氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第34話 初めての決闘

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「……それが本物だという証拠は?」
「マリア先生に直接聞きに行ってもいいよ。何だったら今すぐ確認しに行くかい?あんたが会いたいと言えば先生も会ってくれるだろう?」
「……問題ない。文字を見れば本物だと分かる」
「えっ?」


随分と離れた距離にいるにも関わらず、ミイナはバルが持っている羊皮紙に記された文字をはっきりと読めるらしく、しかも学園長が書いた物であると分かるらしい。そんな彼女の言葉にコオリは驚くと、バルルが彼の耳元で説明した。


「あいつは獣人族だからね、人よりも目が良いのさ」
「そ、そうなんですか?」
「ついでに言うと耳もいい」
「ええっ!?」


バルルがコオリの耳元で小声で話しかけたにも関わらず、ミイナは猫耳をぴくぴくと動かして二人の会話が聞こえている事を話す。もしかしたらコオリ達が屋上に出る前から二人の話を聞いていたかもしれず、獣人の人間離れした視覚と聴覚にコオリは驚かされる。


「……本当に勝負に勝ったら授業に出なくていいの?」
「ああ、約束するよ。そしてコオリ、あんたの出番だよ!!」
「ほ、本当に俺が戦うんですか!?」


バルルに背中を押されたコオリは緊張した様子で杖を取り出し、離れた場所に存在するミイナと向かい合う。一応は事前にコオリはバルルから自分が戦うように言われているが、それでも初めて他の魔術師と戦う事を意識すると緊張してしまう。

こんな形で他の魔術師と、しかも獣人族の魔拳士と戦う羽目になるとは想像もしなかった。だが、バルルは今まで調べ上げたミイナの情報を纏め、事前にコオリには彼女の対抗策を授けている。


(いいかい、練習通りにやればあんたなら勝てる。自分を信じて戦うんだよ)


声で話しかけるとミイナに気付かれてしまうため、バルルは目線で彼に注意する。勿論、コオリには彼女の心の声は聞こえないが、それでも今日のために練習はしてきた。


「……可愛い後輩でも私は容赦はしないから気を付けて」
「後輩って、あんたとコオリはそんなに年齢は変わらないだろう?」
「そんな事はない、私の方が一才も年上……それにその子の魔法は前に見た事がある」


ミイナは何処からか魔法腕輪と思わしき腕輪を取り出し、自分の腕に装着を行う。それを見たコオリは冷や汗を流し、彼女がバルルやリンダと同じく「魔拳士」である事は事前に聞いている。

バルルが集めた情報ではミイナは二年生の魔拳士の中では一番の実力者らしく、上級生からも一目置かれている。そんな彼女を相手にコオリは本当に勝てるのか不安を抱くが、バルルは彼の事を信じていた。


「緊張するんじゃないよ、勝負事に大事なのは気合と根性さ!!あんたなら勝てる!!」
「が、頑張ります……」
「……手加減はしない。でも、自分が勝てないと思ったらすぐに降参してね」


自分が負けるとは微塵も思っていないミイナはコオリが準備を整えても警戒心すら抱かず、バルルに決闘の開始の合図を促す。


「早くして」
「よし、二人とも準備はいいね?それじゃあ……決闘開始!!」


バルルが開始の合図を繰り出すと、即座に二人はお互いに距離を取るために後ろに下がる。コオリは杖を構えて魔法の準備を行う中、ミイナは両腕を横に広げた。この時にミイナの両手に赤色の光が放たれ、やがて彼女の両手を包み込む。



「――炎爪」



ミイナの両手にを想像させる炎が纏い、それを見たコオリは驚愕した。彼女は両手が炎に包まれても顔色一つ変えず、炎が彼女の身体を焼く様子もない。

文字通りに炎の爪を纏ったミイナはコオリに目掛けて突っ込み、人間離れした脚力で距離を一瞬で詰める。それを見たコオリは咄嗟に杖を構え、無詠唱魔法を発動させる。


「にゃあっ!!」
「くっ……うわぁっ!?」
「馬鹿、油断するんじゃないよ!?」


コオリは咄嗟に自分の前方に大きめの氷塊を作り上げ、それを盾に利用して身を守ろうとした。しかし、ミイナの振り翳した炎の爪が触れた瞬間に氷塊は溶けてしまう。

氷を炎の爪で溶かしたミイナはコオリが無詠唱で魔法を使用した事に驚き、彼女が追撃を加える前にコオリは後ろに下がると杖を構えて氷弾を撃ち込む。


「このっ!!」
「にゃんっ!?」
「こら、無暗に撃つんじゃないよ!!ちゃんと距離を取りな!!」


放たれた氷弾に対してミイナは持ち前の身軽さを生かし、上体を反らして氷弾を紙一重で避ける。それを見たバルルは焦った声を上げ、一方で魔法を放った直後で隙を生んだコオリの元にミイナは向かおうとした。


