氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第64話 魔石の訓練

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――翌日からコオリは朝早くに屋上の訓練場に訪れ、バルルの指導の下で魔石を扱った魔法の練習を行う。自分の魔力を操作するのと魔石の魔力を引きだして魔法の強化を行うのは感覚が異なり、最初の内は上手く扱えずに必要以上に魔石の魔力を消耗してしまう。


「馬鹿!!そんな使い方だとすぐに魔石の魔力が切れちまうよ!!本番前に魔石の魔力を使い切るつもりかい!?」
「す、すいません!!」
「……落ち着いて、焦らなくていい、どうせ魔石が切れてもバルルが新しいのを買ってくるから」
「こらこら!!あたしを破産させるつもりかい!?」


バルルがボーナスを前借りにして購入した魔石は四個しか存在せず、しかもコオリの場合は魔法を発動するのに風属性と水属性の魔石を同時に必要とするため、実質的に彼が練習と本番で使用できる魔石はそれぞれ二個ずつという事になる。

できる事ならば最初の訓練で使用する魔石を使い切らない内に魔石の扱い方を身に着け、本番の時は予備の魔石を利用して万全の状態で戦いたい。だが、魔石から魔力を引きだすのは想像以上に難しく、そもそも数日で魔石の操作を覚えるのが無理な話だった。


「バルル、やっぱり時間が少なすぎる。このままだとコオリが過労で倒れるかもしれない」
「大丈夫だよ、こいつは両手で小杖を扱えるぐらいに器用だからね。三日でも長いくらいさ、今日のうちにコツだけでも掴むんだよ」
「そ、そんな事を言われても……」
「弱音を吐いている暇はないよ!!さあ、もう一度やりな!!」


普通の魔術師でも魔石を扱えるようになるにはほど時間が掛かり、それを数日で習得しろというのは無茶な話である。しかし、たった数日でコオリは魔光を生み出さずに魔法を扱えるようになり、しかも彼はバルルですらも真似できない両手で小杖を使用して魔法を扱う事ができる程の技術を持つ。

最初の内は上手くいかずに必要以上に魔石から魔力を引きだしてしまったが、練習を繰り返す内にコオリは感覚を掴み始める。例えるならば自分の魔力を操作する方法が右で文字を書く事に等しく、魔石から魔力を引きだす場合は左で文字を書くような感じだった。


(ちょっとコツが掴めてきたかも……)


右利きの人間だろうと練習を繰り返せば左でも文字を掛けるようになり、そもそもコオリは元々は左利きだった。だからこそ魔石の扱い方も徐々に慣れていき、たったでコオリは魔石をある程度操れるようになった。


「……はあっ!!」
「おおっ」
「よし、無詠唱で魔法を発動できるまでになったね……流石はあたしの弟子だ」


魔石を装着した状態でコオリは無詠唱で魔法を発現させる事に成功すると、それを見たミイナは拍手を行い、バルルも満足げに頷く。夕方になるまで練習を繰り返したが、どうにかぎりぎり魔力が切れる前に扱い方を覚えた。


「はあっ、はあっ……や、やりました」
「頑張ったじゃないか……と、言いたい所だけど本番はこれからだよ!!明日からは魔石を使った本格的な魔法の練習を行う!!」
「何をするの?」
「基本に立ち返って今まで覚えた魔法を試すのさ。魔石で魔法を強化できるといっても、必ずしも今まで扱えた魔法が使えるかどうかは分からないからね」
「どういう意味?」
「まあ、明日になれば分かるさ……今日はもう休みな、明日までに疲れは取っておくんだよ」


バルルの発言にミイナは不思議に首を傾げ、魔石で魔法を強化されるのであればコオリの魔法も当然強くなる思われるが、彼女は意味深な事を告げて今日の訓練を終わらせる――





――初日の訓練が終わった後、コオリは学生寮に戻ると身体を休ませた。何度か休憩を挟んだ流石に半日近くも魔法の練習を行うのは厳しく、今日はもう魔力も殆ど残っていなかった。


「はあっ……師匠から貰ったこれ、使うしかないかな」


別れ際にコオリはバルルから受け取った魔力回復薬《マナポーション》を取り出し、どうしてもきつい時はこれを飲んで魔力を回復させるように言われた。しかし、魔力回復薬は高価な代物であるため、既に自分のために魔石を購入してボーナスを使い果たしたバルルに悪い気がした。


「これは師匠に返そう……どうせ眠れば魔力も回復するし、休んでおこう」


魔力回復薬をコオリは机の引き出しに入れておくと、彼はベッドに横たわろうとした。しかし、ここで部屋の扉が激しく叩かれて聞き覚えのある声が響く。


『おい、ここにいるんだろ!!さっさと出て来い!!』
「え、この声は……!?」
『出てこないとこの扉をぶっ飛ばすぞ!!』


聞こえてきた声は昨日にコオリに絡んできた「バルト」という男子生徒の声で間違いなく、バルルと因縁のあるタンの教え子でもある。バルトは月の徽章を持つコオリを目の仇にしており、学生寮の彼の部屋を見つけ出したらしい。

