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第46話 火事

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「さっきの人たち、白狼種の毛皮が高く売れるとか言ってたけど……あれって本当なの?」
「ウォンッ!?」
「えっとね、白狼種はこの地方にしか生息していない希少種だから凄く珍しんだよ。特に白狼種の毛皮は綺麗だから高く売れるってお父さんから聞いた事があるけど……」
「そうだったのか……お金が困った時はウルの毛を売ろうかな」
「ウォンウォンッ(やだっ)!!」


リンの冗談にウルは怯える様にハルカに擦り寄り、そんな彼の頭を撫でながらハルカはリンに振り返る。予想外の事態に巻き込まれたが、改めて彼女は街を案内する。


「ほら、あっちの方に串焼き屋さんがあるよ!!早く行こう!!」
「わっ……そんなに急がなくても」
「ウォンッ!!」


ハルカに連れられるままにリンとウルは街中を歩き回り、イチノの観光名所を巡った――




――1時間ほど経過すると、少し疲れたリン達は噴水がある広場で休む事にした。リンはお金を確認し、師匠の回復薬と一か月の間に自分が作った回復薬をカイに買い取ってもらったお陰で金銭には余裕があった。


(これだけあれば馬も余裕で飼えるな……でも、馬なんて乗った事ないからな。この際に馬車を購入しようかな?)


長旅をするのであれば徒歩での移動は厳しく、リンは馬か馬車を購入しようと考えていた。その一方でハルカの方は自分の膝の上に頭を乗せるウルの頭を撫でる。


「やっぱりウル君の毛並みは気持ちいね~いくらでも撫でられちゃう」
「クゥ~ンッ」
「ウルも大分懐いたね。俺以外の人にはあんまり懐かないのに」


ウルはハルカに頭を撫でられるのが好きらしく、尻尾を振って喜ぶ。そんな彼を見てリンは微笑み、同時に少しだけ寂しく思う。


(こうしてハルカと一緒に居られるのはあと数日ぐらいか……)


ハルカと一緒に居られる時間はそれほど長くはなく、明日にはハルカと共にニノへ向けて出発する。そしてニノの街でハルカを父親の元に送り届ければリンは別れる事を決めていた。

別に急ぐ旅ではないのでもう少しだけカイの元に世話になろうかと考えた事もあったが、あまりの屋敷の居心地の良さにこれ以上に世話になると離れたくなくなってしまう。しかし、それでは駄目だとリンは思った。


(このままじゃ駄目だ、僕はもっと強くならないと……)


亡き師匠との約束を果たすために旅をする事で見分を広め、今よりも強くなるためにリンはイチノから離れる事を決める。旅は始めたばかりだが、ハルカと出会った事でリンは自分が成長した事を実感した。

本物の魔術師であるハルカと出会い、彼女が教わった事を知れたことでリンは森を出る前と比べて格段に成長していた。もしも森の中でずっと暮らしていたら今の様に成長する事はなく、旅のお陰でリンは確実に強くなったという実感を得られた。


「……ハルカ、ちょっといいかな」
「え?何々?」


分かれるのは数日後ではあるが、リンはハルカには先に自分が次の街で彼女と別れる事を告げようとした。ハルカはリンに声を掛けられて不思議そうな表情を浮かべるが、そんな彼女にリンは言いにくそうな表情を浮かべる。


「実は……」
「た、大変だ!!あっちで火事が起きてるぞ!!」
「えっ!?」


リンがハルカに話す前に男の人の声が広場に響き渡り、声のした方向に振り返ると広場からそれほど離れていない建物が燃えていた。どうやら燃えている建物は宿屋らしく、建物の中から宿泊客と思われる人たちが飛び出してきた。


「ひいいっ!?」
「た、助けてくれっ!!」
「おい、誰か警備兵を呼んで来い!!」


燃え盛る宿屋の前には大勢の人間が集まり、逃げてきた宿泊客と宿屋の従業員を保護する。火事を見てリンも居てもたってもいられず、ハルカとウルに声を掛ける。


「二人はここに居て!!」
「リン君!?」
「ウォンッ!?」


広場にハルカ達を残してリンは宿屋に向けて駆け出すと、脱出した人間の中で一人の女性が泣き叫ぶ。彼女は燃え盛る宿屋に戻ろうとするが、それを他の人間が引き留める。


「いやぁあああっ!!放して、あの中にはまだ私の子供がいるのよ!!」
「駄目だ、あんたも死ぬぞ!?」
「落ち着くんだ!!」


どうやら女性の子供がまだ宿屋の中に残っているらしく、それを知ったリンは急いで女性の元に駆けつける。彼女は他の人間に抑えつけられており、それでも子供を救おうともがく。

