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魔法の契約
第22話 別れと出会い
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「ハル、今なら俺が村長に気付かれずに盗んだ物を返せる。ナイ君を置いてお前は家に帰るんだ」
「……嫌だ!!魔物なんか俺がぶっ飛ばしてやる!!もうナイに酷い目に遭わせるもんか!!」
「馬鹿を言え!!お前だって魔物がどれほど恐ろしいのか知っているだろう!?母さんが殺された時の事を忘れたのか!?」
「えっ!?」
ハルの母親が魔物に殺された事はナイも初めて知り、ダテムネの言葉にハルは顔を真っ赤にして振り返るが、その身体は震えていた。どうやら母親が殺された時の事を思い出したらしく、悔し気な表情を浮かべる。そんな息子の姿にダテムネは辛そうな表情を浮かべた。
「す、すまない。今のは言いすぎた……だが、分かってくれ。子供のお前等が村の外に逃げ出しても生き延びれるはずがない。ナイ君の事は俺が何とかしてみせる。だから、お前は彼をおいて家に帰るんだ」
「い、嫌だ……ナイは俺が守るんだ」
「ハル……」
母親が殺された時の出来事を思い出したのか、ハルは両目から涙を流して身体を震わせた。それでもナイの手を握りしめ、友達を見捨てるつもりはないとばかりにダテムネを睨みつける。
(ハル、震えてる……俺のせいで)
父親と睨み合うハルの姿を見てナイは胸が痛くなり、自分のせいで一番の友達を苦しませている事に心を痛める。これ以上に彼の迷惑になりたくはないと思ったナイは、ダテムネに提案を行う。
「おじさん、実は俺……お父さんが死ぬ前に俺を助けてくれる人の事を教えてもらったんだ」
「何だと?」
「そ、それ本当か!?」
思いがけぬナイの言葉にダテムネとハルは驚くが、ナイの言った事は嘘ではない。父親は死ぬ前にナイに力を貸してくれるかもしれない人物の居場所を伝える。
「クロウという名前のお爺さんらしいんだけど、その人はこの村から離れた山に暮らしてるらしくて、その人のところにこのペンダントを持って行けば必ず助けてくれるって……」
「クロウだと?それはもしや……」
「親父!!知っている人なのか!?」
「いや、俺は顔を合わせた事はないが……確かに前の村長から話は聞いた事がある。なんでも世界一の魔術師だと言ってたな」
「ま、魔術師?それって村長が酔っ払ってた時に言ってた話か?」
「うん、俺も知ってる。まさか、あの話が本当だとは思わなかったけど……」
ナイの父親は酔っ払うと口が軽くなり、自分は魔術師と知り合いだと大勢の村人の前で話した事がある。だが、誰も村長の話を信じず、彼が本当に魔術師の知り合いがいるなど信じていなかった。
しかし、ダテムネは村長が素面の時に魔術師クロウの話を聞いたことがあり、もしも村長の話が嘘でなかったらナイを救ってくれる可能性もあった。だが、村長の話だとクロウは遠く離れた山に暮らしているはずであり、ナイ一人で辿り着けるはずがない。
「本当にその人が魔術師かどうかは分からないけど、とりあえずはその人の所に行ってみるよ」
「でも、お前……そんな状態で大丈夫なのか?やっぱり俺も付いて行った方が……」
「いや、俺が一緒に行こう」
「親父!?」
「おじさんが!?」
話を聞いていたダテムネは息子の代わりにナイをクロウが暮らす山に連れていく事を伝える。幸いにも彼は馬を乗りこなせるため、ナイ一人だけならば山に運ぶのはそれほど時間は掛からない。
「お前の言う通りにここに残ってもナイ君の身が危ない。だから村長にはお前からこう伝えろ、ナイ君が自力で倉庫から脱走して村の外に逃げ出したとな。そして俺は逃げ出したナイ君を捕まえるために外に出たとな」
