氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第43話 連射

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(怯えるな!!戦うしかないんだ!!)


覚悟を決めたコオリは杖を構えると、魔獣に目掛けて氷硬弾を放つ。これまでの戦闘で慣れたお陰か今までよりも短い時間で氷塊を生成して撃ち込めるようになった。


「喰らえっ!!」
「フゴォッ!?」


氷硬弾は魔獣の顔面に目掛けて放たれるが、発射の直前に危機を察知したのか魔獣は顔を反らす。結果的には氷硬弾は牙に命中し、空中にへし折れが牙が浮き上がる。


「フガァッ!?」
「くそっ!?まだまだ!!」


魔獣を仕留めそこなったコオリは二発目を繰り出そうとした時、魔獣はその場で跳躍して上空に移動する。魔獣の巨体が浮き上がった光景を見てコオリは驚愕した。

まさかオークよりも巨体の魔獣が空に浮かぶなど夢にも思わず、コオリは一瞬だが思考停止してしまう。その隙に魔獣はコオリに目掛けて落下してきた。


「フゴォオオオッ!!」
「うわっ!?」


上空から自分に再び迫る魔獣を見てコオリは意識を取り戻し、慌てて避けようとしたが既に魔獣は目前にまで迫っていた。このままでは避け切れず、あの鋭い槍のような牙に貫かれると思ったコオリは咄嗟に杖を構える。


(やるしかない!!)


この状況を打破するにはコオリは自分自身に杖を向け、威力を調整した氷塊を撃ち込む。


「ぐふぅっ!?」
「プギャアッ!?」


杖から射出された氷塊によってコオリの身体は吹き飛び、魔獣の落下を回避する事はできたが自らの魔法によって地面に転倒する。この時に自分の杖を落としてしまい、一方で地上に着地した魔獣はコオリに向き直る。

魔獣に押し潰されるのは避けられたが、再び魔獣はコオリに狙いを定めて突進の体勢を取る。杖を手放したコオリは顔色を青ざめながらも魔獣を睨みつけた。


「フゴォオオオッ!!」
「くそっ……調子に乗るなよ!!」


コオリは起き上がると懐に隠していた「小杖」を取り出し、即座に魔法の準備を行う。こちらの杖は学園から支給された代物であり、バルルの教えで杖の予備は常に携帯していた事が幸いだった。


(これで倒すんだ!!)


もしもこの攻撃が失敗すればコオリは魔獣に確実に殺されるが、抵抗しなければ生き残る事はできない。そして魔獣がコオリに目掛けて遂に突進してきた。



――フゴォオオオッ!!



再び突っ込んでき魔獣に対し、コオリは小杖を構えると今まで試した事はないがありったけの魔力を注ぎ込む。そして魔獣に目掛けて氷硬弾ではなく氷弾を撃ち込む。


「喰らえっ!!」
「フガァッ!?」


魔獣の目元に目掛けて威力を抑えた氷弾を撃ち込み、単発ではなく二連射繰り出す。二つの氷弾が魔獣の両目に的中して魔獣は視界を奪われた。


「プギャアアアッ!?」
「これで……止めだ!!」


初めて氷弾をしたコオリは魔獣の視界を塞ぎ、相手の突進の軌道が逸れた瞬間を見逃さずに移動を行う。視界を封じられた魔獣は見当違いの方向に突っ込み、それを確認したコオリは三発目を放つ。


「いけぇええええっ!!」
「フガァッ――!?」


コオリが放った氷硬弾は魔獣の「眉間」に的中し、頭を貫かれた魔獣は断末魔の悲鳴を上げて地面に沈む。


「はあっ、はあっ……!?」


身体を震わせながらもコオリは倒れた魔獣に視線を向け、小杖を構えながら様子を伺う。魔獣は眉間に撃ち込まれた一撃で確実に死亡しており、前脚が折れた事で突進を止める事に成功した。

槍のように尖っていた牙も氷弾を正面から受けた際に折れてしまい、それを拾い上げたコオリは自分が勝利した事を確信する。そして改めて魔獣を見下ろし、握り拳を作って勝利を実感した。


「か、勝った……!!」


絞り出す様にコオリは声を上げると、その場に座り込んでしまう。強敵を倒した事で緊張感がほぐれてしまい、しばらくは身体を休める事にした――





――誰の力も借りず、自分の力だけで魔獣を倒したコオリの様子を少し離れた場所で確認する影があった。それは外で待機しているはずのバルルとミイナであり、実を言えば二人はずっとコオリの様子を伺っていた。


「あ、あいつ……まさか、たった一人でボアを仕留めるなんて大したもんだね!!」
「……凄い、格好良すぎる」


バルルとミイナは「ボア」という名前の魔獣を倒したコオリに驚愕し、彼女達は彼が一人で行動していた時から尾行をしていた。バルルはコオリに単独行動するように言いつけたが、実は心配して密かに後を付けていた。

どうして二人が隠れてコオリの様子を伺っていたのか、それは今回の試練はバルルはコオリの度胸を試すために課した試験であり、本当に彼を見捨てたわけではない。もしもコオリが危ない目に遭いそうになれば助けるつもりだった。しかし、二人が動かずともコオリはオークやファングよりも厄介な魔獣を一人で倒してしまった。


「たくっ……とんでもないガキを預かったね。もしかしたらあいつなら本当にお坊ちゃまと肩を並べられるかもしれないね」
「……お坊ちゃま?」
「おっと、なんでもないよ。あんたは気にしなくていい事さ……さてと、そろそろ迎えに行こうか」
「姿を見せていいの?」
「もう試練の必要なんてないからね」


