氷弾の魔術師

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
12 / 129
王都での日常

第12話 魔法の実験 

しおりを挟む
「な、何だ、今のは……魔法か?だが、こんなので、お、俺を殺せると、お、思ったのか?」
「くっ……」


は通り魔の男に当てる事はできたが、やはり工夫を加えていない攻撃では人間相手でも怯ませる程度の効果しかなかった。男はコオリが魔法を使える事を知って顔を歪ませる。


「お、お前……魔法学園の生徒だな?だ、だが、こんなちゃちな魔法しか使えないなら、落ちこぼれだな?」
「落ちこぼれ……だと?」


男の小馬鹿にしたような態度にコオリは青筋を浮かべ、再び杖を構えた。先ほどのように氷の欠片でも飛ばしてくるのかと男は身構えた。そんな相手に対して今度は容赦せずにコオリは魔法を繰り出す。


「アイス!!」
「そんなも……ぎゃあああっ!?」


再び杖先から氷塊を生み出したコオリに男は身構えるが、今度はコオリは男の股間に目掛けて氷の破片を放つ。威力は弱くても急所を狙われたらひとたまりもなく、股間んに衝撃と冷たさを覚えた男は膝を崩す。


「こ、このガキ……よくも、俺のジョンソンを!?」
「自分の股間にそんな名前付けてたのか……けど、急所に当てれば俺の魔法も十分に通じる事は分かったよ」


男を実験にしてコオリは自分の魔法でも急所ならば通じると確信し、男が苦しんでいる間に街道にいる人々に大声で注意した。


「誰か来てください!!通り魔に襲われています!!」
「何だって!?」
「と、通り魔!?」
「この奥か!?」


街道を歩いていた大人達がコオリの声を聞き付け、彼等は路地裏で倒れている男とコオリの姿を見て驚く。街道の人間に自分の存在を知られた事に気付いた通り魔は股間を抑えながら立ち上がり、血走った右目で最後にコオリを睨みつける。


「お、お前……絶対、こ、殺してやる!!」
「おい、男が逃げるぞ!!」
「捕まえろ、逃がすな!!」
「あれ?あいつなんで股を抑えてるんだ?」


通り魔は逃げ出すと偶然にも街道を巡回していた兵士が駆けつけ、彼等はコオリを保護すると逃げ出した通り魔の後を追う――





――その後、コオリは屯所に連れていかれて事情聴取を行う。兵士達はコオリに襲われた時の出来事を詳しく聞き、解放されたのは夕方だった。残念ながら通り魔の方は取り逃がしてしまったが、通り魔に襲われていた子供は奇跡的に命は助かった。


「君に助けられた子供の両親がお礼を言っていたよ、本当に危ない所だった。買い物の途中で犯人に攫われて襲われていたらしい」
「そうだったんですか……」
「今回は犯人を取り逃がしてしまったが、君のお陰で犯人の特徴を掴む事ができた。感謝するよ……だが、これからは一人で外を出歩かない方がいい。念のために宿屋まで我々が送るよ」
「あ、ありがとうございます」


兵士は親身にコオリの話を聞いてくれ、わざわざ宿屋までコオリを送ってくれた。犯人がまだ捕まっていない事もあって子供一人を帰らせるわけにもいかず、コオリは宿屋まで送ってもらうと女主人《バルル》が出迎えてくれた。


「よう、話は聞いてるよ。例の通り魔に襲われたんだって?よく無事だったね」
「まあ……別に大した事はない相手でしたから」
「流石はだね。王都の警備兵も手こずる通り魔を返り討ちにするなんてやるじゃないかい」
「いや、運が良かっただけですよ」


バルルの言葉を聞いてもコオリは表情は晴れず、結局のところは事件は解決したとは言えない。通り魔は未だに捕まっておらず、コオリが手加減などせずに本気で魔法を使っていたら事件は解決していたかもしれない。


