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修行の旅
第46話 ライコフ
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――しばらく経った後、青年は目を覚ますと自分が吊るされている事に気が付いて激しく動揺する。
「なっ!?い、いったいこれは……どうして僕がこんな無様な格好を!?」
「あ、やっと起きたみたいっす」
「ふああっ……結局、徹夜しちゃったよ」
「クォオッ……」
青年が吊るされた木の上にはナイ達の姿があり、それを見て青年は自分を吊るしたのがナイ達の仕業であると知って怒りと恥辱のあまりに顔色を真っ赤に染めた。
「おのれ人間!!これは貴様の仕業か!?」
「あんまり暴れ無い方がいいよ。ここから落ちたら魔樹の餌食になるから」
「うぐっ!?」
ナイ達が青年を吊るした場所は最初に魔樹に襲われた場所の近くであり、不用意に地上に降りたら魔樹が支配する植物に拘束されてしまう。縄で縛られた青年はどうする事もできず、この状態で下手に魔法を使えば縄が切れて落ちてしまう。つまり彼を助けられるのは木の上にいるナイ達だけである。
「ちゃんと反省して俺達の命を狙った事を謝るなら助けてあげるよ」
「ふざけるな!!下等種族に誰が頭など下げるか!!」
「エリナ、エルフはこういう奴ばっかりなの?」
「いやいや、そんな事はないですよ。今の時代に他種族を見下すエルフなんて滅多にいませんから」
自分の命が危ういにも関わらず青年は態度を改める事はなく、人間であるナイに対して強い敵意を抱いていた。そんな彼にナイはため息を吐きながら立ち去るふりを行う。
「謝罪する気がないなら俺達はもう行かせてもらうよ。ここへ戻るつもりはないから、他の人に助けてもらいなよ」
「ま、待て!!このまま僕を置いていく気か!?おい、女!!同族を見捨てるつもりか!?」
「それはいくらなんでも図々しいんじゃないっすか?兄貴だけじゃなくてあたしにも魔法を使いましたよね?いくら同族だからって命を狙って来た相手を助けるほどお人好しじゃないっすよ」
「うぐぅっ!?」
エリナは青年に命を狙われたことを根に持っており、自分が兄貴と慕うナイの命を狙った時点で彼は敵と判断していた。ナイ達は離れようとすると、青年は焦った様子で声をかける。
「ま、待て!!分かった、取引をしよう!!僕を引き上げてくれたらお前達は見逃してやる!!それでどうだ!?」
「はあっ?」
「それって本気で言ってるんですか?」
この期に及んで自分の立場も弁えない取引を持ち掛けた青年にナイ達は呆れるが、青年は吊るされた状態で喚き散らす。
「早く僕を下ろせ!!さっさと降ろさないと後悔する事になるぞ!?」
「兄貴、どうしますか?何だか子供を相手にしている気分になってきました」
「どうすると言われても……」
「クゥンッ……」
青年をどうするべきかナイ達は困っていると、今更ながらに彼の名前も知らない事を思い出す。
「そういえばあんたの名前は?」
「ふんっ!!人間なんぞに名乗る名前はない!!」
「あたしはエルフですけど?」
「ぐっ……裏切り者に明かす名などない!!」
「そうですか……じゃあ、あたし達はこれで失礼しますね」
「そうだね、名前も明かせない薄情者なんて助ける必要もないか」
「ウォンッ!!」
「ま、待て!?止まれ、本当に置いてく気か!?」
名前も素直に明かそうとしない青年にこれ以上に付き合っていられず、ナイ達は木の上から飛び降りようとした時、観念したのか青年は自分の名前を明かす。
「ライコフだ!!僕の名前はライコフだ!!」
「ライコフ……聞いたことある?」
「知らないっす。エルフの間ではわりとありきたりな名前ですね」
