氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第24話 同じ境遇

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「あの時の私は魔力量が全てじゃない、魔力が少なかろうと魔法の使い方を工夫すればいい……何度も訴えたのにあのくそ学園長ときたら聞く耳持たずに留年を言い渡しやがって!!」
「気持ちはよく分かるわ、あの時に私が貴女を守れれば……」
「いや、先生は責めてるわけじゃないよ。どうせ留年を言い渡されなくてもいつかはあの馬鹿に手を出していただろうからね……だけど、あいつのやり方は間違っていたんだよ」


先代の学園長は魔力量が少ない魔術師は「欠陥品」と思い込む古い時代の魔術師の考え方の持ち主で有り、そのせいで授業内容も魔力量が少ない生徒には付いていけない内容だった。

現在は廃止されているが当時の魔法学園では魔力を吸収する魔道具を利用し、それらを身に着けて授業を行う事もあった。この魔道具のせいで魔力量が少ない生徒は早々に体調不良を起こし、授業に付いていけない者は退学にされた。バルルも何度も体調を崩して倒れた事はあったが、それでも彼女は意地でも学園に居続けた。

二年生の時の彼女は生徒の中ではトップの成績を誇り、学園長以外の教師からは評価は高かった。しかし、それが気に入らなかったのか学園長は魔力量が少ないという理不尽な理由でバルルに留年を言い渡し、それに切れたバルルが学園長を殴って退学になったのが事件の真実だった。


「コオリの魔力が少ないのは先生も気付いていただろう。だけど、あいつの魔法は見事だっただろう?」
「ええ、それは認めるわ」
と呼ばれた坊ちゃんと比べるとコオリは魔力量も少ないし、魔法の腕も未熟かもしれない。それでもあたしはコオリを坊ちゃんと肩を並べるぐらいの魔術師に育て上げたい」
「それは貴方の願い?それとも……あの子が望んでいるのかしら?」
「……どっちもだよ」


マリアの言葉にバルルは苦笑いを浮かべ、彼女がコオリの事を放っておけないのはリオンからの命令だけではなく、昔の自分とコオリを重ね合わせているからだった。魔力量が少ない事で苦労した経験があるバルルだからこそ、コオリの事を放っておく事はできなかった。


「話は分かったわ。けれど、具体的に貴女は私に何をしてほしいのかしら?」
「別にそう難しい事じゃないよ。要するにコオリの面倒をあたしがみれるような環境を整えてくれればいいのさ。つまり――」


バルルは自分がコオリの世話を見るために必要な環境を整えるため、マリアに頼みごとを行う――





――翌日、男子寮のコオリの部屋に人が訪れる。その人物は荒々しくコオリの部屋の扉を叩き、学生服に着替えていたコオリは慌てて扉を開いた。


「よっ、邪魔するよ!!」
「バ、バルルさん!?どうしてここに!?」


部屋の扉を開くとそこにはバルルが立っており、彼女はコオリに笑みを浮かべる。コオリは学生寮にバルルが現れた事に戸惑い、どうして彼女が訪れたのかを尋ねる。


「ここは関係者以外に立ち入りは禁止されてるんじゃ……」
「そんな事は知っているよ。だからあたしは問題ないのさ……ほれ、この格好を見れば分かるだろう?」
「格好って……」


バルルは自分の服装を指差すと、彼女はコオリの担当教師になるはずのセマカが身に着けていたローブと同じ物を着込んでいた。但し、彼女の場合は赤色を基調としており、マカセは黒のローブを身に着けていた事をコオリは思い出す。

この学園では学園長以外の教師は服装はローブで統一する事が決まっており、バルルがセマカと色違いのローブを着込んでいるという事は女性教員のローブを身に着けている事になる。その事に気付いたコオリは驚いた表情を浮かべて彼女を見上げると、バルルはあっさりと話す。


「今日からはあたしがあんたの担当教師だよ!!よろしく、生徒一号!!」
「ええええええっ!?」


コオリの驚愕の声が男子寮に響き渡り、この日からコオリはバルルの元で教えを受ける事になった――






――マリアと交渉して教師になったバルルはコオリを連れ、他の生徒が使用していない空き教室に入る。昔と比べて魔法学園の生徒の数が減ったために校舎内には空き教室が幾つか存在し、その内の一つをバルルは自分達専用の教室にした。


「この教室なら問題ないね。他の教室から離れているし、あたし達しかいないから魔法の練習も思う存分できるよ」
「あの……他の生徒はいないんですか?」
「いないよ。今のところはあたしが担当するのはあんたとあと一人だけさ」


