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魔法の契約
第24話 弱点
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(馬鹿でかい猪……いや、違う!?)
ナイが目撃したのは身長が2メートル近くあるゴブリンが肩に担いだ猪の死骸であり、自分よりも背丈が大きいゴブリンを初めて見たナイは驚く。
普通のゴブリンの身長は一メートル程度であり、体型も痩せ細っている。しかし、森の中から現れたゴブリンは筋骨隆々とした肉体に猪を軽々と持ち上げる怪力を誇っていた。
「グギィイイッ……!!」
「なんだこいつ……まさか!?」
「ウォオンッ!!」
森から現れた大柄なゴブリンはナイが倒したゴブリンに視線を向け、猪の死骸を地面に落とすと、怒りに満ちた表情で咆哮を放つ。
「グギィイイイッ!!」
「そうか……親子だったのか」
「グルルルッ!!」
どうやらナイが倒したゴブリンは仲間とはぐれていたのではなく、大柄なゴブリンの子供だった事が発覚する。森から現れたゴブリンは怒り狂った様子でナイに飛び掛かる。
(早い!?)
自分に向かって飛び込んできたゴブリンの素早さにナイは驚き、肉体強化を発動させて逃げる暇もなかった。
「ウォンッ!!」
「うわっ!?」
「グギィッ!?」
ナイがゴブリンに捕まる寸前、隣に立っていたビャクが飛びつき、彼の服の裾に噛みつく。ビャクに引き寄せられる形でナイはゴブリンの突進を回避できたが、勢いが強すぎて川原に転がり込む。
「キャインッ!?」
「あいてっ!?」
二人とも着地に失敗して地面に転がり込み、その一方でゴブリンは川原にある岩を掴むと、雄叫びを上げながら持ち上げる。
「グギィイイッ!!」
「嘘ぉっ!?」
「ウォンッ!?」
ゴブリンは魔物の中でも非力な存在であるはずだが、ナイ達の前に現れたゴブリンは身の丈はある岩を簡単に持ち上げた。その怪力にナイとビャクは信じられず、彼等の前に現れたのは非力のゴブリンではない事を思い知る。
これまでにナイが遭遇したゴブリンは「通常種」と呼ばれる存在であり、小さい頃に満足な栄養を得られずに成長しきったゴブリンである。もしもゴブリンが十分な栄養を得て成長した場合、体型は二倍近くにまで伸びて強靭な筋力を得る。成長を十分に果たした存在は「上位種」という。
上位種となったゴブリンの別名は「ホブゴブリン」と呼ばれ、通常種とは比べ物にならない筋力と知能を得る。そんなホブゴブリンの子供を殺してしまったナイは全力で命を狙われてしまう。
「グギィイイッ!!」
「ギャク、避けろ!!」
「ウォンッ!!」
ホブゴブリンが岩を投げつける寸前、ナイとビャクは左右に回避する。岩は地面に叩きつけられると周囲の樹木に留まっていた鳥達が一斉に逃げ出す。
(やばい!!こいつ赤毛熊よりも動きが早いぞ!?)
魔力自体は赤毛熊が上回るが、ホブゴブリンの方が人間に近い体型をしており、身動きも素早い。力任せに襲い掛かる赤毛熊よりも厄介な相手であり、ナイは即座に右手を向けて仕留めようとする。
(石弾で倒してやる!!)
