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王都での日常
第22話 学園の規則
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――コオリの魔法を見届けたマリアは学園長室へと戻り、正式に彼の入学手続きを済ませると魔法学園の生徒になった者だけが与えられる徽章を渡す。
「これが魔法学園の生徒を証明する徽章よ。失くさないように気を付けなさい」
「ありがとうございます。これは……数字の一ですか?」
「そう、その数字が学年を表しているのよ」
マリアに渡された徽章は六芒星の形をしており、中心には数字で「一」と刻まれた。この数字が学年を表しているらしく、今年入学のコオリは一年生の徽章を渡される。
魔法学園の生徒は徽章を常備する事が義務付けられ、この徽章を失くしてしまった場合は罰則を与えられる。罰則を終えれば新しい徽章を渡して貰えるが、罰則を終えるまではどんなに優秀な成績だとしても星の徽章は与えられない。
「この学園では一年生は一年以内に星の徽章を一つ手に入らないと上の学年には上がらないから気を付けてなさい。二年生になったら二つ、三年生ならば三つ、学年が上がるごとに必要な星の徽章の数が増えていくわ」
上の学年に上がるためには年内に必要数の徽章を獲得しなければならず、これらの徽章は次の学年に繰り上がるまでは自分で管理しなければならない。
また、学年が上がると前年度に受け取った徽章は返還しなければならず、新しい学年に上がった場合は再び徽章を一から集めなければならない。
「ちなみに徽章がなければ入れない教室や訓練場もあるから気を付けて下さい。徽章は授業や試験、あるいは特別課題で最高の評価を得れば受け取れます」
「授業はともかく、試験と特別課題はどう違うんですか?」
「試験の場合は年に数回行われますが、特別課題は学年の終了時に徽章が足りない生徒だけが受けられます。但し、特別課題で得られる徽章は一つだけなのでお気をつけて」
「なるほど……あ、それならさっきの授業で的を当てた俺は徽章は貰えないんですか?」
セマカの話では彼の出した条件を合格すれば徽章を与えると聞いていたため、コオリは自分はもう徽章を受け取れるのではないかと考えた。だが、そんな彼にマリアは首を振る。
「残念だけど徽章を貰えるのは正式に生徒と認められた者だけ、あの時の貴方はまだ入学の手順を踏んでいなかったら渡すわけにはいかないの。だけど……」
マリアは机の中から「星」ではなく「月」の形をした徽章を取り出す。それを見たバルルとリンダは驚き、一方でコオリは不思議に思う。
「城下町を騒がした通り魔事件の解決を評価して貴方にはこの月の徽章を授けましょう」
「月の徽章?星の徽章とは違うんですか?」
「ちょ、ちょっと待ちな!!その徽章を受け取れるのは……」
「マリア様!!いくらなんでもそれはやり過ぎです!!」
月の形をした徽章をマリアはコオリに手渡すと、それを見たバルルとリンダは慌てふためく。しかし、そんな二人をマリアは手で制してコオリに注意する。
「その月の徽章は星の徽章よりも特別な物なの。だから無暗に人前で見せたり、持っている事を他人に自慢しない方がいいわ」
「ど、どういう意味ですか?」
「この月の徽章を受け取った生徒はに学園長……つまり、私に教えを受ける事を許可された生徒にしか与えられない代物なの」
「えっ!?学園長が魔法を教えてくれるんですか?」
「ええ、といっても私の時間が空いている時に限るけれど……」
魔法学園の学園長であるマリアから直々に授業を受けられる権利は月の徽章を持つ者しか与えられず、言ってみればこの王都で一番の魔術師の教えを受けられる事を意味する。それは学園の生徒にとって何よりも羨ましい権利だった。
この月の徽章を持つ生徒は滅多におらず、コオリは通り魔事件を解決したという事で特別に月の徽章を渡された。星の徽章よりも価値がある代物を入学初日から受け取ったコオリは戸惑い、失くさないように大事に握りしめる。
「ありがとうございます!!大切にします!!」
