氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第60話 上級生との対立

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――バルルがタンと言い争っている間、コオリとミイナは屋上の訓練場にて待機していた。二人はバルルが戻るまで訓練場で自主訓練を行い、この時にコオリは二つの的を用意して氷弾の訓練を行っていた。


「最後のはここに置く?」
「うん、ありがとう。危ないからミイナは下がってて」
「分かった」


ミイナと共にコオリは的当て用の木造人形を配置すると、別々の位置に置いた二つの人形を確認する。人形の位置を全て把握するとコオリは二又の杖を取り出す。


(よし、この距離と数なら……大丈夫なはず)


二又の杖を取り出したコオリは無詠唱で瞬く間に二つの氷弾を作り上げ、狙いを定めた。複数の氷弾を同時に操作するのはかなりの集中力を必要とするが、連日の訓練でコオリの魔力操作の技術は磨き抜かれていた。

今回の訓練はいつもと違って複数の的を同時に攻撃し、的に当てる事ができればコオリは複数の敵を狙い撃つことができるはずだった。


(それぞれの人形の位置を捉えて……撃つ!!)


二つの人形の位置を把握した上でコオリは杖を突き出し、その動作に反応て氷弾が同時に発射された。それぞれの氷弾はコオリが狙いを定めた木造人形に目掛けて突っ込み、片方は頭部、もう片方は胸元に氷弾がめり込む。


「よし、成功!!」
「おおっ……流石はコオリ、略してさすコオリ」
「だからそれ何!?」


ミイナのよく分からないボケに戸惑いながらもコオリはそれぞれの人形に視線を向け、最初の一回で氷弾を当てる事に嬉しく思う。だが、ここでコオリはある事に気付いた。


(あれ?いつもよりも氷弾がめり込んでいない?もしかして当てる事に集中しすぎて肝心の威力が落ちてたのか……?


二つの的に氷弾を当てる事には成功したが、木製の人形程度を貫けないようでは威力に難がある。せめて全ての人形を貫通させるほどの威力でなければ魔物との戦闘では扱えず、もう少しだけ訓練を続ける事にした。


(今度は他の箇所を狙ってみようかな)


もう一度魔法を作り出そうとコオリは杖を構え、今度は頭よりも頑丈な胴体の部分を狙い撃とうとした時、不意に屋上の扉が開いた。


「……何だ、お前等?何をしている?」
「え?あの……」
「……そっちこそ誰?」


屋上に上がってきたのは上級生の男子生徒であり、彼は屋上に辿り着いて早々にコオリとミイナに気付くと驚いた表情を浮かべる。その一方でコオリは男子生徒の顔に見覚えがあり、学園に入ったばかり頃にコオリが上級生の授業を覗いた時に見かけた男子生徒だった。

男子生徒の名前はコオリの記憶が正しければ「バルト」という名前で、彼は同級生からも一目置かれている存在だった。彼は風属性の魔法の使い手で中級魔法を習得しており、三年生の中でも一、二を争う魔術師だと噂されている。


「お前等……一年と二年か?なんでここにいる。もうとっくに下校の時間だろうが」
「えっと、僕達は……」
「私達はここで待っているように言われた」


コオリが説明する前にミイナが理由を伝えると、バルトは二人の言葉に疑問を抱く。本来であれば下級生は学校の裏庭にある訓練場しか使用を許可されていないが、教師の許可があれば他の訓練場も使用する事が許されている。

教師であるバルルから許可を貰った上でコオリとミイナは屋上で訓練を行っていたが、今回の場合は急に現れたバルトの方がここにいる事がおかしかった。下校時間を迎えているのにバルトが屋上に訪れている事もおかしく、仮に自主訓練を行うとしても屋上の訓練場は許可がなければ立ち入りは許可されていない。


「……まあいい、お前等はとっとと帰れ。ここは俺が今から使う」
「え、でも……」
「私達はここに待っているように言われた。それにここを使う許可は……」
「うるせえ!!いいからさっさと出ていけ!!」
「そんな横暴な!?」


バルトはコオリとミイナの話を碌に聞かずに屋上から退去させようとするが、この時に彼はコオリに視線を向けてある事に気が付く。コオリの胸元に取り付けられた「月の徽章」を見た途端、バルトは信じられない表情を浮かべた。


「お前、その徽章は……!?」
「えっ……ど、どうかしました」
「……まさか、そういう事か。お前が一年の癖に学園長から月の徽章を渡されたガキか!!」
「うわっ!?」
「コオリ!?」


月の徽章を身に着けたコオリを見てバルトは興奮した様子で彼の元に駆けつけ、力ずくで胸倉を掴む。その行為にコオリは驚き、ミイナはそれを見て彼を止めようとした。


「なんでお前みたいなガキに学園長は月の徽章をやった!!言え、どんな手を使った!?」
「うぐぅっ……!?」
「止めて、コオリが苦しがってる!!」
「うるさい、退け!!」
「あうっ!?」
「ミ、ミイナ!?」


止めようとしてきたミイナに対してバルトは彼女を突き飛ばし、それを見たコオリはバルトに胸倉を掴まれながらも怒りを覚え、無理やりに引き剥がす。


「このっ……離せ!!」
「うおっ!?このガキ……調子に乗りやがって!!」


自分の腕を振り払ったコオリに対してバルトは怒りを抱き、彼が杖を持っているのを見てバルトも杖を取り出す。お互いに杖を構え合う形となり、それを見たミイナも魔法腕輪を取り出す。


(この人、いったい何なんだ!?)


