氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第67話 決闘開始

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――放課後を迎えるとコオリはミイナ達と共に学校の屋上へ向かう。以前にコオリが試験を受けた時のように教師陣が待ち構え、その中にはタンの姿もあった。


「ふん、やっと来たか……怯えて逃げ出してしまったかと思ったぞ」
「笑わせるんじゃないよ、あんたの方こそ顔色が悪いね。そんなに自分の生徒が心配なのかい?」
「き、貴様!!私を愚弄する気か!?」
「止めなさい」


到着早々のコオリ達にタンは嫌味を言い放つと、それに対してバルルは真っ向から言い返す。二人が一触即発の雰囲気に陥る中、それを止めたのは学園長のマリアだった。流石のタンもバルルも彼女に割り込まれれば喧嘩腰でいるわけにはいかず、大人しく引き下がる。


「二人とも仲良くしろとは言わないけれど、こんな時に争うのは止めなさい。教師であるのならば試合を行う二人を先に気遣いなさい」
「も、申し訳ございません!!」
「わ、悪かったね……よし、準備はいいかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ふんっ……ようやく逃げずに戦う覚悟ができたか」


タンの傍にはバルトも控えており、彼の手には小杖ではなく、掌程の大きさの風属性の魔石を取り付けた杖を手にしていた。それを見たバルルは驚き、一生徒が持つにしてはあまりにも立派な杖に彼女は驚きを隠せない。


「あんたその杖……何処からかっぱらってきたんだい!?」
「かっぱらってきたとは人聞きが悪いな……この杖は先生の御下がりでな。俺の杖は生徒会のリンダに取られたままで仕方ないから、先生に相談したらこれを貸してくれたんだ」
「くくく、文句はあるまい?お主の方こそ弟子に杖や魔石を与えたのだろう?」
「ちっ……そうきたかい」


バルトはこの日のためにタンに相談して彼が所有する杖を受け取り、その杖の性能は彼が元々所有していた杖よりも優れていた。自分のよりも何倍の大きさを誇る風属性の魔石を見てコオリは驚きを隠せないが、もう後には引けない。

新しい杖を手に入れたバルトは自信に満ちた表情を浮かべて屋上に設置された闘技台に移動し、その後にコオリも続く。魔術師同士の試合の場合はお互いに距離を離し、試合の合図は公平を期すためにバルトとタン以外の別の教師が執り行う。


「今回の試合条件は相手を戦闘不能に追い込む、あるいは杖を失う、もしくは杖を破壊されれば負けとみなす!!また、必要以上に相手を痛めつける行為も禁じる!!」
「は、はい!!」
「はいはい……さっさとしてくれよ」


審判役は一年生の担当教師にしてバルルとは昔から付き合いがあるセマカが執り行い、彼は二人に試合の条件を告げると急いで闘技台から降りる。今回の試合は前回の試験と同様に教師たちが結界を張り、最後の確認を行う。


「よし、では試合を始める!!二人とも本当に覚悟はできたか!?」
「大丈夫です!!」
「……始めてくれ」


気合を込めた声で返事をするコオリに対し、バルトの方は意外な程に冷静だった。その彼の態度はまるで自分が勝利する事が当たり前だと言わんばかりの様子であり、自分の魔法の力に絶対の自信がある事をうかがわせる。


(この人……間違いなく強い)


余裕の態度を取るバルトに対してコオリは警戒心を緩めず、彼の強さに関しては誰よりも認めていた。三年生の授業でバルトが魔法を使った時、コオリは彼の魔法が印象的に覚えていた。だからこそバルトに勝てば自分も強くなったという確信を得られると考えていた。


「……始め!!」
「はああっ!!」
「おらぁっ!!」


試合開始の合図と同時にコオリとバルトは同時に杖を突き出した瞬間、二人はで全く同時に魔法を発動させた。コオリは得意とする「氷弾」一方でバルトが発動させたのはリオンも扱っていた「スラッシュ」だった。

バルトは杖から繰り出したのは風属性の魔力を三日月状の斬撃へと変換させて放つ攻撃魔法だが、杖に取り付けられた大きな魔石のお陰なのか、リオンが放った魔法よりも規模が大きい。コオリの生み出した氷弾は真っ二つに切り裂かれて彼の元に迫る。


「一発で終わりだ!!」
「くぅっ!?」


迫りくる風の斬撃にコオリは咄嗟に横に飛んで回避すると、それを見たバルトは舌打ちした。


「ちぃっ……中々すばしっこいな。だが、もう一発は耐えられるか!?」
「うわっ!?」


今度は横向きに杖を振り払う事で三日月状の風の斬撃を繰り出し、地面すれすれで繰り出された攻撃のため、コオリは跳躍して回避するしかなかった。それを見てバルトは笑みを受かべ、逃げ場のない空中に移動したコオリに杖を構えた。


「これで終わりだっ!!」
「させるかっ!!」
「うおっ!?」


空中に浮かんだ状態でコオリは杖を構えると、今度はバルトよりも早くに二又の杖から氷弾を二連射した。バルトは即座に杖を構えると、彼の周りに風の膜のような物が出現して氷弾の軌道を反らす。風属性のの一種であり、それを見た教師陣は驚く。


「今のは防御魔法!?」
「しかも無詠唱だと!?」
「ちっ、そんな隠し玉を持ってたのかい……」
「あら、面白くなってきたわね」


防御魔法を利用してコオリの攻撃を防いだバルトに教師陣は驚き、一方でバルルは苦虫を嚙み潰した表情を浮かべる。もしもバルトが防御魔法を使っていなければコオリの氷弾が的中して勝負は終わっていたはずである。


「あの坊主、思ってたよりもずっと強いね」
「コオリの氷弾を防ぐなんて……あの魔法、実は凄かったりするの?」
「いや、あの防御魔法自体は大した事はないよ。ただ厄介な性質を持ち合わせているね」


バルトが利用した防御魔法は自分を中止に風の魔力を渦巻かせて身を守る術であり、氷弾では渦巻く風の流れに逆らえずに軌道が逸れてしまう。風の流れを受けない程の貫通力を高めた攻撃ならば通じる可能性はあるが、問題なのはバルトが一瞬で防御魔法を展開できる点だった。


「コオリの氷硬弾なら打ち破れるかもしれなけど、それだとバルトの奴に確実に大怪我を負わせる。それを躊躇してコオリの奴は使わないんだろうね」
「……コオリは魔術師としては優しすぎる」


悪人が相手であればコオリも覚悟を決めて氷弾を放つが、今回はあくまでも試合であって殺し合いではない。それにバルトに対してコオリは特に恨みがあるわけでもなく、そのために彼はどうしても人間相手に有効的ではあるが威力が大き過ぎて大怪我を負わせるかもしれない「氷硬弾」を扱えなかった。


(あの風の防御膜を打ち破らない限り、あの人に攻撃は通じない……それならあの魔法だ!!)


氷硬弾並の威力はなくとも風の膜を打ち破れる攻撃法はコオリは「氷連弾」を撃ち込む。


「喰らえっ!!」
「ぐっ……うおおっ!?」


初弾の氷弾が風の膜に阻まれようとした瞬間、後続の氷弾が的中した事で押し込まれ、風の膜を突破してバルトの元に向かう。だが、軌道が逸れて氷弾はバルトの肩を掠り、怪我をしたバルトは冷や汗を流す。
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