伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

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修行の旅

第54話 魔術師の弱点

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「それにしても君達、あの街からよく脱出できたね。大変だっただろう?」
「別にそうでもないっすよ。ここにいる兄貴は赤毛熊やミノタウロスを倒せるだけの実力を持ってますから」
「ミ、ミノタウロスだって!?」
「あの魔人族の!?」
「それは本当の話か!?」
「ま、まあ一応は……」


エリナの言葉を聞いて冒険者達は驚愕の表情を浮かべ、赤毛熊もミノタウロスも一流の冒険者でも容易く勝てる相手ではない。そんな危険な魔物をナイが倒したという話に驚くのも無理はないが、馬車の方から怒鳴り声が響く。


「ふんっ、笑わせるでない!!お前等のような小童と小娘にミノタウロスが倒せるはずがないだろう!!この大ぼら吹き共め!!」
「えっ?」
「じ、爺さん!?あんた休んでたんじゃ……」


馬車から出てきたのはクロウと同年代ぐらいと思われる老人だった。こちらの老人はクロウと違って派手なローブを着こんでおり、胸元には銀色のバッジを装着していた。それを見たエリナは驚いた声を上げる。


「兄貴、あの爺さんはどうやら銀級冒険者みたいっす」
「銀級?もしかして鉄級よりも上の階級」
「そうです。上から三番目の階級で……」
「何をこそこそと話しておる!?」


エリナの話を聞いてナイは驚き、馬車から現れた老人はこの場の冒険者の誰よりも高い階級であり、しかも魔術師の杖を手にしていた。クロウが所持している杖よりも豪勢な見た目をしており、先端部には土気色の水晶玉を取り付けていた。


(あの水晶玉……魔石だ)


魔石とは魔力が込められた鉱石を加工して生み出される代物であり、魔術師が魔法を扱う際に利用する道具だった。老人が所持する宝石は色合い的に「地属性」の魔力が込められた魔石だと思われた。

地属性の魔法はクロウも扱えるが滅多に使用する事はなく、重力を操作して土砂を操る魔法だとナイは聞いている。老人はナイ達の前に現れると不機嫌そうに怒鳴りつける。


「お前のような若造に魔人族を倒せるだけの魔法を身に着けるはずがない!!嘘を吐くにしてもマシな嘘を吐け!!」
「いや、別に嘘を吐いたわけじゃ……」
「ちょっとお爺さん!!いきなり人の兄貴を嘘つき呼ばわりなんて失礼じゃないっすか!?」
「む?お前は……」


ナイを庇うようにエリナが前に立つと、彼女を見て老人は目元を細めると、口元をにやけさせながら呟く。


「ほほう、これは中々の上玉だな。どうじゃお主?儂の弟子にならんか?」
「ひっ!?ど、何処を見て言ってるすか!?」
「ちょっとお爺さん……人の連れを変な目で見ないでください」
「誰が爺さんじゃ!!お前の様な孫を持った覚えはないぞ!?」
「爺さん、怒る所はそこなのか!?」


エリナを妙な目つきで見てきた老人にナイは注意すると、子供の彼に言われた事が気に喰わないのか老人は杖を構える。


「小僧、お前の師は誰だ?ミノタウロスを倒せるだけの魔法を教えた魔術師ならばさぞ高名な人物なのだろう?」
「師匠?師匠の名前は……」
「あ、兄貴!!名前はまずいっす!!」


老人の質問にナイが答える前にエリナが間に割り込み、彼女は口元に人差し指を当てて注意する。


「忘れたんですか?クロウ魔術師は人嫌いなんですよ。下手に名前を明かしたら色々と面倒な事になりますよ」
「あ、そうか……すkっかり忘れてた」


クロウは他の人間との接触を極力避けており、ナイが暮らしていた村の人間も村長とダテムネ以外は彼と顔を合わせた事はない。もしもナイがクロウの正体を明かせば彼の素性を調べようとする人間がいるかもしれず、下手に名前を明かすわけにはいかなかった。


