氷弾の魔術師

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
61 / 129
王都での日常

第61話 もう一人の一年生

しおりを挟む
「リンダ、邪魔をするな!!」
「邪魔をするに決まっているでしょう!!いったい何を考えているんですか!?後輩に手を出そうとするなんて……」
「ちっ……」


リンダはコオリとミイナの元に向かうと自分の背中に隠し、二人を庇うように立つ。そんなリンダを見てバルトは面倒くさそうな表情を浮かべて彼女に手を差し出す。


「俺の杖を返せ」
「お断りします。下級生に危害を加えるような輩に杖を渡す事はできません」
「てめえ、何様のつもりだ!?」
「私は生徒会の副会長です。学園の秩序を正すため、下級に乱暴を行う生徒を見逃すわけにはいきません」
「え、生徒会……?」


バルトの要求をリンダは堂々と拒否すると、この時にコオリは「生徒会」や「副会長」という単語を始めて耳にした。その一方でバルトの方は杖の返却を拒否されて怒りのままに立ち上がろうとするが、リンダが拳を握り締めると彼の顔面に目掛けて構える。


「これ以上に私の前で下手な真似をしたら……どうなるか覚悟はできていますね?」
「ちっ……」
「あ、あの……」
「……怖い」


あまりのリンダの迫力に先ほどまで怒り心頭だったバルトも冷や汗を流す。そんな二人のやり取りを見てコオリも緊張し、ミイナに至っては怖がるように彼の背中に隠れてしまう。

少しは落ち着いたのかバルトは頭を掻きながら三人に視線を向け、やがて何も言わずに背中を向ける。彼は杖を受け取らずに屋上の扉に向かい、別れ際に一言だけ告げた。


「……今日の事は忘れねえぞ」


それは誰に対しての言葉なのかは分からなかったが、一方的にそれだけを告げるとバルトは屋上から立ち去る。その様子を見てコオリとミイナは安堵すると、リンダは困った表情を浮かべてバルトから回収した杖を見下ろす。


「全く、バルトには困りましたね……」
「あの……リンダさん、ありがとうございます」
「いいえ、気にしないでください。先輩として当然の事をしたまでです」
「……あいつ、何だったの?」


コオリが礼を告げるとリンダは微笑みながら彼の頭を撫でやり、その一方でミイナは立ち去ったバルトに対して不満そうな表情を浮かべて尋ねる。するとリンダは困った表情を浮かべ、彼の代わりに謝罪を行う。


「二人とも怖い思いをさせてしまいましたね……彼は少し前に月の徽章を持つ生徒と揉め事を起してしまい、それ以来あのような横暴な態度を取るようになったんです」
「それって……もしかして一年生の生徒とですか?」
「……御存じだったのですか?」


コオリの言葉にリンダは驚いた表情を浮かべるが、コオリはバルトと先ほどの会話で彼が月の徽章を持つ一年生の生徒の事を知っているような事を口にしていた。その事からコオリはバルトと揉め事を起こしたという生徒が一年生の生徒ではないかと推測し、見事に予想は的中した。


「バルトは元々は成績優秀な生徒でしたが、彼は常日頃から月の徽章を持つ生徒に憧れを抱いていました。だから彼は一年生の時から誰よりも勉強して好成績を残していたのですが、結局は三年生に上がっても月の徽章を手にする事はできませんでした」
「えっ……そんなに月の徽章を手に入れるのは難しいんですか?」
「……コオリ、その言葉は他の人の前では言ったら絶対に駄目。皆は口にしないけど、月の徽章を欲しと思っている人はたくさんいる」


月の徽章の重要性を伝えられてコオリは驚くが、魔法学園の生徒の中には月の徽章を欲している者も大勢いる事を知る。その中でもバルトは月の徽章を欲しており、彼は月の徽章を手に入れるために一年生と二年生の頃は学年上位の成績を残してきた。

しかし、月の徽章を手に入れるのは相当に難しく、学業で優秀な成績を残すだけでは駄目だった。月の徽章を与えられるのは学園長のみであり、学園長が認めた人物にしか月の徽章を渡す事は許されない。そのためにバルトは学園長の目に留まるために頑張ってきたが、約二か月前に彼にとっては屈辱的な出来事が起きたという。


「入学式の時、今年の新入生の中に月の徽章を持つ生徒が現れました。一年生の中で月の徽章を持つ生徒が現れたのは今の学園長の代に変わってからは初めての出来事です。それを知ったバルトの衝撃は大きく、自分がどれだけ頑張っても手に入らなかった月の徽章をよりにもよって一年生の生徒が手に入れた事に悔しく思い、そして事件を起こしました」
「事件?」
「その話、私も知っている……あの時は凄かった」


あまり学校で真面目に授業を受けていなかったミイナでさえもバルトが引き起こした事件の事は知っているらしく、いったいどんな事件が起きたのかとコオリは尋ねると、リンダは神妙な表情を浮かべて答える。


「……バルトは月の徽章を持つ一年生に絡み、そして決闘を行いました」
「決闘……!?」


月の徽章に憧れを抱くバルトは自分よりも下の学年の生徒が月の徽章を手に入れた事が許せず、まだ入学したての新入生に決闘を申し込んだ事が事件の切っ掛けだった――





――時は遡り、入学式が行われた日の夕方にバルトは月の徽章を持つ新入生と対峙した。自分でさえも手に入れる事ができない月の徽章を入学の時点で手にしていたにバルトが突っかかったのが全ての発端だった。