先ほど完成させたばかりの技でナイはホブゴブリンを倒そうと思い、右手を「拳銃」の形に変えて構えた。
「喰らえっ!!」
「グギィッ!?」
石弾を放つためにナイが指先に黒渦を形成した瞬間、野生の本能で危機を察知したのかホブゴブリンは後ろに下がる。黒渦から凄まじい速度で石礫が放たれると、ホブゴブリンの頬を掠めて森の中へと消えていく。
「グギャッ!?」
「そ、そんな!?」
「ウォンッ!?」
頭を狙い撃つ寸前にホブゴブリンが動いたせいで石弾は頬を掠っただけに終わってしまう。しかもホブゴブリンは予想外の攻撃を受けて警戒心を高め、慌ててナイから距離を取った。
(この距離で外すなんて……もっと練習する必要があるな)
石弾の威力は十分だがナイ自身がまだ完璧に扱いこなせておらず、今度こそ確実に当てるために右手を構えた。だが、ホブゴブリンは既に次の行動に映っていた。
「グギィイッ!!」
「なっ!?」
「ウォンッ!?」
ホブゴブリンは右足を大きく振りかざすと、地面に目掛けて叩きつけた。その狙いは足元に落ちている小石を蹴り上げ、ナイに目掛けて石礫を放つためだった。
まさか自分が石礫に狙われる羽目になるとは思わず、反射的にナイは身を守ろうとした。だが、石礫がナイの元に届く前にビャクが飛びついて彼を庇う。
「ギャインッ!?」
「ビャク!?」
主人を守るためにビャクは自ら石礫を浴びると、それを見たナイは目を見開く。石礫を浴びたビャクは身体のあちこちから血を流しながら地面に倒れ込む。
「グギィッ!?」
「この……ぶっ殺してやる!!」
大切な相棒を傷つけたホブゴブリンにナイは切れると、右手を伸ばして五つの黒渦を展開する。石弾を撃ちこむには多少の時間が掛かるため、威力は落ちるが石礫を連射してホブゴブリンに撃ちこむ。
「うおおおおっ!!」
「ギャアアッ!?」
五つの黒渦から次々と石礫が発射され、ホブゴブリンは身を守るために両手を交差させて石礫を防ぐが、ナイは攻撃を止めない。
(こいつに反撃の暇を与えるな!!ここで終わらせてやる!!)
石礫を連発しながらナイはビャクを引き寄せると、まだ息がある事を確認する。急いで治療する必要があるが、その前にホブゴブリンを始末しなければならない。
ホブゴブリンは無数の石礫を味わいながらも急所だけは守り、攻撃が止むのを待つ。石礫を撃ち終える前にホブゴブリンを倒し切らなければナイに勝機はなかった。
(こいつ、普通のゴブリンよりも硬い!?やっぱり石弾じゃないと倒せないか!!)
いくら石礫を浴びせてもホブゴブリンは倒れる様子はなく、やはり石弾で急所を撃ち抜かなければ倒せないと思われた。だが、石礫の攻撃を止めた場合、その隙を逃さずにホブゴブリンは反撃を仕掛ける。
(距離はあるからさっきのように飛び掛かって来る事はないと思うけど、さっきのように石を蹴り込んで来たら厄介だな)
先ほどはビャクが庇ってくれたお陰でナイは怪我をせずに済んだが、岩を軽々と持ち上げるホブゴブリンの筋力で蹴りつけられた石礫を浴びれば、仮に肉体強化を発動していたとしても致命傷は避けられない。
(あいつが蹴るのが早いか、それとも俺が撃つのが先か……賭けるしかないのか!?)
今のナイが石弾を撃ちこむためには集中力を高めなければならず、その間にホブゴブリンの反撃を受ける可能性が高い。だが、悠長に考えている暇はなく、もう異空間内の石礫も底を尽きかけていた。
(覚悟を決めるしかないのか……待てよ、石礫?)
