「おい!!まずは謝れよ!!説明する前にこんな物を付けさせて!!」
「……悪かったね」
「えっ……」
バルトの言葉にバルルは顔を反らしながらも謝罪し、彼女の反応に他の者は意外に思う。いつものバルルならば怒鳴り返してもおかしくはないが、彼女なりに罪悪感を抱いているらしく、訓練を続けるのかどうかを問う。
「コオリ、あんたが決めな。この訓練を続けるかどうか……どうしてもいやだというなら別の訓練に切り替えるよ」
「師匠……」
「コオリ、もう止めた方がいい」
「そうだな、先生だってこう言ってるんだ。無理にこんなの使う必要もないだろ」
バルルの言葉にミイナとバルトは止めるように促すが、コオリは嵌め込まれた吸魔腕輪に触れて考え込む。そんな彼の態度にバルルは黙って見守る。
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