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王都での日常
第65話 バルト対策
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(バルト先輩に勝つには今まで生み出した魔法だけじゃ駄目な気がする。あの人の魔法は本当に凄かったし、何か対策を考えておかないと危険だ)
コオリはバルトが魔法を使った場面を思い返し、彼は同学年の魔術師の中でも一、二を争う魔術師だともリンダから聞いていた。自分よりも先輩でしかもリオンと同じく風属性の魔法の使い手だと知り、本当に勝てるのか自信はなかった。
風属性の魔法でコオリが知っているのはリオンが使用していた「スラッシュ」と「ウィンドカーテン」そしてバルトが授業の際に「スライサー」なる魔法を生み出した事を思い出す。
(あのスライサーという魔法が一番恐ろしいな……)
バルトの「スライサー」はリオンが扱う「スラッシュ」の上位互換の魔法であり、仮に人間がまともに喰らえば無事では済まない。
風属性の魔力を渦巻状に変化させて相手に攻撃を仕掛け、まるで竜巻の如く敵を粉砕する恐ろしい魔法だった。しかし、この魔法は発動の際に時間が掛かり、バルトの場合は杖を振り回す行為を事前に行う。
(あの魔法は発動に時間が掛かるらしいから、その時が攻撃を仕掛ける好機だと師匠は言ってたけど……問題なのはスラッシュの方だな)
中級魔法は発動に時間が掛かるという弱点はあるが、もしもバルトがリオンと同じく「スラッシュ」を扱えた場合は何らかの対策を立てなければならない。
リオンのスラッシュは鉄以上の強度を誇る肉体を持つオークを一刀両断し、恐らくだがバルトも彼と同じぐらいかそれに近い威力魔法が扱えると思われた。バルトはかつてリオンに敗れはしたが、それでも学園内でも指折りの実力者である事に間違いない。
(スラッシュを俺の氷《アイス》で受け止められるかどうかが問題なんだよな……)
鋼鉄を容易く切り裂く程の威力を持つスラッシュをコオリの作り出した氷塊が受け切れるかどうかは分からず、下手をしたら氷塊ごと破壊してコオリが敗れる可能性もあった。しかもスラッシュはスライサーと違って魔法を発動させるのに予備動作は行わず、瞬時に発動できるという点も厄介である。
(スラッシュとスライサー……この二つを打ち破る方法を考えないと勝てないかもしれない)
コオリは自分の下級魔法《アイス》でどのようにリオンの中級魔法を打ち破るのかを考える。魔石を利用すればこれまで以上に魔法の出力を上げる事ができるが、相手も魔石を扱う以上は同じ条件であるため、決してコオリの有利とはいえない。
(まともに受ければ俺の魔法じゃ勝ち目はない。だけど、新しい攻撃法を考える時間もないか……)
これまではコオリは窮地に立たされた時は「氷硬弾」や「氷連弾」といった魔法の応用法を編み出したが、今回ばかりは時間が少なすぎた。もう少し猶予があれば新しい攻撃魔法を身に着ける事ができたかもしれないが、バルルは勝負の日は明日と決めてしまった。
勝負に勝たなければコオリは退学しろとバルルに言われ、彼女自身もコオリが負けたら教職を下りるつもりらしい。コオリが成長できたのはバルルの指導のお陰であり、これからも強くなるためにはバルルの強力が必要不可欠だった。。
(考えろ、新しい魔法を作り出す時間がないのならやるべき事は――)
腕を組んで立ち尽くしたコオリは考え事にふけっていると、この時に強風が発生してコオリは危うく倒れそうになり、慌てて彼は踏み止まった事で転倒は免れた。
「うわっ!?危なっ……今日は風が強いな」
転ばないように踏み止まったコオリは自分が口にした言葉に目を見開き、ある事を思いつく。彼は二又の杖に取り付けられた魔石に視線を向け、空を見上げて時間を確認した。
(まだ一日ある……やってみる価値はあるかもしれない!!)