バルトは自分が月の徽章を持つ人間として選ばれないのは実力不足だからだと判断していた。だからこそ彼は月の徽章を手に入れるために勉学に励み、魔法の練習を行ってきた。そのお陰で彼は学年トップの成績を誇り、将来的には月の徽章を与えられるに相応しい人物だと他の生徒からも思われていた。

しかし、彼が三年生になった時に入学式にて月の徽章を持つ新入生が紹介された。それを知ったバルトは自分よりも年下でしかも入学したばかりの子供が月の徽章を持つ事に衝撃を受け、彼は今まで自分の実力が不足していたからこそ月の徽章を得られないと思っていた。だが、その考え方が正しい場合、バルトは入学したばかりの一年生よりも実力が劣っている事を認めなければならない。

当然だが入学したばかりの生徒よりも自分が劣っているとは認めたくはないバルトは教師を問い質し、どうして一年生に月の徽章を与えたのかを尋ねた。しかし、返答は月の徽章を持つに相応しい生徒だと学校側が判断したとしかいわれず、その答えに納得がいかないバルトは入学式の夕方に一年生を呼び出す。


『お前のようなガキが俺よりも優っているだと……ふざけるな!!』
『……文句があるのなら証明してやろうか?』
『な、何だと!?』
『どちらが上なのか……ここで決めればいい』


バルトに呼び出された少年は年齢の割には大人びており、上級生の彼から呼び出されても全く動じた様子がない。そして彼は杖を取り出すとバルトに構え、今この場で自分と戦ってどちらの実力が上なのかを決めるように促す。


『決闘だ。お前が本当に自分の実力に自信があるというのなら……掛かってこい』
『な、舐めるな!!』


一年生から決闘を申し込まれた事にバルトは激怒し、そして彼は一年生と決闘を行った――





――結果から言えばバルトは一年生との決闘に惜敗した。三年生の魔術師の中でもバルトは指折りの実力者だったが、接戦の末に敗れてしまった。

一年生は彼と同じく「風属性」の魔法の使い手だったが、バルトよりも年下にも関わらずに彼以上の魔法の精度を誇り、決闘は五分も経たないうちに終わってしまった。


『そんな、馬鹿な……!?』
『それがお前の限界か?』
『くっ……くそぉおおおっ!!』


下級生に決闘で敗北した事にバルトは悔し涙を流し、その一方で相手をした一年生はその場を立ち去った――





――この敗北を切っ掛けにバルトは性格が荒み、より一層に強くなるための方法を選ばなくなった。彼は魔法の授業だけではなく、独学で新しい風属性の魔法の会得を試みる。時には自分のためならば他の人間に迷惑を掛けるような事も躊躇せず、そのせいで彼を恐れる生徒も増え始める。

一年生に敗北してからもバルトは月の徽章に執着心を抱き、何度も教師に直談判した。自分こそが月の徽章を持つ生徒に相応しいと掛け合うが、それでも彼に月の徽章を与えられる事はない。

バルトが自分に月の徽章を与えられない原因は例の一年生に敗北したせいだと判断し、あの一件で学校側の自分の評価が下がったと考えた。そこで彼は自分の実力を見せつけるかの様に授業の際には誰よりも目立つ行動を取り、誰よりも大きな成果を得ようとした。

そんなバルトにとっては因縁の相手である月の徽章を持つ一年生は何故か姿を見なくなり、ここ最近は学校に登校もしていない。魔法学園の生徒は寮で暮らす事が義務付けられているが、バルトが調べた限りではその一年生は寮に暮らしていない事が発覚する。


『ふざけるなよ……どっちが本当に強いのか、今度こそ思い知らせてやる』


自分を敗北させた一年生に対してバルトは執着し、また彼が魔法学園に訪れた時にバルトは決闘を申し込み、今度こそ自分の本当の実力を思い知らせると誓う。前回の時は怒りで我を忘れていたから実力を発揮できずに敗れたと彼は思い込んでいた。

バルトは何時の日か戻ってくるであろう一年生を待ち続け、その時までに自分自身の腕を磨き、そして彼を打ち倒す事で自分が月の徽章を持つ生徒に相応しい事を証明するつもりだった。だが、そんな彼の耳にもう一人の月の徽章を持つ生徒の話が届く。


『もう一人、一年生の中に月の徽章を持つ奴が現れただ……!?』


月の徽章を与えられた一年生がまた現れたという話を聞いた時、バルトは愕然とした。自分を打ち破った生徒の他にまたもや月の徽章を持つ生徒が現れた事に彼は激しく怒りを抱いたが、その生徒の存在を知ったのはごく最近の話である。

理由としては月の徽章を貰った生徒は普通の生徒とは違い、新任の教師と空き教室で授業を受けていたせいであまり話題にならず、しかも最近は学園の外に出向く事が多かったのでバルトも会う機会がなかった。そのせいでバルトも一年生を探し出す事ができず、仕方なく訓練に励もうとしていた時に彼は偶然にも屋上で月の徽章を与えられた生徒《コオリ》と遭遇してしまう。

彼が自分の探していたもう一人の月の徽章を持つ生徒だと知ると、バルトは我慢できずに手を出してしまう。それを止めたのが同級生のリンダであり、彼女がこなければバルトは冗談抜きでコオリに何をするのか分からなかった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...