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王都での日常
第58話 バルルの過去
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「どうして師匠は魔術痕を刻んだんですか?」
「まあ……一言で言えば金がなかったんだよ」
「お金?」
バルルが魔術痕を自らの肉体に刻み込んだ理由、それは彼女が冒険者活動を続ける上でどうしても必要だったからである。学園で問題を起こして退学した彼女が生きていくには冒険者になるしかなく、その冒険者活動を行うにはどうしても彼女は魔法の力を頼らなければならなかった。
「あたしには両親がいなくてね、だから学園に通う前は孤児院で暮らしていた。けど、魔法の素質がある事が分かった途端に孤児院の連中はあたしを魔法学園に送り込んだんだ。そういう意味ではあんたと境遇は似てるね」
「師匠も孤児だったんですか!?でも、それなら孤児院に戻れば……」
「それは御免だね、あんたと違ってあたしは孤児院の連中が大嫌いだった。それに孤児院の奴等も魔法学園で問題を起こした奴を引き取るのは嫌に決まってる」
「そ、そうなんですか……」
コオリを拾った孤児院の人たちは皆が優しかったが、バルルが暮らしていた孤児院は酷い環境だったらしく、彼女を厄介者として扱って魔法学園に送り込んだという。だからバルルは孤児院に戻るという選択肢はなかった。
「じゃあ、師匠が冒険者になったのは……」
「勿論、一人で生きいくためさ。幸いにも魔法が扱えるあたしは冒険者ギルドも快く歓迎してくれたよ」
当時は若かったとはいえ、バルルは魔法を扱えた。それが功を奏して冒険者ギルドに加入し、生きていくのに必要な金を稼ぐ事ができたという。冒険者ギルド側としても魔法が扱える人材は滅多にいないため、彼女の事を快く迎え入れてくれたらしい。
魔法の力は魔物に対抗するのに一番効果的な武器になるため、魔術師というだけでバルルは冒険者の間でも頼られるようになった。本人も誰の力も借りずに自分の力で生きていく事に充実感を覚え、今までは孤児院や学連の連中に世話になっていたが、もう自分は一人で生きていく事ができると実感すると嬉しくて仕方がなかったという。
「冒険者になりたての頃は本当に楽しかったね。他の冒険者もあたしの事をよく勧誘してきたし、同世代の冒険者も結構多かった」
「それなのに辞めちゃったんですか?」
「まあ、その辺の話はおいおいね……」
冒険者という職業にバルルは誇りを抱いていたが、それにも関わらずに現在の彼女は冒険者を辞めていた。前に冒険者ギルドに立ち寄った時にコオリはバルルと同年代と思われる冒険者を見かけたため、年齢的な問題で彼女が辞めたとは考えにくい。
実力的にもバルルは魔法学園の教師を任せられる程であるため、今でも冒険者として生きていけるだけの力も持っているはずである。だが、コオリが王都に訪れた時から既に彼女は冒険者を辞め、宿屋の主人を勤めていた事に不思議に思う。
(バルルさんも何か事情があるのかな。そう言えば前に仲間を失ったとか言っていたような……)
バルルが冒険者を辞めるに至った理由はコオリも気になったが、本人が話さないのであれば無理に聞くのは失礼かと思い、それ以上に追及はしなかった。その代わりに彼女が魔術痕を刻んだ理由を問う。
「あの……師匠はどうして魔術痕を刻んだんですか?さっきはお金がなかったからとか言ってましたけど」
「ああ、それは……魔法を使う度に杖や魔法腕輪を使うのは面倒だろう?それに杖や魔法腕輪を奪われたら魔法が使えなくなる。だから何時でも魔法が使えるように魔術痕を刻んで貰ったのさ」
「えっ……」
「あんた達も気をつけた方が良いよ。魔術師の最大の弱点は魔法が使えなくなる事だからね。もしも敵があんた達の持っている杖や魔法腕輪を狙ってきた時、あんた達はどうするんだい?」
コオリとミイナはバルルの言葉を聞いてはっとした表情を浮かべ、言われてみれば確かに普通の魔術師は杖や魔法腕輪がなければ魔法を発現できない。もしも敵に杖や魔法腕輪を奪われる、あるいは破壊された場合はコオリもミイナも魔法の力を利用する事ができない。
