氷弾の魔術師

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
54 / 129
王都での日常

第54話 両利き

しおりを挟む
「おい、話はまとまったのか?」
「ああ、悪かったね。うちの弟子達も決心したみたいだよ」
「あの……お願いします。僕達に新しい装備を作って下さい」
「……コオリが良いなら私もお願いしたい」


コオリが頭を下げて頼むと隣に居たミイナもそれに習って頭を下げ、それを見たドルトンは腕を組む。普段の彼ならばいくら魔術師であろうと子供が相手だったらまともに相手はしない。しかし、バルルの弟子となると無下に扱う事もできず、仕方なく仕事を引き受ける事にした。


「しょうがねえな、どんな武器を作ってほしい?何か要求があるなら聞いてやる」
「要求ですか?」
「そうだ。お前さんらが求める物を具体的に教えろ。魔法の杖や腕輪を作れと言われても色々と種類があるんだ、どんな物が欲しいのかよく考えた上で頼め。後で作り直せと言われても困るからな」
「なるほど……」


ドルトンの言葉を聞いてコオリは咄嗟に思いつかず、その隣に立っていたミイナが先に自分の魔法腕輪を取り出してドルトンに渡す。


「それだったら私は動きやすい腕輪が欲しい。今の腕輪だとちょっと大きくて重くて使いづらい」
「なるほど、それなら獣人族用の腕輪を作ってやる。今使っている腕輪より細くて邪魔にならないぞ」
「じゃあ、それでお願い」


ミイナから魔法腕輪を受け取ったドルトンは腕輪のサイズを確認し、彼女の要求通りに魔法腕輪を製作する事を約束した。獣人族のミイナにとって現在の腕輪は重くて動きにくいらしく、新しい腕輪を前々から欲していたので嬉しそうに尻尾を振る。


「コオリ、あんたも自分の杖で何か取り付けてもらいたい機能があるなら今の内に言っておきな」
「そう言われても……」
「杖を作ってもらう機会なんて滅多にないからね、後悔のないようによく考えて頼むんだよ」
「う~ん……」


バルルの言葉を聞いてコオリは考え込み、とりあえずは彼が作ってもらうのは「小杖《ワンド》」だと決めていた。理由は普段扱っている杖よりも小さくて身に着けやすいからである。しかし、付け加えて欲しい機能と言われても簡単には思いつかない。


(凄い魔法を使えるような杖が欲しいけど……そんな上手い話はないよな)


絵本に出てくる魔術師は「伝説の杖」を扱って凄い魔法を放っていたが、流石にそんな凄い性能を誇る杖を作ってもらうなどできるはずがない。仮に作れたとしても材料費が金貨数枚程度で済むはずがなく、コオリは自分が有効利用できる機能を考える。


「あの……一つの杖で複数の魔法を同時に発動する事ができますか?」
「は?どういう意味だ?」
「何を言い出すんだい、あんた……」
「えっとですね、こういう風に……」


コオリの言葉を聞いてドルトンは目を丸くさせ、バルルも意味が分からずに眉をしかめるが、そんな二人の前でコオリは二つの杖を両手で握りしめる。両手に魔力を送り込んで同時に二つの氷塊を作り出す。


「こんな感じです」
「うおっ!?」
「なっ……あ、あんた!?両手で魔法が使えるのかい!?」
「おおっ……」


両手の小杖から魔法を発現させたコオリを見てドルトンとバルルは驚愕し、ミイナは両手で拍手を行う。コオリは両手で魔法を発現させるのをバルルに見せるのは初めてだった事を思い出し、この数日の間にコオリは両手で魔法を扱えるようになった事を話す。


「あ、すいません。報告するのを忘れてました……実は最近、両手でも魔法が使えるようになったんです」
「あ、あんたね……さらっと言ってるけど、それがどれだけ凄い事なのか分かってるのかい!?そんなの誰でもできる事じゃないんだよ!!」
「えっ……?」


バルルはコオリから小杖を借りると彼女はで掴み、意識を集中させるように目を閉じると、左手で小杖を構えた状態で呪文を唱えた。


「ファイア!!」
「うおっ!?急に大声を出すな!!びっくりするだろうが!!」
「あれ?」
「……ちっさ」


ドルトンはバルルの言葉に驚いたが、コオリとミイナが気になったのは彼女の作り出した火球だった。ファイアは火属性の下級呪文で普段のバルルならば本気を出せば数十センチほどの大きさの炎の塊を生み出せるはずだった。

だが、彼女が今回作り出した火球はいつもよりも一回り程小さく、しかも炎が安定せずに揺らめいていた。バルルは魔法を維持する事もきついのか表情をしかめ、やがて左手を振り払って炎を消すと彼女はコオリに小杖を返す。


「はあっ、はあっ……やっぱり、利き手じゃないとどうにも上手くいかないね」
「利き手?」
「ああ、そうさ。魔術師が魔法を扱う時は必ず利き手で行うんだ。利き手と利き手じゃないの方の腕だと魔法を使用する時の感覚が違うんだよ」


