氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第37話 冒険者ギルド

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――本来ならば魔法学園の生徒は休日以外は無暗に外に出るのは禁じられているが、バルルは教師の権限で二人を連れて城下町へ赴く。そして彼女が向かった先は彼女の古巣とも言える場所だった。


「ここは……?」
「冒険者ギルドさ、見るのは初めてかい」
「ここが冒険者ギルド……私も見たのは初めて」


冒険者ギルドはバルルが経営する宿屋よりも巨大な建物であり、もしかしたら王城を除けば城下町でも一番に大きい建物かもしれない。建物の扉に至っては巨人族でも通り抜けられるように設計されている。

建物の中には中には人間以外にも獣人族や巨人族やドワーフの姿も見かけた。彼等の殆どが武器を携帯しており、魔術師らしき格好をした人物も混じっていた。


「うわぁっ……ここに居る人、全員が冒険者なんですか?」
「そういう事になるね、ここに来るのも懐かしいね……」
「懐かしい?」
「そういえば師匠は元冒険者でしたっけ?」
「ああ、そうさ」


バルルは冒険者達を見て懐かしく思い、宿屋の店主になる前は彼女は冒険者として活動していた。もう数年前の話になるが、彼女はここで冒険者として過ごしていた日々を思い出す。


「ん?お、おい……そこにいるの、もしかしてバルルか!?」
「何!?バルルだって!?」
「本当だ、久しぶりじゃないか!!いったい今まで何処に行ってたんだ!?」
「よう、あんたら!!まだ冒険者やってたのかい!?」


出入口の付近でバルルが立ち尽くしていると、後ろの方から声が上がる。コオリは振り返るとそこにはバルルと同い年ぐらいと思われる男性冒険者が三人存在した。

全員が皮鎧を身に着けており、それぞれ別の武器を身に着けていた。剣、槍、斧を装備しており、この時にコオリは彼等が身に着けている武器を見て違和感を抱く。


(あれ、この人達の武器……?)


彼等の武器を見てコオリが抱いた違和感は金属部分が「緑色」だった。よくよく見ると他の冒険者も緑色の金属製の武器を身に着けており、不思議に思ったコオリだがバルルは久しぶりに再会した冒険者達に話しかける。


「あんた達、まだくたばってなかったのかい!!」
「おいこら、久しぶりに会ったのに失礼な奴だな!!」
「へへ、見ての通りにまだ現役さ」
「お前がいない間に俺達も階級が上がったんだぜ?見ろよ、これを!!」


冒険者達は胸の部分に身に着けているバッジを指差すと、彼等は銀製と思われるバッジを身に着けていた。それを見たバルルは驚き、感心した風にバッジを覗き込む。


「こいつは驚いたね、あんたらが銀級まで昇格したのかい?」
「ああ、頑張ったんだぜ」
「へへ、これであと一つ上がればお前に追いつくぜ」
「ふん、十年早いよ」
「昇格?」
「銀級?」


四人の会話を聞いていたコオリ達は話が付いて行けず、バルル達が何を言ってるのか理解できなかった。バルルは三人の冒険者にコオリ達を紹介する。


「実は色々とあって今はこの二人の世話をしててね。まあ、あたしの弟子みたいなもんさ」
「弟子!?お前が弟子を作ったのか!?」
「どういう風の吹き回しだ……しかもこんな子供達を」
「まさか、お前の子供じゃ……」
「馬鹿、あたしにこんなデカい子供がいるはずないだろ!!」
「いや、年齢を考えたらそう不自然でもないと思うが……あいて!?」


年齢の話をしようとした男性冒険者にバルルは鉄拳を喰らわせて黙らせると、改めてバルルはコオリ達にも彼等の紹介を行う。


「この三馬鹿はあたしと同期の冒険者さ。まあ、あたしが冒険者だった頃はもっと情けなかったんだけどね」
「はあっ……」
「おいおい、ひどいな……一時期は冒険者集団《パーティ》を組んだ仲じゃないか?」
「冒険者集団?」
「要するに冒険者同士がつるんで仕事を行うのさ」


三人の男性冒険者は冒険者集団を組んで仕事を行っているらしく、バルルが現役を引退した後も三人一緒に仕事をしてきた仲らしい。久々に再会した三人と共にバルルは冒険者ギルド内に存在する酒場に赴き、ここでコオリとミイナに冒険者ギルドに関して色々と説明を行う。

冒険者ギルドに所属する冒険者には階級が設けられ、冒険者達は自分の階級に見合う仕事しか引き受けられない。階級は「銅」「鉄」「銀」「白銀」「黄金」の五つに別れ、バルルの知り合いの三人は銀級の冒険者という事になる。