ナイはホブゴブリンが蹴りつけた石礫を思い出すと、ある策を思いつく。上手くいくかどうかはホブゴブリンの行動次第だが、一か八か賭けに出た。
「喰らえっ!!」
「ギィアッ!?」
五つの黒渦を一旦解除すると、右手を拳銃の形に変えて再び構えた。石礫の攻撃が止んだ途端、ホブゴブリンはナイの攻撃よりもいち早く反撃するために再び右足を振りかざす。ナイが石弾を撃つよりも早く、ホブゴブリンは地面の小石を蹴り上げてナイに放つ。
「グギィイイッ!!」
「――ここだっ!!」
ホブゴブリンが蹴りを繰り出す瞬間、ナイは事前に「甲の部分」に集めていた魔力を利用して大きめの黒渦を形成する。そして自分の元に向かって来た石礫を異空間に吸収すると、それを見たホブゴブリンは目を見開く。
「グギャッ!?」
「片足じゃ避けられないだろ!?」
石を蹴り上げた際にホブゴブリンは右足が地面から離れてしまい、片足で立っている状態では回避は間に合わない。ホブゴブリンが体勢を整える前にナイは黒渦を解除して右手を構えると、今度こそ胸元に目掛けて「石弾」を撃ちこむ。
指先から発射された石礫は高速回転しながらホブゴブリンの胸に迫り、心臓を撃ち抜いた。ホブゴブリンは胸元から大量の血を流しながら地面に倒れると、自分の子供の死骸に手を伸ばす。
「グギィッ……」
「…………」
死ぬ寸前まで子供の事を大切に思うホブゴブリンの姿にナイは黙り込み、これ以上に苦しませないために倒れているホブゴブリンの元に向かうと、指先を構えて頭部に石弾を撃ちこむ。
「ごめんな……そうだ、ビャクは!?」
「クゥ~ンッ……」
ホブゴブリンの止めを刺すとナイはビャクの元に戻り、怪我の具合を確認した。身体のあちこちに血が滲んでいるが、調べた限りではそれほど大した怪我ではない。ビャクはただの狼ではなく魔物である事を思い出す。
「良かった。これぐらいの傷ならすぐに治るな……流石は白狼種だ」
「ウォンッ!!」
怪我をしたビャクをナイは背負うと、最後にホブゴブリンと子供のゴブリンに視線を向けた。殺されかけはしたが、このまま放置するのは忍びないと思ったナイはビャクに尋ねる。
「ビャク、もう少しだけ我慢できるか?」
「ウォンッ」
主人の気持ちを察したビャクは岩の上に横たわると、ナイはホブゴブリンとゴブリンのために墓を作る事にした。このまま死体を放置すれば山の獣に喰われるだけであり、それならば一緒に地面に埋めて安らかに眠らせる事にした――
ナイが目撃したのは身長が2メートル近くあるゴブリンが肩に担いだ猪の死骸であり、自分よりも背丈が大きいゴブリンを初めて見たナイは驚く。
普通のゴブリンの身長は一メートル程度であり、体型も痩せ細っている。しかし、森の中から現れたゴブリンは筋骨隆々とした肉体に猪を軽々と持ち上げる怪力を誇っていた。
「グギィイイッ……!!」
「なんだこいつ……まさか!?」
「ウォオンッ!!」
森から現れた大柄なゴブリンはナイが倒したゴブリンに視線を向け、猪の死骸を地面に落とすと、怒りに満ちた表情で咆哮を放つ。
「グギィイイイッ!!」
「そうか……親子だったのか」
「グルルルッ!!」
どうやらナイが倒したゴブリンは仲間とはぐれていたのではなく、大柄なゴブリンの子供だった事が発覚する。森から現れたゴブリンは怒り狂った様子でナイに飛び掛かる。
(早い!?)
