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魔法の契約
第21話 幼馴染
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――二週間後、暇さえあればナイは瞑想を行う。体外に魔力が漏れ出さない様に集中力を高め、じっと動かずに魔力を収納し続ける。薄暗い洞窟の中で身動きせずに全身の魔力を抑え込む。
「ふうっ……この修行も大分慣れてきたな」
「クォオッ……」
ナイが修行に励んでいる間、ビャクは昼寝を行うか外に出て遊ぶ事が多い。今日は雨が降っているので洞窟の外には出られず、大人しく洞窟の中で休んでいた。
「雨か……そういえばあの日も雨が降ってたな」
洞窟から外に出るとナイは雨空を見上げ、まだクロウに出会う前の事を思い出す――
――四年前まではナイは山から離れた村で暮らしていた。村長の息子だったナイは村の人間からは大切にされていたが、ある時に父親が亡くなってから状況は一変した。唐突にナイの元に叔父を名乗る男が現れた。
『いいか!!今日から俺がこの村の村長だ!!お前はここで暮らしてろ!!』
『うわっ!?』
村長の弟を名乗る男はナイを無理やりに屋敷内の倉庫に閉じ込めると、それから何日も彼の事を閉じ込め続けた。一日に一度だけ食事と水を運んでくるが、生きるのに必要な最低限の食事しか用意しなかった。
『お前みたいなガキはこれでも食ってろ!!』
『ひ、ひどい……こんなの食べれるわけないよ!!』
『ふん、だったら何も食うんじゃない!!』
『あなた、何時までこんな子の面倒を見ないといけないの?』
『はあっ……こんな奴、さっさと死んじゃえばいいのに』
叔父の妻も息子もナイの事を冷遇し、彼が暮らしていた家で好き勝手な生活を送る。叔父は自分の甥にも関わらずにナイを邪魔に思っていた。彼が生きていると自分に厳しく接していた兄の事を思い出し、嫌な気分になるので早急に始末したいと考えていた。
叔父がナイに直接手を下さないのは他の村人の目があるからでり、まだ村長になったばかりの叔父は村人から信頼を得ていない。そんな時にナイを殺せば他の村人から疑われるため、最低限の食事と水だけを与えて彼が衰弱するのを待つ。
『お前がさっさと死なないと僕達が困るんだよ!!』
『困る……?』
『そうだよ、父さんが言ってたんだ。お前が餓死すれば他の村人には重い病にかかって、食事もできずに死んだ事にするんだとよ。病気で死んだ事にすれば感染を防ぐために死体は焼却したと言い張れば気付かれないってさ』
『っ……!?』
ある時にナイの元に村長の息子が訪れ、叔父の暗殺計画を明かす。村長の息子はナイが身動きもできないほど弱っているのでばらしても問題ないと思っているようだが、実はナイには一人だけ味方が存在した――
「――おい、ナイ!!さっさと起きろよ!!助けに来たぞ!!」
「うっ……その声は、ハル?」
「そうだよ、ハル様が助けに来たぞ!!」
真っ暗な倉庫の中で名前を呼ばれたナイは目を覚ますと、そこには金髪の少年が自分を見下ろしていた。中性的な顔立ちなので一見すると少女にも見えるが、彼は数年前に村に住み着いた子供だった。
少年の名前は「ハル」であり、ナイよりも一才年上で二人は仲が良かった。倉庫に閉じ込められたナイを助けるためにやってきた事を告げる。
「へへへ、あいつらが寝ている間に鍵を盗んできてやった。ついでにこのペンダントもな」
「あ、それって……」
「ほら、お前の親父さんのペンダントなんだろ?」
ハルは屋敷に忍び込んで倉庫の鍵と、先代の村長が常に身に着けていたペンダントを盗んできた。ナイは自分のために危険を冒して助けに来てくれたハルに涙を流す。
「ハル……ありがとう」
「よせよ、お礼なんて……謝るのは俺の方だよ。もっと早く助けに来られたらこんな目に遭わせなかったのにな」
「来てくれただけで嬉しいよ……でも、そのペンダントは偽物なんだ」
「えっ!?そうなのか?」
わざわざペンダントまで取り返してくれたハルには悪いと思いながらも、ナイは倉庫に置かれている木箱を指差す。ハルが不思議に思って木箱を持ち上げると、そこには本物のペンダントが隠されていた。
