氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第51話 砲弾

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「ブタコがごめんねー、この子涙目になっているし私の部屋に連れていくからねムサシっ」


 右耳にかけたセミロングをさらさらとアシメントリーになびかせた麗佳さんが、5人が寝るのには狭すぎるだろうと引き起こした私をそのまま廊下に連れ出した。
 御神酒慣れ? しているムサシさん以外は轢かれたカエルのようなポーズで好き勝手に床を占領しているのだから、新顔の私に麗佳さんが気遣ってくれたのだろう。

 ふわりと漂う甘い香水もともなってオトナの女性って感じですわ。麗佳様ぁ……ってまさかまさか姉妹だからってあなたもオンナコに欲情する方ではないですよねっ!


 なんて期待……じゃなくて心配はすっかり取り越し苦労だったようだ。先に入っていなよと即されたクイーンサイズのベッドから眺めた、勉学に向かう麗佳さんの背中はまるでそこだけが戦場のような雰囲気を醸していた。


 『話かけない……ほうがよさそうかな、みやび先輩の昔話とか聞いてみたかったけど』


 白い壁紙にブラウンの家具を基調にした部屋は19歳の部屋と思えないほど落ち着いていて、
 会話が無くてもまったく心地いい雰囲気は、何か古い洋画のワンシーンにありそうな感じだと、唇を猫にした私は布団に膝を抱えてずーっと麗佳さんの背中を見つめていた。



ーー「あれれ、休んでいなかったの? あ、照明が眩しかったかな。ごめんね」


 段落がついたのだろう、机を整理した麗佳さんが腰をしならせるとアシメントリーから笑顔を見せた。
 もうこんな時間かと足元の小さな照明だけを残し、スルスルとスカートを落とすと、私をベッドの壁際に促しながら脚を潜らせてくる……って、パンツは? といいますかパジャマは? や、やっぱり麗佳さんもそーゆー?!


 皮膚には極力摩擦を与えない方がいいんだよ。なんて言っておりますがぁ、先程の件もありましてぇ……ドキドキが止まらないのですけれど私っ!


「クス、さっきのもあってまた濡れちゃった? ご要望なら続きをしてあげてもいいけれどぉ沙也加ちゃん? あはは、冗談よぉ。……ブタコがごめんね、あの子はいい意味でも悪い意味でも中身が子供のまんまなんだよ」


 香水がとろけるほどに枕を近づけた麗佳さんは私の唇を撫でながら “ ごめんね ” と、みやび先輩の話を聞かせてくれた。いやもう、だからいちいちエロいのですよぉお姉ぇ様ぁ。


ーー記憶力。というか子供並みの集中力というのが麗佳さんから教えられたみやび先輩の性質だった。『ほら、子供が気持ち悪くなるまで走り続けるアレよ』と。
 
 楽しい、嬉しいが原動力となってスイッチが入るらしく。子供の頃に父親の麻雀に交ざると一瞬で覚えて大人相手に大勝ちしたとか、姉と同じ高校に行きたいというだけで瞬発的に成績をあげたりとか。


 そして今は音楽というものに矛先が向いたのだろうと。


「楽しいが原動力だからね、きっとブタコは寝ている時もイメトレしているんだよ。けど興味無くなると全部忘れるんだから、いんだか悪いんだかよ本当に」



 ちなみにと聞いた話では、みやび先輩はアクセサリーや小物は “ ブタさん ” というこだわりがあるらしく、家族には子供の頃からブタコと呼ばれているらしい。
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