氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第51話 砲弾

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「もう逃がさんぞ、ガキ共!!」
「しまった!?」
「仲間を足台にするなんて……最低」


部下を利用して飛び移ってきたゲイルにコオリとミイナは構えるが、ガイルも腰に手を伸ばして「鉤爪」を取り出す。彼は鉤爪を右腕に身に着けると、ミイナを見て口元に笑みを浮かべる。


「お前も魔拳士のようだが……奇遇だな、俺も魔拳士だ」
「……同じ武器の使い手なんて気分が悪い」
「くっ……」


鉤爪を装着した途端にガイルの気迫が強まり、彼は右腕を天に伸ばすと意識を集中させるように瞼を閉じる。視界を封じた今ならば攻撃を仕掛ける好機だが、コオリとミイナは彼の迫力に気圧されて動けない。

右腕に魔力を集中させたガイルは笑みを浮かべると、鉤爪に電流が迸る。それを見たミイナは驚いた表情を浮かべ、コオリはもすぐにガイルが「雷属性」の使い手だと見抜く。


「雷爪!!」
「コオリ、気をつけて!!」
「うわっ!?」


ミイナは咄嗟にコオリを突き飛ばすと、鉤爪に電流を纏ったガイルが迫ってきた。ミイナはコオリを庇うために鉤爪を構えるが、それを見たガイルは笑い声を上げながら攻撃を行う。


「馬鹿が!!」
「うにゃっ!?」
「ミイナ!?」


両手の爪を構えたミイナに大してガイルは容赦なく鉤爪を振り下ろし、彼女は一撃で弾き飛ばされてしまう。しかも鉤爪に纏っていた電流が彼女を襲い、まとも受け身も取れずに倒れてしまう。


「ミイナ、しっかりして……うわっ!?」
「ううっ……!?」
「くくくっ……迂闊に触れるとお前も感電するぞ」


電流を浴びたミイナは身体が麻痺して動けないらしく、彼女に触れようとしたコオリも静電気のように弾かれてしまう。ガイルの攻撃は彼女の身体には直撃はしていないはずだが、爪に纏っていた電流がミイナの身体を感電させたのだ。

ミイナとガイルは二人とも魔力を爪に変換させるという点では同じ魔拳士ではあるが、ミイナが得意とするのは「火属性」に対してガイルは「雷属性」であり、触れただけで電流に襲われる厄介な性質を持っていた。


(ミイナは自分の素手に魔力を纏わせて炎の爪を纏うけど……この男は鉤爪に魔力を流し込んで電流を生み出しているのか!?)


ガイルが自分の鉤爪に魔力を送り込んでを行っているのは分かるが、そんな事をすれば鉤爪が高熱を帯びて溶けてもおかしくはない。しかし、彼は余裕の笑みを浮かべていた。


(あの鉤爪に何か細工がしてあるのか?いや、待てよ……あの爪の色、前に何処かで見たような……そうだ!?)


鉤爪の刃の部分は緑色である事に気付いたコオリはこの間に知り合った冒険者達を思い出す。バルルの古くからの知人である「トム」「ヤン」「クン」の三人も緑色の金属製の武器を持っていた。

トム達が所有していた武器は魔法金属の「ミスリル」と呼ばれる代物であり、並の金属よりも頑丈で耐久性も高く、しかもを持つ。恐らくはガイルの装備している鉤爪は魔法金属製であり、それが原因なのか彼は鉤爪に電流を送り込んでも全く影響を受けていない。


(魔法耐性を持つ武器なら魔法に対抗できると師匠も言ってた……こういう事だったのか!!)