「お、お前等……そっちこそ名を名乗れ!!」
「あれ?そういえば名乗ってなかったっけ?俺はナイだよ」
「あたしはエリナです」
「ウォンッ!!」
お互いに名乗りを終えると再び話は最初に戻り、ナイ達はライコフに謝罪を求める。彼が素直に反省して謝れば許してやるつもりだが、下等種族と見下している人間にライコフは断固として謝罪するつもりはないらしい。
状況的にはライコフの命を握るナイ達が圧倒的に有利なのだが、彼は意地でも謝罪するつもりはなかった。そんな彼に痺れを切らしたエリナは怒鳴りつける。
「だあっ!!もういい加減にしてほしいっす!!兄貴は急いでんるんだからこんな所で道草食ってる場合じゃないんですよ!!」
「それならさっさと僕を下ろせ!!いや、ここで下ろすなよ?安全な場所まで引き返してから僕の縄を解け!!」
「わがままもいい加減にするっす!!ちゃんと謝らないならあたし達は行きますからね!!」
「……エリナ、もういい。こいつは一度死ぬ思いをしないと反省しないみたいだ」
「「えっ?」」
会話の途中でナイはライコフを吊るす縄に指先を向けると、石弾を撃ち込んで縄を切り落とす。いきなり縄が切れたせいでライコフは地上に叩きつけられる。
「ぎゃあっ!?」
「あ、兄貴!?いったいなにを!?」
「いいから見てなよ」
「ウォンッ!?」
地面に落ちたライコフは幸いにも大した怪我は負わなかったが、彼が地面に降りた途端に雑草が反応を示し、急速的に成長して彼の身体に纏わりつく。ライコフは慌てて起き上がろうとしたが、縄で縛られているせいで上手く動けない。
「は、離せっ!?止めろ、僕は餌じゃないぞ!!お、おい!!お前等も見てないで助けろ!?」
「兄貴、このままじゃ……」
「大丈夫、いざという時は何とかするから」
「クゥンッ……」
植物に拘束されようとするライコフを見てエリナは心配そうな表情を浮かべるが、それに対してナイは冷静に様子を伺う。ライコフの全身に植物が覆いはじめ、このままでは魔樹の本体の元まで送り届けられるのは時間の問題だった。
「うわぁああっ!?た、助けてくれ!!頼む、僕が悪かった!!もうお前等の命は狙わない!!陽光神様に誓う!!」
「兄貴!!今の聞きました!?」
「よし、助けよう」
陽光神とはエルフが信仰する「太陽の神」であり、その名を口にして誓った以上はライコフはナイ達の命を狙う真似はできない。彼が完全に植物に取り込まれる前にナイは地上に降り立つと、黒足に黒渦を展開した。
「エリナ!!ビャク!!こいつを引きずり出すまで守って!!」
「了解っす!!」
「ウォンッ!!」
雑草に捕らわれたライコフをナイが救い出そうとすると、樹木に纏わりついていた蔓が動き出し、二人を捉えようと迫る。それを見たエリナは弓を構えて蔓を矢で撃ち抜く。ビャクも疾風の如き速度で地上を駆け下りると、刃物のように鋭い牙で爪を切り裂く。
「ていていていっ!!」
「ガアアッ!!」
「よし、引きずり出すぞ!!」
「ぶはぁっ!?」
迫りくる無数の蔓をエリナとビャクが引き留めている間、ナイは黒渦を両足に展開させた状態でライコフを引き上げ、黒渦を超回転させてその場から離脱を行う。ライコフを抱えたまま地上を駆け抜けると、エリナとビャクも避難を行う。
「兄貴!!蔓を撒いたらさっきの泉で合流しましょう!!」
「分かった!!ビャクも気を付けろよ!!」
「ウォンッ!!」
三手に分かれたナイ達は魔樹の追跡を撒いてから合流地点に向かう約束を行う。だが、ナイの場合はライコフを抱えた状態で移動しなければならず、しかも木々が密集した場所では黒渦での移動も困難であり、仕方なく肉体強化を発動して裸足で駆け抜ける。
(くそっ、靴を履く暇もないな!!)