女性の姿を見てリンは燃え盛る建物を見上げ、普通に考えればこの中に入るのは自殺行為である。しかし、泣き叫ぶ女性の姿を見てリンは放っては置けず、女性から子供がいる場所を尋ねる。


「お子さんは何処にいるんですか?」
「えっ……?」
「早く答えて下さい!!間に合わなくなりますよ!?」
「あ、え、えっと……3階!!3階の301号室よ!!」


女性から子供がいる部屋を聞き出したリンは建物を確認し、既に出入口の部分は炎で覆われていた。もしも普通の人間が入ろうとすれば無事では済まず、だからこそ他の人間も助けに向かう事ができなかった。


「その人をお願いします!!」
「ちょ、ちょっと待て!!何をするつもりだ君!?」
「止めるんだ!!あそこに入れば死ぬぞ!?」
「子供に何ができるんだ!!さあ、下がってるんだ!!」
「……邪魔をしないでください!!」


他の人間はリンを止めようとしたが、それを振り払ってリンは身体強化を発動させて炎に包まれた宿屋の出入口に向けて突っ込む。この時にリンは勢いを付けて加速し、覚悟を決めて炎の中に飛び込む。


「うおおおおおっ!!」
「そんなっ!?」
「な、何て事を……」
「子供が突っ込んだぞ!?」


宿屋の中にリンは突っ込むと、それを見ていた人々は悲鳴を上げた。彼等の目からはリンの身体が炎に飲み込まれた様にしか見えなかったが、実際のリンは宿屋に突入する前に全身に魔鎧を覆う。

魔力で形成した鎧によってリンは身体を炎に焼かれる事もなく侵入に成功し、彼は炎が燃え盛る建物内に入り込む事に成功した。魔鎧は物理攻撃だけではなく、炎や熱気からも身を守る事が証明された。


『前に炎の中に魔鎧を纏った腕を突っ込んだ事もあるけど……やっぱりこれなら平気か。でも、あんまり長くは持たないな』


魔鎧を纏った事でリンは炎に身を焼かれずに済んだが、この状態は長くは持たない。一瞬でも魔鎧を解除すればリンは無事では済まず、魔鎧が解除する前に子供を探す。


『まずは3階に向かわないと……』


階段を登ってリンは3階へと向かい、子供がいるはずの部屋を探す。女性によれば301号室に子供がいるらしく、リンは目的の部屋に辿り着くと扉を開こうとした。


『この部屋にいるはず……あれ、開かない!?』


部屋には鍵が掛けられているのか力を込めて開かず、焦ったリンは扉を殴りつけた。


『開け!!この、開けっ!!』


リンの魔鎧は鋼鉄以上の強度を誇るとはいえ、現在の彼は全身に魔鎧を纏っているために身体強化を発動できない。身体強化を発動させた後に魔鎧を瞬間的に発動する事はできても、魔鎧を常時発動した状態で身体強化の発動はできない。

扉に何度か拳を殴りつけても壊れる様子はなく、どんどんと火の手が回ってきた。リンはこのままではまずいと思い、手持ちの武器を確認した。


(今持っているので役に立ちそうなのは……これしかない!!)


扉を破壊するためにリンが取り出したのは魔力剣であり、鞘から柄を抜く。魔力剣は刃は存在せず、柄だけの武器だがこれに魔力を注ぐと光刃を生み出す。


(これなら壊せるかもしれない。けど、この状態で光刃を作り出したら魔鎧が解除されるかもしれない……)


魔力剣を手にしたリンは自身が全身に魔鎧を纏っている事を思い出し、もしも魔力剣を使用すれば全身に纏っている魔力が吸い取られて消えてしまうかもしれないと考えた。だが、今は子供を助けるのを優先し、彼は危険を覚悟で魔力剣を使用する。
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