伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

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修行の旅

第51話 街からの脱出

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――ナイはエリナを背負った状態で黒輪を利用して街道を駆け抜ける。道中に何度か魔物と遭遇するが、エリナが弓で仕留める。


「うりゃりゃりゃっ!!」
「グギィッ!?」
「ギィアッ!?」
「ギギィッ!?」


高速移動中のナイの背中の上でもエリナは矢を一発も外さずに敵を始末していく。彼女の見事な弓の腕前にナイは感心してしまう。


「凄いな!!この調子なら街にいる魔物は全部倒せるんじゃないの?」
「えへへ、これぐらいはわけないっす……でも、流石に矢が尽きそうですね」


エリナの矢筒に残された矢は数本しか残っておらず、全ての矢を失えばエリナは戦う術を失う。そうなる前に街を脱出する必要があるが、黒輪で移動を行うナイに追いつく魔物が現れた。


「フゴォオオッ!!」
「ウォンッ!?」
「この声は……まさか!?」
「兄貴、ボアが来てます!!しかも背中に何か乗ってます!?」


猪を思わせる鳴き声が後方から響くと、ナイは後ろを振り返って驚く。街道を凄まじい勢いで駆け抜けるのはボアの姿を視界に捉え、しかも背中には弓矢を手にしたホブゴブリンまで乗せていた。

どうやらホブゴブリンがボアを従えているらしく、黒輪を発動させたナイでさえも振り切れない速度で徐々に迫る。ホブゴブリンはボアに乗り込んだ状態で弓を構え、それを見たエリナはナイに声をかける。


「兄貴!!左に避けて!!」
「こっちか!?」
「グギィイッ!!」


エリナの指示通りにナイは左側に移動すると、直後にホブゴブリンが撃ち込んだ矢が彼の頭の横を通り過ぎる。もしもエリナの指示が無ければ死んでいたかもしれず、冷や汗を流しながらもボアに乗り込んだホブゴブリンに振り返る。


「ギッギッギッ!!」
「くそ、あの野郎……笑ってやがる」
「兄貴、あいつはあたしが仕留めます!!ボアの方は兄貴が何とかしてください!!」
「よし、分かった!!ビャク、援護は頼むぞ!!」
「ウォンッ!!」


ボアに追いつかれる前にナイは移動を行い、まずは背中に抱えているエリナを離す。彼女はナイの背中を足場に利用して跳躍を行うと、ボアの背に乗ったホブゴブリンに対して矢を放つ。


「てやぁっ!!」
「アガァッ!?」
「フゴォッ!?」


口元から矢を射抜かれたホブゴブリンは絶命し、ボアの背中から転げ落ちた。慌ててボアは止まろうとしたが、その隙を逃さずにナイは方向転換を行い、右手を構えて大きめの黒渦を作り出す。


「岩砲!!」
「プギャッ!?」


岩の塊を高速射出させてボアの眉間に叩き込むと、強烈な衝撃を受けたボアは白目を剥いて地面に転がり込む。この時にナイも巻き込まれそうになったが、相棒のビャクが飛び込んでナイの服の襟の部分に噛みついて引き寄せる。


「ぐへっ!?」
「フゴォオオッ……!?」


ビャクに引き寄せられたお陰でボアに巻き込まれずに済んだが、首元を圧迫されてナイは呻き声を上げる。その一方で空中に飛んだエリナは華麗に着地を決め、即座に二人の元へ駆け寄る。


「兄貴!!見てましたか、あたしの華麗な弓捌き!!」
「げほげほっ……ごめん、よく見てなかった」
「え~!?」
「クゥ~ンッ」


喉を抑えながらもナイは倒したボアの元に近付き、脳震盪を起こしたのか動かない。ナイが本気なら先ほどの攻撃でボアを仕留める事もできたが、敢えてボアに止めを刺さなかった。


「よし、まだ生きてるな」
「えっ!?まさか兄貴が仕留めそこなったんですか?もしかして調子が悪かったとか……」
「いや、そういうわけじゃないけど……それよりも囲まれてるよ」
「グルルルッ……!!」


ボアとの戦闘でナイ達は足止めを喰らい、その間に街中に潜む魔物が集まるには十分な時間だった。路地裏や建物の屋根の上から新手が出現した。


「「「ギィイイッ!!」」」
「「「グギィッ!!」」」
「うひゃっ!?思ったよりも大勢来ましたよ!!」
「流石にこれだけの数を相手にするのは……無理か」
「クゥンッ……」