「これで終わ……うにゃっ!?」


しかし、コオリに攻撃を加えようとした瞬間、ミイナは嫌な予感を抱いて咄嗟に後方へ振り返る。そこには先ほど避けたはずのが彼女の背後に迫っており、それに気づいたミイナは咄嗟に炎の爪で氷弾を破壊した。

コオリは氷弾を避けられる事を想定して不意打ちを仕掛けたのだが、人間離れした反射神経でミイナは後方から迫った氷弾を破壊すると、それを見たコオリは慌てて彼女から離れる。バルルはその様子を見て冷や汗を流し、想像以上のミイナの運動能力に焦りを抱く。


「……今のはびっくりした。だけど、二度と同じ手には引っかからない」
「うっ……」
「怯えるんじゃないよ!!思い出しな、あたしが言った事を忘れたのかい!?」


ミイナの言葉を聞いて顔色を悪くするコオリにバルルは怒鳴りつける。彼女の言葉を聞いてコオリは今日のために彼女から受けた特訓を思い出す。



――バルルはコオリにミイナを捕まえさせるために協力させ、彼女は自分が調べ上げたミイナの情報を元にコオリに特訓を行う。彼女はミイナがどのように動いて攻撃を仕掛けてくるのかを予想し、それをコオリに教えて対処法をいくつか教える。

今回の作戦はコオリがミイナを打ち勝つ以外に方法はなく、バルルがミイナに勝負を持ちかけたで彼女は素直に従うとは思えない。しかし、年下でしかも最近入ったばかりの生徒であるコオリならば油断して勝負を引き受ける可能性も高かった。

実際にミイナはコオリが自分と戦うと聞いて油断し、決闘の条件を受け入れて勝負をした。彼女は二年生の間では他の生徒と比べても頭一つ分抜けており、今まで同級生相手に負けた事はない。しかも相手が自分達よりも年下で未熟な一年生ならば負ける道理はないと考えたのだろう。

しかし、その彼女の油断を利用してバルルはコオリに特訓を行わせ、様々な作戦を叩き込む。今日はバルルが教師でいられるであり、今日中にミイナにバルルが教師である事を認めさせないと彼女は教師として残れない。


(頑張りな!!あんたならできるさ!!)


心の中でバルルはコオリを応援し、そんな彼女の気持ちが彼にも伝わったのか、コオリはバルルに頷いて改めてミイナと向き合う。ミイナは先ほどのコオリの予想外の攻撃に驚いた様子で迂闊に近づくような真似はせず、その隙を利用しては杖を構えた。


「行きます!!」
「っ……!?」


声を上げて攻撃を仕掛ける事を宣言すると、コオリは「圧縮氷弾」を放つ準備を行う。彼の雰囲気が変わった事に察したミイナは冷や汗を流す。


(この人は強い……手加減なんてする余裕はない!!)


これまでコオリが圧縮氷弾を撃ち込まなかったのはミイナを傷つけてしまう事を恐れたからだが、彼女の身軽さと炎爪の威力を思い知らされ、手加減すればこちらが負けると思ったコオリは本気を出す。


「はああっ!!」
「くぅっ!?」


ミイナは両手の鉤爪を重ね合わせて防御の体勢を取るが、そんな彼女に向けてコオリは圧縮氷弾を撃ち込む。炎の爪と氷の刃が交わり、先ほどまマオの作り出した氷塊は炎爪に触れた瞬間に溶けてしまったが、魔力を圧縮して作り出された氷塊は炎を物ともせずに逆にミイナの鉤爪を弾き飛ばす。


「にゃああっ!?」
「や、やった!?」
「おしっ!!」


バルルの歓喜の声が上がり、コオリ自身も驚きの声を上げ、ミイナは地面に倒れ込む。倒したかと思われたが、どうやら彼女は鉤爪に防いだ際に圧縮氷弾の軌道を反らして本体には当たっていなかった。

鉤爪は弾かれて爪の部分が曲がってしまったが、それでもミイナは諦めるつもりはないのか起き上がるとコオリの元に目掛けて駆け抜ける。


「にゃああっ!!」
「くぅっ!?」


鉤爪を破壊されようと攻撃を仕掛けてきたミイナに対し、コオリは咄嗟に杖を構えて反撃の準備を整える。
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