氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第56話 連射

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「師匠、どの魔物と戦えばいいんですか?」
「へえ……随分と落ち着いているじゃないかい。その様子なら期待できそうだね」
「……コオリ、今の表情はちょっと格好良かった」


コオリの表情を見てバルルは少し驚いた様子を浮かべ、ミイナは何故か頬を赤く染める。一方でコオリの方は二又の杖を取り出し、何時でも魔法を扱える準備を行う。

バルルはコオリの落ち着いた様子を見た後、周囲を見渡して適当な相手を探す。そして彼女が目に付けたのは草原に生息する魔物の中でも比較的に危険度が低く、コオリが前に戦った事がある獲物を見つけた。


「あそこにがいるだろう?ここからあんたの魔法で狙ってみな」
「えっ……ここからですか?」
「魔力操作の鍛錬は毎日行ってるならこれぐらいの距離でも当てられるはずだよ」


一角兎の姿を確認したバルルは丘の上から一角兎を狙うように指示する。丘の上から一角兎がいる場所はかなりの距離が離れており、魔法が覚えたての頃のコオリでは到底魔法を当てられる距離ではなかった。

数十メートルは離れている一角兎に目掛けてコオリは二又の杖を構えた。この時に注意するのは一匹だけを仕留めるならわざわざ魔法を無駄内する必要はなく、片方の先端だけに魔力を集中させる。。


(……近すぎるな)


昔は氷の破片を十数メートル先に飛ばす事しかできなかったコオリだが、厳しい訓練を乗り越えた事で彼の魔法は見違える程に強化されていた。そして無詠唱でコオリは一角兎に目掛けて氷弾を撃ち込む。。


「はあっ!!」


杖から離れた氷弾は一角兎の頭部に的中し、頭を貫かれた死骸が地面に転がり込む。


「やるじゃないかい!!もうこのぐらいの距離なら外れる事はなさそうだね!!」
「流石はコオリ……略してサスコオリ」
「そんな呪文みたいな褒め方嬉しくないけど……あ、ありがとう」


難なく標的に魔法を当てたコオリにバルルは感心した表情を浮かべ、ミイナは拍手を行う。そして死骸の元に赴いて解体を開始する。

生き物を殺す事にまだ慣れていないコオリは一角兎の死骸を見て顔を青く染めるが、それでも彼は殺した以上は倒した死骸から素材を回収するために短剣を取り出す。前にバルルから教わった方法を思い出してコオリは死骸を解体し、素材を剥ぎ取った。


「うっ……」
「……きつそうなら代わる?」
「いや、最後までやりたい」
「よく言ったよ。自分で殺した獲物は自分で解体するのが道理さ」


自分で倒した以上はコオリは自分の手で素材を回収しなければならないと思い、他の二人の力を借りずに一角兎から素材を剥ぎ取る。その様子をコオリとミイナは見届けようとするが、ここで血の臭いにつられてきたのか他の魔物が姿を現わす。


「ガアアッ!!」
「おっと、どうやら血の臭いに釣られてきたようだね」
「あ、あれって!?」
「……コボルト」


一角兎の血の臭いに釣られて姿を現わしたのは狼と人間が合わさったような姿をした魔物であり、それを見たミイナは目つきを鋭くさせてコオリを庇うように立つ。

コボルトはファングと同じく狼型の魔獣だが、ファングと違う点は人間のように二足歩行で手足も狼より人間に近い。その爪と牙は鋼鉄さえも容易く切り裂く程の切れ味を誇ると言われている。


「くそっ、こんな時に……」
「大丈夫、ここは私が戦う。さっきも言ったでしょ?コオリは私が守るって」
「気をつけるんだよ。そいつは動きが素早いからね、獣人族のあんたでも油断したら足元をすくわれるよ」
「グルルルッ……!!」


血の臭いに釣られたコボルトはコオリ達に対して牙を剥き出しにしながら唸り声をあげるが、そんなコボルトを前にしてもミイナは動じずに構えを取る。彼女は新しい魔法腕輪に視線を向け、両手を広げると「炎爪」を発動させた。


「にゃんっ!!」
「うわっ!?」
「あちちっ!?も、もっと離れてやりな!!」
「ガアッ!?」


可愛らしい掛け声とは裏腹にミイナは両手から以前よりも火力を増した炎を纏い、炎の爪を纏ったミイナに大してコボルトは一瞬だけ怯み、その隙を見逃さずにミイナは踏み込む。


