伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
65 / 68
修行の旅

第65話 魔法の披露

しおりを挟む
「身体はもう大丈夫なのか?」
「うん、久々にゆっくり眠れたから疲れも取れたよ」
「よし、なら早速お前の魔法を見せてくれよ」
「えっ!?」


ベッドから起き上がるとハルナはナイの腕を掴み、無理やり医療室から引っ張り出す。


「ほら、訓練場に行くぞ。ミノタウロスとやらをぶっ倒したお前の魔法を見せてくれよ」
「ちょ、今から!?」
「さっさとしないとお前のうるさい妹分が帰って来るかもしれないだろ?ほら、行くぞ!!」


ハルナはナイと腕を組みながら部屋を後にすると、建物の裏手に存在する訓練場に連れ出す――





――時刻は既に夕方を迎えていたが、訓練場には若手の冒険者が集まって各々が鍛錬に励んでいた。訓練場には様々な訓練器具が存在し、その中からハルナが運んできたのは木造製の人形だった。


「よし、こいつならお前の魔法の力を試すのには十分だろ」
「な、何それ?」
「木造人形だよ。うちのギルドの魔術師が魔法の練習する時によく使う奴だ」


ハルナが用意したのは魔術師が魔法の訓練を行う際に利用する人形であり、試しにナイは触ってみるとまるで岩のように硬い事に気が付く。ハルナによると「硬樹」と呼ばれる岩石のように硬い樹木から作り出された人形らしい。


「うわ、凄く硬いな……それでこれをどうすればいいの?」
「離れた場所に置いて魔法を当てるだけでいいんだよ」
「そっか……なら、あそこまで運んでくれる?」
「分かった」


木造人形をハルナが少し離れた場所に運び込むと、訓練場にいた他の冒険者が彼女に気が付いて視線を向ける。


「あれ?もしかしてハルナさんじゃないか?」
「あ、本当だ!!珍しいな……ハルナさんがここに来るなんて」
「最近は顔を見せなかったのに」


黒虎の中でもハルナは有名らしく、訓練場で鍛錬に励んでいた冒険者達は彼女に視線を向ける。そんな彼等の視線に気づかずにハルナは木造人形を設置すると、ナイに手を振った。


「ここら辺でいいか~?」
「うん、ありがとう。危ないから離れててよ」
「おう」


ナイの言葉に従ってハルナは木造人形から離れると、他の冒険者は二人のやり取りを見て不思議に思う。


「……なんだあいつ?冒険者か?」
「見たことのない顔だな。新入りか?」
「あれ?あの子、昼間にギルドマスターに連れ込まれた子じゃない?」


冒険者達はナイの存在に気づいて騒ぎ始め、そんな彼等の反応にナイは緊張してしまう。人に注目されるのには慣れておらず、上手く魔法が使えるのか不安に思う。


(大丈夫だ、落ち着け……いつも通りに魔法を使えばいいんだ)


木造人形に狙いを定めてナイは右手を伸ばすと、その様子を見ていた冒険者達は彼が魔術師だと気が付いて驚く。黒虎に所属する冒険者の中でも魔術師は片手で数えるほどしかおらず、しかも全員が高齢者である。

十代半ばで魔法を扱える人間は滅多におらず、しかも魔術師が扱う杖さえも所持していない。いったいナイがどんな魔法を扱うのかと冒険者達は注目する中、ナイは右手を「拳銃」の形にして指先を構えた。


(これぐらいの距離なら余裕だな)


人形との距離は10メートルは離れているが、山で生活していた頃はもっと遠くに離れた獲物を仕留めた事があり、心を落ち着かせたナイはいつも通りに指先に黒渦を展開し、石弾を発射させた。

木造人形の頭部に石弾が衝突した瞬間、眉間の部分に石弾がめり込んで亀裂が走る。それを見ていたハルナと冒険者達は驚愕の声を上げる。


「おおっ!?すげぇっ!!」
「な、何だ今の!?」
「人形が勝手に壊れたぞ!?」
「違う!!指から何か飛び出して当たったんだ!!」
「嘘だろ!?ぜ、全然見えなかったぞ……」


冒険者の中にはナイの石弾を目で捉えきれず、人形の頭に勝手に亀裂が入ったようにしか見えない者も居た。ハルナは眉間に突き刺さった石弾を摘まむと、驚いた様子でナイに振り返る。


「……こんな小さな石ころを飛ばして壊したのか?」
「う、うん……本当は頭を吹き飛ばすつもりだったんだけど、ちょっと手加減し過ぎたかな」
「手加減って……今のは本気じゃなかったのか?」