自分に向かって飛び込んできたゴブリンの素早さにナイは驚き、肉体強化を発動させて逃げる暇もなかった。
「ウォンッ!!」
「うわっ!?」
「グギィッ!?」
ナイがゴブリンに捕まる寸前、隣に立っていたビャクが飛びつき、彼の服の裾に噛みつく。ビャクに引き寄せられる形でナイはゴブリンの突進を回避できたが、勢いが強すぎて川原に転がり込む。
「キャインッ!?」
「あいてっ!?」
二人とも着地に失敗して地面に転がり込み、その一方でゴブリンは川原にある岩を掴むと、雄叫びを上げながら持ち上げる。
「グギィイイッ!!」
「嘘ぉっ!?」
「ウォンッ!?」
ゴブリンは魔物の中でも非力な存在であるはずだが、ナイ達の前に現れたゴブリンは身の丈はある岩を簡単に持ち上げた。その怪力にナイとビャクは信じられず、彼等の前に現れたのは非力のゴブリンではない事を思い知る。
これまでにナイが遭遇したゴブリンは「通常種」と呼ばれる存在であり、小さい頃に満足な栄養を得られずに成長しきったゴブリンである。もしもゴブリンが十分な栄養を得て成長した場合、体型は二倍近くにまで伸びて強靭な筋力を得る。成長を十分に果たした存在は「上位種」という。
上位種となったゴブリンの別名は「ホブゴブリン」と呼ばれ、通常種とは比べ物にならない筋力と知能を得る。そんなホブゴブリンの子供を殺してしまったナイは全力で命を狙われてしまう。
「グギィイイッ!!」
「ギャク、避けろ!!」
「ウォンッ!!」
ホブゴブリンが岩を投げつける寸前、ナイとビャクは左右に回避する。岩は地面に叩きつけられると周囲の樹木に留まっていた鳥達が一斉に逃げ出す。
(やばい!!こいつ赤毛熊よりも動きが早いぞ!?)
魔力自体は赤毛熊が上回るが、ホブゴブリンの方が人間に近い体型をしており、身動きも素早い。力任せに襲い掛かる赤毛熊よりも厄介な相手であり、ナイは即座に右手を向けて仕留めようとする。
(石弾で倒してやる!!)
先ほど完成させたばかりの技でナイはホブゴブリンを倒そうと思い、右手を「拳銃」の形に変えて構えた。
「喰らえっ!!」
「グギィッ!?」
石弾を放つためにナイが指先に黒渦を形成した瞬間、野生の本能で危機を察知したのかホブゴブリンは後ろに下がる。黒渦から凄まじい速度で石礫が放たれると、ホブゴブリンの頬を掠めて森の中へと消えていく。
「グギャッ!?」
「そ、そんな!?」
「ウォンッ!?」
頭を狙い撃つ寸前にホブゴブリンが動いたせいで石弾は頬を掠っただけに終わってしまう。しかもホブゴブリンは予想外の攻撃を受けて警戒心を高め、慌ててナイから距離を取った。
(この距離で外すなんて……もっと練習する必要があるな)
石弾の威力は十分だがナイ自身がまだ完璧に扱いこなせておらず、今度こそ確実に当てるために右手を構えた。だが、ホブゴブリンは既に次の行動に映っていた。
「グギィイッ!!」
「なっ!?」
「ウォンッ!?」
ホブゴブリンは右足を大きく振りかざすと、地面に目掛けて叩きつけた。その狙いは足元に落ちている小石を蹴り上げ、ナイに目掛けて石礫を放つためだった。
まさか自分が石礫に狙われる羽目になるとは思わず、反射的にナイは身を守ろうとした。だが、石礫がナイの元に届く前にビャクが飛びついて彼を庇う。
「ギャインッ!?」
「ビャク!?」
主人を守るためにビャクは自ら石礫を浴びると、それを見たナイは目を見開く。石礫を浴びたビャクは身体のあちこちから血を流しながら地面に倒れ込む。
「グギィッ!?」
「この……ぶっ殺してやる!!」
大切な相棒を傷つけたホブゴブリンにナイは切れると、右手を伸ばして五つの黒渦を展開する。石弾を撃ちこむには多少の時間が掛かるため、威力は落ちるが石礫を連射してホブゴブリンに撃ちこむ。
「うおおおおっ!!」
「ギャアアッ!?」
五つの黒渦から次々と石礫が発射され、ホブゴブリンは身を守るために両手を交差させて石礫を防ぐが、ナイは攻撃を止めない。
(こいつに反撃の暇を与えるな!!ここで終わらせてやる!!)
石礫を連発しながらナイはビャクを引き寄せると、まだ息がある事を確認する。急いで治療する必要があるが、その前にホブゴブリンを始末しなければならない。
ホブゴブリンは無数の石礫を味わいながらも急所だけは守り、攻撃が止むのを待つ。石礫を撃ち終える前にホブゴブリンを倒し切らなければナイに勝機はなかった。
(こいつ、普通のゴブリンよりも硬い!?やっぱり石弾じゃないと倒せないか!!)