「にゃあっ!!」
「ガアッ!?」
「馬鹿、大振りの攻撃なんてしたら……!?」
「ミイナ!?」


ミイナは右腕を振りかざすとコボルトは空中に跳躍して回避を行い、彼女の背後に降り立つ。それを見たバルルは慌てて注意するが、コボルトは彼女の背後から首元に目掛けて牙を放つ。


「ガアアアッ!!」
「引っかかった」
「ガハァッ!?」
「「えっ!?」」


後ろからミイナの首にコボルトが噛みつこうとした瞬間、唐突に腹部に衝撃が走った。コオリとバルルもコボルトの身に何が起きたのかと驚き、一方でミイナは勝利を確信した笑みを浮かべる。

彼女はコボルトが背中側に回り込んだ瞬間、振り返りもせずに後ろに立つコボルトの腹部にを叩き込む。彼女は手技だけではなく、足技も得意と得意していた。


「け、蹴った!?しかも効いてる……」
「たいしたもんだね、まあ獣人族の脚力で蹴りつけられれば無事では済まないね」


獣人族であるミイナは普段から建物の屋根を飛び越える程の脚力を誇り、そんな彼女の足技を受ければ如何に魔物《コボルト》と言えども無事では済まない。予想外の一撃を受けてコボルトは腹部を抑え、明らかに動きが鈍くなった。

コボルトが隙を見せるとミイナは両手の炎爪を振りかざし、止めの一撃を食らわせるために飛び込む。彼女は両手を左右から振りかざすと、コボルトの首元に向けて放つ。


「爪斬り!!」
「ギャウッ!?」
「やった!!」
「やるじゃないかい……けど、その技の名前はちょっとダサいね」


炎爪で攻撃を受けたコボルトは倒れ込み、首筋に受けた炎を必死に掻き消そうとするが、魔法で生み出された炎は簡単には消えない。やがて炎が収まった頃には首元は焼け焦げてしまい、苦悶の表情を浮かべたままコボルトは絶命した。


「ふうっ……良い汗をかいた」
「ミイナ、凄いよ!!前よりも炎が強くなったんじゃない?」
「この魔法腕輪のお陰、前よりも魔力が伝わりやすくなった」


ドルトンが制作した新しい魔法腕輪のお陰で彼女は以前よりも炎を使いこなせるようになり、本人も気に入った様子だった。コオリの二又の杖は二つの魔法を同時に扱えるようになったが、彼女の魔法腕輪は性能面だけが上がったらしい。


「どうだい?新しい装備の具合は?」
「気に入った」
「いつもの杖よりも使いやすい気がします!!」
「そうかい、それなら……とりあえず、の相手もしてやりな」
「「えっ?」」


バルは二人の後方を指差すと、彼女の示す先にコオリ達は顔を向ける。指し示された場所にはミイナが倒したコボルトとは別個体のコボルトが迫っていた。


「ガアアアッ!!」
「うわっ!?」
「コオリ、下がって!!」
「落ち着きな!!まだ敵との距離はあるんだ!!それなら先に魔法で攻撃を仕掛けた方が得だよ!!」


迫りくるコボルトを見てコオリは驚愕の声を上げ、咄嗟にミイナが彼を守ろうとした。だが、それを見たバルルは二人に指示を出す。

言われた通りにコオリは接近するコボルトとの距離を確認し、足の速いコボルトならば数秒も経過しない内に自分達の元に迫る事は間違いない。しかし、逆に言えばの猶予がある。その数秒の間にコオリは魔法を発動して先手を打つ事ができた。


(そうだ!!敵が遠くにいるなら僕が仕掛けるんだ!!)


接近戦を不得手とする魔術師だが、距離がある相手ならば優位に立てる。魔拳士であるミイナは接近戦を得意とする反面に遠距離への相手の攻撃手段を持ち合わせておらず、そんな彼女の代わりにコオリは自ら戦うべきだと思い直す。


「ミイナ、そこを退いて!!」
「コオリ?」
「大丈夫、任せて!!」


ミイナはコオリの言葉に驚いて振り返ったが、すぐに彼が二又の杖を取り出したのを見て頷く。迫りくるコボルトに対してコオリは二又の杖を構えると、この時に彼はを試す。
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