人一人を抱えたまま裸足で駆け抜けるのは肉体強化を発動していても負担が大きく、魔樹の操る蔓もエリナとビャクの追跡を中断し、一番動きが遅いナイ達に狙いを定めた。
「なっ!?い、いったいこれは……どうして僕がこんな無様な格好を!?」
「あ、やっと起きたみたいっす」
「ふああっ……結局、徹夜しちゃったよ」
「クォオッ……」
青年が吊るされた木の上にはナイ達の姿があり、それを見て青年は自分を吊るしたのがナイ達の仕業であると知って怒りと恥辱のあまりに顔色を真っ赤に染めた。
「おのれ人間!!これは貴様の仕業か!?」
「あんまり暴れ無い方がいいよ。ここから落ちたら魔樹の餌食になるから」
「うぐっ!?」
ナイ達が青年を吊るした場所は最初に魔樹に襲われた場所の近くであり、不用意に地上に降りたら魔樹が支配する植物に拘束されてしまう。縄で縛られた青年はどうする事もできず、この状態で下手に魔法を使えば縄が切れて落ちてしまう。つまり彼を助けられるのは木の上にいるナイ達だけである。
「ちゃんと反省して俺達の命を狙った事を謝るなら助けてあげるよ」
「ふざけるな!!下等種族に誰が頭など下げるか!!」
「エリナ、エルフはこういう奴ばっかりなの?」
「いやいや、そんな事はないですよ。今の時代に他種族を見下すエルフなんて滅多にいませんから」
自分の命が危ういにも関わらず青年は態度を改める事はなく、人間であるナイに対して強い敵意を抱いていた。そんな彼にナイはため息を吐きながら立ち去るふりを行う。
「謝罪する気がないなら俺達はもう行かせてもらうよ。ここへ戻るつもりはないから、他の人に助けてもらいなよ」
「ま、待て!!このまま僕を置いていく気か!?おい、女!!同族を見捨てるつもりか!?」
「それはいくらなんでも図々しいんじゃないっすか?兄貴だけじゃなくてあたしにも魔法を使いましたよね?いくら同族だからって命を狙って来た相手を助けるほどお人好しじゃないっすよ」
「うぐぅっ!?」
エリナは青年に命を狙われたことを根に持っており、自分が兄貴と慕うナイの命を狙った時点で彼は敵と判断していた。ナイ達は離れようとすると、青年は焦った様子で声をかける。
「ま、待て!!分かった、取引をしよう!!僕を引き上げてくれたらお前達は見逃してやる!!それでどうだ!?」
「はあっ?」
「それって本気で言ってるんですか?」
この期に及んで自分の立場も弁えない取引を持ち掛けた青年にナイ達は呆れるが、青年は吊るされた状態で喚き散らす。
「早く僕を下ろせ!!さっさと降ろさないと後悔する事になるぞ!?」
「兄貴、どうしますか?何だか子供を相手にしている気分になってきました」
「どうすると言われても……」
「クゥンッ……」
青年をどうするべきかナイ達は困っていると、今更ながらに彼の名前も知らない事を思い出す。
「そういえばあんたの名前は?」
「ふんっ!!人間なんぞに名乗る名前はない!!」
「あたしはエルフですけど?」
「ぐっ……裏切り者に明かす名などない!!」
「そうですか……じゃあ、あたし達はこれで失礼しますね」
「そうだね、名前も明かせない薄情者なんて助ける必要もないか」
「ウォンッ!!」
「ま、待て!?止まれ、本当に置いてく気か!?」
名前も素直に明かそうとしない青年にこれ以上に付き合っていられず、ナイ達は木の上から飛び降りようとした時、観念したのか青年は自分の名前を明かす。
「ライコフだ!!僕の名前はライコフだ!!」
「ライコフ……聞いたことある?」
「知らないっす。エルフの間ではわりとありきたりな名前ですね」
「お、お前等……そっちこそ名を名乗れ!!」
「あれ?そういえば名乗ってなかったっけ?俺はナイだよ」
「あたしはエリナです」
「ウォンッ!!」
