伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
15 / 68
魔法の契約

第15話 新しい家族

しおりを挟む
「ウォンッ……」
「あ、お前……まだこんな所にいたのか」


足音の主は先ほど逃げ出した狼だと判明し、疲労困憊のナイの元へ迫る。自分に近付いてくる狼にナイは慌てて右手を構えた。


「く、来るな!!近付いたら撃つぞ!!」
「クゥ~ンッ……」
「……な、何だよ」


狼はナイの言葉を理解したのか足を止めると、しばらくはお互いに見つめ合う。狼が襲い掛からない事にナイは疑問を抱くと、唐突に狼は倒れた。


「ウォンッ……」
「えっ?お、おい……急にどうしたんだ!?」


いきなり倒れた狼にナイは戸惑うが、地面に血が滲み始めた事に気が付き、それを見たナイは慌てて狼の元へ向かう。どうやら背中の傷が悪化したらしく、このまま放置すれば死ぬのは時間の問題だった。

倒れた狼を前にしてナイは戸惑い、今ならば止めを刺す絶好の機会だった。目の前に存在するのはただの狼ではなく、人に害を為す危険な魔物である。


(今なら簡単に止めを刺せる……けど)


掌を構えたまま狼の元に近付き、ナイはどうするべきか悩む。すると後方から聞き覚えのある声が響く。


「はあっ、はあっ……ナ、ナイ!!無事だったか!?」
「えっ!?その声は……師匠!?」


ナイが振り返ると杖で地面を突きながら必死に歩いてくるクロウの姿が見えた。道中で何度も転んだのか身体中が泥だらけであり、そんな彼の姿にナイは驚く。


「ど、どうしたのその格好!?」
「いや、ちょっと腰をやってしまってな……そんな事よりもこれはどういう状況だ?」


クロウは赤毛熊の死骸と倒れている狼の子供を見て驚き、ナイもどこから説明すればいいのか分からなかった。だが、まずは怪我をしている狼の事を相談する。


「師匠、こいつ怪我してるんだ。どうにか治せないかな?」
「な、何だと!?お前、そいつの正体を知っているのっか!?」
「正体?」


倒れている狼の子供を見てクロウは驚愕し、そんな彼の態度にナイは不思議に思う。彼は酷く焦った様子で杖を構えた。


「そいつは白狼種の子供だ!!白狼種は狼の魔物の中でも一、二を誇る危険種なんだぞ!!」
「危険種?この狼が?」
「今は小さいが、成体の白狼種は熊よりも大きくなるんだ!!今のうちに始末せんと手が付けられんぞ!!」
「ま、待ってよ!!」
「クゥ~ンッ……」


白狼種の子供を前にしてクロウは杖を構えるが、そんな彼の前にナイは立ちはだかる。弱っている狼の子供を見てどうしても見捨てられず、ナイは自分の手で育てる事を告げる。


「こいつは俺が育てるから見逃してよ!!絶対に人を傷つけないように飼育するからさ!!」
「ば、馬鹿なことを言うな!!魔物を育てるのがどれほど大変な事なのか分かっているのか!?」
「大丈夫だよ!!小さい頃に犬を飼ってた事もあるから!!」
「阿保かお前は!?犬と狼を一緒にするな!!」


弱っている白狼種の子供を見てナイは村に暮らしていた頃、自分が飼っていた犬を思い出した。残念ながらナイが小さい頃に飼い犬は病気で亡くなってしまったが、弱っている白狼種の子供と、病気で亡くなった飼い犬の姿を重ねてナイはどうしても見捨てる事ができなかった。

クロウから庇うためにナイは狼の子供を抱きかかえ、怪我のせいで碌に動けないのか狼の子供は抵抗せずに抱き上げられる。ナイは意地でも狼の子供を救うためにクロウに訴える。


「師匠!!回復魔法でこの子を治してあげてよ!!」
「ば、馬鹿を言うな!!そいつは本当に危険な魔物なんだぞ!?もしもそいつの親が子供を取り返しに来たらどうする!?」
「でも、子供がこんな怪我をしてるのに放っておくなんて普通は有り得ないよ!!」
「ウォンッ……」