「あたしがまだ冒険者になりたての頃、盗賊の討伐の依頼を引き受けた事があったんだよ。だけどね、盗賊の連中はあたしが魔術師だと知ると隙を突いて魔法腕輪を奪おうとしてきたんだ。その時は他の冒険者が一緒に居たから助かったけど、それ以来にあたしは魔法腕輪を奪われないように対策をするようになったのさ」
「そ、そうか……人間が相手ならそういう事態もあり得るんですよね」
「別に人間に限った話じゃないさ。あんた達はゴブリンを知っているかい?奴等のように力は弱くても知能が高い魔物は人間の武器や防具を奪おうとしてくる。場合によっては人間から奪った武器や防具を身に着ける事もあるから気をつけな」
「……それは怖い」
コオリもミイナも今まで戦闘の最中で自分達の杖や魔法腕輪を奪われる可能性がある事を失念しており、今後は魔法を使う時は杖や魔法腕輪を手放さないように気をつける事尾を心掛けなければならない。
「まあ、あたしのように魔術痕を刻めばそんな心配もいらなくなるけどね」
「ちなみに師匠は魔術痕をどれくらいで完全に使いこなせるようになったんですか?」
「そうだね……一年ぐらいはかかったかね」
「一年!?そんなにかかるんですか!?」
「言っておくけどこれでも早い方だよ。普通の魔術師なら何年もかけて使いこなせるようになる技術だからね」
魔術痕を刻めば杖や魔法腕輪無しでも魔法を扱えるようになるが、制御するのに相当な時間が掛かるらしく、当時は魔法学園の生徒の中でも優秀な生徒だったバルルでさえも一年は掛かったという。
「……もしもコオリのような魔術師が魔術痕を刻んだらどうなるの?杖無しでも魔法が使えるようになるの?」
「いや……魔術痕は基本的には魔拳士以外の奴が刻むのはお勧めしないね。今まで杖で魔法を使ってきた奴が魔術痕を刻んでも思い通りに魔法を発現させる事はできない」
「え、そうなんですか?」
「魔術師の杖は魔力を収束させて先端部から撃ち込む代物だからね。一方で魔法腕輪や魔術痕の場合は身体から魔力を放出させる機能を持っている。杖も腕輪も魔力を操るという点は同じだけど、根本的には違う武器なんだよ」
魔術師の杖は魔力を杖その物に収束させ、それを魔法として放つ。一方で魔法腕輪の場合は体外に魔力を放出させる機能を持ち合わせているため、コオリのような杖を扱う魔術師は魔法腕輪や魔術痕を刻んだとしても上手く扱えない。
逆に言えばミイナのような魔拳士は魔法腕輪や魔術痕とは相性は良いが、杖などの武器で戦う事は不得手にしている。ミイナは杖を使用しても上手く魔法は扱えず、熟練の魔拳士であるバルルでさえも杖を使って扱える魔法は火属性の下級魔法《ファイア》しか使用できない。
「ミイナ、あんたが魔術痕を刻んで欲しいのなら腕の良い彫り師を紹介してやるよ。あんたならきっとあたしよりも早く魔法の力を扱えるようになると思うしね」
「……遠慮しておく、痛そうだから」
「たく、最近のガキは根性がないね……さあ、そろそろ帰るよ。そうそう、魔物の素材はしっかりと持っておきな」
「これ、どうするんですか?」
「勿論売りに行くのさ。魔物の素材はそこそこの値段で買い取ってくれるからね。これからは毎日外に出向いて魔物を倒して金を稼ぐんだよ」
「ええっ!?」
バルルの発言にコオリは驚き、彼女の言っていた「子供でも金を稼げる方法」がまさか魔物を倒して素材を回収し、それを売却する事で金を得るとは思いもしなかった。
「文句を言うんじゃないよ、この方法なら生徒の魔法の鍛錬という名目で金も稼げるんだ。それにあんたらが強くなればもっと強い魔物を倒して金を稼ぐ事もできるんだ。そうすればあんたの孤児院の仕送りもできるだろう?」
「それは……そうかもしれませんけど」
「安心しな、いざという時はあたしが守ってやるさ。オークだろうがコボルトだろうがあたしの手にかかればイチコロだからね」
「頼りになる」
どんな魔物が来ようとバルルは二人を守る事を約束し、そんな彼女の言葉にコオリとミイナは安心感を抱く。しかし、この時の彼女の考えた方法が後に大きな問題になる事をこの時の二人はまだ知らない――