ナイの言葉にハルナは驚き、彼女は頭部に亀裂が走った木造人形に振り返る。こちらの人形は魔術師の魔法の的当て用に作り出された特製の人形であり、魔術師以外の冒険者なら簡単に壊せる代物ではない。そんな頑強に作り出した人形を手加減した上で壊したというナイにハルナは口元に笑みを浮かべる。


「だったら今度は本気で撃ってみろよ。こんな人形なんてぶっ壊せるぐらいに強力な一発を」
「え?でも……」
「何だよ、自信がないのか?」
「むっ……分かったよ」


ハルナの挑発めいた言葉にナイは目つきを鋭くさせ、今度は人形を完全に破壊するために掌を構えた。右手に魔力を集中させて先ほどよりも大きめの黒渦を展開すると、人形に目掛けて「岩砲」を放つ。

石弾並の速度で離れた掌ほどの大きさの石の塊が木造人形に衝突した瞬間、強烈な衝撃が走って木造人形は粉々に砕け散る。その光景を見ていた冒険者は愕然となり、ハルナも冷や汗を流す。


「す、凄い……あの頑丈な人形を壊すなんて」
「岩を飛ばしたように見えるけど……という事はもしかしてラオさんと同じ地属性の魔法の使い手か!?」
「まさかラオさんの孫とかじゃないよな!?」
「え、いや……違いますけど」


木造人形を破壊したナイに冒険者達は詰め寄り、いきなり大勢の人間に取り囲まれたナイは焦るが、その一方でハルナは破壊された木造人形の破片を拾い上げる。彼女は粉々に砕かれた破片を見て笑みを浮かべ、ナイに大声で語り掛ける。


「ナイ!!今度は俺の番だ!!」
「えっ……どういう意味?」
「次は俺の実力を見せてやるって言ってるんだよ!!」
「ま、まさか!?」
「ハルナさん、あれをやるつもりか!?」
「そ、それはまずいんじゃ……」


ハルナの言葉を聞いて冒険者達は顔色を変え、彼等の反応にナイは不思議に思う。その間にもハルナは新しい木造人形を用意すると、ナイの元に運び込む。本来は魔術師が魔法の訓練に利用する人形を持って来た彼女にナイは不思議に思うと、ハルナは拳を鳴らしながら人形の前に立つ。


「お前等!!巻き添えを喰らいたくなかったら離れてろ!!」
「ひいいっ!?」
「か、勘弁してくれ!!」
「おい、君も早く離れるんだ!!大変な目に遭うぞ!?」
「え?それってどういう……って、早い!?」


冒険者達はハルナの言葉を聞いた途端に一目散に駆け出し、あっという間に訓練場から逃げ出してしまった。彼等が何を恐れているのか気になったが、ナイはハルナを置いていけずに振り返る。すると彼女は人形の前で意識を集中させるように目を閉じて立っていた。


(ハルナの雰囲気が……変わった?)


目を閉じた途端にハルナの雰囲気が一変し、彼女を見てナイは無意識に離れた場所で右手を構えた。そしてハルナが次に目を開いた瞬間、驚くべき行動に出た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔法大全 最強魔法師は無自覚

yahimoti
ファンタジー
鑑定の儀で魔法の才能がなかったので伯爵家を勘当されてしまう。 ところが停止した時間と老化しない空間に入れるのをいいことに100年単位で無自覚に努力する。 いつのまにか魔法のマスターになっているのだけど魔法以外の事には無関心。 無自覚でコミュ障の主人公をほっとけない婚約者。 見え隠れする神『ジュ』と『使徒』は敵なのか味方なのか?のほほんとしたコメディです。

えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 まだ16歳の奥村留衣は、ずっと一人で育ててくれていた祖父を亡くした。親戚も両親もいないため、一人で遺品整理をしていた時に偶然見つけた腕輪。ふとそれを嵌めてみたら、いきなり違う世界に飛ばされてしまった。  目の前に浮かんでいた、よくあるシステムウィンドウというものに書かれていたものは『勇者の孫』。そう、亡くなった祖父はこの世界の勇者だったのだ。  そして、行方不明だと言われていた両親に会う事に。だが、祖父が以前討伐した魔王の心臓を渡すよう要求されたのでドラゴンを召喚して逃げた!  追われつつも、故郷らしい異世界での楽しい(?)セカンドライフが今始まる!  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...