「そうか!!それなら馬鹿なあいつらも信じるな!!」
「でも、おじさんだけが戻ってきたら怪しまれるんじゃ……」
「大丈夫だ。きっと、奴等はペンダントを盗まれた事に気が付くだろう。そこで君のペンダントの一つを持ち帰れば俺の話を信じてくれるだろう。ナイ君は村の外で俺が始末したと言えば安心するだろう」
「えっ!?」
「お、親父!!そのペンダントはナイの親父さんの……」
ダテムネはナイがぶら下げているペンダントの一つを掴み、本物のペンダントではなく、ナイの父親が彼のために自作したペンダントを回収する。こちらのペンダントもナイにとっては父親の形見ではあるが、命には代えられない。
「悪いが俺も家族のためにこの村を離れるわけにはいかないんだ。ハルを友達と思ってくれるなら、このペンダントは譲ってくれないか?」
「駄目だ!!それはナイの親父さんの形見なのに……」
「ハル!!気にしなくていいよ……これ以上、おじさんを困らせたくない!!」
「け、けど……」
「本当にすまない……」
申し訳なさそうにダテムネはペンダントを受け取ると、ハルを残して彼はナイを抱き上げる。そしてクロウが暮らす山まで連れていく事を約束した。
「安心してくれ、何があろうと俺が君を守る。山までは一緒に付いて行くから安心してくれ」
「あ、ありがとうございます」
「ハル、お前はここに残れ。さっきも言った事を忘れずに村長に伝えるんだぞ」
「で、でも……俺もナイと一緒に行きたい!!」
「駄目だ!!この事は俺達だけしか知らないんだ!!誰かが残らないと駄目なんだ!!」
ダテムネは倉庫へ向かうと、ナイが自力で脱走したように細工を行う。これで事情を知らない人間はナイが一人で逃げ出したとしか思わず、ハルが手助けした事を誤魔化せる。
もしもハルが手助けしてナイを逃がした事が知られた場合、ダテムネとハルはこの村から追い出されてしまう。悔しいが今の村長はナイの叔父であり、彼に怪しまれる行動は避けなければならない。そしてナイもハルのためなら協力を惜しまない。
「ハル、大丈夫だよ。お父さんの知り合いなら俺を助けてくれると思うから……」
「ナイ……分かったよ。でも、一つだけ約束しろ」
「約束?」
「お前は魔術師に会いに行くんだろ?なら、そいつに魔法を教わってお前も魔術師になれよ!!そして俺もいつか街に出て冒険者になる!!お互いに大人になるまでに村に戻ろう!!その時は二人一緒にくそ村長をぶっ飛ばそうぜ!!」
「う、うん……分かったよ」
「さあ、出発するぞ……今のうちに別れを済ませるんだ」
馬を連れてきたダテムネはナイにハルと最後の別れをするように伝えると、二人はお互いに抱き合って涙を流す。
「約束だぞ、絶対に帰って来いよ……相棒」
「うん、約束するよ……必ず帰ってくるからね」
二人は最後に指切りを行うと、ナイはダテムネの馬に乗り込む。ハルはナイの姿が見えなくなるまで手を振った――
――それからナイはダテムネと共にクロウが暮らす山に向かう。だが、ダテムネの馬が山に到着した途端、急に暴れ出して言う事を聞かない。
「ヒヒンッ!?」
「うおっ!?ど、どうした!?落ち着くんだ!!」
「わあっ!?」
馬は山の中に暮らす魔物の気配を感じ取り、ダテムネが命令しても山道を登ろうとしない。困り果てた彼は申し訳なさそうにナイに次げた。
「す、すまない……どうやらここから先は歩いて行くしかないようだ」
「そ、そんな……」
「悪いが俺はここまでしか同行できない。この馬を手放すわけにはいかないからな……俺はこのまま村に戻る」
ダテムネは馬から下りると残りの水と食料が入った袋をナイに渡す。彼としてもこんな山の中にナイを置いていく事は心が痛むが、彼はハルのためにも村に引き返さなければならない。