新しい訓練法を思いついたコオリは今日中に自分が考えた魔法の使い方を試すため、急いで準備を行う――
――それからしばらく時間が経過すると、屋上にミイナを連れたバルルが訪れる。彼女は欠伸をしながら寝ぼけ眼のミイナを連れ出して屋上に到着すると、コオリが倒れている姿を見て目を見開く。
「コオリ!?大丈夫!?」
「あんた、どうしたんだい!?」
「うっ……」
二人は慌ててコオリの元に駆け寄ると、彼女達はここで異変に気付いた。それはコオリから正面の位置に粉々に砕けた木造人形の破片が散らばっていた。
ここで何が起きたのかは分からないが、コオリが魔法で木造人形を破壊した事に間違いない。しかし、彼の扱う魔法の中で木造人形を木っ端みじんに破壊できる程の威力がある彼の魔法などバルルには心当たりがなかった。
(何だい、この壊れ方は!?)
今までもコオリが木造人形を壊す事はあったが、今回の場合は原型が留めていない程に粉々に砕け散っていた。一流の魔術師(魔拳士)であるはずのバルルでさえもコオリが何をしたのか分からず、一先ずは彼の容体を調べる。
「コオリ!!しっかりしな、何があったんだい!?」
「……駄目、完全に気絶している」
「これは……魔力を使いすぎたようだね」
コオリが目を覚ます様子がない事に気付いた二人はコオリが魔力切れを引き起こして倒れた事を知る。魔力切れを起こした魔術師はしばらくの間は意識が戻らず、魔力が回復するまでは目を覚ます事はない。
二人が訪れる前にコオリは自分の魔力を使い果たす程の厳しい訓練を行ったのは間違いないが、いったいどんな魔法を練習していたのか二人にも分からない。コオリの事はミイナに任せてバルルは壊れた木造人形の破片を拾い上げて呟く。
「何だい、これは……いったい何をどうしたらこんな風に砕け散るんだい?」
「もしかして、またコオリが新しい魔法を思いついた?」
「いや……それは分からないね」
粉々に砕かれたと破片を拾い上げたバルルは考え込み、いったいここで何が起きたのか彼女にも分からなかった。但し、一つだけ言える事はコオリがまたもやとんでもない事を仕出かしたのは間違いない。
(こいつめ、今度は何を思いついたんだい?)
コオリの身を案じながらも彼がどのような手段で木造人形を破壊したのかがバルルは気にかかり、この時に彼女は落ちているコオリの二又の杖に気が付いた。そして彼女は杖に嵌め込まれている魔石を見ると、信じがたい光景を目の当たりにした。
「な、何だいこれは!?」
「……どうしたの?」
「魔石の魔力がどっちも切れちまってるじゃないかい!!」
慌ててバルルは杖を拾い上げると、彼女はコオリに渡した魔石の魔力が完全に使い込まれている事に気付く。昨日までは確かに魔石には魔力が残っていたはずだが、現在は魔力が完全に切れて色が失われていた。
魔石が魔力を失うとただの水晶と化し、これでは使い物にならない。訓練の最終日だというのにコオリは魔石の魔力を全て使い切ってしまった。
「この馬鹿、自分の魔力だけじゃなくて魔石の魔力も使い切るなんて……いったい何をしてたんだい!?」
「バルル、怒らないで……きっとコオリにも考えがあるはず」
「怒ってなんかいないよ、こいつの事だから何か思いついたのは分かってるんだ」
興奮した様子でバルルはコオリに視線を向け、彼女は魔石の魔力を使い切った事は特に怒っておらず、むしろコオリがどんな使い方をしたのかが気になった。彼の発想力はバルトの想像を超え、いったいどんな方法でコオリが木造人形を破壊したのかが気になって仕方がない。
「とりあえず、今の所はこいつをゆっくりと休ませるしかないね……流石に寝ている間に薬を流し込むわけにもいかないからね……」
「でも、明日になったらコオリは……」
「ともかく、今はそいつを休ませておきな。今日の訓練は無しだよ、それと新しい魔石は明日用意してやると伝えておきな」
ミイナはコオリに膝枕すると彼は深い眠りについたまま起きる様子はなく、恐らくだが今日は起きたとしてもまともに訓練ができる状態ではない。今日の内はゆっくりと身体を休ませておくようにバルルは注意すると、彼女は屋上を後にした――