コオリはバルルが自分の担当教師になった事に驚いたが、彼女が請け負う生徒はコオリとあと一人いるらしく、何故か面倒そうな表情を浮かべる。


「この教室を借りる条件として素行の悪い生徒の面倒を見るように頼まれてね……だからあたしはそいつを迎えに行かないといけない」
「え!?じゃあ、授業はどうするんですか?」
「今日の授業はあたしが居なくても一人でできるから問題ないよ。ほら、これを使うんだ」


本日の授業はコオリが一人でも問題なく行えるようにコオリは特別な魔道具を持ってきていた。彼女が取り出したのは無色の水晶玉であり、コオリが座っている机の上に置く。水晶玉を見てコオリは不思議に思い、一見はただの水晶玉にしか見えない。


「これは何ですか?」
「吸魔石と呼ばれる特別な魔石さ。普通の魔石は魔法の力を高める効果があるんだけど……こいつの場合はちょっと特殊でね、指先で軽く触れてみな」
「はあっ……」


机の上に置かれた水晶玉にコオリは恐る恐る指先を触れると、途端に奇妙な感覚を覚える。まるで魔法を使用した時のように魔力が吸い込まれる感覚に襲われ、反射的にコオリは指先を離してしまう。


「うわっ!?」
「あははっ、驚いただろう?こいつは触れた人間の魔力を吸い込む魔石なのさ」
「び、びっくりした……」


コオリが触れた指先を覗き込み、水晶玉に再度視線を向けると指が触れた部分が僅かに青く染まっている事に気付く。どうやら水晶玉がコオリの魔力を吸い上げて変色したらしいが、すぐに元に無色に戻ってしまう。

この時にコオリは水晶玉に見覚えがある事に気付き、適性の儀式の時に陽光教会で触れた水晶玉と似ている事に気付く。教会で触れた水晶玉もコオリの魔力に反応して色が変化した事を思い出し、もしかしたら同じ類の魔道具かもしれない。


「こいつは倉庫でほったらかしになっていた物さ。昔はよく、こいつを加工して作り出した腕輪を嵌めて授業させられてたね……たく、嫌な事を思い出しちまった」
「ど、どうしてこんな物を持って来たんですか?」
「そりゃあんた、こいつに触れて魔力を操作する技術を磨くためさ。いいかい、よくみておきな」


バルルは吸魔石と呼ばれる水晶玉に自分の掌を伸ばすと、彼女が触れた途端に水晶玉は赤色に変色した。これは先ほどのコオリと同じようにバルルが魔力を吸われている事を表し、色がコオリと異なるのは彼女が得意とする属性が「火属性」である事が原因だと話す。


「この吸魔石は触れる人間の魔力を吸い込む事で色を変えるんだよ。風属性の場合は緑、火属性は赤、水属性なら水色……あたしの場合は火属性に適性があるから赤色だね」
「な、なるほど……でも、そんなに触れて大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけないだろ、このまま魔力を吸われ続けたら干からびて死んじまう。だからこうするのさ」
「えっ!?」


水晶玉に触れた状態でバルルは目を閉じると、彼女の魔力を吸い上げて変色していた水晶玉が無色へと変化する。彼女は掌を水晶玉に触れたままにも関わらず、色合いが元に戻った事にコオリは驚く。


「色が戻った!?」
「ふうっ……久しぶりにやるときついね」


触れたままの状態で水晶玉を無色に変化させたバルルは掌を離すと、コオリは改めて水晶玉を覗き込む。先ほどまでは赤々と光っていた水晶玉だったが、今現在は元の状態に戻っていた。

コオリの場合は水晶玉を離した事で水晶玉は元に戻った。しかし、バルルの場合はずっと触れた状態にも関わらずに水晶玉は途中で無色に戻った。


「い、いったいどうやったんですか?」
「……それは自分で考えな。あたしは他のお優しい先生と違って厳しいからね、何でもかんでも教えるつもりはないよ」
「ええっ!?」
「それに言っただろう、あたしはこれから問題児を探し出して連れて来なきゃならないんだよ。あんたの面倒を見ている暇はないんだ、こっちも解雇《くび》にされるわけにはいかないからね……たまに顔を出すから真面目にやるんだよ」
「あ、ちょっと!?」


一方的にバルルは告げると、彼女はコオリを置いて本当に教室を出て行ってしまう。いきなり一人取り残されたコオリは困惑するが、彼女が置いて行った「吸魔石」に視線を向けた。


(いったいどうやったんだろう……)


コオリは吸魔石に試しにもう一度触れると、またもや魔力を奪われる感覚に襲われて手を離す。水晶玉はコオリの魔力を吸い上げて一瞬だけ青く染まるが、すぐに元の無色へと戻る。
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