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第68話 最後に頼れるのは……

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「このっ……さっさと離れろっ!!」
「ぐふっ!?」
「リン君!?」
「お、おい!!坊主、早くそいつから離れろ!!」


羽交い絞めされた状態でモウカは後頭部をリンの顔面に叩き付け、鼻を強打したリンは鼻血を噴き出す。それを見たハルカと巨人族の男達は心配するが、決してリンはモウカを離さない。


「離すもんかっ!!」
「このガキ……調子に乗るなよ!!」


モウカは両手で持っていた炎斧を右手だけで掲げ、自由になった左手を懐に伸ばす。そして隠し持っていた短剣を取り出し、それをリンの左側の脇腹に目掛けて突き刺す。


「死ねっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「駄目ぇえええっ!?」
「ま、待て!!行くな嬢ちゃん!!」


脇腹に短剣を突き刺されたリンを見てハルカは悲鳴を上げ、彼の元に駆けつけようとした。慌ててそれを他の巨人族の男が引き留めるが、ハルカはリンの名前を泣き叫ぶ。


「リン君っ!!リンくぅんっ!?」
「うぐぅっ……!?」
「さあ、早く離せ……でないと死ぬぞ!?」


モウカは短剣をリンの脇腹に突き刺し、更に刃を奥まで押し込もうとしてきた。だが、リンは痛みを堪えながらモウカを離さず、むしろ徐々に力を込めていく。

最初のうちはモウカはリンがすぐに自分を手放すと思った。普通の人間ならば脇腹を刺されて無事なはずがなく、痛みに耐えかねて力を緩めるはずだった。しかし、何故かリンの場合は痛みを感じているはずなのに徐々に力が強まっていく。


(な、何だこいつは……刃が、これ以上押し込めない!?)


脇腹に突き刺したはずの短剣を押し込もうとしたが、何故かどれだけ力を込めようと刃が奥まで刺さらない。後ろから抑えられているモウカには見えないが、現在のリンの肉体は身体中の血管が浮き上がっていた。


「うおおおおっ!!」
「ば、馬鹿なっ……なんだ、この力は!?」
「も、持ち上げやがった!?」
「腹を刺されてるのに!?」


脇腹に短剣が突き刺されたままリンはモウカを持ち上げ、凄まじい怪力を発揮した。その光景に巨人族も驚き、ハルカも唖然とした。一番驚いているのはモウカであり、彼は信じられない気持ちを抱く。


(馬鹿な!?俺の体重は80キロだぞ!?それに斧や身に着けている物を合わせれば100キロは超える……しかもこいつは腹に短剣が突き刺さっているんだぞ!?)


リンは脇腹に短剣が突き刺さった状態のままモウカを軽々と持ち上げ、ハルカだけがリンの異変の正体にすぐに気づいた。今現在の彼はバルルと綱引きをした時と同じく、限界まで身体能力を強化させた状態に陥っていた。


「リ、リン君!?駄目だよ、その力は……」
「おおおおおっ!!」
「うわぁあああっ!?」


ハルカはリンを止めようとしたが、声も聞こえない程に興奮状態に陥っている彼はモウカの身体を振り回し、凄まじい速度でモウカは振り回されるモウカは悲鳴を上げる。

巨人族の如き怪力でリンは自分の倍近くの体重を誇る相手を片手で振り回し、派手に投げ飛ばす。モウカは10メートル近くも投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「ぐはぁっ!?」
「はあっ、はあっ……」


地面に倒れたモウカは白目を剥き、その一方でリンの方も膝を着いて息を荒げる。彼は脇腹に突き刺さった短剣を掴み、力ずくで引き抜く。


「がああっ!!」
「ひゃあっ!?」
「ば、馬鹿野郎!!そんな風に抜いたら血が止まらないぞ!!」
「おい、誰か薬を……な、何だ?」


短剣を自分で引き抜いたリンに慌てて他の者達は駆けつけようとしたが、どういうわけか短剣から引き抜かれた傷口にリンは手を押し当てると、数秒もしない内に彼の傷口が塞がって元通りに治ってしまう。


「これでよし……」
「お、おい!?平気か!?」
「リン君!?まさか自分で怪我を治したの!?」
「……大丈夫」


自力でリンは怪我を治すと、それを見ていたハルカは驚きを隠せない。前からリンは自分で怪我を治す事はできるのは知っていたが、それでも怪我の治りがあまりにも早過ぎる。

数秒足らずで怪我を治したリンはモウカの元へ向かい、限界強化の反動で全身に痛みを感じながらも彼は足を止めない。まだ勝負はついておらず、モウカの手には炎斧が握りしめられていた。


「こ、このガキがぁっ……!!」
「うおっ!?こ、この野郎!!まだ生きてやがったか!!」
「だが、死にかけだな……今なら取り押さえられるぞ!!」
「坊主、もう無理をするな!!後は俺達に任せろ!!」
「…………」


立ち上がったモウカを見て巨人族の三人はリンの代わりに自分達が捕まえようとしたが、それを引き留めたのは意外な人物だった。


「あ、あんた達……手を出すんじゃないよ」
「バルル!?」
「目を覚ましたのか!?」
「あっ!?だ、駄目だよ!!まだ動いたら!!」


馬車が爆破されたときに巻き込まれて気絶していたはずのバルルが起き上がり、そんな彼女を見てハルカは慌てて回復魔法を施す。バルルの元の巨人族の一人が駆けつけて彼女の身体を支えると、バルルは向かい合うリンとモウカを見て呟く。


「こいつは男同士の真剣勝負だ……他人が出る幕じゃないよ」
「真剣勝負って……お前、何を言ってるんだ!?」
「相手は戦士じゃない、ただの犯罪者だぞ!?」
「それにあの坊主はもう限界だ!!これ以上に戦わせると死んじまうぞ!?」
「いいから黙って見てな!!」


バルルの言葉に他の巨人族は信じられない表情を浮かべるが、バルルは誰も彼等には近寄らせないようにした。彼女はリンとモウカの戦いぶりを見て次の二人の行動で勝負が決まると確信していた。


「あんた、ハルカと言ったね……よく見ておくんだよ」
「え?」
「あの坊主が勝つか、それとも負けるか……最後まで見届けるんだ」
「そ、そんな……」


回復魔法を施しながらハルカはリンに視線を向け、本音を言えば今すぐに彼の元に駆けつけたい気持ちだったが、何故か今のリンを見ていると彼に近付いてはならないと思った。

モウカの方も今のリンの姿を見て何か思う所はあったのか、彼は炎斧から身を守るために身に着けているマントを脱ぎ棄てる。本来ならば爆発から身を守るために必要な大切なマントだが、少しでも動きやすくなるためにモウカは炎斧を構えた。


「来い……今度こそ殺してやる!!」
「……ああ」


意識が朦朧としながらもリンはモウカに視線を向け、彼は右手に魔力を集中させた。今のリンには魔力剣も反魔の盾もなく、頼れるのは己の肉体と自分が磨いた技術だけだった。


(やるしかない……やってやる!!)


残された魔力をリンは右手に集中させると、腕手甲を想像させる魔鎧を作り出す。これが最後の攻撃になる事を承知でリンは残された体力を使って駆け出す。
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