「ペンダントは二つあったんだよ。一つは本物で、もう一つはお父さんが俺のために作ってくれたペンダントなんだ」
「な、何だ……どうりで形が前に見た時よりも歪だと思ったぞ」
ハルが取り返したペンダントは村長がナイの誕生日に作ってくれたペンダントだった。それでもナイにとってはもう一つのペンダントも大切な物であり、取り返してくれたハルに感謝する。
「そっちのペンダントも俺にとっては大事な物だから、取り戻してくれてありがとう」
「へへっ、なら苦労したかいがあったな。じゃあ、これも返すよ」
二つのペンダントを首にぶら下げたナイはハルに肩を貸して貰い、久々に外に出れた事に感動する。もう生きて倉庫から出てこれないと思っただけに涙を流す。
「外だ……今日は満月だったんだ」
「何だよ、倉庫だからって窓ぐらいはあるだろ?」
「そんなのないよ。叔父さんが逃げられない様に窓も塞いでたから……」
「くそ、あの豚親父!!俺が大人だったらぶっとばしてたのに……」
ナイが逃げられない様に叔父は徹底的に倉庫を塞ぎ、もしもハルが助けに来てくれなかったら間違いなく衰弱死していた。ナイは彼と共に屋敷の外へ抜け出そうとした時、二人の前に大きな影が差す。
「待て、お前等何処へ行く気だ?」
「「うわっ!?」」
後ろから声を掛けられたナイとハルは冷や汗を流し、恐る恐る振り返るとそこに立っていたのは隻眼の大男だった。村の人間の中でも一番の巨漢であり、片足は木造製の義足を嵌め込んでいた。
彼の名前は「ダテムネ」ハルの父親で若い頃は傭兵として働いていたらしく、片目と片足は戦場で失ったという。この村の出身で子供のハルを連れて帰ってきたのだが、ダテムネは村の用心棒の役目を任されている。
「と、父ちゃん!?どうしてここに……」
「俺の質問に答えろ。ここで何をしているんだ」
「そ、それは……」
ダテムネは先代の村長に村の警護を任されており、この村の安全が保たれているのも彼のお陰である。ナイの叔父も彼だけはぞんざいに扱う事ができず、村の警備を一任していた。だからこそ村長の屋敷に忍び込んだハルに険しい表情を浮かべる。
「ハル、どうしてお前がここにいる?」
「そ、そんなの決まってるだろ!!ナイを助けに来たんだよ!!」
「……あれほど勝手な真似はするなといったはずだ!!お前が村長の機嫌を損ねれば俺達は村を追われる立場になるんだぞ!!」
「えっ!?」
どうやらハルはダテムネに内緒でナイの救出のために動いていたらしく、村の警備を任されている以上はダテムネは実の娘と言えども見逃すわけにはいかない。どんな理由があるにせよ、ハルは村長の屋敷に忍び込んで鍵とペンダントを窃盗した事実は変わらない。
「さあ、盗んだ物を返すんだ。お前はもう家に帰れ、ナイ君の事は俺に任せろ」
「何が任せろだ!?父ちゃんは言ってたよな、ナイは無事だって……それなのにこの有様は何だよ!?こんな枯れ木のように痩せちまってるんだぞ!!」
「ハ、ハル……」
いつもならば父親に叱られたら反省するハルだが、今回ばかりはいう事を聞くわけにはいかない。ハルは弱り切ったナイを見捨てる事はできず、屋敷から盗んだ鍵をダテムネに投げつける。
「盗んだもんはそれだけだ!!さあ、とっとと逃げるぞ!!」
「待て!!そのペンダントは……」
「これはナイのだ!!あいつらのもんじゃない!!なあ、そうだろう!?」
「う、うん……これは俺と、父さんのペンダントだよ」
ダテムネは鍵だけではなく、ナイが首に下げているペンダントも取り戻そうとしたが、ハルはそれを拒否した。ナイも大切な父親の形見を渡したくはないため、二人は急いで逃げようとした。だが、ダテムネは立ちはだかる。
「待て!!お前達は何処へ逃げるつもりだ!?この村に居てもいずれ捕まるぞ!!」
「それなら村の外に逃げればいいだろ!!」
「馬鹿を言え、お前等のような子供が他の村まで逃げのびれるはずがない。それに最近は魔物がこの地域にも出没するようになったんだ。お前一人なら逃げ切れるかもしれないが、ナイ君はどうなる?」
「うっ!?」
「ま、魔物って……あの絵本に出てくる生き物?」