――この日からコオリ達は授業という名目で休日を除いた日は王都の外に出向き、草原に生息する魔物を倒す日々を送る。最初の内は魔物との戦闘に緊張していたコオリとミイナだったが、連日のように戦わされていくうちに戦闘に慣れていく。
最初の頃は二人は順番に魔物と戦っていたが、戦闘が慣れていくと一緒に戦う機会も多くなり、連携して魔物を倒す。バルルも時々だが戦闘に加わる事もあったが、基本的に彼女は二人が窮地に陥らない限りは助けには向かわない。
「ガアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「ていっ!!」
コボルトにコオリが襲われそうになった瞬間、ミイナが駆けつけてコボルトの背後から蹴りを叩き込む。背中を強打したコボルトは痛みのあまりに攻撃を中断し、その隙を逃さずにコオリは顔面に杖を構えて魔法を放つ。
「このっ!!」
「アガァッ!?」
「……終わり」
氷硬弾を頭部に撃ち込まれたコボルトは地面に倒れ込み、そのまま完全に動かなくなった。それを確認したミイナは額の汗を拭うと、自分達の周囲に倒れているコボルトの群れの死骸を見下ろす。
「ふうっ……流石にきつかった」
「あ、ありがとう」
「気にしなくていい、コオリもよく頑張った」
「よしよし、よくやったね。さあ、素材を回収して退散するよ」
「ガアアッ……!?」
少し離れた場所にはまだ生きているコボルトの顔面を鷲摑み、力ずくで押し倒すバルルの姿があった。コボルトは必死に彼女から逃れようとするが、バルルの右腕に炎の紋様が浮き上がり、彼女はコボルトを押し倒した状態で「魔拳」を発動させた。
「爆拳!!」
「ッ――!?」
「うわっ!?」
「にゃうっ!?」
コボルトの顔面を掴んだバルルの右手から「爆炎」が放たれ、コボルトの顔どころか上半身が吹き飛ぶ。その様子を見てバルルは煙を振り払い、上半身が吹き飛んだコボルトを見て頭を掻く。
「しまった……また調整を失敗《ミス》ったね。悪い悪い、こいつから手に入った素材の代金はあたしが払うよ」
「い、いや……気にしないでください」
「相変わらず凄い威力」
バルルはミイナと同じく火属性の魔法を得意とするが、ミイナと異なる点は彼女の場合は腕に炎を纏って攻撃するのではなく、腕から炎を直接叩き込む。それが彼女の得意とする「爆拳」だった。
「まあ……一言で言えば金がなかったんだよ」
「お金?」
バルルが魔術痕を自らの肉体に刻み込んだ理由、それは彼女が冒険者活動を続ける上でどうしても必要だったからである。学園で問題を起こして退学した彼女が生きていくには冒険者になるしかなく、その冒険者活動を行うにはどうしても彼女は魔法の力を頼らなければならなかった。
「あたしには両親がいなくてね、だから学園に通う前は孤児院で暮らしていた。けど、魔法の素質がある事が分かった途端に孤児院の連中はあたしを魔法学園に送り込んだんだ。そういう意味ではあんたと境遇は似てるね」
「師匠も孤児だったんですか!?でも、それなら孤児院に戻れば……」
「それは御免だね、あんたと違ってあたしは孤児院の連中が大嫌いだった。それに孤児院の奴等も魔法学園で問題を起こした奴を引き取るのは嫌に決まってる」
「そ、そうなんですか……」
コオリを拾った孤児院の人たちは皆が優しかったが、バルルが暮らしていた孤児院は酷い環境だったらしく、彼女を厄介者として扱って魔法学園に送り込んだという。だからバルルは孤児院に戻るという選択肢はなかった。
「じゃあ、師匠が冒険者になったのは……」
「勿論、一人で生きいくためさ。幸いにも魔法が扱えるあたしは冒険者ギルドも快く歓迎してくれたよ」
当時は若かったとはいえ、バルルは魔法を扱えた。それが功を奏して冒険者ギルドに加入し、生きていくのに必要な金を稼ぐ事ができたという。冒険者ギルド側としても魔法が扱える人材は滅多にいないため、彼女の事を快く迎え入れてくれたらしい。
魔法の力は魔物に対抗するのに一番効果的な武器になるため、魔術師というだけでバルルは冒険者の間でも頼られるようになった。本人も誰の力も借りずに自分の力で生きていく事に充実感を覚え、今までは孤児院や学連の連中に世話になっていたが、もう自分は一人で生きていく事ができると実感すると嬉しくて仕方がなかったという。