「その心意気は買うけど、言っておくけど月の徽章を失くした場合は再発行もしないし、罰則抜きで即退学になるから気を付けなさい」
「えっ……ええっ!?」
さらりととんでもない事を告げたマリアにコオリは驚愕するが、それだけ月の徽章は価値のある代物らしく、コオリは絶対に失くさないように心がける。
「さてと……貴方が入るクラスに関してだけど、この学園では生徒数の問題で一学年に一つのクラスしかないの。だからさっきのセマカ先生があなたのクラスの担当教師になるのだけど……」
「セマカには気を付けな。あいつは頭でっかちだからね、自分の指示に従わない奴は容赦しないからね」
「そ、そうなんですか?」
「セマカ先生は良い方ですよ。生徒を見捨てるような方ではありません」
バルルの言葉にコオリは不安を抱くが、リンダは訂正する。バルルが知っているセマカは学生時代の頃の彼であるため、長い時を経て性格が変わっていておかしくはない。
「魔法学園の生徒は寮に住む決まりだから荷物を纏めて学生寮に移りなさい。リンダ、学生寮の案内と荷物運びを手伝ってあげなさい」
「分かりました」
「ありがとうございます……じゃあ、一旦宿に戻ります」
「あたしは残らせてもらうよ。話があるからね」
今日の所はコオリは授業には参加せず、一旦宿に戻って荷物を纏める事にした。今日のうちに学生寮に移り住む準備を行わなければならず、コオリはリンダと共に学園長室を去る。
部屋の中にバルルとマリアだけが残ると、バルルは真剣な表情を浮かべてマリアと向き合う。マリアはバルルが急に訪れた用件を尋ねた。
「それで私に何の用事かしら?」
「ああ、大事な用さ……さっきガキの事さ」
「あの子がどうかしたの?」
「……ある方からあたしはコオリの様子を見るように頼まれている。だから、あいつが目の届かない場所に行かれると困るんでね」
「ある方ね……それは何処の国の王族かしら?」
「……口に気を付けな」
マリアの言葉にバルルは目つきを鋭くさせ、その一方でマリアは余裕の態度を貫く。バルルがコオリに同行した理由はマリアと交渉を行うためであり、彼女が仕える人物のためにバルルはある提案を行う――
――宿屋に戻ったコオリは自分の荷物を纏めると、リンダの案内の元で学生寮まで移動する。学生寮は魔法学園の敷地内に存在し、男子寮と女子寮に分けられている。男子寮は学園の東側に存在し、女子寮は反対の西側に存在する。
「ここが男子寮です。学園の男子生徒は全員がここで暮らしています」
「うわぁっ……俺が暮らしていた家よりも大きいかも」
コオリが暮らしていた孤児院よりも男子寮は大きく、最大で百人の人間が住めるほどの大きさはあった。実際の所は男子生徒は現在は五十人程度しかおらず、空き部屋が大量に余っているのでその中の一つにコオリは移り住む。
荷物と言っても着替えの服ぐらいしか持ち合わせておらず、引っ越しはすぐに終わった。学生寮には食堂も存在し、食事は朝、昼、夕方の三食用意される。また、購買も存在するので日用品の類も買う事ができるらしい。
(これで衣食住は確保できた。後の問題は金だな……)
先日の森の一件でコオリは商人のカイから多額の謝礼金を受け取ったが、この金は孤児院の仕送りに送る事に決めている。一応はコオリが魔法学園に入学したので国側から孤児院に援助金が支払われているはずだが、孤児院の子供達のためにもコオリは金を稼いで仕送りをしたいと考えていた。
「あの……学生でもお金を稼ぐ方法とかありますか?」
「お金?失礼ですがどのような理由で稼ぎたいのですか?」
「孤児院で世話になった人たちに恩返しがしたくて……」
「なるほど、そういう理由でしたら先生に相談して許可を貰えば外でも仕事ができますよ」
「許可?」
「はい、魔法学園の生徒の中には外で働きながら通う子もいます。担任の教師に相談し、許可が貰えれば外で働く事ができます」
「な、なるほど……分かりました。ありがとうございます」
生徒は担任の教師から許可を貰えば学園外で仕事ができる事を知り、コオリは明日になったら自分の担当教師となるはずのセマカに相談する事にした。そして部屋の中にコオリは荷物を運び終えると、リンダは早々に男子寮から立ち去る事を告げる。