ボアを単独で倒したコオリを見てバルルはこれ以上の試練は不要だと判断し、緊張感が抜けて座り込んでいコオリの元へ向かう。ミイナも彼女の後に続き、二人はコオリと合流してその後に森を出た――





――数日後、コオリは学園内に存在する特別な訓練場へ赴く。こちらの訓練場はいつもコオリが使用していた学校の裏にある訓練場ではなく、本来ならば三年生だけが使用を許可されている訓練場だった。

こちらの訓練場は最も設備が整っており、その中には魔物と相手に訓練するために作り出された「闘技台」が存在する。この闘技台は地面に石畳が敷き詰められ、更に至宝には四つの柱が建てられ、この柱には特殊な魔石が設置されている。

コオリは闘技台の上に立ち、集中力を高めるために瞼を閉じていた。闘技台の周囲には学園の教師陣が集まり、その中にはバルルやセマカの姿があった。


「お、おいバルル……お前、本気で自分の生徒にこんな試験を受けさせる気か!?」
「今更何を言ってんだい、あいつはただの子供じゃない。あたしのよ」
「な、何を言ってるんだ!?悪い事を言わないから学園長に試験の中断を訴えろよ!!」


セマカはコオリの身を心配してバルルに今からでも試験を辞める様に説得するが、そんな彼の言葉を無視してバルルはコオリを見つめる。見た限りではコオリは落ち着いており、三日前に魔物との戦闘を経験してから彼は自分の力に自信が付いていた。


「ふふふ、随分と余裕があるではないか。これから自分の教え子が大変な目に遭うかもしれないというのい……」
「タ、タン先生!!」
「……またあんたかい」


二人の前にタンという名前の教師が現れ、彼は三年生の担当教師である。以前にバルルとコオリにちょっかいを掛けてきた教師であり、実を言えばバルルが教師になる事を一番反対したのは彼である。

タンはバルルを嫌ってはいるが、それ以上に入学したばかりのコオリが月の徽章を与えた学園長の判断にも納得していなかった。彼にとってはバルルもコオリも気に入らず、他の教師を煽って学園長に抗議を行った結果、今回の試験が急遽行われた。


「ふん、学園長に取り入って教師になって調子に乗るなよ……この試験が終われば貴様は学園から出ていく事になる。セマカよ、今後はお主があの子供の面倒を見る事になる。しっかりと教育しておけ」
「は、はあっ……」
「調子に乗ってるのはどっちなんだい?まるでうちの弟子が最初から試験を突破できないみたいに聞こえるね」
「ふん!!その余裕、何処まで続けられるのか見ものだな……」


タンはバルルの言葉を聞いて鼻を鳴らし、そのまま立ち去るとセマカは安堵した。しかし、一方でバルルはタンの背中を睨みつけ、改めて闘技台の上に立つコオリに視線を向ける。


(遠慮はいらない、ここにいる教師共の度肝を抜かせてやりな)


心の中でバルルはコオリに声援を送り、彼女だけは信じていた。コオリがこんな試験など楽々と突破する事を――





――闘技台の上に立つコオリは他の教師の視線を浴びている事を意識し、緊張しながらも心を落ち着かせるために瞼を閉じる。そして遂に試験開始の時刻を迎えると、学園長のマリアが姿を現わす。


「時間が来たわ。コオリ君、準備はいいかしら?」
「……はいっ!!」


マリアの言葉にコオリは瞼を開いて返事を行うと、彼が準備を既に整えている事を知って学園長は微笑む。そして彼女は杖を取り出すと、闘技台に向けて先端を構えた。

今回の試験は魔物を相手に戦う事はコオリも聞かされていたが、肝心の魔物の姿は見えない。どうやって闘技台に魔物を運び込むのかと彼は思っていたが、マリアが杖を構えた瞬間、闘技台の床の一部が光り輝く。


(これは……!?)


自分が立っている闘技台に魔法陣の紋様が浮き上がった光景を見てコオリは驚くが、更に魔法陣からが誕生する。そのあまりの光の強さにコオリどころか他の教師たちも目が眩みそうになるが、マリアは杖を下ろすと光の柱は消えて代わりに魔法陣の上には檻が存在した。


「これが貴方の対戦相手よ」
「こ、これは……!?」


マリアが使用したのは「転移魔法」と呼ばれる聖属性の魔法であり、この魔法は遠方から物体を呼び寄せる、または逆に遠方に転移する魔法である。今回の場合はマリアは事前に用意していた魔物を閉じ込めた檻を闘技台に転移させた。

闘技台に突如として出現した魔物を閉じ込める檻を見てコオリは驚愕し、彼の視界に映し出されたのは灰色の毛皮で覆われた狼のような生き物だった。深淵の森でコオリは「ファング」と呼ばれる魔物を思い出すが、今回の敵はファングと似てはいるが体型が異なる。


「なっ……先生、本気かい!?」
「ま、まさか子供にあんな魔物を!?」


檻の中に閉じ込められている魔物を見てバルルとカマセは驚愕し、この二人も他の教師も今日コオリが戦う魔物に関しては何も報告を受けていなかった。しかし、タンだけは檻の中の魔物を見て笑みを浮かべ、彼はすぐに闘技台の四方の柱に立っている教師に声をかけた。
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