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王都での日常
第75話 素質
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「先生は知ってるんじゃないのかい?魔力を伸ばす方法を……」
「残念ながら今の研究では魔力を伸ばす方法は確率されていないわ。色々と説があるけれど、生まれ持った魔力量は決まっているの」
「そこをどうにかならないのかい?あいつはあんなに頑張ってるのに……」
「こればかりは努力ではどうにもならないわ。それは貴女もよく知っているでしょう?」
「くっ……畜生!!」
学生時代に魔力量が少ない事に悩んでいたバルルは、魔力量を伸ばすために様々な事を試した。しかし、結局は在学中に彼女の魔力量が増加する事はなく、学園を退学させられた。
「魔石を使用すれば少ない魔力量でも強力な魔法を生み出す事はできる。だけど、魔力量が低いという事は魔法を使用する度に魔石の魔力をより引き出さなければならない。けれどそんな使い方をすればすぐに魔石の魔力は切れてしまうわね」
「つ、使い方を工夫すればどうにでもなるだろう?バルトの奴との試合の時みたいにあいつなら……」
「あの試合はバルト君が魔石を使いこなしていなかっただけよ。もしも相手がコオリ君と同じぐらいに魔石を巧みに扱える相手だったら……」
「……どうしようもないわけかい」
魔力量が少なくとも魔石などを利用すれば魔法の力を補う事はできる。しかし、コオリのように極端に魔力が低い人間の場合は魔石への負担が必然的に大きくなり、しかも魔石は決して簡単に手に入る代物ではない。
ッコオリが使用している魔石はバルルが今年分のボーナスを使い果たしてまで購入した代物であるため、一学生にしか過ぎないコオリでは簡単に入手できる代物ではない。しかも彼の場合は孤児院の仕送りのために稼いだお金の殆どを送金しており、魔石を購入する余裕などあるはずがなかった。
「先生!!本当にどうにかならないのかい!?」
「何度も言わせないで、魔力量が伸ばす方法は確立されていないわ。こればかりは私でもどうにもできないし、そもそもそんな方法を知っていれば貴女を退学に追い込むような真似はさせなかったわ」
「……くそっ、どうしてあいつだけがこんな目に!!」
バルルはマリアの言葉を聞いて苛立ちを隠しきれずに机を叩き、彼女としてはコオリがどれだけ一流の魔術師になるために努力してきたのかはよく知っていた。努力の結果、彼は同世代の魔術師とは比べ物にならない魔力操作の技術を身に着け、上級生にも引けを取らぬ実力を身に着けた。
マリアは魔力量が低い事が彼の才能だと言ったが、実際には彼の目指す一流の魔術師になるには魔力量が低いのは大きな枷となる。どうにかバルルはコオリの魔力量を伸ばす方法がないのかと今日まで調べてきたが、結局のところは現状ではコオリの魔力量を一気に伸ばす方法はない。
一流の魔術師を目指すコオリに魔力量を伸ばす方法はないと告げるなど、あまりにも残酷な決断をバルルができるはずがなかった。しかし、そんな彼女にマリアは淡々と答えた。
「バルル、よく覚えておきなさい。無理な物は無理なのよ」
「くっ……もういい!!だったら他の方法を探すまでさ!!」
「話は最後まで聞きなさい!!」
珍しくマリアが大声を上げるとバルルは驚いた表情を浮かべ、そんな彼女にマリアはため息を吐きながら座り直すように促す。二人は互いに向き合う形で座り込み、頭冷やして話し合いを再開する。
「いくら頑張ろうと現状ではコオリ君の魔力量を伸ばす事はできない、それを踏まえた上で今から私の言う事をよく考えなさい」
「考えろって……何をだい?」
「いいから黙って聞きなさい。私の言いたい事は魔力量を伸ばす事に拘る事を辞めなさい。それだけの話よ」