「では私はこれで失礼します。あまり、女子が男子寮にいると怪しまれてしまうので……」
「あ、はい。ここまでありがとうございました」
「いえ、お気になさらず……それと私の事は今後はさん付けではなく、先輩と呼んでください」
「えっ……あ、はい。分かりました、リンダ先輩」
「結構です。では、私はこれで……」
別れ際にリンダはコオリに微笑むと、彼女は男子寮を立ち去った。彼女を見送った後、コオリは部屋の中を見渡す。学生寮は生徒一人一人に個室が用意され、コオリの部屋は両隣が空き部屋なので多少は大きな音を立てても問題はなかった。
当初の目的通りに遂にコオリは魔法学園に入学し、今後は生徒として過ごす事が決まる。一か月前まではコオリは普通の子供として暮らしていたが、まさかこんな事になるとは夢にも思わなかった。
「皆……必ず立派な魔術師になって帰るから待っててくれよ」
孤児院に残した子供達や院長を思い出しながらコオリはベッドの上に座り込み、時間を持て余す。今日は授業には参加できないため、コオリは今のうちに学園の制服の確認を行う。
「これが制服か……結構、派手だな」
制服の背中の部分には魔法学園の象徴である「六芒星」の紋様が刻まれており、割と目立つ格好だった。街中でこんな物を着て歩いたら注目を引いてしまい、魔法学園の外に出る時は私服に着替えた方がいいかとコオリは苦笑いを浮かべる。
「これが小杖か……リオンのと比べるとちょっとみすぼらしいな」
魔法学園の生徒は毎年に「小杖」を支給されるらしく、魔法に必要な道具も学園側が用意する。但し、支給された杖を壊した場合は自腹で新しい杖を購入しなければならない。
今現在のコオリは院長から受け取った杖と、学園側が支給した小杖の二つを所有している。そのため、片方の杖が壊れたとしても問題はないが、もしも二つとも壊れた場合は自腹で新しい小杖を買わなければならない。
(杖っていくらぐらいするんだろう……物凄く高かったらどうしよう)
魔法学園では授業で魔法を実践する事も必ずあるので杖が壊れた場合、授業に参加できなくなる恐れもある。そのためにコオリは万が一の場合に備えてお金を稼ぎ、小杖を購入できるだけの貯金はしておくべきかと考える。
「これが魔法学園の生徒を証明する徽章よ。失くさないように気を付けなさい」
「ありがとうございます。これは……数字の一ですか?」
「そう、その数字が学年を表しているのよ」
マリアに渡された徽章は六芒星の形をしており、中心には数字で「一」と刻まれた。この数字が学年を表しているらしく、今年入学のコオリは一年生の徽章を渡される。
魔法学園の生徒は徽章を常備する事が義務付けられ、この徽章を失くしてしまった場合は罰則を与えられる。罰則を終えれば新しい徽章を渡して貰えるが、罰則を終えるまではどんなに優秀な成績だとしても星の徽章は与えられない。
「この学園では一年生は一年以内に星の徽章を一つ手に入らないと上の学年には上がらないから気を付けてなさい。二年生になったら二つ、三年生ならば三つ、学年が上がるごとに必要な星の徽章の数が増えていくわ」
上の学年に上がるためには年内に必要数の徽章を獲得しなければならず、これらの徽章は次の学年に繰り上がるまでは自分で管理しなければならない。
また、学年が上がると前年度に受け取った徽章は返還しなければならず、新しい学年に上がった場合は再び徽章を一から集めなければならない。
「ちなみに徽章がなければ入れない教室や訓練場もあるから気を付けて下さい。徽章は授業や試験、あるいは特別課題で最高の評価を得れば受け取れます」
「授業はともかく、試験と特別課題はどう違うんですか?」
「試験の場合は年に数回行われますが、特別課題は学年の終了時に徽章が足りない生徒だけが受けられます。但し、特別課題で得られる徽章は一つだけなのでお気をつけて」
「なるほど……あ、それならさっきの授業で的を当てた俺は徽章は貰えないんですか?」
セマカの話では彼の出した条件を合格すれば徽章を与えると聞いていたため、コオリは自分はもう徽章を受け取れるのではないかと考えた。だが、そんな彼にマリアは首を振る。