「どうした?師匠の名前も言えんのか?怪しい小僧め、本当に魔術師なのか?」
「グルルルッ……!!」
「フゴゴッ!!」


主人を馬鹿にされたと思ったビャクとボアは老人に対して唸り声を上げ、そんな彼等を宥めながらナイは考え込む。クロウの正体を明かすわけにはいかず、だからといって噓つき呼ばわりされるのは気分が悪い。


(俺の実力を見せれば納得してくれるかな?でも、師匠は魔法の力を人前で晒すなと言ってたしな……)


クロウの元で修行を受けていた際に彼から注意された言葉を思い出し、一流の魔術師ならばむやみやたらに人前に魔法を披露する真似はしないという。理由としては自分がどんな魔法を扱うのか他人に知られた場合、もしも自分の命を狙う輩が現れた不利になるという。

魔術師が一番気を付けねばならない事は自分が扱う魔法を他人に知られる事であり、かつてクロウは師事していた魔術師が殺された事を語る。クロウに魔法を教えてくれた魔術師は他国にも名が知れ渡る程の有名な魔術師だった。しかし、その魔術師は火属性の魔法を得意としている事を知られ、水属性を扱う魔術師の集団の襲撃を受けて殺された。

どんなに優れた魔術師だろうと魔法の詳細を知られれば弱点を見抜かれて殺される恐れがあり、だからこそクロウは弟子であるナイに滅多な事では魔法を人前で扱わない様に注意した。


(俺が魔法を覚えたのは師匠のような立派な魔術師になるためだ。人前にひけらかすような真似をしたら師匠に怒られるな……)


自分の力を誇示するために魔法の力を見せるのは駄目だと思ったナイは老人に言い返さず、そんな彼に老人はつまらなそうに鼻を鳴らす。


「ふんっ!!図星を突かれて黙り込んだか?情けない小僧じゃな!!」
「こ、この糞爺!!言わせておけば!!」
「ちょっ!?落ち着けエリナ!!」
「爺さんもそこまでにしろよ!!」


ナイを小馬鹿にする老人にエリナは詰め寄ろうとするが、それをナイが羽交い締めして抑え込む。その一方で他の冒険者も老人を宥めようとするが、そんな彼等に老人は杖を振るって怒鳴りつけた。


「ええいっ!!お前等も爺さんと呼ぶのは止めんか!!儂の名前はラオだと何度言えば分かる!?」
「わ、分かったよラオ爺さん……あいてっ!?」
「ラオさんと呼べ!!この阿呆共め!!」


老人の名前はラオというらしく、他の冒険者を追い払うと改めてナイと向き合う。まだ自分に用があるのかとナイは身構えるが、そんな彼に意外な事に笑みを浮かべる。


「……ふざけた小僧だと思ったが、見込みはあるようだな」
「え?」
を従えている時点でただの小僧ではない事は見抜いておるわ」
「ウォンッ?」


ラオは一目見た時からビャクの正体に気が付いており、魔獣種の中でも希少な白狼種を従えているナイに最初から只者ではないと気付いていた。それでも彼を小馬鹿にした態度を取ったのはナイの魔術師としての素質を見抜くためだと明かす。

あれほど馬鹿にされてもナイはラオに対して突っかかる事もなく、自分の魔法を見せつける真似をしなかった。魔術師として長年生きてきたラオだからこそナイが一人前の魔術師になるために必要な「用心深さ」を身に着けている事に感心する。


「小僧、名前は?」
「あ、えっと……ナイです」
「ナイ、気に入ったぞ。もう少しだけ話をせんか?」
「な、何すかこの爺さん……さっきまであんなに怒ってたくせに」
「うちのじ……いや、ラオさんがすまないな。あの人、変わり者だから」


態度を一変させて今度は馴れ馴れしくナイに語り掛けてくれるラオにエリナと周りの冒険者は戸惑うが、そんな時にビャクとボアが鼻を鳴らす。
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