慌ててコオリは扉に近付こうとするが、バルルからは二日後まで彼との接触を避けるように言われた事を思い出す。バルルは魔石の訓練を遂行するまでコオリにはバルトと会わないように注意し、仕方なく居留守する事にした。


(こんな時に来るなんて……)


音を立てないようにコオリは部屋の中で静かにしていると、やがて諦めたのかバルトの声はしなくなった。コオリは声が聞こえなくなったので安心仕掛けた時、再び扉の外の方から声が聞こえてきた。


『ん?バルト、お前何でそんな場所に座り込んでいるんだ?』
『……この部屋の奴に用事があるんだよ。そいつが帰ってくるまで待っている』
『待ってるって……ずっとか?』
『うるせえな、さっさと行け!!』


部屋の外から聞こえてきた声を聞いてコオリは困り果て、どうやらバルトは部屋の前に待機しているらしい。意地でもコオリが戻ってくるまで待ち構えるつもりらしく、これでは居留守を使ったコオリは部屋の外に出られない。

何が何でもバルトはコオリの事を逃がすつもりはないらしく、これでは外に出る事もできないと思ったコオリはどうするべきか考える。窓を開いて外に出る事もできるが、その場合だと鍵を開きっぱなしでないといけない。


(前に窓を開けっぱなしにした生徒が泥棒に入られたという話もあるし、鍵を開けっぱなしで出ていくのはまずいな)


窓に視線を向けてコオリはどうするべきか考えていると、不意に窓を閉じた時に僅かに隙間がある事に気付く。この隙間に杖を差し込めば部屋の中で魔法で造り出した氷を送り込める事に気付く。


(この窓、よくよく見るとガタついてるな……ちゃんと修理した方がいいかもしれないけど、今は都合がいいや)


窓を閉じた状態でも僅かな隙間があれば杖を差し込むは難しくなく、しかもコオリの所持する二又の杖は先端部が普通の杖よりも細く尖っている。そのお陰で彼は窓の隙間から杖を差し込む事に成功し、氷を作り出して部屋の中に送り込む事ができた。

これを利用してコオリはまずは窓から部屋の外に抜け出すと、窓を閉めた状態で二又の杖を構える。この時に隙間から杖の先端を突っ込み、部屋の中で無詠唱で氷を作り出す。


(よし、上手くいきそうだ)


コオリは筒状の氷塊を作り出すと、それを上手く利用して窓の内側の鍵を施す。これならば窓から入る事はできず、中には入りたい時は同じように部屋の中に氷を生み出して鍵を開ければいい。


(よし、気づかれないように外へ出る事ができた!!)


コオリは無事に外へ逃げ出すと、それからしばらくの間は部屋の外へ離れる事にした。そしてバルトの方はコオリが部屋から抜け出した事も気づかず、延々とコオリを待ち惚ける事になる。その後、他の生徒に連絡を受けた教師が駆けつけて彼を叱りつけ、罰として一週間のトイレ掃除が命じられたという――





――二日目の訓練を終えた後、魔石を扱う感覚も大分掴めたコオリは学生寮に一旦戻ろうとした。しかし、今度は校庭に待ち伏せしていたバルトに見つかってしまう。


「遂に見つけたぞ!!今度こそ逃がさないからな!!」
「うわっ!?」


花壇の裏に隠れていたバルトはコオリの前に飛び出すと、彼は杖に手を伸ばす。それを見たコオリは慌てて逃げようとした時、何処からか足音が鳴り響いてバルトの背後から人影が現れる。


「てりゃっ」
「あいたぁっ!?」
「ミイナ!?」


バルトの股間にミイナの蹴りが決まり、彼はあまりの痛みに耐え切れずに跪く。一方でミイナバルトを飛び越えると、コオリの腕を掴んで走り出す。股間を蹴りつけられたバルトは涙目を浮かべながら逃げ去る二人を睨みつける事しかできなかった。


「ま、待ちやがれ……!!」
「……気にしないで良い、ほら走って」
「う、うん……」


ミイナのお陰でコオリは窮地を脱する事はできたが、今回の一件でコオリ達は増々にバルトからの恨みを買ってしまう――





――そして訓練の最終日、コオリは朝早くに屋上の訓練場に赴いて練習を行っていた。どうして早朝から訓練を行っていたかと言うと、何時何処でバルトと遭遇するのか分からず、部屋の中でも安心できないので彼は朝から早く学生寮を抜け出して訓練に励む。


「はあっ……眠いな」


欠伸をしながらもコオリは杖を構えて練習を行い、彼は二つの魔石から魔力を引きだして通常以上の大きさの氷塊を作り上げる。もう魔石から魔力を引きだす感覚は完璧に掴み、後はどのような手段でバルトと戦うのか考える段階に入っていた。
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