「残念だけど徽章を貰えるのは正式に生徒と認められた者だけ、あの時の貴方はまだ入学の手順を踏んでいなかったら渡すわけにはいかないの。だけど……」
マリアは机の中から「星」ではなく「月」の形をした徽章を取り出す。それを見たバルルとリンダは驚き、一方でコオリは不思議に思う。
「城下町を騒がした通り魔事件の解決を評価して貴方にはこの月の徽章を授けましょう」
「月の徽章?星の徽章とは違うんですか?」
「ちょ、ちょっと待ちな!!その徽章を受け取れるのは……」
「マリア様!!いくらなんでもそれはやり過ぎです!!」
月の形をした徽章をマリアはコオリに手渡すと、それを見たバルルとリンダは慌てふためく。しかし、そんな二人をマリアは手で制してコオリに注意する。
「その月の徽章は星の徽章よりも特別な物なの。だから無暗に人前で見せたり、持っている事を他人に自慢しない方がいいわ」
「ど、どういう意味ですか?」
「この月の徽章を受け取った生徒はに学園長……つまり、私に教えを受ける事を許可された生徒にしか与えられない代物なの」
「えっ!?学園長が魔法を教えてくれるんですか?」
「ええ、といっても私の時間が空いている時に限るけれど……」
魔法学園の学園長であるマリアから直々に授業を受けられる権利は月の徽章を持つ者しか与えられず、言ってみればこの王都で一番の魔術師の教えを受けられる事を意味する。それは学園の生徒にとって何よりも羨ましい権利だった。
この月の徽章を持つ生徒は滅多におらず、コオリは通り魔事件を解決したという事で特別に月の徽章を渡された。星の徽章よりも価値がある代物を入学初日から受け取ったコオリは戸惑い、失くさないように大事に握りしめる。
「ありがとうございます!!大切にします!!」
「その心意気は買うけど、言っておくけど月の徽章を失くした場合は再発行もしないし、罰則抜きで即退学になるから気を付けなさい」
「えっ……ええっ!?」
さらりととんでもない事を告げたマリアにコオリは驚愕するが、それだけ月の徽章は価値のある代物らしく、コオリは絶対に失くさないように心がける。
「さてと……貴方が入るクラスに関してだけど、この学園では生徒数の問題で一学年に一つのクラスしかないの。だからさっきのセマカ先生があなたのクラスの担当教師になるのだけど……」
「セマカには気を付けな。あいつは頭でっかちだからね、自分の指示に従わない奴は容赦しないからね」
「そ、そうなんですか?」
「セマカ先生は良い方ですよ。生徒を見捨てるような方ではありません」
バルルの言葉にコオリは不安を抱くが、リンダは訂正する。バルルが知っているセマカは学生時代の頃の彼であるため、長い時を経て性格が変わっていておかしくはない。
「魔法学園の生徒は寮に住む決まりだから荷物を纏めて学生寮に移りなさい。リンダ、学生寮の案内と荷物運びを手伝ってあげなさい」
「分かりました」
「ありがとうございます……じゃあ、一旦宿に戻ります」
「あたしは残らせてもらうよ。話があるからね」
今日の所はコオリは授業には参加せず、一旦宿に戻って荷物を纏める事にした。今日のうちに学生寮に移り住む準備を行わなければならず、コオリはリンダと共に学園長室を去る。
部屋の中にバルルとマリアだけが残ると、バルルは真剣な表情を浮かべてマリアと向き合う。マリアはバルルが急に訪れた用件を尋ねた。
「それで私に何の用事かしら?」
「ああ、大事な用さ……さっきガキの事さ」
「あの子がどうかしたの?」
「……ある方からあたしはコオリの様子を見るように頼まれている。だから、あいつが目の届かない場所に行かれると困るんでね」
「ある方ね……それは何処の国の王族かしら?」
「……口に気を付けな」
マリアの言葉にバルルは目つきを鋭くさせ、その一方でマリアは余裕の態度を貫く。バルルがコオリに同行した理由はマリアと交渉を行うためであり、彼女が仕える人物のためにバルルはある提案を行う――
――宿屋に戻ったコオリは自分の荷物を纏めると、リンダの案内の元で学生寮まで移動する。学生寮は魔法学園の敷地内に存在し、男子寮と女子寮に分けられている。男子寮は学園の東側に存在し、女子寮は反対の西側に存在する。