「まさかあんたらが銀級に昇格するなんてね……あたしが居た頃は鉄級だったのに頑張ったじゃないかい」
「へえ、そうだったんですか」
「ふふふっ……俺達も地道に頑張ってきたからな」
「と言っても銀級に上がったのは最近なんだけどな……」
「別にいいじゃねえか、俺達の目標は爺になるまで黄金級に上がる事だろ?この調子ならいけるさ!!」
「たくっ、相変わらずだねあんたら……」


三人の冒険者は老人になろうと冒険者活動を辞めるつもりはなく、彼等の目的は冒険者の中の最高階級である「黄金級」になる事だった。そんな彼等を見てバルルは昔から変わっていない事に安心する。


「師匠も冒険者だったという事は……階級は何だったんですか?」
「気になる」
「あたしの場合は当然、こいつらよりも上の白銀級さ」
「何だ、バルルの弟子達は知らないのか?こいつは一時期は黄金級冒険者になれるかもしれないと噂されたほどの逸材なんだぞ」
「へえっ……そうだったんですか?」
「……昔の話さ」


現役時代のバルルは冒険者の階級では二番目に高い「白銀級」まで昇格したらしいが、本人はあまり昔の事を思い出したくないのかすぐに話を切り上げてしまう。


「そんな事よりも他の奴等はどうしてるんだい?あんたら以外にあたしらの世代で冒険者を続けている奴はまだいるのかい?」
「いや、皆辞めちまったよ」
「お前が辞めた後、他の奴等も殆どが辞めちまった」
「残っているのは年甲斐もなく夢に縋りつく俺達三人だけさ」
「……そうかい」


バルルは三人の言葉を聞いて寂しそうな表情を浮かべ、本人も彼等の返事が分かっていた様子だった。そんな彼女達の話を聞いていてコオリは前にバルルに言われた事を思い出す。



――冒険者は世間が思う程に華がある職業ではなく、実際の所は実力主義の社会で冒険者として生きていくには相応の実力を必要とする。実力に見合わない人間はすぐに仕事を辞めるか、あるいはすぐに

冒険者は魔物専門の退治屋という面もあり、危険な魔物を相手に戦う事を前提とした職業である。だからこそ命が危険に晒される事も珍しくはない。

魔物を倒せる程の力を持ち合わせていなければ冒険者として生きていく事はできず、どんな実力者でも年齢を重ねる度に肉体が衰えて引退を余儀なくされる者も多い。

バルルの同世代の冒険者達は年齢的に肉体が衰え、若い頃のように力を発揮できなくなったので辞めた者が大半らしく、その中でも三人の冒険者達は頑張っていた。だからこそバルルは久しぶりに出会った三人が冒険者を続けていた事に嬉しく思う。


「あんたらは冒険者を辞める気はないのかい?」
「へへへ、こうなったら行ける所まで行くつもりだ」
「今日もこれから仕事があるんだ。夜までには戻ってくるつもりだけどな」
「バルル、お前も元気そうで良かったよ。それじゃあ、俺達は行くぜ」


三人の冒険者は食事を終えると仕事に戻るために席を離れ、その様子を見てバルルは感慨深そうな表情を浮かべながら彼等を見送る。


「……あいつらが銀級なんて時代は変わったね」
「師匠?」
「何でもないよ。ほら、さっさとあんたらも飯を食べな」
「もう食べ終わってる」


コオリとミイナはバルルの奢りで少し早めの昼食を取った後、酒場を後にしてここへ来た本来の目的を果たすために受付へ向かう。受付には若い受付嬢が座っており、彼女はバルルの事を知らないのか受付の前にたった彼女に話しかける。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ギルドマスターはいるかい?」
「えっ?ギルドマスター……ですか?」


受付嬢はバルルの言葉に一瞬焦った表情を浮かべ、そんな彼女にバルルは懐から白銀製のバッジを取り出して机の上に置く。


「バルルが会いに来たと言えば伝わるはずだよ」
「えっ……こ、これは白銀級冒険者のバッジ!?」
「もう期限は切れてるけどね」


バルルが取り出したのは現役時代の彼女が利用していた冒険者の証であるバッジであり、冒険者は仕事中は必ず自分のバッジを見えるところに着用する義務がある。

ちなみに冒険者が身に着けるバッジは自分の階級に見合わせた素材で構成され、元白銀級冒険者のバルルの場合は当然ながら白銀で構成されたバッジを持っている。バッジは一年間の期限が設けられており、冒険者を引退した後のバルルのバッジは期限を過ぎているのでこれを利用して冒険者の仕事を再開はできない。
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