「ど、どういう意味だい?」
「考えろと言ったはずよ。あの子の師匠は貴女なんでしょう?だったら自分で考えてみなさい」
「何だよもう……」
親に叱られた子供のようにバルルは縮こまると、そんな彼女にマリアは笑みを浮かべて新しい紅茶を注ぐ。この時にバルルはマリアが淹れてくれた紅茶のカップが自分の物ではなく、コオリの使っていたカップだと気付く。
「先生、それはあたしのじゃ……!?」
「……どうかしたのかしら?」
「待てよ、これってもしかして!!」
マリアに指摘しようとした瞬間、バルルは何かに気付いたかのようにコオリのカップとマリアの持っているティーポットに視線を向けた。先ほどマリアはカップを魔術師の器、紅茶を魔力に例えた。
魔法を使うという行為はカップの中に入っている紅茶(魔力)を消費する事に等しく、この紅茶が空になった時は魔力切れ(死)を意味する。しかし、カップが空にならないように定期的に新しい紅茶を注げば問題はない。
「そ、そうか……そう言う事かい!!」
「どうやら思いついたようね」
「ああ、やっと分かったよ!!先生、あんたは最初から気付いていたんだね!?」
「さあ、私には何も分からないわ。それで何を思いついたのかしら?」
「はっ、よく言うよ!!」
答えに気付いたバルルは嬉しそうに立ち上がり、彼女がコオリにするべき事は彼の魔力量を伸ばす事ではなく、彼の長所を伸ばす方法だと悟る。
「今のあいつがするべき事は魔力を伸ばす事じゃない、そうだろう先生!?」
「……それが貴女の思いついた答えかしら?」
「ああ、そうさ!!ようやく分かったよ……あいつが目指すべき方向を!!」
自信に満ちた表情で答えるバルルにマリアは少し疲れた表情を浮かべ、やっと彼女が自分で考えて答えに辿り着いた事に安堵する。コオリの魔力量は現状では伸ばす方法はないが、魔力量を伸ばすのではなく、別の観点で彼の魔力を生かす方法がある事をバルルは見出す――
※その頃のコオリ君
ミイナ「(・ω・)ノ耳かき」
コオリ「(´Д`)ハウッ」
珍しくヒロインといちゃついているのに描写されない(笑)
「残念ながら今の研究では魔力を伸ばす方法は確率されていないわ。色々と説があるけれど、生まれ持った魔力量は決まっているの」
「そこをどうにかならないのかい?あいつはあんなに頑張ってるのに……」
「こればかりは努力ではどうにもならないわ。それは貴女もよく知っているでしょう?」
「くっ……畜生!!」
学生時代に魔力量が少ない事に悩んでいたバルルは、魔力量を伸ばすために様々な事を試した。しかし、結局は在学中に彼女の魔力量が増加する事はなく、学園を退学させられた。
「魔石を使用すれば少ない魔力量でも強力な魔法を生み出す事はできる。だけど、魔力量が低いという事は魔法を使用する度に魔石の魔力をより引き出さなければならない。けれどそんな使い方をすればすぐに魔石の魔力は切れてしまうわね」
「つ、使い方を工夫すればどうにでもなるだろう?バルトの奴との試合の時みたいにあいつなら……」
「あの試合はバルト君が魔石を使いこなしていなかっただけよ。もしも相手がコオリ君と同じぐらいに魔石を巧みに扱える相手だったら……」
「……どうしようもないわけかい」
魔力量が少なくとも魔石などを利用すれば魔法の力を補う事はできる。しかし、コオリのように極端に魔力が低い人間の場合は魔石への負担が必然的に大きくなり、しかも魔石は決して簡単に手に入る代物ではない。
ッコオリが使用している魔石はバルルが今年分のボーナスを使い果たしてまで購入した代物であるため、一学生にしか過ぎないコオリでは簡単に入手できる代物ではない。しかも彼の場合は孤児院の仕送りのために稼いだお金の殆どを送金しており、魔石を購入する余裕などあるはずがなかった。
「先生!!本当にどうにかならないのかい!?」