無数のゴブリンとホブゴブリンの大群がナイ達を取り囲み、流石のナイでも全ての魔物を相手にするのは無理があった。エリナに至っては矢が数本しか残されておらず、ビャクもここまでの戦闘で疲労が蓄積されている。ナイも黒輪や石弾や岩砲を使用した影響で精神力も削られていた。

ナイ達の選択肢は逃走一択だが、逃げるにしても完全に取り囲まれているので下手に動けない。仮に黒輪を利用して逃げるにしても街道を封鎖する敵を蹴散らせなければ先に進めない。


(ここから抜け出すにはやっぱりこいつの力が必要だな)


しかし、魔物達が迫っている事を事前に魔力感知で察知していたナイは気絶しているボアに視線を向ける。ナイが先ほどの攻撃でボアに止めを刺さなかったのは理由があり、気絶中のボアに乗り込んでエリナとビャクに声をかける。


「エリナ!!こいつで脱出するぞ!!ビャクはこいつの尻に齧りつけ!!」
「えっ!?わ、分かりました!!」
「ウォンッ!!」


唐突なナイの行動にエリナは呆気に取られるが、信頼する彼の言葉を信じて後ろに乗り込む。ビャクも言われた通りにボアの尻に牙を突き立てると、あまりの痛みにボアは目を見開き意識を取り戻す。


「フゴォオオッ!?」
「うわっ!?」
「わああっ!?」
「「「ギギィイイッ!?」」」


目を覚ましたボアは激痛のあまりに凄まじい勢いで駆け出し、通路を塞いでいたゴブリンとホブゴブリンの大群を蹴散らしながら街道を駆け抜ける。振り落とされない様にナイとエリナはボアの背中にしがみつき、尻に噛みついたビャクも決して口元の力を緩めない。

魔物の大群はボアの後を慌てて追いかけようとしたが、ナイの黒輪よりも早く動けるボアに追いつけるはずがなく、あっという間に城門を通過して街を抜け出す。


「よし、ここまで離れれば大丈夫だろ……おい、もういいぞ」
「フゴォオオッ!?」
「あれ、兄貴……こいつだんだんと早くなってません!?」


草原まで逃げのびるとナイはボアを止めようとしたが、言う事を聞かずに走り続ける。背中に乗っているエリナは焦り出し、ボアの尻に嚙り付いているビャクも苦しそうな表情を浮かべる。


「アガァッ……!?」
「ちょ、兄貴!!ビャク君がもう限界っす!!早く助けないと……」
「駄目だ!!この移動速度で振りほどかれた大変な事になる!!おい、止まれって!?」
「フゴゴッ!!」


ボアの加速は止まらず、背中に乗っているナイとエリナもしがみつくので精いっぱいだった。こんな状態で下手に飛び下りれば大怪我を負うのは間違いなく、どうにかナイはボアを停止させようとするが、エリナは前方を見て悲鳴を上げる。


「ひいいっ!?兄貴、まずいっす!!前を見て!!」
「前って……うわぁっ!?」
「フゴォオオッ!!」


エリナの言葉にナイは前方に顔を向けると、大きな湖が広がっていた。このままでは湖に突っ込んでしまい、そうなる前に脱出しなければならない。ナイはエリナとビャクの身体を掴むと、一か八かボアの背中から飛び降りる。


「しっかり掴まってろ!!」
「ひいいっ!?」
「キャインッ!?」


エリナとビャクを両手に抱えた状態でナイは地面に着地する寸前、両足に黒輪を展開して「逆回転」を加える。その間にボアは湖に向かって飛び込み、派手な水飛沫を上げて水中に沈む。



――プギャアアアッ!?



湖からボアの悲鳴が響き渡り、その一方でナイはエリナとビャクを抱えた状態で黒渦を逆回転させて勢いを殺し、湖に落ちる寸前で停止する。


「はあっ……やばかった」
「あ、あの兄貴……助けてくれたのは有難いんですけど、あたしの胸に手が……」
「えっ!?」


ナイはエリナを抱き寄せる際に彼女の胸を掴んでいたらしく、慌てて手を離そうとした。だが、バランスを崩して三人とも湖に落ちてしまう。


「うわぁっ!?」
「はわっ!?」
「キャインッ!?」


結局は湖に落ちて三人ともずぶ濡れになってしまった――
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