バルルによると利き手とそうではない方の腕では魔法を発現する時の感覚が異なるらしく、だからこそ魔術師の殆どは利き手の方で魔法を発現させるという。


「コオリ、あんたもしかして両利きなのかい?」
「あ、はい。昔は左利きだったんですけど、院長から右利きに矯正されました」
「なるほど……あんたが両手で魔法を使えたのはそういうわけかい」
「私も両利き。だから両手で魔法を使える」
「え、そうだったの!?」
「そういや獣人族は割と両利きは多いと聞いた事があるな」


ミイナもコオリと同じく両利きらしく、言われてみれば彼女は両手で魔法を使っていた事をコオリは思い出す。先日に戦った牛型の獣人族のガイルは右腕に鉤爪を装着して魔法を使用していたが、もしかしたら彼の場合は右利きだったから左手では魔法を使えずに片方の鉤爪しか装着していなかった可能性もある。

左利きだと生活に色々と不便が出るかもしれないという理由で院長から右利きに矯正されたが、偶然にも両利きとなったコオリはどちらの腕でも魔法を使えるようになったのが判明した。


「まさかあんたが両利きだとは驚いたね……だけど、二つの杖で魔法を同時に発動させるなんて器用な真似ができるね。あたしでも無理だよ」
「えっ!?師匠はできないんですか?」
「人間の中で両手で魔法を使える人は滅多にいないと思う」
「そうだな、そういう魔術師は聞いた事がないな」


獣人族はともかく、人間の魔術師の中で両利きで有名な者はおらず、バルルでさえもコオリのように両手で同時に魔法を発動させる事はできないという。練習を行えば彼女もできるようになるかもしれないが、わざわざ両手で魔法を発現させるという発想が思い浮かばなかった。


「あんたが両手で魔法を使えるなんて驚いたね……だけど、それは一度に二回分の魔法を使う事になるんだよ。きつくないのかい?」
「最初の内はちょっときつかったけど、慣れたら割と平気です」
「なるほど、あんたが扱えるのが下級呪文だけだからね……元々魔力消費が少ない魔法だし、両手で扱っても大した問題じゃないか」


単純に考えれば両手で魔法を使用するという事は魔力消費量が倍になるという事だが、コオリの下級魔法は燃費という点では他の魔法よりも最も低い。だからこそ問題はなかったが、今のコオリは欲しいのは「一度の魔法で二回分の魔法を使える杖」だった。


「あの、片手でも二つの魔法を同時に出せる杖を作る事はできますか?」
「まあ、できなくはないが……それだとお前さんにも負担が掛かるぞ?」
「大丈夫です、お願いします!!」
「……仕方ねえな、それなら作ってやるか」


ドルトンはコオリとミイナの要求を引き受け、彼は金貨を受け取ると二人の要望した杖と腕輪の制作を開始する――





――制作を依頼してから翌日、ドルトンから呼び出されたコオリ達は彼の店に訪れると、彼は既に依頼されていた新しい装備品を用意していた。


「おう、遅かったな。ほら、まずは嬢ちゃんからだ」
「わあっ……綺麗、それに可愛い」
「言われた通りに猫の模様も刻んでやったぞ。たく、面倒な手間を賭けさせやがって」
「あははっ……悪かったね」


ミイナの新しい魔法腕輪は彼女の要望通りにこれまで使用していた腕輪よりも細く、重量も軽くなっていた。しかも腕輪の表面にはミイナの要望通りに可愛い猫の顔の模様が刻まれている。

新しく受け取った腕輪をミイナは嬉しそうに装着し、そんな彼女を見てコオリは微笑ましく思うが、今度はその彼にドルトンは頼まれた物を渡す。


「坊主にはこれだ。正直、嬢ちゃんの腕輪よりもこいつを作るのに一番手間がかかったぞ」
「あ、ありがとうございま……えっ?」
「こいつは……」


ドルトンの言葉を聞いてコオリは期待した表情で彼に振り返るが、差し出された物を見て戸惑う。バルルはドルトンが差し出した物を見て不思議に思い、彼の作り出した新しい杖は変わった形をしていた。



――コオリの新しい小杖は一言で言えば木造製の「二又の槍」を想像させ、これまでに見た事もない形をした小杖だった。



外見はお世辞にも格好いいとは言えないが、ドルトンはコオリの要望を聞いた通りの品物を作った結果、このような形になったという。


「こいつがお前さんの新しい杖だ。これなら片手でも一度の魔法で二つの魔法を作り出せる」
「あ、ありがとうございます……」
「何だかへんてこな杖だね……」
「うるせえ!!見た目よりも機能重視だ!!文句があるなら出ていきやがれ!!」
「い、いや!!そんな事ないです!!これはこれで味があると思います!!」
「……そ、そうか?いや、中々センスあるなお前さん」
「……ださい」
「しっ、聞こえたら拗ねるから黙りな」


ドルトンはコオリの言葉を聞いて途端に気分が良くなり、彼もこの杖のデザインは色々と思う所はあったようだが、コオリの要望を叶えるにはどうしても小杖の形を変える必要があったらしい。

改めてコオリは二又の槍ならぬ「二又の杖」を手にすると、とりあえずは新しい杖で魔法を試す必要があった。ミイナも早く新しい魔法腕輪の性能を確かめたいらしく、早速二人は魔法の練習を行う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

処理中です...