「何度も言わせないで、魔力量が伸ばす方法は確立されていないわ。こればかりは私でもどうにもできないし、そもそもそんな方法を知っていれば貴女を退学に追い込むような真似はさせなかったわ」
「……くそっ、どうしてあいつだけがこんな目に!!」
バルルはマリアの言葉を聞いて苛立ちを隠しきれずに机を叩き、彼女としてはコオリがどれだけ一流の魔術師になるために努力してきたのかはよく知っていた。努力の結果、彼は同世代の魔術師とは比べ物にならない魔力操作の技術を身に着け、上級生にも引けを取らぬ実力を身に着けた。
マリアは魔力量が低い事が彼の才能だと言ったが、実際には彼の目指す一流の魔術師になるには魔力量が低いのは大きな枷となる。どうにかバルルはコオリの魔力量を伸ばす方法がないのかと今日まで調べてきたが、結局のところは現状ではコオリの魔力量を一気に伸ばす方法はない。
一流の魔術師を目指すコオリに魔力量を伸ばす方法はないと告げるなど、あまりにも残酷な決断をバルルができるはずがなかった。しかし、そんな彼女にマリアは淡々と答えた。
「バルル、よく覚えておきなさい。無理な物は無理なのよ」
「くっ……もういい!!だったら他の方法を探すまでさ!!」
「話は最後まで聞きなさい!!」
珍しくマリアが大声を上げるとバルルは驚いた表情を浮かべ、そんな彼女にマリアはため息を吐きながら座り直すように促す。二人は互いに向き合う形で座り込み、頭冷やして話し合いを再開する。
「いくら頑張ろうと現状ではコオリ君の魔力量を伸ばす事はできない、それを踏まえた上で今から私の言う事をよく考えなさい」
「考えろって……何をだい?」
「いいから黙って聞きなさい。私の言いたい事は魔力量を伸ばす事に拘る事を辞めなさい。それだけの話よ」
「ど、どういう意味だい?」
「考えろと言ったはずよ。あの子の師匠は貴女なんでしょう?だったら自分で考えてみなさい」
「何だよもう……」
親に叱られた子供のようにバルルは縮こまると、そんな彼女にマリアは笑みを浮かべて新しい紅茶を注ぐ。この時にバルルはマリアが淹れてくれた紅茶のカップが自分の物ではなく、コオリの使っていたカップだと気付く。
「先生、それはあたしのじゃ……!?」
「……どうかしたのかしら?」
「待てよ、これってもしかして!!」
マリアに指摘しようとした瞬間、バルルは何かに気付いたかのようにコオリのカップとマリアの持っているティーポットに視線を向けた。先ほどマリアはカップを魔術師の器、紅茶を魔力に例えた。
魔法を使うという行為はカップの中に入っている紅茶(魔力)を消費する事に等しく、この紅茶が空になった時は魔力切れ(死)を意味する。しかし、カップが空にならないように定期的に新しい紅茶を注げば問題はない。
「そ、そうか……そう言う事かい!!」
「どうやら思いついたようね」
「ああ、やっと分かったよ!!先生、あんたは最初から気付いていたんだね!?」
「さあ、私には何も分からないわ。それで何を思いついたのかしら?」
「はっ、よく言うよ!!」
答えに気付いたバルルは嬉しそうに立ち上がり、彼女がコオリにするべき事は彼の魔力量を伸ばす事ではなく、彼の長所を伸ばす方法だと悟る。
「今のあいつがするべき事は魔力を伸ばす事じゃない、そうだろう先生!?」
「……それが貴女の思いついた答えかしら?」
「ああ、そうさ!!ようやく分かったよ……あいつが目指すべき方向を!!」
自信に満ちた表情で答えるバルルにマリアは少し疲れた表情を浮かべ、やっと彼女が自分で考えて答えに辿り着いた事に安堵する。コオリの魔力量は現状では伸ばす方法はないが、魔力量を伸ばすのではなく、別の観点で彼の魔力を生かす方法がある事をバルルは見出す――
※その頃のコオリ君
ミイナ「(・ω・)ノ耳かき」
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