「ナイ君、君を助けられなくて本当にすまない……俺は駄目な大人だ」
「おじさん……そんな事はないよ。ここまで連れて来てくれてありがとう」
「ハルの事は俺に任せてくれ。君が帰る時まで俺が守ってみせる」
「うん、お願いします……今までありがとうございました」
ナイは頭を下げると、ダテムネは最後に彼の頭を撫でると馬を連れて山から立ち去る。一人取り残されたナイは孤独感を味わい、不安のあまりに身体の震えが止まらない。
(こ、怖い……村に帰りたい。けど、戻ったらハルとおじさんに迷惑をかけちゃう)
山の中に取り残されたナイは不安を抱きながらも歩き始める。この山に暮らす「クロウ」という魔術師に会うため、ナイは山道を登った――
――しばらく歩いた後、ナイは山の中で数多の恐ろしい怪物と遭遇する。ずっと村で暮らしていたナイは「魔物」という存在を見たことは一度もなく、山のあちこちで魔物に追い掛け回される。
「「「ギィイイッ!!」」」
「うわぁあああっ!?」
運悪くゴブリンの群れと遭遇したナイは必死に山の中を駆け抜け、自分が山の何処にいるのかも分からなかった。こんな恐ろしい場所に人が暮らしているとは思えないが、それでもナイは逃げ続けながらもクロウを探す。
魔物はナイを何度も追い詰めようとしたが、彼が身に着けている「魔除けのペンダント」のせいで襲い掛かる事ができなかった。魔物ができる事はナイを追いかけ回すだけであり、決して彼を傷つける事はできない。
(お願い、誰か助けて……助けてよ!!)
ようやく魔物の群れを振り切ったナイは山中に存在する山小屋を発見した。それを見てナイは人が住んでいると確信し、疲労困憊になりながらも助けを求めた。だが、あまりの疲労に意識が朦朧してしまい、自分でも訳の分からない言葉を告げてしまった。
「小僧、儂から魔法を教わりたいのか?」
「うん、まあ一応……」
「なんじゃ、その気のない返事は……まあいい。それならば条件が一つだけある」
「条件?」
クロウと思われる老人はナイの前に杖を掲げると、急に足元に魔法陣が誕生し、ナイの身体は光に包まれた。
「うわっ!?」
「魔法を教えて欲しければ……もう一度命を投げ出して儂の元にやってこい!!」
「わあああっ!?」
転移魔法によってナイは山の外まで吹き飛ばされた――
――まるで流れ星の如くナイは空を飛んで地上に落下すると、怪我もなく地面の上に横たわる。生まれて初めて魔法を体験したナイは、あまりの感動に疲れが吹き飛ぶ。
「こ、これが魔法の力……凄い!!」
今までの苦労が吹き飛ぶほどにナイは魔法の力の凄さを思い知り、先ほどまでは死んでもいいと考えていたが、先ほどの老人の元に行けば自分に魔法を教えてくれるかもしれないと考えると、馬鹿な考えを捨ててクロウの元へ一直線へ向かう。
「必ず弟子にしてもらう!!そして……俺も魔術師になるんだ!!」
魔法を覚えるまでは死ねないと考えたナイは再び山道を登り、クロウの元へ向かう。こうしてナイは伝説の魔術師の弟子となった――
――昔の出来事を全て思い出したナイは笑みを浮かべ、いつの間にか雨は上がっていた。村に残した幼馴染が今どうしているのか気にかかり、もしも今回の修業が終わればクロウに相談して村の様子を見に行くか考える。
「大人になるまでまだ時間はあるけど……ハルに会いたいな」
「ウォンッ?」
この世界では成人年齢は「18才」であるため、ナイがハルとの約束を果たすまで二年の猶予がある。だが、四年前よりも成長したナイはもう叔父など恐れておらず、ハルに会いに行こうかと考える。しかし、別れ際に自分は「魔術師」ハルは「冒険者」になってから再会する約束をしていた。