村の外に出た事が無いナイは魔物を見たことはないが、村の外からやってきたダテムネとハルは魔物の危険性を理解していた。最近ではナイが暮らす村の近くで魔物が姿を現し、もしもハルとナイが村の外に逃げても魔物の餌食になる可能性が高い。
「ふうっ……この修行も大分慣れてきたな」
「クォオッ……」
ナイが修行に励んでいる間、ビャクは昼寝を行うか外に出て遊ぶ事が多い。今日は雨が降っているので洞窟の外には出られず、大人しく洞窟の中で休んでいた。
「雨か……そういえばあの日も雨が降ってたな」
洞窟から外に出るとナイは雨空を見上げ、まだクロウに出会う前の事を思い出す――
――四年前まではナイは山から離れた村で暮らしていた。村長の息子だったナイは村の人間からは大切にされていたが、ある時に父親が亡くなってから状況は一変した。唐突にナイの元に叔父を名乗る男が現れた。
『いいか!!今日から俺がこの村の村長だ!!お前はここで暮らしてろ!!』
『うわっ!?』
村長の弟を名乗る男はナイを無理やりに屋敷内の倉庫に閉じ込めると、それから何日も彼の事を閉じ込め続けた。一日に一度だけ食事と水を運んでくるが、生きるのに必要な最低限の食事しか用意しなかった。
『お前みたいなガキはこれでも食ってろ!!』
『ひ、ひどい……こんなの食べれるわけないよ!!』
『ふん、だったら何も食うんじゃない!!』
『あなた、何時までこんな子の面倒を見ないといけないの?』
『はあっ……こんな奴、さっさと死んじゃえばいいのに』
叔父の妻も息子もナイの事を冷遇し、彼が暮らしていた家で好き勝手な生活を送る。叔父は自分の甥にも関わらずにナイを邪魔に思っていた。彼が生きていると自分に厳しく接していた兄の事を思い出し、嫌な気分になるので早急に始末したいと考えていた。
叔父がナイに直接手を下さないのは他の村人の目があるからでり、まだ村長になったばかりの叔父は村人から信頼を得ていない。そんな時にナイを殺せば他の村人から疑われるため、最低限の食事と水だけを与えて彼が衰弱するのを待つ。
『お前がさっさと死なないと僕達が困るんだよ!!』
『困る……?』
『そうだよ、父さんが言ってたんだ。お前が餓死すれば他の村人には重い病にかかって、食事もできずに死んだ事にするんだとよ。病気で死んだ事にすれば感染を防ぐために死体は焼却したと言い張れば気付かれないってさ』
『っ……!?』
ある時にナイの元に村長の息子が訪れ、叔父の暗殺計画を明かす。村長の息子はナイが身動きもできないほど弱っているのでばらしても問題ないと思っているようだが、実はナイには一人だけ味方が存在した――
「――おい、ナイ!!さっさと起きろよ!!助けに来たぞ!!」
「うっ……その声は、ハル?」
「そうだよ、ハル様が助けに来たぞ!!」
真っ暗な倉庫の中で名前を呼ばれたナイは目を覚ますと、そこには金髪の少年が自分を見下ろしていた。中性的な顔立ちなので一見すると少女にも見えるが、彼は数年前に村に住み着いた子供だった。
少年の名前は「ハル」であり、ナイよりも一才年上で二人は仲が良かった。倉庫に閉じ込められたナイを助けるためにやってきた事を告げる。
「へへへ、あいつらが寝ている間に鍵を盗んできてやった。ついでにこのペンダントもな」
「あ、それって……」
「ほら、お前の親父さんのペンダントなんだろ?」
ハルは屋敷に忍び込んで倉庫の鍵と、先代の村長が常に身に着けていたペンダントを盗んできた。ナイは自分のために危険を冒して助けに来てくれたハルに涙を流す。
「ハル……ありがとう」
「よせよ、お礼なんて……謝るのは俺の方だよ。もっと早く助けに来られたらこんな目に遭わせなかったのにな」
「来てくれただけで嬉しいよ……でも、そのペンダントは偽物なんだ」
「えっ!?そうなのか?」
わざわざペンダントまで取り返してくれたハルには悪いと思いながらも、ナイは倉庫に置かれている木箱を指差す。ハルが不思議に思って木箱を持ち上げると、そこには本物のペンダントが隠されていた。
「ペンダントは二つあったんだよ。一つは本物で、もう一つはお父さんが俺のために作ってくれたペンダントなんだ」
「な、何だ……どうりで形が前に見た時よりも歪だと思ったぞ」