――屋上から離れたバルルが向かった先は授業中の三年生の教室だった。タンが生徒達に魔法の術式を教えている中、彼女はノックもせずに扉を開いて教室に入り込む。
「お邪魔するよ!!」
「なっ……何だ貴様!?」
「え、誰?」
「確か新任の先生じゃ……」
「ど、どうしてここに?」
急に入り込んできたバルルに誰もが戸惑い、授業を行っていたタンに至っては自分の授業の邪魔をしてきたのかと杖に手を伸ばす。そんな彼を無視してバルルは教室を見渡すと、不貞腐れた態度で授業を受けるバルトを発見した。
「あんたが噂に聞くバルトかい?」
「そ、そうだけど……誰だよあんた?」
「ま、待て!!貴様、うちの生徒に何をするつもりだ!?」
「あんたは黙ってな」
バルトは自分の目の前に訪れたバルルに少し驚いた様子を浮かべ、一方でタンはバルルを止めようと彼女に近付く。しかし、この時にバルルは鋭い目つきでタンを睨みつけた。
彼女の迫力にタンだけではなく、教室中の生徒の背筋が凍り付く。彼女の気迫だけで生徒達は声を上げる事もできず、一方でバルルの方はバルトを見下ろして淡々と告げる。
「うちの生徒に最近ちょっかいをかけているそうじゃないかい?」
「せ、生徒?」
「コオリの事だよ。それともあんたの欲しがっている月の徽章を持つ生徒と言った方が分かりやすいかい?」
「っ……!?」
バルルの言葉にバルトは彼女が自分が追いかけているコオリの担当教師だと気付くと、怒りを含んだ表情を浮かべた。そんな彼に対してバルルは笑みを浮かべ、堂々と宣言した。
「あたしは売られた喧嘩は買うのを信条にしている。そしてあたしの弟子のコオリも同じさ……あんたが売った喧嘩、買ってやるよ」
「な、何だと!?」
「喧嘩を売ってきたのはそっちの方だからね。明日の正午、屋上に来な。そこにあいつが待っているよ」
「ま、待て!!何を勝手な事を……」
「あんたも教師なら自分の生徒の面倒ぐらい見たらどうだい?タン先生」
「ぐぬぬっ……!?」
言いたいことだけを伝えるとバルルはそのまま背中を向けて教室の扉へ向かう。残されたタンは悔し気な表情を浮かべ、一方でバルトの方は唖然とするが、彼女の言われた言葉を思い出して冷や汗を流しながらも笑みを浮かべる。
「上等だ!!自分の弟子がぶちのめされるのを楽しみに待ってろ!!」
「……あんたには無理だよ」
去り際のバルルにバルトは挑発めいた言葉を継げるが、そんな彼にバルルは笑みを浮かべて立ち去る――
コオリはバルトが魔法を使った場面を思い返し、彼は同学年の魔術師の中でも一、二を争う魔術師だともリンダから聞いていた。自分よりも先輩でしかもリオンと同じく風属性の魔法の使い手だと知り、本当に勝てるのか自信はなかった。
風属性の魔法でコオリが知っているのはリオンが使用していた「スラッシュ」と「ウィンドカーテン」そしてバルトが授業の際に「スライサー」なる魔法を生み出した事を思い出す。
(あのスライサーという魔法が一番恐ろしいな……)
バルトの「スライサー」はリオンが扱う「スラッシュ」の上位互換の魔法であり、仮に人間がまともに喰らえば無事では済まない。
風属性の魔力を渦巻状に変化させて相手に攻撃を仕掛け、まるで竜巻の如く敵を粉砕する恐ろしい魔法だった。しかし、この魔法は発動の際に時間が掛かり、バルトの場合は杖を振り回す行為を事前に行う。
(あの魔法は発動に時間が掛かるらしいから、その時が攻撃を仕掛ける好機だと師匠は言ってたけど……問題なのはスラッシュの方だな)
中級魔法は発動に時間が掛かるという弱点はあるが、もしもバルトがリオンと同じく「スラッシュ」を扱えた場合は何らかの対策を立てなければならない。
リオンのスラッシュは鉄以上の強度を誇る肉体を持つオークを一刀両断し、恐らくだがバルトも彼と同じぐらいかそれに近い威力魔法が扱えると思われた。バルトはかつてリオンに敗れはしたが、それでも学園内でも指折りの実力者である事に間違いない。
(スラッシュを俺の氷《アイス》で受け止められるかどうかが問題なんだよな……)