いくら石礫を浴びせてもホブゴブリンは倒れる様子はなく、やはり石弾で急所を撃ち抜かなければ倒せないと思われた。だが、石礫の攻撃を止めた場合、その隙を逃さずにホブゴブリンは反撃を仕掛ける。
(距離はあるからさっきのように飛び掛かって来る事はないと思うけど、さっきのように石を蹴り込んで来たら厄介だな)
先ほどはビャクが庇ってくれたお陰でナイは怪我をせずに済んだが、岩を軽々と持ち上げるホブゴブリンの筋力で蹴りつけられた石礫を浴びれば、仮に肉体強化を発動していたとしても致命傷は避けられない。
(あいつが蹴るのが早いか、それとも俺が撃つのが先か……賭けるしかないのか!?)
今のナイが石弾を撃ちこむためには集中力を高めなければならず、その間にホブゴブリンの反撃を受ける可能性が高い。だが、悠長に考えている暇はなく、もう異空間内の石礫も底を尽きかけていた。
(覚悟を決めるしかないのか……待てよ、石礫?)
ナイはホブゴブリンが蹴りつけた石礫を思い出すと、ある策を思いつく。上手くいくかどうかはホブゴブリンの行動次第だが、一か八か賭けに出た。
「喰らえっ!!」
「ギィアッ!?」
五つの黒渦を一旦解除すると、右手を拳銃の形に変えて再び構えた。石礫の攻撃が止んだ途端、ホブゴブリンはナイの攻撃よりもいち早く反撃するために再び右足を振りかざす。ナイが石弾を撃つよりも早く、ホブゴブリンは地面の小石を蹴り上げてナイに放つ。
「グギィイイッ!!」
「――ここだっ!!」
ホブゴブリンが蹴りを繰り出す瞬間、ナイは事前に「甲の部分」に集めていた魔力を利用して大きめの黒渦を形成する。そして自分の元に向かって来た石礫を異空間に吸収すると、それを見たホブゴブリンは目を見開く。
「グギャッ!?」
「片足じゃ避けられないだろ!?」
石を蹴り上げた際にホブゴブリンは右足が地面から離れてしまい、片足で立っている状態では回避は間に合わない。ホブゴブリンが体勢を整える前にナイは黒渦を解除して右手を構えると、今度こそ胸元に目掛けて「石弾」を撃ちこむ。
指先から発射された石礫は高速回転しながらホブゴブリンの胸に迫り、心臓を撃ち抜いた。ホブゴブリンは胸元から大量の血を流しながら地面に倒れると、自分の子供の死骸に手を伸ばす。
「グギィッ……」
「…………」
死ぬ寸前まで子供の事を大切に思うホブゴブリンの姿にナイは黙り込み、これ以上に苦しませないために倒れているホブゴブリンの元に向かうと、指先を構えて頭部に石弾を撃ちこむ。
「ごめんな……そうだ、ビャクは!?」
「クゥ~ンッ……」
ホブゴブリンの止めを刺すとナイはビャクの元に戻り、怪我の具合を確認した。身体のあちこちに血が滲んでいるが、調べた限りではそれほど大した怪我ではない。ビャクはただの狼ではなく魔物である事を思い出す。
「良かった。これぐらいの傷ならすぐに治るな……流石は白狼種だ」
「ウォンッ!!」
怪我をしたビャクをナイは背負うと、最後にホブゴブリンと子供のゴブリンに視線を向けた。殺されかけはしたが、このまま放置するのは忍びないと思ったナイはビャクに尋ねる。
「ビャク、もう少しだけ我慢できるか?」
「ウォンッ」
主人の気持ちを察したビャクは岩の上に横たわると、ナイはホブゴブリンとゴブリンのために墓を作る事にした。このまま死体を放置すれば山の獣に喰われるだけであり、それならば一緒に地面に埋めて安らかに眠らせる事にした――
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