「ここが男子寮です。学園の男子生徒は全員がここで暮らしています」
「うわぁっ……俺が暮らしていた家よりも大きいかも」
コオリが暮らしていた孤児院よりも男子寮は大きく、最大で百人の人間が住めるほどの大きさはあった。実際の所は男子生徒は現在は五十人程度しかおらず、空き部屋が大量に余っているのでその中の一つにコオリは移り住む。
荷物と言っても着替えの服ぐらいしか持ち合わせておらず、引っ越しはすぐに終わった。学生寮には食堂も存在し、食事は朝、昼、夕方の三食用意される。また、購買も存在するので日用品の類も買う事ができるらしい。
(これで衣食住は確保できた。後の問題は金だな……)
先日の森の一件でコオリは商人のカイから多額の謝礼金を受け取ったが、この金は孤児院の仕送りに送る事に決めている。一応はコオリが魔法学園に入学したので国側から孤児院に援助金が支払われているはずだが、孤児院の子供達のためにもコオリは金を稼いで仕送りをしたいと考えていた。
「あの……学生でもお金を稼ぐ方法とかありますか?」
「お金?失礼ですがどのような理由で稼ぎたいのですか?」
「孤児院で世話になった人たちに恩返しがしたくて……」
「なるほど、そういう理由でしたら先生に相談して許可を貰えば外でも仕事ができますよ」
「許可?」
「はい、魔法学園の生徒の中には外で働きながら通う子もいます。担任の教師に相談し、許可が貰えれば外で働く事ができます」
「な、なるほど……分かりました。ありがとうございます」
生徒は担任の教師から許可を貰えば学園外で仕事ができる事を知り、コオリは明日になったら自分の担当教師となるはずのセマカに相談する事にした。そして部屋の中にコオリは荷物を運び終えると、リンダは早々に男子寮から立ち去る事を告げる。
「では私はこれで失礼します。あまり、女子が男子寮にいると怪しまれてしまうので……」
「あ、はい。ここまでありがとうございました」
「いえ、お気になさらず……それと私の事は今後はさん付けではなく、先輩と呼んでください」
「えっ……あ、はい。分かりました、リンダ先輩」
「結構です。では、私はこれで……」
別れ際にリンダはコオリに微笑むと、彼女は男子寮を立ち去った。彼女を見送った後、コオリは部屋の中を見渡す。学生寮は生徒一人一人に個室が用意され、コオリの部屋は両隣が空き部屋なので多少は大きな音を立てても問題はなかった。
当初の目的通りに遂にコオリは魔法学園に入学し、今後は生徒として過ごす事が決まる。一か月前まではコオリは普通の子供として暮らしていたが、まさかこんな事になるとは夢にも思わなかった。
「皆……必ず立派な魔術師になって帰るから待っててくれよ」
孤児院に残した子供達や院長を思い出しながらコオリはベッドの上に座り込み、時間を持て余す。今日は授業には参加できないため、コオリは今のうちに学園の制服の確認を行う。
「これが制服か……結構、派手だな」
制服の背中の部分には魔法学園の象徴である「六芒星」の紋様が刻まれており、割と目立つ格好だった。街中でこんな物を着て歩いたら注目を引いてしまい、魔法学園の外に出る時は私服に着替えた方がいいかとコオリは苦笑いを浮かべる。
「これが小杖か……リオンのと比べるとちょっとみすぼらしいな」
魔法学園の生徒は毎年に「小杖」を支給されるらしく、魔法に必要な道具も学園側が用意する。但し、支給された杖を壊した場合は自腹で新しい杖を購入しなければならない。
今現在のコオリは院長から受け取った杖と、学園側が支給した小杖の二つを所有している。そのため、片方の杖が壊れたとしても問題はないが、もしも二つとも壊れた場合は自腹で新しい小杖を買わなければならない。
(杖っていくらぐらいするんだろう……物凄く高かったらどうしよう)
魔法学園では授業で魔法を実践する事も必ずあるので杖が壊れた場合、授業に参加できなくなる恐れもある。そのためにコオリは万が一の場合に備えてお金を稼ぎ、小杖を購入できるだけの貯金はしておくべきかと考える。
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