「やっぱり帰るなら一人前の魔術師になってからがいいかな?」
「クゥ~ンッ?」
ナイの言葉の意味が分からずにビャクは首を傾げるが、そんな彼の頭を撫でながらナイは修行に励む――
「……嫌だ!!魔物なんか俺がぶっ飛ばしてやる!!もうナイに酷い目に遭わせるもんか!!」
「馬鹿を言え!!お前だって魔物がどれほど恐ろしいのか知っているだろう!?母さんが殺された時の事を忘れたのか!?」
「えっ!?」
ハルの母親が魔物に殺された事はナイも初めて知り、ダテムネの言葉にハルは顔を真っ赤にして振り返るが、その身体は震えていた。どうやら母親が殺された時の事を思い出したらしく、悔し気な表情を浮かべる。そんな息子の姿にダテムネは辛そうな表情を浮かべた。
「す、すまない。今のは言いすぎた……だが、分かってくれ。子供のお前等が村の外に逃げ出しても生き延びれるはずがない。ナイ君の事は俺が何とかしてみせる。だから、お前は彼をおいて家に帰るんだ」
「い、嫌だ……ナイは俺が守るんだ」
「ハル……」
母親が殺された時の出来事を思い出したのか、ハルは両目から涙を流して身体を震わせた。それでもナイの手を握りしめ、友達を見捨てるつもりはないとばかりにダテムネを睨みつける。
(ハル、震えてる……俺のせいで)
父親と睨み合うハルの姿を見てナイは胸が痛くなり、自分のせいで一番の友達を苦しませている事に心を痛める。これ以上に彼の迷惑になりたくはないと思ったナイは、ダテムネに提案を行う。
「おじさん、実は俺……お父さんが死ぬ前に俺を助けてくれる人の事を教えてもらったんだ」
「何だと?」
「そ、それ本当か!?」
思いがけぬナイの言葉にダテムネとハルは驚くが、ナイの言った事は嘘ではない。父親は死ぬ前にナイに力を貸してくれるかもしれない人物の居場所を伝える。
「クロウという名前のお爺さんらしいんだけど、その人はこの村から離れた山に暮らしてるらしくて、その人のところにこのペンダントを持って行けば必ず助けてくれるって……」
「クロウだと?それはもしや……」
「親父!!知っている人なのか!?」
「いや、俺は顔を合わせた事はないが……確かに前の村長から話は聞いた事がある。なんでも世界一の魔術師だと言ってたな」
「ま、魔術師?それって村長が酔っ払ってた時に言ってた話か?」
「うん、俺も知ってる。まさか、あの話が本当だとは思わなかったけど……」
ナイの父親は酔っ払うと口が軽くなり、自分は魔術師と知り合いだと大勢の村人の前で話した事がある。だが、誰も村長の話を信じず、彼が本当に魔術師の知り合いがいるなど信じていなかった。
しかし、ダテムネは村長が素面の時に魔術師クロウの話を聞いたことがあり、もしも村長の話が嘘でなかったらナイを救ってくれる可能性もあった。だが、村長の話だとクロウは遠く離れた山に暮らしているはずであり、ナイ一人で辿り着けるはずがない。
「本当にその人が魔術師かどうかは分からないけど、とりあえずはその人の所に行ってみるよ」
「でも、お前……そんな状態で大丈夫なのか?やっぱり俺も付いて行った方が……」
「いや、俺が一緒に行こう」
「親父!?」
「おじさんが!?」
話を聞いていたダテムネは息子の代わりにナイをクロウが暮らす山に連れていく事を伝える。幸いにも彼は馬を乗りこなせるため、ナイ一人だけならば山に運ぶのはそれほど時間は掛からない。
「お前の言う通りにここに残ってもナイ君の身が危ない。だから村長にはお前からこう伝えろ、ナイ君が自力で倉庫から脱走して村の外に逃げ出したとな。そして俺は逃げ出したナイ君を捕まえるために外に出たとな」
「そうか!!それなら馬鹿なあいつらも信じるな!!」
「でも、おじさんだけが戻ってきたら怪しまれるんじゃ……」
