氷弾の魔術師

カタナヅキ

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王都での日常

第18話 勧誘

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「魔法学園ではどんな風に魔法を教えるですか?」
「そうだね、あたしが通っていた時は拷問にしか思えない酷い授業もあったね」
「えっ!?」


拷問という物騒な言葉にコオリは驚き、魔法学園ではどんな教育を受けるのか不安を抱く。


「あたしが受けた授業の中には魔力を吸い込む特別な魔道具を身体に取りつけて、何時まで耐え切れるのか試すのもあったね。この授業が一番きつくて嫌だったね……魔力を根こそぎ奪われるまで魔道具を取り外す事は許されなかったからね」
「そ、それって大変なんじゃ……」
「まあ、実際に魔力を吸い上げられ過ぎて死にかけた生徒もたくさんいたね。流石に今の時代では廃止されているだろうけど、あの時は本当に教師共が憎くて仕方なかったね」


昔を思い出しながら語るバルルの表情は引きつっており、彼女にとっても辛い思い出だった事が伺える。だが、どうしてそんな危険な真似を当時の教師が実行したのかコオリは気になった。


「どうしてそんなに酷い真似を……」
「まあ、魔法学園に通うガキ共は当然だけど魔法が使える。あんたも分かるだろう?この魔法の力がどれほど危険な物か……魔法はなんだよ。もしも魔法を使えるガキが一般人を相手に魔法の力を使ったらどうなると思う?」
「あっ……」
「魔法学園の生徒が非力な一般人に魔法なんてぶつけたら大問題になるからね。だから教師共は魔法学園の生徒には魔法の危険性を理解させるため、敢えて厳しく躾けようとしてたんだろうね。まあ、どんな理由があろうとあたしを退学したくそ教師共に感謝なんてしないけどね」


バルルの時代の教師が生徒に拷問紛いの授業を行っていたのは、生徒たちが魔法の力を悪用する事を阻止するため、厳しく彼等を取り締まっていた。しかし、あまりに厳しすぎたせいで生徒たちから反感を抱かれる事も多い。

学園を退学されたバルルは今でも魔法学園の教師を嫌っているが、それでも彼女なりに教師の指導法はともかく、魔法を悪用させないという理念は納得はしている。だからといって自分を退学に追いやった教師の恨みは決して消えない。


「魔法学園は魔法の技術を磨くだけじゃなく、魔法の危険性を教えて悪用しないように指導する場所だと教師共は言っていた。だけど、そんなのはあくまでも表向きの言い訳に過ぎないね。要するにあいつらは怖がってるんだよ」
「怖がっている?」
「魔法を扱える人間が悪人になる事を恐れているのさ。一流の魔術師ならたった一人でも千を超える兵士を倒せるぐらいの力があるからね。だから王国の連中は魔法の適性を持つ子供を集めて教育し、悪党にならないように指導を行う。要するに国の秩序を守るために魔法を使える子供を集めているのさ……たく、あたしらしくもない話をしちまたね」


バルルが王国が魔術師の適性を持つ子供を王都の魔法学園に集める本当の理由は国の秩序のためであり、魔法を使える子供達が魔法の力を悪用させないために教育するのが魔法学園が作られた本当の理由だと語った。

話を聞かされたコオリも納得し、魔法学園が単なる魔法の技術を磨くだけの施設ではない事を知る。だが、コオリの場合はその魔法学園にもまだ入学しておらず、本来の目的を思い出したコオリは慌ててバルルに問い質す。


「あ、しまった!!バルルさん、魔法学園は何時から開いてるんですか!?」
「え!?い、今の時間帯ならもう開いてる頃じゃないかね……」
「良かった……それじゃあ、今から行ってきます!!今日の朝食はいいです!!」
「ちょ、ちょっと!?急にどうしたんだい!!」


今日中に魔法学園で入学手続きを行わなければならず、コオリは慌てて宿屋を飛び出して魔法学園へ向かおうとした。昨日も一昨日も通り魔のせいで結局は魔法学園へ辿り着けず、今日こそは魔法学園で入学手続きを行わないとまたも高い宿代を支払う事になってしまう。


「急がないと……うわっ!?」
「きゃっ!?」


玄関から出て行こうとしたコオリは扉を開いた瞬間、向かい側から現れた女性とぶつかってしまう。この時にコオリは女性の胸元に顔を突っ込み、女性は彼を抱き留める形になった。


(うわっ……柔らかい、それに凄い美人だ)


コオリは女性の胸元に挟まれながら相手の顔を見上げ、彼が今まで出会った女性の中でも一番美しいと思った。相手の女性はコオリが飛び込んできても特に怒りはせず、彼に手を貸して立たせる。


「もう、急に飛び出したら危ないですよ」
「す、すいません!!急いでたのでつい……」


女性の言葉にコオリは頬を赤く染めて謝罪する。そんな彼に女性は微笑み、ある事に気が付く。少年の容姿を見て女性は驚いた表情を浮かべ、一方でコオリの方は自分を見つめてくる女性に戸惑う。