(俺の魔法ならあいつの手足を撃ち抜いて止める事はできたかもしれない。けど、人間相手に本気で魔法を使ったら……)


コオリが本気で魔法を繰り出せば男は致命傷を負いかねず、だから二回も魔法を使ったのに手加減してしまった。相手が魔物ならばともかく、犯罪者と言えども人間に対してコオリは魔法を使えなかった。だが、その甘さが後に事件を引き起こす事になる――





――翌日の早朝、朝食の前にコオリは宿屋の裏庭にて魔法の練習を行う。リオンが自分には無理だと言い放った「無詠唱魔法」を試す事にした。


(あいつの話だと一流の魔術師を目指す奴なら無詠唱魔法は扱えて当然みたいだけど……)


口を閉じた状態でコオリは頭の中で魔法を発動する事を念じる。しかし、杖は一向に反応せず、しばらくの間はコオリは何度も魔法を発動しようとするが反応はない。


(くそ、駄目か……あいつの言う通りに俺の魔力じゃ発現できないのか?)


リオンによれば魔力が人よりも少ないコオリでは「無詠唱魔法」の発動に必要な魔力を集められず、魔法の発動その物ができないのかもしれない。


「アイス!!」


今度は呪文を口にしてみるといつも通りに魔法の発現に成功した。だが、この方法では口を封じられた状態では魔法の発現はできない。仮に何らかの手段で敵に口元を封じられた場合、コオリは魔法で対抗する事ができない。

何度か無詠唱で魔法を発動させようとするが上手くいかず、やはり今の時点では呪文を口にしない限りは魔法を扱えそうにない。朝食の時間も迎えたため、一旦諦めて建物の中に戻ろうとした。


「仕方ない、諦めるしかないか……ん?」


建物に戻ろうとした際、コオリは自分の杖の先端に氷塊を作り出したままの状態だと気が付く。この時に氷塊を見てコオリはある事を思いつき、とある方法を試す――





――朝食を終えた後、しばらく時間を潰すとコオリは魔法学園に向けて出発する。今日こそは魔法学園で入学手続きを行わなければならず、女主人《バルル》に外に出る事を伝えると彼女は難色を示す。


「あんたね、昨日襲われたばかりだろ?それなのにまた一人で出かけるきかい?」
「大丈夫ですよ。一応、身を守る術は身に着けてますから」
「そうかい、それなら気を付けるんだよ。例の通り魔はまだ捕まってないらしいからね」


バルルの言葉にコオリは自分を襲ってきた昨日の通り魔の顔を思い出し、通り魔は逃げる際にコオリに「殺す」と宣告し、未だに捕まってはいないらしい。

通り魔に命を狙われている状態で外に出るのは危険だが、広い王都で通り魔とまた遭遇する可能性は低く、それに今日こそ魔法学園で入学手続きを行わなければならない。早めに入学手続きを終えて学園に入学しないと高い宿代を支払い続けねばならない。


「じゃあ、行ってきます」
「ちょっと待ちな……仕方ないね、それならこれを持って行きな」
「え、これは……」
「随分前にうちに泊まった客が部屋に置き忘れた物さ。多分、もう取りに戻ってくる事はないだろうから貸してやるよ」
「あ、ありがとうございます!!」


女主人は外に出向こうとするコオリに短剣を差し出し、それを受け取ったコオリは驚きながらも有難く受け取る。彼には杖はあるが、やはり身を守る道具を身に着けて置いた方が安心する。

刃物を携帯して歩く事はコオリも初めてなので緊張するが、とりあえずは目立たないように懐に短剣をしまってコオリは外に出向く。昨日の時点で女主人から受け取った地図を頼りにコオリは魔法学園へ向けて出発した。



――しかし、宿屋から出てきた彼を建物の陰から確認する人影があった。その人影は街道を行き渡る人々に混じり、コオリに気付かれないように後を追う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...