「大丈夫だ。きっと、奴等はペンダントを盗まれた事に気が付くだろう。そこで君のペンダントの一つを持ち帰れば俺の話を信じてくれるだろう。ナイ君は村の外で俺が始末したと言えば安心するだろう」
「えっ!?」
「お、親父!!そのペンダントはナイの親父さんの……」
ダテムネはナイがぶら下げているペンダントの一つを掴み、本物のペンダントではなく、ナイの父親が彼のために自作したペンダントを回収する。こちらのペンダントもナイにとっては父親の形見ではあるが、命には代えられない。
「悪いが俺も家族のためにこの村を離れるわけにはいかないんだ。ハルを友達と思ってくれるなら、このペンダントは譲ってくれないか?」
「駄目だ!!それはナイの親父さんの形見なのに……」
「ハル!!気にしなくていいよ……これ以上、おじさんを困らせたくない!!」
「け、けど……」
「本当にすまない……」
申し訳なさそうにダテムネはペンダントを受け取ると、ハルを残して彼はナイを抱き上げる。そしてクロウが暮らす山まで連れていく事を約束した。
「安心してくれ、何があろうと俺が君を守る。山までは一緒に付いて行くから安心してくれ」
「あ、ありがとうございます」
「ハル、お前はここに残れ。さっきも言った事を忘れずに村長に伝えるんだぞ」
「で、でも……俺もナイと一緒に行きたい!!」
「駄目だ!!この事は俺達だけしか知らないんだ!!誰かが残らないと駄目なんだ!!」
ダテムネは倉庫へ向かうと、ナイが自力で脱走したように細工を行う。これで事情を知らない人間はナイが一人で逃げ出したとしか思わず、ハルが手助けした事を誤魔化せる。
もしもハルが手助けしてナイを逃がした事が知られた場合、ダテムネとハルはこの村から追い出されてしまう。悔しいが今の村長はナイの叔父であり、彼に怪しまれる行動は避けなければならない。そしてナイもハルのためなら協力を惜しまない。
「ハル、大丈夫だよ。お父さんの知り合いなら俺を助けてくれると思うから……」
「ナイ……分かったよ。でも、一つだけ約束しろ」
「約束?」
「お前は魔術師に会いに行くんだろ?なら、そいつに魔法を教わってお前も魔術師になれよ!!そして俺もいつか街に出て冒険者になる!!お互いに大人になるまでに村に戻ろう!!その時は二人一緒にくそ村長をぶっ飛ばそうぜ!!」
「う、うん……分かったよ」
「さあ、出発するぞ……今のうちに別れを済ませるんだ」
馬を連れてきたダテムネはナイにハルと最後の別れをするように伝えると、二人はお互いに抱き合って涙を流す。
「約束だぞ、絶対に帰って来いよ……相棒」
「うん、約束するよ……必ず帰ってくるからね」
二人は最後に指切りを行うと、ナイはダテムネの馬に乗り込む。ハルはナイの姿が見えなくなるまで手を振った――
――それからナイはダテムネと共にクロウが暮らす山に向かう。だが、ダテムネの馬が山に到着した途端、急に暴れ出して言う事を聞かない。
「ヒヒンッ!?」
「うおっ!?ど、どうした!?落ち着くんだ!!」
「わあっ!?」
馬は山の中に暮らす魔物の気配を感じ取り、ダテムネが命令しても山道を登ろうとしない。困り果てた彼は申し訳なさそうにナイに次げた。
「す、すまない……どうやらここから先は歩いて行くしかないようだ」
「そ、そんな……」
「悪いが俺はここまでしか同行できない。この馬を手放すわけにはいかないからな……俺はこのまま村に戻る」
ダテムネは馬から下りると残りの水と食料が入った袋をナイに渡す。彼としてもこんな山の中にナイを置いていく事は心が痛むが、彼はハルのためにも村に引き返さなければならない。
「ナイ君、君を助けられなくて本当にすまない……俺は駄目な大人だ」
「おじさん……そんな事はないよ。ここまで連れて来てくれてありがとう」