白狼種の子供の親が健在ならば赤毛熊に追われていたのは不自然であり、子供の窮地に親が駆けつけないはずがない。あくまでもナイの考えだが、この狼は親とはぐれたか、あるいは親に助けを求めない理由があるかもしれない。

どうして怪我を負った白狼種の子供がナイの元に戻ってきたのか、それは自分を追っていた赤毛熊を倒してくれた彼ならば助けてくれるのではないかと考え、実際にナイに抱きかかえられても子供は一切抵抗しない。ナイは自分に助けを求めているかもしれない子供を見捨てられなかった。


「師匠、お願いだよ!!俺にこの子の面倒を見させてよ!!」
「し、しかしだな……」
「クゥ~ンッ……」


ナイに抱かれた白狼種の子供はクロウにつぶらな瞳を向け、それを見てクロウも罪悪感を抱く。


「ぐぬぬっ……そこまで言うなら勝手にしろ!!儂はもう知らんぞ!!」
「やった!!良かったな、これでもう大丈夫だぞ!!」
「ウォンッ!!」
「はあっ……怪我を見せてみろ」


クロウは渋々と杖を構えると、白狼種の子供の怪我を治療する。回復魔法は魔物にも通じるらしく、しかも人間よりも回復力が高いのですぐに怪我は完治した。

背中の傷が癒えると白狼種の子供は嬉しそうに尻尾を振り、自分を助けてくれたナイに擦り寄る。それを見てナイは早速名前を付ける事にした。


「よ~し、今日からお前の名前は……ビャクにしよう」
「クゥ~ンッ?」
「全く……そいつの面倒はお前一人で見ろ。儂は絶対に世話をせんからな」
「うん、ありがとう師匠」


ビャクと名付けた白狼種の子供の頭を撫でながらナイは礼を告げると、今更ながらにクロウが自分の元に現れた理由を尋ねる。


「そういえば師匠、どうしてここに?もしかして俺に用事があったんじゃ……」
「いや、その……別に大した用事があったわけじゃないが」
「ウォンッ?」


クロウはナイの質問に慌てふためき、まさか最近は顔を見せに来ないから心配して会いに来たなど素直に言えるはずがなかった。どのような言い訳をしようかと考えていると、彼はナイが始末した赤毛熊を思い出す。


「そ、そんな事よりもこの熊の死骸はどうした!?まさか、お前一人でこんな化物を……」
「え?あ、そうだった……いきなりこいつが現れて俺に襲い掛かってきたから大変だったんだよ」
「襲い掛かっただと!?魔除けのペンダントはどうした!?」
「ご、ごめんなさい!!狩猟の時はペンダントは外してたんだ。魔物以外の動物にも逃げられるから……」
「ば、馬鹿もん!!あれほど外に出る時は外すなと言っただろう!?」


自分が渡したペンダントを外して山の中をうろついていたナイにクロウは叱りつけるが、赤毛熊の死骸を見て改めて驚かされる。まさか収納魔法しか教えていないはずのナイがどうやってこんな化物を倒したのかを問い質す。


「ナイ!!こいつはお前が殺したのか?」
「まあ、一応は……」
「ど、どうやって始末した!?お前、まさか儂に内緒で収納魔法以外の魔法を覚えたのか!?」
「ち、違うよ!!その収納魔法で倒したんだよ!!」
「な、何だと!?」


ナイはクロウに赤毛熊に襲われた際の出来事を正直に話したが、事情を知ってもクロウは素直に信じられない。


(異空間に取り込んだ岩を叩きつけただと!?そんな馬鹿な……三か月前のこいつの魔力ではせいぜい100キロの物体を異空間に取り込むのが限界だったはずだぞ!!)


赤毛熊の頭を押し潰した岩は少なくとも近くの重量はあり、三か月前のナイでは異空間に取り込める質量ではない。ほんの三か月でナイは魔力を10倍近くも増加させた事になるが、そんな短期間で魔力を増やすなど普通なら有り得ない。


「ナイ!!お前はこの三か月、どんな修行をしてきた!?」
「えっと……色々と試したけど、話すと長くなるけどいいかな?」
「構わん!!さっさと教えろ!!」
「クォオッ……(←暇そうに欠伸する)」


クロウの問いかけにナイはこの三か月の修業の出来事を詳しく語る――
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...