伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

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エルフの師弟

第33話 エリナの魔法

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「――兄貴、本当にいいんですか?怪我するかもしれないんですよ?」
「大丈夫、いざという時は師匠に治してもらうから」
「クゥ~ンッ……」


大量の小石の山を抱えたエリナは不安そうな表情を浮かべ、そんな彼女に対してナイは右手を握りしめながら構える。少し離れた場所でビャクが心配そうに見つめるが、実験のためにエリナに石を投げさせる。


「じゃ、じゃあ行きますよ!!そいやっ!!」
「くぅっ!?」
「ウォンッ!?」


エリナは両手に抱えていた小石の山をナイに目掛けて放り込むと、ナイは右手に事前に蓄積させていた魔力を解放し、甲の部分に「黒渦」を作り出して超回転させる。


「やああっ!!」
「わあっ!?」
「ウォンッ!?」


渦の部分に触れた小石は次々と吹き飛ばされ、慌ててエリナとビャクは巻き込まれない様に距離を取る。全ての石が地面に落ちると、ナイは黒渦を解除する。


「あ、兄貴!!何したんですか今の!?」
「クゥンッ?」
「ふうっ……一応、成功かな」


右手に展開した黒渦を盾代わりに利用し、投げつけられた石を弾き飛ばす事に成功したと思ったナイは頷く。だが、不意に額に違和感を覚えて手を伸ばすと、どうやら全ての石を弾くのは失敗していたらしく、頭から血が流れていた。


「いててっ!?し、失敗だったか……」
「ちょ、怪我してるじゃないですか!?だから止めといたほうがいいと言ったのに……」
「ウォンッ……」


怪我した箇所を抑えながらナイは地面に散らばった小石に視線を向け、流石に量が多すぎたのか完全に防ぎ切る事はできなかった。黒渦で防げるのはあくまでも渦の範囲内の攻撃だけであり、範囲外から攻撃されたら身を守れない。

今回は頭に軽い怪我をした程度で済んだが、もしも魔物の攻撃だとしたらナイは確実に死んでいた。この黒渦を利用した防御法はまだまだ改善の余地がある事を思い知る。


(黒渦をもっと大きくすれば身を守れるかもしれないけど、規模が大きいほど魔力が奪われるのが問題だな……)


黒渦の規模が大きいほどに魔力消費量も増し、しかも瞬時に発動させるためには事前に右手に魔力を蓄積させなければならない。今回はエリナが投げつける前に魔力を溜めていたから何とかなったが、急に魔物に襲われた時に瞬時に自分の身を守れる程の黒渦を作り出すのは難しい。


(俺がもっと魔力を上手く操作できるようになればいいんだけど……)


試しに右手の甲に小規模の黒渦を構成した状態でナイは右腕を動かすと、黒渦も彼の動きに応じて移動を行う。常に黒渦を発動していると魔力を消費し続けるが、こちらの状態ならば急な攻撃にも対応できる。


「もっと上手く使いこなせるようにならないとな……」
「あの……兄貴はどうしてそんなに収納魔法に拘るんですか?クロウ魔術師に頼めば他の攻撃魔法も教えてくれると思いますけど」
「それはそうなんだけど……」


エリナはナイが収納魔法の訓練に励む姿に疑問を抱き、普通の魔術師ならば収納魔法を磨くよりも、最初から強力な攻撃魔法を覚えるのが当たり前である。しかし、ナイは収納魔法に強い思い入れがあった。

自分が始めて教わった魔法であり、これまでに何度も窮地を救われた。そんな収納魔法を放っておいて他の魔法を覚えるなどナイにはできなかった。せめて収納魔法を「極めた」と自分で納得できるまでは他の魔法を覚えるつもりはない。


「俺は収納魔法をまだまだ使い切れていないと思うんだ。だから他の魔法に現を抜かす暇はないよ」
「なるほど、兄貴は一途っすね。あたしも風属性の魔法以外は覚えるつもりはありませんから気持ちは分かりますよ」
「ウォンッ!!」


エルフは優れた魔法の使い手が多いが、殆どの者は一属性の魔法しか扱わない。複数の属性を使いこなす自信がなければ、一つの属性に絞って魔法の腕を磨くのは決して悪いことではない。

最も闇属性の使い手の中で「収納魔法」だけを扱う魔術師は稀有であり、ナイのように異空間から物体を弾き飛ばしたり、相手の攻撃を黒渦で受け流すような戦い方を行う魔術師は他に存在するかも怪しい。だが、ナイは他人に何と思われようと収納魔法を極めるまで他の魔法は覚えないと心に誓う。


(もっと早く黒渦を形成できたらいいのに……ん?)