いきなり自分の胸倉を掴み、更にはミイナを突き飛ばしたバルトに対してコオリは怒りを抱く。その一方でバルトの方はコオリが胸に付けている「月の徽章」を見て悔しそうな表情を浮かべ、自分が身に着けている「星の徽章」を見て歯を食いしばる。

魔法学園では高い評価を残した生徒には星の徽章が与えられ、この徽章は学年の進級に関わる重要な代物である。生徒は年内に自分の学年と同じ数の星の徽章を得る事ができなければ昇給できず、徽章を獲得できなかった生徒は進級する事もできない(但し、一年生の場合のみ進級の試験を受けられる)。

既にバルトは上の学年に進級するために必要な星の徽章を取り揃えており、まだ次の学年に昇給するまで10か月ほどの猶予があるにも関わらずに彼は星の徽章を三つも揃えていた。だが、彼にとっては星の徽章よりも価値のある月の徽章を身に着けたコオリに嫉妬心を抱く。


「お前の噂は耳にしているぞ……一年生の癖にの月の徽章の持ち主だってな!!」
「え、二人目……?」
「惚けやがって!!」


自分の他に一年生の中にもう一人の月の徽章の持ち主がいると初めて知ったコオリは驚いたが、興奮した様子のバルトは自分が取り付けている星の徽章を掴み取り、床に叩き付けた。


「こんなもん、いるかよ!!」
「な、何をしてるんですか!?」
「うるせえっ!!こんな物をいくら集めても意味ねえんだよ!!俺が欲しいのは……!!」


バルトは星の徽章を捨てるとコオリが身に着けている月の徽章を睨みつけ、その様子を察したコオリは彼が求めているのは星の徽章などではなく、自分の持つ月の徽章である事を察する。

月の徽章は学園長が認めた生徒にしか授けられず、この月の徽章を持つ生徒は星の徽章がなくとも進級が許可される。それどころか他の生徒が禁止されている教室や訓練場の立ち入りなども許可され、現在はコオリ達が使用している空き教室も月の徽章を持つ生徒が居るという事で特別に使用が許可されているに等しい。

自分の実力に絶対の自信を持つバルトは自分こそが月の徽章を持つに相応しい生徒だと常日頃から思っていた。それにも関わらずに彼は自分よりも年下でしかも一年生のコオリが月の徽章を持っている事に激しく嫉妬し、彼は杖を構えるとコオリに宣言した。


「決闘だ!!俺はお前に決闘を申し込む!!」
「えっ!?」
「決闘……!?」


唐突なバルトの宣言にコオリは驚きを隠せず、話を聞いていたミイナも驚いた表情を浮かべる。一方で興奮が収まらぬバルトはコオリに杖を突きつけ、自分の決闘を受けるかどうかを問い質す。


「どうした!!お前が本当に月の徽章を与えられる程の魔術師ならの俺なんかよりも優れているという事だろう!?そんな俺と決闘するのが怖いのか!?」
「お、落ち着いて下さい!!急に決闘だなんて……」
「うるせえ!!ガキだろうと容赦はしねえぞ!!」


コオリの返事を待たずにバルトは杖を上空に掲げると、その構えを見たコオリは信じられない表情を浮かべる。バルトが使おうとしている魔法は中級魔法の「スライサー」と呼ばれる魔法で間違いなく、風属性の魔力を渦巻状に構成して相手に放つ攻撃魔法で間違いなかった。

バルトが使用する「スライサー」の威力は木造人形を木っ端みじんに吹き飛ばす程の破壊力を誇る。そんな魔法をまともに受ければ人間の肉体は無事では済まず、咄嗟に彼はバルトを止めるために魔法の準備を行う。


「止めてください!!本当に撃ちますよ!?」
「うおおおっ!!」
「待って!!」


暴走したバルトを止めるためにコオリとミイナがそれぞれ動こうとした瞬間、屋上の扉が開け開かれて何者かが飛び出す。その人物はバルトの背後に迫ると、彼の腕を掴んで強制的に魔法の発動を中止させた。


「いい加減にしなさい、バルト!!」
「ぐあっ!?」
「えっ!?」
「……誰?」


バルトを後ろから抑えつけたのは彼の同級生である「リンダ」であり、コオリを魔法学園に招いた女子生徒だった。彼女は怒った様子でバルトの腕を掴んで後ろから抑えつけ、無理やりに彼から杖を奪い取る。

リンダに取り押さえられたバルトは床に押し付けられ、彼は悔し気な表情を浮かべるがリンダの方が力が上なのか抵抗できずに抑えつけられる。その様子を見てコオリとミイナは安堵するが、そんな二人にもリンダは鋭い目つきを向けた。


「貴方達も杖と腕輪を外しなさい!!」
「は、はい!!」
「にゃうっ……」


彼女の言葉に慌ててコオリとミイナは杖と腕輪をしまうと、それを確認したリンダはバルトを手放す。バルトは急に現れたリンダに対して不機嫌そうな表情を浮かべるが、彼の杖はリンダに取り上げられて抵抗はできない。
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