鋼鉄を容易く切り裂く程の威力を持つスラッシュをコオリの作り出した氷塊が受け切れるかどうかは分からず、下手をしたら氷塊ごと破壊してコオリが敗れる可能性もあった。しかもスラッシュはスライサーと違って魔法を発動させるのに予備動作は行わず、瞬時に発動できるという点も厄介である。
(スラッシュとスライサー……この二つを打ち破る方法を考えないと勝てないかもしれない)
コオリは自分の下級魔法《アイス》でどのようにリオンの中級魔法を打ち破るのかを考える。魔石を利用すればこれまで以上に魔法の出力を上げる事ができるが、相手も魔石を扱う以上は同じ条件であるため、決してコオリの有利とはいえない。
(まともに受ければ俺の魔法じゃ勝ち目はない。だけど、新しい攻撃法を考える時間もないか……)
これまではコオリは窮地に立たされた時は「氷硬弾」や「氷連弾」といった魔法の応用法を編み出したが、今回ばかりは時間が少なすぎた。もう少し猶予があれば新しい攻撃魔法を身に着ける事ができたかもしれないが、バルルは勝負の日は明日と決めてしまった。
勝負に勝たなければコオリは退学しろとバルルに言われ、彼女自身もコオリが負けたら教職を下りるつもりらしい。コオリが成長できたのはバルルの指導のお陰であり、これからも強くなるためにはバルルの強力が必要不可欠だった。。
(考えろ、新しい魔法を作り出す時間がないのならやるべき事は――)
腕を組んで立ち尽くしたコオリは考え事にふけっていると、この時に強風が発生してコオリは危うく倒れそうになり、慌てて彼は踏み止まった事で転倒は免れた。
「うわっ!?危なっ……今日は風が強いな」
転ばないように踏み止まったコオリは自分が口にした言葉に目を見開き、ある事を思いつく。彼は二又の杖に取り付けられた魔石に視線を向け、空を見上げて時間を確認した。
(まだ一日ある……やってみる価値はあるかもしれない!!)
新しい訓練法を思いついたコオリは今日中に自分が考えた魔法の使い方を試すため、急いで準備を行う――
――それからしばらく時間が経過すると、屋上にミイナを連れたバルルが訪れる。彼女は欠伸をしながら寝ぼけ眼のミイナを連れ出して屋上に到着すると、コオリが倒れている姿を見て目を見開く。
「コオリ!?大丈夫!?」
「あんた、どうしたんだい!?」
「うっ……」
二人は慌ててコオリの元に駆け寄ると、彼女達はここで異変に気付いた。それはコオリから正面の位置に粉々に砕けた木造人形の破片が散らばっていた。
ここで何が起きたのかは分からないが、コオリが魔法で木造人形を破壊した事に間違いない。しかし、彼の扱う魔法の中で木造人形を木っ端みじんに破壊できる程の威力がある彼の魔法などバルルには心当たりがなかった。
(何だい、この壊れ方は!?)
今までもコオリが木造人形を壊す事はあったが、今回の場合は原型が留めていない程に粉々に砕け散っていた。一流の魔術師(魔拳士)であるはずのバルルでさえもコオリが何をしたのか分からず、一先ずは彼の容体を調べる。
「コオリ!!しっかりしな、何があったんだい!?」
「……駄目、完全に気絶している」
「これは……魔力を使いすぎたようだね」
コオリが目を覚ます様子がない事に気付いた二人はコオリが魔力切れを引き起こして倒れた事を知る。魔力切れを起こした魔術師はしばらくの間は意識が戻らず、魔力が回復するまでは目を覚ます事はない。
二人が訪れる前にコオリは自分の魔力を使い果たす程の厳しい訓練を行ったのは間違いないが、いったいどんな魔法を練習していたのか二人にも分からない。コオリの事はミイナに任せてバルルは壊れた木造人形の破片を拾い上げて呟く。
「何だい、これは……いったい何をどうしたらこんな風に砕け散るんだい?」
「もしかして、またコオリが新しい魔法を思いついた?」
「いや……それは分からないね」
粉々に砕かれたと破片を拾い上げたバルルは考え込み、いったいここで何が起きたのか彼女にも分からなかった。但し、一つだけ言える事はコオリがまたもやとんでもない事を仕出かしたのは間違いない。
(こいつめ、今度は何を思いついたんだい?)