考え事をしている最中にナイはビャクがいない事に気が付き、川に身体を沈めるビャクの姿があった。


「キャインッ!?」
「ビャク!?何やってんだお前!!泳げないくせに!!」
「えっ!?そうなんすか!?」


魚でも捕まえようとしたのかビャクは川に入ってしまい、思ったよりも川の流れが激しくて溺れてしまう。慌ててナイは助けようとしたが、エリナに引き留められる。


「兄貴!!ここはあたしに任せてほしいっす!!」
「任せろって……うわっ!?」


エリナは何故かその場で靴を脱ぐと、彼女の両足に緑色の紋様が浮き上がり、それを見たナイは風属性の魔術痕だと気が付く。次の瞬間にエリナの足元から土煙が舞い上がり、ビャクの元に目掛けて一直線に跳び込む。


(は、早い!?)


大量の土煙を舞い上げながらもエリナは溺れているビャクの元に辿り着き、彼を救い出して反対側の岸にまで連れ出す。水面をまるで地面の上のように駆け抜けた彼女の姿にナイは度肝を抜く。


「ふうっ、危なかった。もう大丈夫っすよ」
「ブルルルッ!!」
「わあっ!?つ、冷たい!?」


助けられたビャクは地面に降り立つと、その場で身体を震わせる。エリナは水浸しになってしまったが、それを見てナイは二人の居る川岸へ向かう。


「エリナ!!今のは……うわっぷっ!?」
「あ、兄貴!?」
「ウォンッ!?」


だが、川を渡ろうとしたナイは思っていたよりも川底が深く、先ほどのビャクのように川を流されかけた――





――何とか川から這い上がったナイは服を乾かすために焚火を行い、異空間に預けていた毛布に身を包みながら焚火に当たる。


「ううっ、寒い……ビャク、あっためてくれ」
「クゥ~ンッ」
「兄貴、もうすぐ肉もいい感じに焼けるんで待ってくださいね」


ナイはビャクを抱き締めて暖を取り、その間にエリナは一角兎の肉を木の枝に差して炎で炙る。食欲をそそられる良い匂いが広がり、ビャクは涎を垂らす。


「ウォンッ!!」
「もうすぐ焼き上がりますから待ってくださいね」
「……エリナ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「何ですか?」


肉を焼いているエリナにナイはどうしても我慢できず、先ほどのビャクを助ける際に利用した彼女の魔法を尋ねる。


「さっき川からビャクを助けた時、物凄い速さで水面を駆け抜けた様に見えたけど……あれは魔法の力?」
「ああ、なるほど……兄貴は私とマリア様が来た時の事を覚えてます?」
「うん、空を飛んでやってきたよね。あれがエルフの転移魔法なの?」


ナイはエリナと初めて会った時、彼女は空を飛ぶマリアに抱えられた状態で山に下りて来た事を思い出す。勝手にナイはクロウが扱う「転移魔法」と同じ系統の魔法だと思っていたが、エリナによれば根本的に異なる魔法らしい。


「転移魔法は自分が思い描いた場所に転移する聖属性の魔法ですよね?マリア様が使ったのは「レビテーション」という風属性の魔法っす」
「レビテーション?」
「簡単に言うと風の魔力を身体に纏わせて自由に空を飛ぶ事ができるんです。マリア様ほどの魔術師の使い手だと自由に空を飛べるだけじゃなく、人ひとり抱えて移動する事も造作ないっす」
「へえ、そんな魔法があるんだ」
「ハフハフッ……(←食事に夢中)」


レビテーションの魔法はエルフの中でも一流の魔術師しか扱えず、マリアのように他の人間を抱えた状態で空を飛べる者は滅多にいない。普通の魔術師ならば自分の身体を浮かせるのも苦労するらしく、マリアの弟子であるエリナも彼女のように自由に空を移動する事はできない。


「あたしも同じ魔法は覚えているんですけど、マリア様みたいに上手く飛べたりはしません。でも、水面を移動するぐらいなら問題ないっす」
「そ、そうなんだ……」


エリナは素足を晒すと魔術痕を浮き上がらせ、それを見たナイは驚いた。先ほど見た時から気づいていたが、彼女は両足に風属性の魔術痕を刻んでいた。
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