ハルが取り返したペンダントは村長がナイの誕生日に作ってくれたペンダントだった。それでもナイにとってはもう一つのペンダントも大切な物であり、取り返してくれたハルに感謝する。
「そっちのペンダントも俺にとっては大事な物だから、取り戻してくれてありがとう」
「へへっ、なら苦労したかいがあったな。じゃあ、これも返すよ」
二つのペンダントを首にぶら下げたナイはハルに肩を貸して貰い、久々に外に出れた事に感動する。もう生きて倉庫から出てこれないと思っただけに涙を流す。
「外だ……今日は満月だったんだ」
「何だよ、倉庫だからって窓ぐらいはあるだろ?」
「そんなのないよ。叔父さんが逃げられない様に窓も塞いでたから……」
「くそ、あの豚親父!!俺が大人だったらぶっとばしてたのに……」
ナイが逃げられない様に叔父は徹底的に倉庫を塞ぎ、もしもハルが助けに来てくれなかったら間違いなく衰弱死していた。ナイは彼と共に屋敷の外へ抜け出そうとした時、二人の前に大きな影が差す。
「待て、お前等何処へ行く気だ?」
「「うわっ!?」」
後ろから声を掛けられたナイとハルは冷や汗を流し、恐る恐る振り返るとそこに立っていたのは隻眼の大男だった。村の人間の中でも一番の巨漢であり、片足は木造製の義足を嵌め込んでいた。
彼の名前は「ダテムネ」ハルの父親で若い頃は傭兵として働いていたらしく、片目と片足は戦場で失ったという。この村の出身で子供のハルを連れて帰ってきたのだが、ダテムネは村の用心棒の役目を任されている。
「と、父ちゃん!?どうしてここに……」
「俺の質問に答えろ。ここで何をしているんだ」
「そ、それは……」
ダテムネは先代の村長に村の警護を任されており、この村の安全が保たれているのも彼のお陰である。ナイの叔父も彼だけはぞんざいに扱う事ができず、村の警備を一任していた。だからこそ村長の屋敷に忍び込んだハルに険しい表情を浮かべる。
「ハル、どうしてお前がここにいる?」
「そ、そんなの決まってるだろ!!ナイを助けに来たんだよ!!」
「……あれほど勝手な真似はするなといったはずだ!!お前が村長の機嫌を損ねれば俺達は村を追われる立場になるんだぞ!!」
「えっ!?」
どうやらハルはダテムネに内緒でナイの救出のために動いていたらしく、村の警備を任されている以上はダテムネは実の娘と言えども見逃すわけにはいかない。どんな理由があるにせよ、ハルは村長の屋敷に忍び込んで鍵とペンダントを窃盗した事実は変わらない。
「さあ、盗んだ物を返すんだ。お前はもう家に帰れ、ナイ君の事は俺に任せろ」
「何が任せろだ!?父ちゃんは言ってたよな、ナイは無事だって……それなのにこの有様は何だよ!?こんな枯れ木のように痩せちまってるんだぞ!!」
「ハ、ハル……」
いつもならば父親に叱られたら反省するハルだが、今回ばかりはいう事を聞くわけにはいかない。ハルは弱り切ったナイを見捨てる事はできず、屋敷から盗んだ鍵をダテムネに投げつける。
「盗んだもんはそれだけだ!!さあ、とっとと逃げるぞ!!」
「待て!!そのペンダントは……」
「これはナイのだ!!あいつらのもんじゃない!!なあ、そうだろう!?」
「う、うん……これは俺と、父さんのペンダントだよ」
ダテムネは鍵だけではなく、ナイが首に下げているペンダントも取り戻そうとしたが、ハルはそれを拒否した。ナイも大切な父親の形見を渡したくはないため、二人は急いで逃げようとした。だが、ダテムネは立ちはだかる。
「待て!!お前達は何処へ逃げるつもりだ!?この村に居てもいずれ捕まるぞ!!」
「それなら村の外に逃げればいいだろ!!」
「馬鹿を言え、お前等のような子供が他の村まで逃げのびれるはずがない。それに最近は魔物がこの地域にも出没するようになったんだ。お前一人なら逃げ切れるかもしれないが、ナイ君はどうなる?」
「うっ!?」
「ま、魔物って……あの絵本に出てくる生き物?」
村の外に出た事が無いナイは魔物を見たことはないが、村の外からやってきたダテムネとハルは魔物の危険性を理解していた。最近ではナイが暮らす村の近くで魔物が姿を現し、もしもハルとナイが村の外に逃げても魔物の餌食になる可能性が高い。
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