「冒険者になりたての頃は本当に楽しかったね。他の冒険者もあたしの事をよく勧誘してきたし、同世代の冒険者も結構多かった」
「それなのに辞めちゃったんですか?」
「まあ、その辺の話はおいおいね……」
冒険者という職業にバルルは誇りを抱いていたが、それにも関わらずに現在の彼女は冒険者を辞めていた。前に冒険者ギルドに立ち寄った時にコオリはバルルと同年代と思われる冒険者を見かけたため、年齢的な問題で彼女が辞めたとは考えにくい。
実力的にもバルルは魔法学園の教師を任せられる程であるため、今でも冒険者として生きていけるだけの力も持っているはずである。だが、コオリが王都に訪れた時から既に彼女は冒険者を辞め、宿屋の主人を勤めていた事に不思議に思う。
(バルルさんも何か事情があるのかな。そう言えば前に仲間を失ったとか言っていたような……)
バルルが冒険者を辞めるに至った理由はコオリも気になったが、本人が話さないのであれば無理に聞くのは失礼かと思い、それ以上に追及はしなかった。その代わりに彼女が魔術痕を刻んだ理由を問う。
「あの……師匠はどうして魔術痕を刻んだんですか?さっきはお金がなかったからとか言ってましたけど」
「ああ、それは……魔法を使う度に杖や魔法腕輪を使うのは面倒だろう?それに杖や魔法腕輪を奪われたら魔法が使えなくなる。だから何時でも魔法が使えるように魔術痕を刻んで貰ったのさ」
「えっ……」
「あんた達も気をつけた方が良いよ。魔術師の最大の弱点は魔法が使えなくなる事だからね。もしも敵があんた達の持っている杖や魔法腕輪を狙ってきた時、あんた達はどうするんだい?」
コオリとミイナはバルルの言葉を聞いてはっとした表情を浮かべ、言われてみれば確かに普通の魔術師は杖や魔法腕輪がなければ魔法を発現できない。もしも敵に杖や魔法腕輪を奪われる、あるいは破壊された場合はコオリもミイナも魔法の力を利用する事ができない。
「あたしがまだ冒険者になりたての頃、盗賊の討伐の依頼を引き受けた事があったんだよ。だけどね、盗賊の連中はあたしが魔術師だと知ると隙を突いて魔法腕輪を奪おうとしてきたんだ。その時は他の冒険者が一緒に居たから助かったけど、それ以来にあたしは魔法腕輪を奪われないように対策をするようになったのさ」
「そ、そうか……人間が相手ならそういう事態もあり得るんですよね」
「別に人間に限った話じゃないさ。あんた達はゴブリンを知っているかい?奴等のように力は弱くても知能が高い魔物は人間の武器や防具を奪おうとしてくる。場合によっては人間から奪った武器や防具を身に着ける事もあるから気をつけな」
「……それは怖い」
コオリもミイナも今まで戦闘の最中で自分達の杖や魔法腕輪を奪われる可能性がある事を失念しており、今後は魔法を使う時は杖や魔法腕輪を手放さないように気をつける事尾を心掛けなければならない。
「まあ、あたしのように魔術痕を刻めばそんな心配もいらなくなるけどね」
「ちなみに師匠は魔術痕をどれくらいで完全に使いこなせるようになったんですか?」
「そうだね……一年ぐらいはかかったかね」
「一年!?そんなにかかるんですか!?」
「言っておくけどこれでも早い方だよ。普通の魔術師なら何年もかけて使いこなせるようになる技術だからね」
魔術痕を刻めば杖や魔法腕輪無しでも魔法を扱えるようになるが、制御するのに相当な時間が掛かるらしく、当時は魔法学園の生徒の中でも優秀な生徒だったバルルでさえも一年は掛かったという。
「……もしもコオリのような魔術師が魔術痕を刻んだらどうなるの?杖無しでも魔法が使えるようになるの?」
「いや……魔術痕は基本的には魔拳士以外の奴が刻むのはお勧めしないね。今まで杖で魔法を使ってきた奴が魔術痕を刻んでも思い通りに魔法を発現させる事はできない」
「え、そうなんですか?」
「魔術師の杖は魔力を収束させて先端部から撃ち込む代物だからね。一方で魔法腕輪や魔術痕の場合は身体から魔力を放出させる機能を持っている。杖も腕輪も魔力を操るという点は同じだけど、根本的には違う武器なんだよ」
魔術師の杖は魔力を杖その物に収束させ、それを魔法として放つ。一方で魔法腕輪の場合は体外に魔力を放出させる機能を持ち合わせているため、コオリのような杖を扱う魔術師は魔法腕輪や魔術痕を刻んだとしても上手く扱えない。