「ハルの事は俺に任せてくれ。君が帰る時まで俺が守ってみせる」
「うん、お願いします……今までありがとうございました」
ナイは頭を下げると、ダテムネは最後に彼の頭を撫でると馬を連れて山から立ち去る。一人取り残されたナイは孤独感を味わい、不安のあまりに身体の震えが止まらない。
(こ、怖い……村に帰りたい。けど、戻ったらハルとおじさんに迷惑をかけちゃう)
山の中に取り残されたナイは不安を抱きながらも歩き始める。この山に暮らす「クロウ」という魔術師に会うため、ナイは山道を登った――
――しばらく歩いた後、ナイは山の中で数多の恐ろしい怪物と遭遇する。ずっと村で暮らしていたナイは「魔物」という存在を見たことは一度もなく、山のあちこちで魔物に追い掛け回される。
「「「ギィイイッ!!」」」
「うわぁあああっ!?」
運悪くゴブリンの群れと遭遇したナイは必死に山の中を駆け抜け、自分が山の何処にいるのかも分からなかった。こんな恐ろしい場所に人が暮らしているとは思えないが、それでもナイは逃げ続けながらもクロウを探す。
魔物はナイを何度も追い詰めようとしたが、彼が身に着けている「魔除けのペンダント」のせいで襲い掛かる事ができなかった。魔物ができる事はナイを追いかけ回すだけであり、決して彼を傷つける事はできない。
(お願い、誰か助けて……助けてよ!!)
ようやく魔物の群れを振り切ったナイは山中に存在する山小屋を発見した。それを見てナイは人が住んでいると確信し、疲労困憊になりながらも助けを求めた。だが、あまりの疲労に意識が朦朧してしまい、自分でも訳の分からない言葉を告げてしまった。
「小僧、儂から魔法を教わりたいのか?」
「うん、まあ一応……」
「なんじゃ、その気のない返事は……まあいい。それならば条件が一つだけある」
「条件?」
クロウと思われる老人はナイの前に杖を掲げると、急に足元に魔法陣が誕生し、ナイの身体は光に包まれた。
「うわっ!?」
「魔法を教えて欲しければ……もう一度命を投げ出して儂の元にやってこい!!」
「わあああっ!?」
転移魔法によってナイは山の外まで吹き飛ばされた――
――まるで流れ星の如くナイは空を飛んで地上に落下すると、怪我もなく地面の上に横たわる。生まれて初めて魔法を体験したナイは、あまりの感動に疲れが吹き飛ぶ。
「こ、これが魔法の力……凄い!!」
今までの苦労が吹き飛ぶほどにナイは魔法の力の凄さを思い知り、先ほどまでは死んでもいいと考えていたが、先ほどの老人の元に行けば自分に魔法を教えてくれるかもしれないと考えると、馬鹿な考えを捨ててクロウの元へ一直線へ向かう。
「必ず弟子にしてもらう!!そして……俺も魔術師になるんだ!!」
魔法を覚えるまでは死ねないと考えたナイは再び山道を登り、クロウの元へ向かう。こうしてナイは伝説の魔術師の弟子となった――
――昔の出来事を全て思い出したナイは笑みを浮かべ、いつの間にか雨は上がっていた。村に残した幼馴染が今どうしているのか気にかかり、もしも今回の修業が終わればクロウに相談して村の様子を見に行くか考える。
「大人になるまでまだ時間はあるけど……ハルに会いたいな」
「ウォンッ?」
この世界では成人年齢は「18才」であるため、ナイがハルとの約束を果たすまで二年の猶予がある。だが、四年前よりも成長したナイはもう叔父など恐れておらず、ハルに会いに行こうかと考える。しかし、別れ際に自分は「魔術師」ハルは「冒険者」になってから再会する約束をしていた。
「やっぱり帰るなら一人前の魔術師になってからがいいかな?」
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