コオリとぶつかった女性は「リンダ」という名のエルフだった。魔法学園に通う生徒でもあり、年齢は十八才で学年は三年生であり、学園長のマリアとは叔母と姪の関係だった。彼女はマリアに頼まれて噂の少年が宿泊している宿屋に訪れた所、偶然にもコオリと遭遇した。

リンダはマリアに頼まれて彼を迎えに来たのだが、まさか宿屋の玄関で出くわすとは思わずに驚いてしまう。事前に情報集めて少年の特徴は知っていたため、リンダは目の前の子供が例の通り魔事件を解決した「コオリ」という名前の少年だと見抜く。


(思っていたよりも小さいですね……)


コオリの年齢は十五才だと聞いているが、実年齢よりも少し幼く見えてしまう。しかし、彼が危険な殺人鬼を単独で捕まえる程の腕前の魔法使いなのは間違いなく、改めてリンダは彼に話しかけようとした。


「私は……」
「ご、ごめんなさい!!急いでいるので失礼します!!」
「あっ、ちょっと!?」


自分を見て固まっていたリンダに対してコオリは頭を下げると、駆け足で宿屋の外へ飛び出そうとした。今の彼は一刻も早く魔法学園に赴き、入学手続きを行わなければならなかった。

事情を知らないはコオリはまさかぶつかった相手が学園長が自分を勧誘するために送り込んだ人物だとは気づかず、そのまま彼女を置いて魔法学園に向かおうとした。しかし、リンダは宿屋から出て行こうとするコオリを見て咄嗟に足元に力を込める。


「待ちなさいっ!!」
「わあっ!?」


リンダは足元に力を込めた瞬間、彼女の両足に、衝撃波のような風圧が発生した。後ろから発生した風圧にコオリは危うく吹き飛ばされそうになるが、その風圧を利用してリンダは彼の先回りを行う。


「おっと……すいません」
「うぷっ!?」


コオリの先回りをしたリンダは再び彼を抱き留め、転びそうになるのを抑え込む。またもやリンダの胸に顔を埋める事になったコオリだが、今回は照れる余裕はなく、リンダが何をしたのか理解できずに戸惑う。


(何だ今の……まさか、魔法か!?)


後方から物凄い音と風圧を感じ取ったコオリはリンダが魔法を使った事を悟り、慌てて彼女から離れると身構えてしまう。リンダはコオリの様子を見て慌てて落ち着かせる。


「す、すいません。驚かせてしまいましたね……私は貴方に危害を加えるつもりはありません。だから落ち着いて聞いて下さい」
「は、はあっ……それで貴女は?」
「私は決して怪しい者ではありません。実は……」
「あんたら、何を騒いでんだい!!」


リンダがコオリを落ち着かせて自己紹介を行おうとした時、騒ぎを聞きつけたバルルが宿の外に飛び出す。彼女はコオリと向かい合うリンダの姿を見て驚き、すぐに彼女が身に着けている服に気付く。


「あんた……その格好を見るところ、魔法学園の生徒だね?」
「はい、店の前でお騒がせてしまってすいません」
「えっ!?魔法学園の!?」


魔法学園の生徒が着込む制服をリンダは身に着けており、その話を聞いたコオリは驚く。一方でバルルの方は状況がよく分からずに首を傾げ、リンダはひとまずは彼女も交えて事情説明を行う――





――その後、リンダは自分が魔法学園の学園長の姪である事、叔母のマリアに頼まれて先日の事件で一躍噂になった少年を迎えに来た事を話す。

コオリとしては自分が知らない間に有名人として扱われていた事に驚き、しかも学園長が自分と会って話がしたいと言われて緊張してしまう。学園の入学手続きも兼ねてコオリはリンダと共に魔法学園へ訪れる。

魔法学園の門の前に辿り着くと、大勢の子供達が登校していた。この学園に通えるのは国中から集められた魔術師の素質を持つ子供だけであり、彼等全員が魔法使いという事になる。


「うわぁっ……どれくらいの生徒がいるんですか?」
「全校生徒の数は百人ぐらいですね」
「百人?たったそれだけなんですか?」


魔法学園に通う生徒は百名を超え、今年の入学生はコオリを含めても三十人程度しかいない。彼等全員が魔法を扱う資質を持ち合わせて生まれた存在であり、魔法の技術を磨くため、それと同時に魔法の力に驕らない人物に育て上げる教育を施すために国中から集められた子供達でもある。

学園には十五才から入学し、卒業する時は十八才を迎える。ちなみに魔法学園といっても魔法の技術だけを磨くだけではなく、身体を鍛えたり、家庭の事情で文字の読み書きを学ぶ事ができなかった生徒のために勉強も教えている事をリンダからコオリは説明を受けた。


「コオリさんは文字の読み書きや数字の計算はできますか?」
「あ、はい……村の大人に教わりました」
「そうですか、なら良かったです」


コオリの返事を聞いてリンダは彼の手を掴み、早速だが学園長室に向かおうとした。しかし、二人の後ろには何故か一緒に付いて来たの姿があった。
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