逆に言えばミイナのような魔拳士は魔法腕輪や魔術痕とは相性は良いが、杖などの武器で戦う事は不得手にしている。ミイナは杖を使用しても上手く魔法は扱えず、熟練の魔拳士であるバルルでさえも杖を使って扱える魔法は火属性の下級魔法《ファイア》しか使用できない。
「ミイナ、あんたが魔術痕を刻んで欲しいのなら腕の良い彫り師を紹介してやるよ。あんたならきっとあたしよりも早く魔法の力を扱えるようになると思うしね」
「……遠慮しておく、痛そうだから」
「たく、最近のガキは根性がないね……さあ、そろそろ帰るよ。そうそう、魔物の素材はしっかりと持っておきな」
「これ、どうするんですか?」
「勿論売りに行くのさ。魔物の素材はそこそこの値段で買い取ってくれるからね。これからは毎日外に出向いて魔物を倒して金を稼ぐんだよ」
「ええっ!?」
バルルの発言にコオリは驚き、彼女の言っていた「子供でも金を稼げる方法」がまさか魔物を倒して素材を回収し、それを売却する事で金を得るとは思いもしなかった。
「文句を言うんじゃないよ、この方法なら生徒の魔法の鍛錬という名目で金も稼げるんだ。それにあんたらが強くなればもっと強い魔物を倒して金を稼ぐ事もできるんだ。そうすればあんたの孤児院の仕送りもできるだろう?」
「それは……そうかもしれませんけど」
「安心しな、いざという時はあたしが守ってやるさ。オークだろうがコボルトだろうがあたしの手にかかればイチコロだからね」
「頼りになる」
どんな魔物が来ようとバルルは二人を守る事を約束し、そんな彼女の言葉にコオリとミイナは安心感を抱く。しかし、この時の彼女の考えた方法が後に大きな問題になる事をこの時の二人はまだ知らない――
――この日からコオリ達は授業という名目で休日を除いた日は王都の外に出向き、草原に生息する魔物を倒す日々を送る。最初の内は魔物との戦闘に緊張していたコオリとミイナだったが、連日のように戦わされていくうちに戦闘に慣れていく。
最初の頃は二人は順番に魔物と戦っていたが、戦闘が慣れていくと一緒に戦う機会も多くなり、連携して魔物を倒す。バルルも時々だが戦闘に加わる事もあったが、基本的に彼女は二人が窮地に陥らない限りは助けには向かわない。
「ガアアッ!!」
「うわぁっ!?」
「ていっ!!」
コボルトにコオリが襲われそうになった瞬間、ミイナが駆けつけてコボルトの背後から蹴りを叩き込む。背中を強打したコボルトは痛みのあまりに攻撃を中断し、その隙を逃さずにコオリは顔面に杖を構えて魔法を放つ。
「このっ!!」
「アガァッ!?」
「……終わり」
氷硬弾を頭部に撃ち込まれたコボルトは地面に倒れ込み、そのまま完全に動かなくなった。それを確認したミイナは額の汗を拭うと、自分達の周囲に倒れているコボルトの群れの死骸を見下ろす。
「ふうっ……流石にきつかった」
「あ、ありがとう」
「気にしなくていい、コオリもよく頑張った」
「よしよし、よくやったね。さあ、素材を回収して退散するよ」
「ガアアッ……!?」
少し離れた場所にはまだ生きているコボルトの顔面を鷲摑み、力ずくで押し倒すバルルの姿があった。コボルトは必死に彼女から逃れようとするが、バルルの右腕に炎の紋様が浮き上がり、彼女はコボルトを押し倒した状態で「魔拳」を発動させた。
「爆拳!!」
「ッ――!?」
「うわっ!?」
「にゃうっ!?」
コボルトの顔面を掴んだバルルの右手から「爆炎」が放たれ、コボルトの顔どころか上半身が吹き飛ぶ。その様子を見てバルルは煙を振り払い、上半身が吹き飛んだコボルトを見て頭を掻く。
「しまった……また調整を失敗《ミス》ったね。悪い悪い、こいつから手に入った素材の代金はあたしが払うよ」
「い、いや……気にしないでください」
「相変わらず凄い威力」
バルルはミイナと同じく火属性の魔法を得意とするが、ミイナと異なる点は彼女の場合は腕に炎を纏って攻撃するのではなく、腕から炎を直接叩き込む。それが彼女の得意とする「爆拳」だった。
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