お互いに名乗りを終えると再び話は最初に戻り、ナイ達はライコフに謝罪を求める。彼が素直に反省して謝れば許してやるつもりだが、下等種族と見下している人間にライコフは断固として謝罪するつもりはないらしい。
状況的にはライコフの命を握るナイ達が圧倒的に有利なのだが、彼は意地でも謝罪するつもりはなかった。そんな彼に痺れを切らしたエリナは怒鳴りつける。
「だあっ!!もういい加減にしてほしいっす!!兄貴は急いでんるんだからこんな所で道草食ってる場合じゃないんですよ!!」
「それならさっさと僕を下ろせ!!いや、ここで下ろすなよ?安全な場所まで引き返してから僕の縄を解け!!」
「わがままもいい加減にするっす!!ちゃんと謝らないならあたし達は行きますからね!!」
「……エリナ、もういい。こいつは一度死ぬ思いをしないと反省しないみたいだ」
「「えっ?」」
会話の途中でナイはライコフを吊るす縄に指先を向けると、石弾を撃ち込んで縄を切り落とす。いきなり縄が切れたせいでライコフは地上に叩きつけられる。
「ぎゃあっ!?」
「あ、兄貴!?いったいなにを!?」
「いいから見てなよ」
「ウォンッ!?」
地面に落ちたライコフは幸いにも大した怪我は負わなかったが、彼が地面に降りた途端に雑草が反応を示し、急速的に成長して彼の身体に纏わりつく。ライコフは慌てて起き上がろうとしたが、縄で縛られているせいで上手く動けない。
「は、離せっ!?止めろ、僕は餌じゃないぞ!!お、おい!!お前等も見てないで助けろ!?」
「兄貴、このままじゃ……」
「大丈夫、いざという時は何とかするから」
「クゥンッ……」
植物に拘束されようとするライコフを見てエリナは心配そうな表情を浮かべるが、それに対してナイは冷静に様子を伺う。ライコフの全身に植物が覆いはじめ、このままでは魔樹の本体の元まで送り届けられるのは時間の問題だった。
「うわぁああっ!?た、助けてくれ!!頼む、僕が悪かった!!もうお前等の命は狙わない!!陽光神様に誓う!!」
「兄貴!!今の聞きました!?」
「よし、助けよう」
陽光神とはエルフが信仰する「太陽の神」であり、その名を口にして誓った以上はライコフはナイ達の命を狙う真似はできない。彼が完全に植物に取り込まれる前にナイは地上に降り立つと、黒足に黒渦を展開した。
「エリナ!!ビャク!!こいつを引きずり出すまで守って!!」
「了解っす!!」
「ウォンッ!!」
雑草に捕らわれたライコフをナイが救い出そうとすると、樹木に纏わりついていた蔓が動き出し、二人を捉えようと迫る。それを見たエリナは弓を構えて蔓を矢で撃ち抜く。ビャクも疾風の如き速度で地上を駆け下りると、刃物のように鋭い牙で爪を切り裂く。
「ていていていっ!!」
「ガアアッ!!」
「よし、引きずり出すぞ!!」
「ぶはぁっ!?」
迫りくる無数の蔓をエリナとビャクが引き留めている間、ナイは黒渦を両足に展開させた状態でライコフを引き上げ、黒渦を超回転させてその場から離脱を行う。ライコフを抱えたまま地上を駆け抜けると、エリナとビャクも避難を行う。
「兄貴!!蔓を撒いたらさっきの泉で合流しましょう!!」
「分かった!!ビャクも気を付けろよ!!」
「ウォンッ!!」
三手に分かれたナイ達は魔樹の追跡を撒いてから合流地点に向かう約束を行う。だが、ナイの場合はライコフを抱えた状態で移動しなければならず、しかも木々が密集した場所では黒渦での移動も困難であり、仕方なく肉体強化を発動して裸足で駆け抜ける。
(くそっ、靴を履く暇もないな!!)
人一人を抱えたまま裸足で駆け抜けるのは肉体強化を発動していても負担が大きく、魔樹の操る蔓もエリナとビャクの追跡を中断し、一番動きが遅いナイ達に狙いを定めた。
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