コオリの身を案じながらも彼がどのような手段で木造人形を破壊したのかがバルルは気にかかり、この時に彼女は落ちているコオリの二又の杖に気が付いた。そして彼女は杖に嵌め込まれている魔石を見ると、信じがたい光景を目の当たりにした。
「な、何だいこれは!?」
「……どうしたの?」
「魔石の魔力がどっちも切れちまってるじゃないかい!!」
慌ててバルルは杖を拾い上げると、彼女はコオリに渡した魔石の魔力が完全に使い込まれている事に気付く。昨日までは確かに魔石には魔力が残っていたはずだが、現在は魔力が完全に切れて色が失われていた。
魔石が魔力を失うとただの水晶と化し、これでは使い物にならない。訓練の最終日だというのにコオリは魔石の魔力を全て使い切ってしまった。
「この馬鹿、自分の魔力だけじゃなくて魔石の魔力も使い切るなんて……いったい何をしてたんだい!?」
「バルル、怒らないで……きっとコオリにも考えがあるはず」
「怒ってなんかいないよ、こいつの事だから何か思いついたのは分かってるんだ」
興奮した様子でバルルはコオリに視線を向け、彼女は魔石の魔力を使い切った事は特に怒っておらず、むしろコオリがどんな使い方をしたのかが気になった。彼の発想力はバルトの想像を超え、いったいどんな方法でコオリが木造人形を破壊したのかが気になって仕方がない。
「とりあえず、今の所はこいつをゆっくりと休ませるしかないね……流石に寝ている間に薬を流し込むわけにもいかないからね……」
「でも、明日になったらコオリは……」
「ともかく、今はそいつを休ませておきな。今日の訓練は無しだよ、それと新しい魔石は明日用意してやると伝えておきな」
ミイナはコオリに膝枕すると彼は深い眠りについたまま起きる様子はなく、恐らくだが今日は起きたとしてもまともに訓練ができる状態ではない。今日の内はゆっくりと身体を休ませておくようにバルルは注意すると、彼女は屋上を後にした――
――屋上から離れたバルルが向かった先は授業中の三年生の教室だった。タンが生徒達に魔法の術式を教えている中、彼女はノックもせずに扉を開いて教室に入り込む。
「お邪魔するよ!!」
「なっ……何だ貴様!?」
「え、誰?」
「確か新任の先生じゃ……」
「ど、どうしてここに?」
急に入り込んできたバルルに誰もが戸惑い、授業を行っていたタンに至っては自分の授業の邪魔をしてきたのかと杖に手を伸ばす。そんな彼を無視してバルルは教室を見渡すと、不貞腐れた態度で授業を受けるバルトを発見した。
「あんたが噂に聞くバルトかい?」
「そ、そうだけど……誰だよあんた?」
「ま、待て!!貴様、うちの生徒に何をするつもりだ!?」
「あんたは黙ってな」
バルトは自分の目の前に訪れたバルルに少し驚いた様子を浮かべ、一方でタンはバルルを止めようと彼女に近付く。しかし、この時にバルルは鋭い目つきでタンを睨みつけた。
彼女の迫力にタンだけではなく、教室中の生徒の背筋が凍り付く。彼女の気迫だけで生徒達は声を上げる事もできず、一方でバルルの方はバルトを見下ろして淡々と告げる。
「うちの生徒に最近ちょっかいをかけているそうじゃないかい?」
「せ、生徒?」
「コオリの事だよ。それともあんたの欲しがっている月の徽章を持つ生徒と言った方が分かりやすいかい?」
「っ……!?」
バルルの言葉にバルトは彼女が自分が追いかけているコオリの担当教師だと気付くと、怒りを含んだ表情を浮かべた。そんな彼に対してバルルは笑みを浮かべ、堂々と宣言した。
「あたしは売られた喧嘩は買うのを信条にしている。そしてあたしの弟子のコオリも同じさ……あんたが売った喧嘩、買ってやるよ」
「な、何だと!?」
「喧嘩を売ってきたのはそっちの方だからね。明日の正午、屋上に来な。そこにあいつが待っているよ」
「ま、待て!!何を勝手な事を……」
「あんたも教師なら自分の生徒の面倒ぐらい見たらどうだい?タン先生」
「ぐぬぬっ……!?」
言いたいことだけを伝えるとバルルはそのまま背中を向けて教室の扉へ向かう。残されたタンは悔し気な表情を浮かべ、一方でバルトの方は唖然とするが、彼女の言われた言葉を思い出して冷や汗を流しながらも笑みを浮かべる。
「上等だ!!自分の弟子がぶちのめされるのを楽しみに待ってろ!!」
「……あんたには無理だよ」
去り際のバルルにバルトは挑発めいた言葉を継げるが、そんな彼にバルルは笑みを浮かべて立ち去る――
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