バルルの言葉の意味を理解したナオは冷や汗を流し、魔術師にとっては最悪な相手と対峙している事を思い知らされる。。


「よくもミイナを……絶対に許さない!!」
「ほう、許さないと来たか。だが、お前のせいで俺も部下を全員失ってしまったからな……必ず捕まえて売り飛ばしてやる!!」
「くっ……!!」


互いに味方を失った二人は向かい合い、ここから先は頼れるのは自分だけだった。コオリはミイナの様子を伺い、彼女が電流で麻痺しているだけで命に別状はない事を確かめると戦闘に集中する。


(あの爪は厄介だ……少しでも触れたら感電してまともに動けなくなる。それにこの人はだ)


バルルからの助言を思い出したコオリは人間よりも身体能力や動体視力が優れている獣人族が相手の場合、彼の得意とする「氷弾」の魔法は避けられる可能性が高い。


(こうなったらさっきのあれで……)


ガイルが投げ飛ばした男は既に地上に下ろしており、彼を支えていた氷塊を引き寄せてガイルの背後から攻撃を仕掛ける。だが、後方から迫りくる氷塊に気付いたのかガイルはその場でバク転をして回避した。




「おっと、危ない危ない!!」
「なっ!?」


不意打ちだったにも関わらずにでガイルは攻撃を回避すると、引き寄せられた氷塊がコオリの元へ戻る。これだけの数の氷塊を常に維持するのは精神力も削られるため、仕方なく魔法を解除するしかなかった。


「中々に面白い魔法を使うが、他に魔法を使わない所を見るとそれだけしか魔法が使えないようだな」
「うっ……」
「まあいい、魔法が使えるだけで奴隷商人も高く買い取ってくれるからな。そろそろ遊びも終わりだ!!」
「く、来るな!!」


ガイルはコオリに目掛けて踏み込み、それを見たコオリは杖を構えて氷弾を撃ち込む。だが、ガイルは右腕の鉤爪を振り払って容易く氷弾を破壊した。


「無駄だっ!!」
「……まだだ!!」
「何っ!?」


氷弾を破壊して接近してきたガイルに対し、隠し持っていた小杖を取り出してコオリは「氷硬弾」を撃ち込む。最初の氷弾は囮であり、近づいて来たガイルに目掛けて小杖を構えるのと同時に放つ。


「喰らえっ!!」
「ぐあああっ!?」


発射された氷硬弾はガイルの右肩を撃ち抜き、街中にガイルの悲鳴が響き渡る。しかし、人間よりも生命力が高い獣人族であるガイルは両目を血走らせながらコオリに飛び掛かる。


「こ、このガキがっ……ぶち殺す!!」
「うわぁっ!?」


右肩を撃ち抜かれようとガイルは止まらず、殺されると思ったコオリは無我夢中に両手の杖を構え、氷弾を連射して彼に撃ち込む。ガイルは片腕のみで迫りくる二つの氷弾を弾くのが精いっぱいだった。


「ちぃっ……くそっ、このっ!!」
「来るな、来るなぁっ!?」


コオリは必死に氷弾を連射してガイルを近づけさせないようにするが、ガイルは氷弾の軌道を見切って鉤爪で弾き飛ばし、あるいは身体を反らして回避する。何時の間にかコオリは屋根の端の部分まで追い詰められて逃げ場を失っていた。

これ以上に後ろに下がれば屋根から落ちてしまい、先ほどのように氷塊の足場を作り出して逃げる余裕もない。コオリの氷弾を弾きながらガイルは迫り、怒りの表情を浮かべながら鉤爪を振りかざす。


「死ねっ!!」
「う、うわぁあああっ!?」


至近距離にまで迫ってきたガイルに対してコオリは精神力が乱れ、杖から魔光が放たた。バルルによれば魔光が杖から放たれるようでは魔術師としては未熟だと言われたが、今回は魔光によってコオリの命が救われる。


「ぎゃあっ!?」
「えっ!?」


杖から放たれた光を浴びたせいでガイルは両目を抑え、それを見てコオリは絶好の反撃の機会だった。残された魔力を杖に注ぎ込み、自分が生み出せる最大の大きさの氷塊を生み出すと、ガイルに目掛けて発射した。


「喰らえぇええっ!!」
「ぐはぁあああっ!?」


砲弾並の大きさの氷の塊がガイルの身体に衝突し、いくら獣人族でも頑丈な肉体を持っていようと耐え切れず、ガイルは吹き飛ばされて意識を失う。それを見たコオリは身体を震わせながら言葉を搾り出す。


「か、勝った……!!」


コオリは自分が勝利した事を実感すると、嬉しさのあまりに握り拳を作ってしまう。だが、何時までも喜んでいる場合ではなく、先ほどガイルの攻撃で感電したミイナを救うために慌てて彼は起き上がった――
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